表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

悪役令嬢は幸せになりたい


大きなお城の大きな広間、煌めくシャンデリアに華やかなドレスの花。この国の未来に関わる祝いの席には国中の貴族が集まり、胸やけしそうなまでに絢爛豪華な人の群れに1か所穴ができていた。

 視線が痛いほどに突き刺さる空間にいる3人のうちの1人、すなわち私の紹介をしよう。


私は乙女ゲーの悪役令嬢に転生した女だ。


 昨今ではベタとなった転生悪役令嬢の私は、すました顔のまま腹の中で頭を抱えた。

 説明の必要もないだろうが、今はいわゆる断罪イベント…悪役令嬢が婚約破棄され処刑なり国外追放されるアレだ。私がプレイしていた乙女ゲーでもED前によく見たイベントだ。

 ゆりかごの中ですでに前世の記憶があった私は、そんな悲惨な結末になってたまるかと、それはもう努力した。すごい頑張った。めっちゃ頑張った。

 自分で言うのはなんだが、それなりに良識ある貴族の娘に育ったと思う。だと言うのに、ゲームの運命力なのかこの日は訪れてしまった。

 私の目の前には、私の婚約者でありメイン攻略対象である王子様が立ち、その隣には主人公である可憐な少女がこちらを見つめている。

 プレイヤーであった時は、やっとあの意地悪な悪役令嬢を断罪できると済々したものだが、当事者としてはたまったものではない。

「(頑張ったんだけどな)」

 虐めなどしたことはないし、闇の精霊とか敵国とかに心を支配されたわけでもない。王子とも関係は良好、主人公にも当たり障りなく接してきたつもりだった。

 婚約者がいる王子にやたらべたべたしたり、その癖他の攻略対象にも慣れ慣れしい態度をする頭の弱い主人公を嗜めたことが、いじめに映ったのだろうか。



「(これも、ゲームと現実を同一視できなかったのが原因かな…)」


 問題があるとすれば、私は王子を恋愛対象として見てないことだろうか。プレイヤーであったことは大好きなキャラであったが、所詮はキャラクター。現実に恋愛できるかというと全く別だし、なにより貴族のしがらみや王族のあれそれなど、前世一般人の私にはとても考えられない。

 しかし処刑や追放はされたくない。そんな妥協と自衛の精神だけでここまでやってきたのを、この世界の神様は見透かしていたのだろう。キャラクターとして転生したのであれば、その役目を全うすべきと。


 王子様の婚約解消の声が広間に響く。隣の主人公は険しい顔で私を見続け、そんなに私が憎かったのかと寂しい気持ちが勝る。

 私は主人公も王子も好きだったから。

 涙が一粒、頬に流れ伝い、床に冠のような雫を垂らす…はずだった。

 それは突如落ちてきた瓦礫と爆風に飛ばされ、ついでに私の体も吹っ飛ばされた。天井が崩れ落ちてきたと気づいた時には、文字通りの阿鼻叫喚に包まれ広間にいた人間は皆一様に空を見上げていた。


 そこには夜空よりも更に黒い、人の形をした何かが浮いていた。


 それが手を翳したかと思うと、私の視点は空を見上げていたはずが地を見下ろしていた。唖然と口を開く貴族の面々に、王子と主人公が私が見上げている。そこでようやく私は、その「何か」の腕に抱かれ宙に浮いているのだと気づいた。


「姫君はこの魔王がもらい受けた!」


 シンプルな、あまりにもシンプルなその台詞に何かを言い返せる者はいなかった。かくいう私もそうだった。

なにせこの乙女ゲーには『魔王など存在しない』のだから。

 魔王と名乗ったそれは私を抱えたまま、冷気をまとった風を切り夜空の中に溶けて行った。反射的に伸ばした手に、誰かが待てと叫び地上から手を伸ばし返してくれた気がしたが、私の視界は瞬く間に闇夜を映しその手は何も掴めなかった。


 こうして私こと悪役令嬢は、ゲームに存在しない魔王に攫われ見事にシナリオを変えてしまったのである。

 いやほんと、これなら処刑や国外追放の方がマシだった。なんでバグめいた魔王なんてものに攫われる羽目になったのだ。何故だ、いったいなぜ。

 ああ神様!私が何をしたというのですか!!??


王子と結婚やハーレムなんて高望みしない、ただ幸せに生きたいだけなのに!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