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オトコ

次は母子回



夫は今日も働いているだろう、俺も手伝うと言っていたのに、結局は何もしてくれない。



なんで? なんで? なんで? なんで? なんで!!



きっと愛していないから本当に愛していないか

ら。


他人の子どもの面倒はみれるのに自分の子どもの面倒はみれない。学校の子なんて、みんな不幸なフリしているだけじゃない。そんなものに構わないでよ。





ーーあぁ、でもねでもね、そんな歪な貴方も好きよ。














今日も働く毎日働く、同じ日なんて無いのに何故かループしている様に感じる時がある。 しかし、働かないと、家族を守らないと、そう言い聞かせる。






終わりの鐘が鳴る。これで本日2回目の同じ授業が終わった。学年で担当教科を持っていると同じ授業をする事は多々ある。それがこの虚無感を増幅させているのかもしれない。




「疲れたー、数学わかんねーわ」




「でも、あれじゃん。微分積分覚えとけばテストはなんとかなんじゃね?」




「微分積分ってなんだっけ習ったけ? 四葉先生恐いから聞きに行くのはだるいしなー」




「バドミントン部でも恐いらしいし、それはだるいな」



そんな馬鹿な会話が聞こえてくる。聞かせるつもりで言っているのか、聞いていないと思っているのか。高校生なんてものは、子どもと大人の中間だ、どっちつかずだ。考えるだ無駄だろう。


まぁでも、この2人の生徒は学校に来ているだけまだましというものだろう。それに比べてうちの息子は……。





比べてはいけないと思うが、どうしても比べてしまう。 あいつらだって学校に行けているんだアイツだって行けないはずがない。





考え方がそれてしまった。早く帰りのホームルームを終わらせよう。





「席につけよー、ホームルーム始めるぞー」




帰りのホームルームなんてものは大抵必要な情報はない。無駄な時間になることの方が多い。



だが、学生は楽しいのだろう、部活に行く奴もいる、帰る奴もいる、みんな楽しそうに話している。別に注意はしない、いつものことだもう慣れた。





職員更衣室で着替え部活へと向かう。暗い校舎を歩き体育館の独特の匂いが鼻をつく。



そこでは何人もの生徒がすでに体育館を開け、コートを張り終えていた。



「よし、じゃあまずいつものメニューからだ!」



いつものように、テンプレートみたいに同じ言葉を紡ぐ。それで良い、何だかんだいい結果が出ているし校長にも褒められている。








部活も終わった。今日は居酒屋に飲みに行く、そう妻にも連絡した。別に誰かと一緒に行く訳じゃない。なんとなく最近家に帰るのに抵抗感がある、いやきっと気のせいだと思うが…。





居酒屋ではただスマホを見ながらお酒を飲む。お酒を飲んで良い気持ちになっていたが、たまたま見ていたSNSで一気に気分が悪くなった。そこには、同じ学校の先生がつぶやいていた。



自分だとおぼしきつぶやきだと思った。新任の先生だから自分が一生懸命に教えたのに、別に相手が女性だからと下心を持って教えていた訳ではないのに。



ふざけるな! 自分の方がコイツよりも上の人間なのに何故、誹謗中傷されなければならない!


居酒屋なんかに来なければ良かった。そうすれば見なくてもよかったのに。苛立ちながら定員に強い言葉で勘定を頼んだ。





家に帰ってもその気持ちの高ぶりは収まらなかった。この沸々とした黒い感情を発散しなくてはならい。




「あなたどうしたの?」



妻だ、妻は綺麗だ自分に相応しい女性だ。しかし息子はどうだ? 相応しいか? 相応しい訳が無い、俺の息子だやれば出来る。出来るに違いない。




「いや大丈夫だ、アイツはまだ上にいるのか」



「ええ、今日は引きこもり支援センターの人とも話すことができたし、すぐには無理だけど少しずつ良くなってるのよ」




妻はそう言う、微笑みながら愛おしそうにそう言った。俺にそんな笑みを返してくれた事が最近あっただろうか。くそ、俺の女なのにアイツより俺の方が偉いのに。




酒の力もあって、息子はの部屋へと向かって歩くと、ドンドンドンと扉を乱暴に叩きながら言う。




「最近外にも出れるらしいじゃないか、ならさっさと予備校に行って大学にいきなさい!お前は、根性が足りないんだっ!!みんなは出来るのにお前は何も出来ない、どこかおかしいじゃないのか!! 」




扉を叩きながら言っていると自分の感情が濁流のように流れていく、いつもは頭でセーブしていることも酒の力もあり止めどなく溢れてくる。





もの凄い勢いで階段を上がってくる音が聞こえる。



「あなた!! なんて事を言ってるの!! 一番辛いのはあの子なのに!!もういいから、下に降りて!! 」




妻はいつも息子を守る、いつも息子を優先する夫よりも誰よりも。



「あいつは、俺の言うことを聞いていれば良くなるんだ!!他人なんかに任せるな!! なんでそれを分かってくれない!! 」




扉の奥から声が聞こえる。



「ーーお父さんごめんなさい………… お母さん助けて…………お母さん……」




その声も、母に助けを求める声も感情が揺さぶられる。怒りが嫉妬が複雑に絡み合う。



夫婦は共にリビングでの口論が続いた。しかし、仕方がないのだ。夫は先生から自分の子どもの接し方なんてものは習っていなかった。彼は習っていない事はできなかった。本当に愚かな男なのだから。


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