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次に気が付いた時、知美は自分の部屋で横になって寝ていた。
ハッとして起き上がると、広い部屋の中にはテーブルが一つだったのに、どこから持って来たのか大き目のテーブルが運び込まれてあって、そこで四人の女子達が座って何かを食べながら話していた。
「あ、気が付いた?」涼香が、真っ先に気付いて言った。「良かった、こっちへいらっしゃいよ。勝手に三階の休憩ホールのテーブル運び込んじゃったの。ついでに、ソファも持って来たわ。こうしておけば、ここでみんな休めるし。」
美久が、それに頷いた。
「そうよ。休憩ホールって言っても、窓の前の広い空きスペースにテーブルとソファを無駄に置いてあるだけだったし、それにリビングだって別にあるんだしね。ちなみに、ここって一部屋20畳あるんですって。さっき謙太さんが言ってたのよ。広過ぎよね。ベッドもキングサイズだもの、無理したら四人は入りそう。」
そう言われたらそうだった。
個人の部屋なのにあの大きなソファやテーブルが難なく収まって、それでもまだ余裕があるのだ。知美は、バツが悪そうにベッドから降りて来ながら、言った。
「ごめんね、私、気を失ったのね。私をここまで運ぶの大変だったでしょう。」
それには、真代が答えた。
「ううん、私が、謙太さんに頼んだの。あの人、大きいし力がありそうだったから、本当に軽々運んでくれたのよ。倒れてる知美さんを見て、最初びっくりしたみたいだったけど、何も言わずに運んでくれたよ。」
知美は、四人の輪の中へと入って、座った。そうして、目の前に置かれた冷凍食品の数々に、思わず苦笑した。
「お昼ご飯なの?」
知美が言うと、涼香が笑った。
「ええ。だって、もう一時よ?知美さんも食べて。少し冷めちゃったけど。」
恐らくは知美用にと持って来てくれたのか、手付かずでエビドリアがそこにあった。知美は、まだ少し温かいそれを、プラスティックのフォークを手に、食べ始めた。
「ごめんなさい、知美さん。」知美が食べるのを見つめながら、真代が言った。「私、傷なんか見せて。あんなにショックを受けると思っていなかったの。知美さんにもあるからって。」
真代は、本当に悪いと思っているのか、しょんぼりと下を向いている。知美は、急いで首を振った。
「いいのよ。あの時は、もういっぱいいっぱいだっただけなの。傷を見たら、自分の胸の傷を思い出しちゃって、浩二さんとのやり取りとかも…それで、気が遠くなっちゃったんだ。」
美久が、息をついた。
「あれから、真代さんとも話したけど、悪い子じゃないのよ。ちょっと言葉を知らないだけ。傷も、見せてくれたわ。あの時話していた、背中のヤツよ。本当に、言っていた通り、一つだけはっきり残ってて、他は綺麗に薄かった。これがどういう意味なのかは、きっと思い出してからでないと分からないのでしょうね。」
優子が、ずっと黙っている。知美は、気になって優子へ話を振った。
「優子さんも、傷があるの?」
優子は、ビクッと肩を震わせた。美久が、首を振った。
「あの、私も優子さんも、結構いっぱい傷があって。あまり思い出したくないんだ。きっと、事故だろうなって。」
知美は、うかつだった、と口を押さえた。
「ごめんなさい、私ったら分かってたはずなのに。」
だが、優子は首を振った。
「いいの。みんな言ってくれてるのに。私も、全身に傷があるの。特に酷いのは、胸からお腹にかけてだったわ。今日謙太さんが言ってたみたいに、内出血の痕みたいなのが広範囲にあって。足なんか、特に酷い。もしかしたら、骨折してたかもしれないわ。それぐらい、酷いのよ。」
涼香が、腰に手を当てて息をついた。
「事故ってあの男も言ってたものね。崖から落ちたって言ってなかったっけ?ええっと…あの、康介さんとだっけ。」
優子は、それを聞いて顔をしかめた。
「それだけは、私も分からないの。交際相手って、多分違うと思う。ただ一緒に車に乗ってただけじゃないのかな。ほら、会社の同僚とかで。でないと、本当に好みじゃないんだもの…話し方とか聞いていたら、むしろ嫌いなぐらい。だから、一緒に死んだとしたらきっと無念だっただろうな。生き返れて、その点ではよかったと思う。」
結構はっきり言い切る優子に、他の四人は驚いていた。おとなしそうで、無口であまり話さない印象だったからだ。
涼香は、苦笑して優子を見た。
「そこまで好みでないなら、きっとそうね。でも、今一番疑われているのがその康介さんと、それから浩二さんだったわね。じゃあ二人は、この二人が人狼で居なくなってくれたらいいってことかしら?」
