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冒険少年  作者: 一倉弓乃
13/18

12 友達

 翌日、陽介は疲れ果てて起きあがれずに大学を休んだ。

 冴はいろいろな食べ物を枕もとに並べ、たべられそうだったらたべてくださいと言ってそのまま置いて、学校へ行った。置いてあったアルカリイオン飲料と、ビスケットだけ食べて、午前中、陽介は眠っていた。

 午後になってようやく起きられたので、シャワーをあびて、店へ出かけた。鳴海が突っ込んだコンビニは修理中だったが、営業はしていた。陽介はそこでサンドウィッチと牛乳をカゴに入れ、なんとなく予感がして、2L入りの炭酸のジュースと、大きな袋菓子を3つ買った。家に戻ると、果たして、門の前で、いつきが日焼けした膨れっ面で立っていた。

「…オッス。」

「…遅ぇよ。」

「…オマエモナー。」

 陽介はサンドウィッチと牛乳を出して、残りの荷物をいつきに押し付けた。鍵をあけると、いつきは不機嫌な顔で勝手に入って来た。

「…おかーさんがいない。」

「…出てった。」

「ニャンコもいない。」

「連れてった。」

「…噂のベッピンな側近は。」

「学校だ。…高校生だから。」

 昔、猫満載だった客間の縁側をあけた。

 秋の陽が、庭を美しく照らしていた。

「あっ、なんかニャンコいる。」

「えっ、どこ」

「ほら、あすこ。」

「あ…」

「ちっちゃいね。」

「子猫だな。…餌あるわ。持ってくる。」

 餌をやるまでもなく、小さな鯖白は、おぼつかない足取りで木の根を踏み越え、いつきのほうへやってきた。

「わー、ひとなつっこい。」

 いつきが抱き上げると、にーと鳴いた。

 陽介が持って来たキャットフードを一つかみ縁側に置くと、いつきはそこに猫をおろしてやった。子猫が一生懸命硬いクッキーを噛むのを、しばらく二人はほのぼのと見ていた。

 やがて腹のふくれた子猫は「ありがと」というように「にー」と鳴いて、またぽてぽてと歩いて出ていった。

「…昨日ハルキちゃん来たデショ。」

「おう、きたぞ。」

「…帰って来て泣いてたわ~。泣き止まなくてさ~。あたしケーキ20個食ったわ。」

「…」

 陽介は胸が痛んだ。…今のハルキではなくて、あの小さくて可愛くて、しばしば悔し泣きしていたハルキのことが思い出された。

 陽介とハルキは最後のころはたしかに冷めていた。セックスの趣味も合わなかった。イライラするときもあった。それでも、いつも手をつないで、笑いあって話した。いくら話しても話したりないほどに、いつだって…。

「…まっ、別にあんたのことだけじゃないと思うわさ。小夜が嫁に行くのよ。それもあってね。…そうそう、月島直人、亡くなったんだって?」 

「…うん。」

「…大丈夫?」

「…べつに。普通。」

 陽介はそう言って顔を背けた。

「…あたしはさー、帰って来たら、てっきりあのおっさんとまたケンカになるんだろーなーっておもってたわー。…昨日タナカやんに電話してさー、聞いて、もう、なんか、…あの殺しても死にそうにない人が、っておもっちゃった。…親父が死んだときもそうおもったわー。」

