主人公は殴りたい
あたし、主人公1×歳!
ただの一般市民だったのに、ある日聖女の力が目覚めちゃって貴族の学校に入学したんだけど、たくさんのイケメンに囲まれてたいへーん!聖女の力を狙う悪党に、あたしをいじめてくる貴族達に、私を奪い合う男達…あたしいったい、どうなっちゃうのぉ!!??
ぺっ、やってられっかよ。
何がイケメンだ、何が聖女だ、何が主人公だ!!!
そんな思いをしているあたしに気づいた王子が肩に手を置く。大丈夫、今晩悪役令嬢ときっぱり婚約を解消すると、優しく美しい笑顔を向ける王子。
「(やめろ!その顔をこっちに向けるな、吐き気がする!!だからイケメンキャラはやなんだよ、寒気がする!!)」
あたしはいわゆる「乙女ゲームに転生した主人公」とやららしい。
なんやかんやあって死んだあたしには前世の記憶があり、ここが乙女ゲームの世界ということはわかった。わかったのだが、一つ大きな問題があった。
あたしは乙女ゲーが苦手なのだ。特にあの攻略対象のイケメン達。
恋愛ものを見るとこそばゆいを通り越して痒くなるし、ましてやそれを自分で選択して進めていくなんて耐えられない。元々ノベルゲーそのものをプレイしないし、このゲームだってCMでよくやってたからタイトルとメインキャラの姿を知ってただけだ。
きらきらしたイケメン達は愛でるだけならいい。その笑顔があたしに向けられ愛を囁くなど、耳をそぎ落とし肌を捲りたくなるほど、生理的に無理なのだ。なんというか、こう、そんなことされたら殴りたくなる。
ちなみに私の好みは傭兵団団長(53歳妻子持ち)だ。
そんなあたしだが、ゲームの運命力なのか王子達と接する機会が山のようにやってくる。フラグをいちいち折るのも面倒だし、キャラによっては逆に折ったつもりが好感度を上げてしまうこともある。
面倒になったあたしは、わざと常識や素養のない脳みそお花畑な主人公をすることにした。婚約者がいる王子にべたべたとくっつき(暑かったが)、他の男にも欠かさず声をかけ(そのうち全員顔が同じに見えてきたが)、口調も馴れ馴れしいものにした(こればかりは前世のままだから楽だった)。
王子には婚約者がいて、ゲームで言うところの悪役令嬢ポジションだというのはすぐにわかった。他の貴族より明らかにデザインが凝っている。
しかし悪役どころか、清く正しく美しく、品行方正でこの国の未来を担うにふさわしい淑女である彼女を、どうして嫌いになろうものか。むしろあたしは彼女を攻略したい。
王子には是が非でもそのまま結婚してもらい、二度とあたしと会わず、なおかつ他の攻略対象達ともさよならバイバイしようと思ったのだが…。
「(ほんとにあんたは王子かよ!なんだその甘い顔、婚約者以外の女にする顔か!?てか肩触んな、毛虫這ってるみたいなんだよ。王子なら側室侍らせてなんぼってか?その面二度と見られないようにすんぞ)」
この王子がどうにもしつこいのなんの。
あれだけ頭弱い言動を見て、あたしのどこを好きになったんだこの男は。帰れ、ハウス、城に戻れ。こっち来るな、見るな、失せろ。
この男に振られて国外追放or処刑される悪役令嬢が、可哀そうで仕方がない。いやむしろ振られて正解かも。
そんなことを思いながら迎えた断罪イベント、せめて悪役令嬢が反論してくれたらと願いを込めてみるも、切なそうに涙を堪える彼女は悲痛そのものだった。
ああ、ごめんなさい。あたしは貴女に幸せになってほしかった。
その直後、城の天井が崩れ現れた魔王とやらに、彼女は攫われてしまった。伸ばした手ははるか遠くの空に届かず、王子の制止を聞くわけもなく魔王は彼女と共に夜空に消えていったのだ。乙女ゲームのRPGのように姫(?)を攫って行くんだなぁと放心していると、王子が口を開いた。
「あの女は放っておけ、どうせ追放か処刑の末路だ。自業自得といものだろう」
綺麗な横顔に入った右ストレート。
やっと殴れてすっきりしたよ、王子様。あんたに期待なんてしない。
あたしが平穏に生きるためにも、王子には悪役令嬢とくっついてもらわねばならない。なにより、このクズが助けないなら誰が助けにいくというのだ!
「あたしが助けにいきます!」