知美と、優子は顔を見合わせた。居なくなって欲しいと思う。だが、それが「死」だったなら、あまり後味のいい話ではなかった。
「…そこまでじゃないの。でも、どうしても誰かって言われたら、それはあんなおかしな動きをしたんだもの、浩二さんかなって私は思うわ。まだ占われたわけでもないし、分からないんだもの。」
知美がそう言うと、優子は真面目な顔で言った。
「私は、なぜか康介さんが憎いって思うのよね。多分だけど、死ぬ直前に一緒に死ぬのは嫌だって思ったんだろうな。きっと、あの人の運転だっただろうから。私はきっと、あの人を恨んでるのよ。」
あまりに鬼気迫る表情で言うので、さすがの真代もドンびいていた。もちろんのこと、知美も涼香も、美久もびっくりする。すると、四人の様子を見た優子が、慌てて言った。
「いえ、あの、殺したいとかじゃないわ。ただ、誰かをっていうのなら、あの人だなって思うぐらい。」
結構嫌いなんだな。
知美は、思った。自分だって、浩二のことは本当に薄気味悪かった。あれからこちらを見る目すら、許せないような気がしてならないのだ。自分が殺したかもしれない男に対して、そんな感情を持つのは間違っているのかもしれないのだが、もう視界に入って欲しくはなかった。
だから、優子の気持ちも、知美には分かった。それでも、分かるとは言えなかった。
「まあでも、真代さんが占い師なのね?だから、今日どちらかが吊られたら、どちらかを占ったらいいんじゃないかな。そうしたら、人狼かそうでないか分かるもの。」
しかし、真代はウーンと考えるような顔をして、そうして、言った。
「…でも、知美さんも優子さんも、どっちにしても二人に居なくなって欲しいんだよ。だったら、二人共投票しちゃって、他の人を占った方がいいんじゃないかなあ。ほら、佑さんのことも、みんな疑ってたじゃない。なんだか、わざとらしいとか言われてた。」
真代は、ボーっとしているようで、しっかり聞いていたのだ。涼香は、頷いた。
「そうね、その通りだわ。あの二人なら、放って置いても襲撃が投票で居なくなりそうだもの。それよりも、発言がはっきりしている佑さんとか、味方だったら心強いし、そうでなかったら厄介よ。今の内に、白黒はっきりさせておいた方がいいもんね。真代さん。」と、真代の手を握った。「信じていいのね?本当に、郁人さんじゃなくてあなたが真占い師なのね?」
真代は、それを聞いてスッと表情を引き締めると、しっかりとひとつ、頷いた。
「そうよ。私が占い師よ。私は間違ってない。カードを見せられるなら、見せたいぐらいよ。郁人さん、どうして嘘をつくの?あの人は、人狼なの?」
知美は、首を傾げた。
「どうかな。普通に考えたら、狂信者だと思う。だって、霊能者の対抗が出なかったでしょう。もし郁人さんが人狼で、狂信者が残ってたんだとしたら、きっと騙りに出るはずだもの。それが出なかったってことは、人狼は潜伏を選んで、狂信者だけが出たってことじゃない?」
「普通に考えたらそうね。でも違うかも。」涼香が、深刻な顔をして言った。「ほら、俊也さんがあまりにも人間だったでしょう。だから、あそこで出て来ても、きっと勝てないと思ったんじゃないかな。だから、あえて出なかった。気を付けないと、俊也さんはあっさり襲撃されてしまうかもしれないわ。狩人には、頑張ってもらわないと。」
真代は、鋭い目をした。
「…許さない。あの人、嘘をついてみんなを殺すつもりなのよ?人狼は、たった三人しかいないのに。狂信者も入れても、四人よ。人間はたくさん居るの。命は大切だと思うわ。私、本当なら今日は郁人さんを吊りたいぐらい。」
それには、美久が慌てて首を振った。
「だ、だめよ真代さん!今日は占い師には手を掛けないって涼香さんも言ってたでしょう?気持ちはわかるけど、他のことで追い詰めるの。今夜の占いで黒を見つけて、明日吊って明後日結果を証明してもらうの。そうしたら、あなたの主張が通るから。ね?今日みんなと全く違う所へ投票したら、それだけでまた怪しいとか言われちゃうわ。だから、がんばろう。」
真代は、真剣な顔で頷いた。知美は、そんな真代を朝の議論の時から見ていて、真占い師だとますます思っていた。真代は、こんな感じだから嘘が付けないのだ。そんな真代に、ここまで完璧に真占い師を演じられるはずがない。そもそも、真代は昨日自分達が離れてから朝まで、誰とも接した様子が無かったのだ。人狼と話し合う暇など、無かったはずなのだ。
いや、違う、これは願望なのだ。
知美は、こうしてこんな状況でも仲良くなって来た人達を、どうしても疑いたくなかった。一緒に生き残って、元気に並んで帰りたい…。
知美は、自分の猫又という役職を忘れて、そう思っていた。