 陽介はわざと話題を逸らした。

「…おまえ、先に俺に電話しろよな。」

「…いや、さきにお見合いの心得と、振りそでの着用方法をきいておこうかと…けっきょく振りそでは、日本の美容院行けっていわれたけど…。」

「…する気んなった?あの見合い。」

「『とにかく会え』は意味シンだよね~。」

 いつきはニヤリと笑った。陽介も、やっと笑うきっかけが掴めた。

「…知り合いなんだろ、カズは。」

「うん。…なんか、おどろいたわ。久しぶりで。」

「…どうよ、ガラスの靴持った王子様は。」

「あははっ」

 いつきは笑った。

「あたしには似合わねーってかんじ?」

「…王子様は本音は、姫の貞操はともかく、ガイドとボディーガードを御所望だと。」

「またかよ。今度はガイド?なんの?」

「聖地の。」

 いつきは吃驚して、目をまんまるに開いて訊ねた。

「どうして?!」

「…カズは母親が聖地を追放された罪人だったらしい。だからといって別にうらみを晴らしたいわけじゃなく、ただ、おふくろの故郷が見たいってやつなんだろうな。…詳しくは見合いの時なり、婚約してからなり、聞け。婚約をあとで解消するか、それともそのまま結婚するかは、全部おわってから二人で話し合うんだな。…タカノさんやラウールには言うなよ。」

「…そりゃたのまれても言わないけど。…ナルミって、そうだったの?!」

「昔会ったときは、お互いなにもしらなかったんだって?」

「しらなかったさ。それどころじゃなかったしね。」

「運命ジャン。」

「…てゆーか。」

 陽介はふと、鳴海が「いつきがおびえていた」といっていたことを思い出した。

 きっと、それも本当だったのだろうという気がした。

「…俺様に礼をいいやがれ、この野郎。墓参りいってこい、馬鹿。」

「陽介…。」

 いつきは日焼けした顔で嬉しそうに笑った。

「…ありがとう、陽介。」

 陽介はほっとした。

 よかった、と思った。

 陽介は、この一年半で、いつきが本当は自分の手の届かない世界にいる生き物なのだということが、とてもよくわかった。いつきは、うちの庭にいる猫じゃないのだ。動物園の檻のむこうにいる、とても珍しい高価な動物なのだ。

 いつきが困っていても餌もやれないし、力を貸すこともできないのだ。

 自分はただでさえとても無力だし、ましていつきを取り巻いている深い掘りや野太い鋼鉄の檻のまえでは、ただ立ち尽くしていることしかできないのだ。

 …そんなふうに感じていた。

 だから思った。

 (…これでもう、俺がこいつにしてやれることは全部終りだな)

 …不思議と、満足した。

 これでいいんだと思えた。

 (…いや、あともう一つ…。) 

「…それとおまえさ、ハルキのことずっと好きじゃん。」

 陽介がそう切り出すと、いつきはべつになにほどのことでもない、といった調子で答えた。

「…うーん…別にきらいじゃないけどね…。」

「ウソつけ。…まだショーヤが生きてた頃から。」

 …それは、最初から、という意味になる。

 いつきがハルキに初めて会ったそのときから、という意味に。

 まだ陽介とハルキが手も握っていなかった頃、という意味に。

 いつきはちょっと苦笑した。

 あんた知ってたのね、という顔だった。

「…可愛いけどね。」

「…もう一声だな。」

「…弟だけどね。」

「それかよ。」

「そうよ。」

「…やるよ。」

「…」

「…おまえにやるよ。」

 いつきは黙って陽介の顔を見た。陽介は言った。

「…ばかじゃねーの。ケーキくってないで、寝てやれよ。それでも一応女だろ。」

 いつきは珍しく、ちょっと困ったような顔をした。

「…弟とは、寝ないでしょ、ふつーは。」

 陽介は、今までどんなに思っていても、決して口にしなかったことを、そのとき初めていつきに言った。

「…ハルキはお前の弟じゃねーよ。」

「…」

「お前の弟は、もう絶対、2度ともどってこねーんだよ。」

 …いつきは、陽介がそう言うのを、だまって見つめていた。

 いつきはなぜか、痛ましいものを見るように陽介の顔を見た。

 …そんな顔するなよ、と陽介は思った。

「…おまえにやるから。だからハルキを、連れて行け。お前にはハルキが必要だろ。」

 …返す返事がみつからないのだろう。そりゃそうだ。

 陽介は、自分には、いつきの弟のことを云々いう権利はないといつもおもっていた。陽介には、泣きながら陽介の裾をつかんで追いかけてくる小さな弟はいなかったし、命がけで自分を守ってくれた弟もいなかったし、もう一人の自分のようにそばにいてくれる仲の良い兄弟などいなかった。

 ましてそれを失ったことなどなかった。

 誰かを失ったことなど一度だってなかったのだ。

 …でも、今なら言っていいと思った。

 誰かがいつか言ってやらなくちゃいけないんなら、俺が言おう。…そう思った。

 いつきは陽介から視線をそらして言った。

「…別に、くれなくても連れて行くわさ。…あの子を、もう一時だって、ラウールの手もとにおいとくことはできないもの。」

 陽介は言った。

「…そういえば、タカノさんが、ハルキがラウールを怒らせたといってたな…。なにやらかしたんだ?」

「…ラウールが捕まえていた教団の絵描きを、勝手に北米の教団本部にやっちゃったの。」

「…なんで?」

「…ラウールが、教団の財政を支えている表の顔の企業を見つけて、買収をかけようとしたの。その情報をたまたま掴んで、…ハルキちゃんは絵描きにそれを教えて、自分の代わりに教団本部に飛ばしたのよ。」

「…なんのために。」

「何寝ぼけてんの陽介。それとも色ぼけ?…教団がつぶされたら、尾藤家はどうなるの?」

「…」

 あっ、と陽介はやっと理解した。

 …たしかに、思考が回っていない。というか、自分の中で、もはや尾藤家がどうでもよくなってしまっていたのだ。

「…またそれでお呼出しくらったときの態度になんか著しい難があったらしくてね。あたしも詳しくはしらないけど、ラウールの逆鱗にふれたらしいんだわ。…それで南米に飛ばされるハメに…。ただ、いちおうあの子人質だから、死ぬと困るデショ。そいであたしがつけられたわけ。ハルキちゃんの世話係のワイトさん、心配して20キロも痩せたのよ。…電話とかは全部軍用と交換されて、もうぜんぜん身動きとれなかったわ。毎日あたまのうえを弾丸がとんでて…。」

 …タカノはいつきがハルキをかばったと言っていた。…まあいい。…どうでも、いい。その少しあとには、自分が直人に抱かれていたことを考えれば、陽介にはなにも言う資格はない…。

「…そうだったのか。」

「…通信は全部盗聴かけられてたの。ラウールはやるとなったらどこまでもやるのよ。けっこう凝り性なの。」

 いつきはうんざりといったようすで肩をすくめた。

 そのとき、陽介はふと思い出したことがあって、それを深く考えもせずに口にした。

「…そうだ、ライリアってお前の知り合い?」

「…」

 いつきが黙っているので、どうしたのだろう、と思って顔を見た。

 …その日焼けしたワイルドな顔に、怒りが浮かんでいた。

「…ライリのことなら何度も話してるわよ、陽介。」

 陽介はぎょっとした。

「ライリ?…お前の教育係だったとかいう、親父さんの幼馴染か?…いや、そうじゃなくて、ラウールのところにいる愛人候補だけどストレートだっていう微妙な立場のおっさ…」

 おっさん、と言おうとして、陽介は途中で口をつぐんだ。

 いつきの目がつりあがっていた。…顔色が悪い。

「…どこで会ったの?」

「…高野さんが連れて来てた…」

「いつ?」

「お前の見合いの話をもちこんだとき…。」

「…どんな人だったの?」

「…亜麻色のふわふわっとした巻き毛の髪に琥珀色の瞳…背は多分高くて…白人…おまえのこと、かばってたぞ。」

「…なんかいってた?」

「…血筋の戦士はその血を絶つ権利が…どーたらこーたら…」

 言いながら、陽介も一緒に青ざめた。

「…そうなのか?」

「…ラウール…」

 いつきがギリっ、とはぎしりするのが聞こえた。陽介は少しあとずさった。

「愛人候補だと?…野郎っ、ばかにしやがって…」

 ふわーっといつきの手が光りだすのを見て、陽介は血の気がひいた。

「いつき、落ち着け! ここは俺の家だ! ラウールはいないぞ!」

 カッと切れ上がった目で陽介は睨み付けられた。次の瞬間、襟首を掴まれた。

「会ったって嘘じゃないだろうな?!」

「嘘じゃない!」

 陽介の衿をつかんでいる手が真っ白になり、ぶるぶる震えている。陽介は殺される、と思い、必死に叫んだ。

「いつき、落ち着け! もしその人がお前の教育係だったライリと同一人物なら、ラウールに馬鹿にされて黙ってるはずないだろう。何か考えがあってラウールのところにいるだけなんじゃないのか。それをタカノさんがあんなふうに言っただけで…だいいち、その人であれば、ラウールなんか簡単に殺せるだろう?!」

 いつきは手を放した。

「…そうね。…あんたの言うとおりだわ。」

 そしてくるっと向きをかえると、ため息をつき、そこいらにころがっていた袋の中から、2Lの炭酸ジュースをだして開け、そのままぐいぐいと飲んだ。

 …本当に殺されるかと思った。

 そう思った瞬間、ものすごく心臓がばくばく言い出して、激烈に目が回った。…陽介はずるっと畳に倒れた。

「あ?! 陽介! 何よ!! …あたしがあんたを殺すわけないでしょーっ!!」

 いつきの慌てた声がした。

 


 冴の声で目が覚めた。

「…弁解はそれだけか。」

「弁解って…あやまってるじゃないの!」

 …冴、やめろ、殺されるぞ、と思った。

「…あ、起きたわよ。」

 陽介は薄く目を開いた。…冴がいつものように、陽介の額に手をあてて、それからその手を反転させて、指の背で頬を撫でた。…冴の滑らかな心地よい手。陽介はほっとした。

「…陽さん、あまり危ない相手を俺の留守に家の中に入れないで下さい。」

「…うん…。」

「うんじゃないでしょ陽介!」

 もうどうでもいいという気になって、陽介は手を伸ばして冴に抱き着いた。

「いつ帰って来た?」

「3分くらい前です。…陽さん昨日からなにもたべてないでしょう。ダメですよ。」

「ビスケット食べた。」

「子供か!?」

 いち早くはいったいつきのツッコミで、陽介は我に返った。

「ああ、おめえまだいたの。」

「気絶してる貴様を置いてまどあけて帰れっつーのか。」 

「だいじょうぶだ、秋のエリアは治安がいいから。」

「そゆ問題じゃねーだろ。」

「…陽さん、何か食べて下さい。…サンドウィッチ買ったんですか?紅茶いれましょうか。」

 冴に抱かれているのが気持ち良かったので、陽介は冴の言葉を無視して目を閉じた。

「…陽さん、お返事。」

「…うん…」

「…ブッ殺すぞ陽介。」

 陽介は目をあけた。

「…陽介なんなのよこの月島直人を美形の型にぎゅっとおしこんでジュッとプレスしたような新品のガキは。」

 その表現があまりに傑作だったので、陽介は思わず笑った。

「ぷっ」

 イツキは牙を剥いた。

「殺されてーのか。答えろ。」

「…息子だ。」

 冴がめんどくさそうに答えた。 

「…その汚い口をつぐんで大人しく座っていろ。できないなら今すぐ出て行け。」

 冴は命知らずにもいつきにそう宣うと、陽介をそっと畳に横たえて、立ち上がってお茶をいれにいった。

 …いつきがいると、冴はますます直人さんみたいだな、と陽介はちょっと楽しくなった。

「…あんたね。何気絶してんのよあのくらいで。どこの深窓の令嬢よ。」

「…ここ。」

「…雑巾みたいに絞りあげて庭のオブジェにしてやろうか。」 

「…おーこわ。」

 陽介はただ笑った。

 …そうだ、昔はすくなくとも、いつきにボコられたあと、「おぼえてろこのキョ-アク犯!」とののしる程度の元気はあった。

 …殴られたわけでもないのに、今はまったくだめだ。本当に、深窓の令嬢のようだと思った。

 起きようとしたが、まだめまいがした。動悸はおさまっている。

「…あんた、ホントに起きられないの?…一応、寝てる間に、散らして整えておいたのに…。」

 いつきが訝しげに訊ねた。

 陽介は苦笑した。

「…ああ。」

「…どうしちゃったの?心臓でもやったの?」

「…いや、どこも悪くないんだけどな。…直人さんが亡くなってから、ときどきこんななんだよ。…昨日寝込んでるとこにハルキがきたもんだから…。そのあとあまり飯くえなくて…。多分、今日のは、低血糖か脳貧血かなんかもからんでる。」

 …まただ。

 いつきはまた、痛ましいものを見るような顔になって、陽介を見た。

「…やめろ、その顔。」

 すると、いつきはハッとしたように、顔を「嘲り」に変換した。

「…目を覆いたくなるような惨状ね?」

「…うるせぇ…」

 …冴が紅茶をもって戻って来た。

 情け容赦なく陽介のカップに砂糖をつぎこみ、冴はサンドウィッチの包装をひらいて、皿に丁寧に並べてくれた。…さすがに陽介もたべないわけにはいかなかった。脳随が痺れるような甘い紅茶を飲みながら、食事をとった。いつきも冴のことはつんと無視しつつ、しかしでてきた紅茶はちゃっかりと全部のんだ。

「…陽介、お見合いの日程は来月になったわさ。あたしの日焼けをエステでぬくんだって。」

 いつきの言葉に陽介はうなづく。

「…そうか。」

「…あんた…その調子じゃ、墓参りに同行は無理よね…?」

 陽介はパンをかじって言った。

「なんで俺がついてくんだ。用事ねえし。…男殺しの結界で木っ端ミジンコは勘弁だ。」

「…あんたそういう冒険旅行、昔好きそうだったからきいてみただけ。…今は無理だわね。その令嬢ぶりじゃあ…。…まったく、なんなのよ、透き通ったビジンになっちゃって。体臭とかどっかになくしたでしょ。間違ってるわ。女のあたしがこんなに日焼けして野生化してるっつーのに…。男ならヒゲの一本もはやしたらどうなのよ。」

 いつきはブツブツ言うと、ため息をついて立ち上がった。

「…あたし少し日本にいると思うけど、新婚家庭お邪魔しちゃワルイから当分来ないわ。」

「…きてもおかーさんの料理がないから、あたし、こないわ。」

 陽介が口真似をして言うと、いつきはもっていた菓子の袋でべこっと陽介の頭を叩いた。

 陽介は笑った。

「…別に邪魔じゃあねーよ。来たかったら来れば。うちの世界一美しい嫁の冴が美味しいお茶いれてもてなしてくれるよ。」

「熱湯玉露ブッかけると脅して躾けに勤しむよ、の間違いじゃね?あの親父のそっくり息子だろ。ぜったいサディストにきまってら。…なんかあったら、これ。あたらしい番号。盗聴されてるけどね。…しかしなんだって、グレースといい陽介といい、父親と息子両方に手をつけるのかしらねーっ…」

 いつきの眼力の確かさに、陽介は少し驚いた。

「グレースって、どんな人だった?」

「グレースなんとかって女優に顔だけ似てたわ。徒名だから。」

「その女優がわからない。」

「…そうね、しいていえばナルミを女にしたような感じの女優かな。知的な清純派。」

 いつきはカードを一枚置くと、残っていた最後のひと袋の菓子(…いつのまにか最後のひと袋になっていた)をちゃっかり抱えて、出ていった。

 …冴は勿論、見送らなかった。

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