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知美は、泣き疲れた顔をもう一度シャワーで流してから、箪笥から出したTシャツとパンツに着替えて、自室を出た。

あまりにも簡易な誰でも着られるような服で、この屋敷の豪勢な雰囲気には合わない様子だったが、今の知美にはそんなことは全く気にならなかった。

見るからに憔悴し切った様子でリビングへと入って行くと、真っ先に涼香が知美に気付いて顔を上げた。

「知美さん?…大丈夫?あなたも参ってるのね。」

あなたも、と言われて知美は回りを見た。

窓際のソファには、男性達が点々と腰かけていて、険しい顔をして隣りの人とボソボソと話しているのはまだ良い方で、ソファに深々と背を預けて頭を胸にうずめてしまっている者、前のめりに頭を抱え込んでしまっている者など様々だった。

涼香は大丈夫なようだったが、後ろで座っている優子と美久は青い顔をしていて、美久など手に持った菓子パンが半分も減っていなかった。知美は、俄かに頭がはっきりとして来て、涼香に目を向けた。

「あの…みんな何かあったんですか?」

涼香は、頷いて知美を促してソファへと移動しながら、言った。

「あなたも昨日、手引きを読んだんでしょう。全員がそうなの。あの男が言っていたことと同じことが書いてあったけど、ほら…人狼の襲撃の所よ。」

知美は、ハッとした。そうだ、みんなで気を付けて襲撃を逃れて終わりではなかった。人狼が襲撃しなければ、みんな命を失うことになるのだ。

「…誰か、襲撃されなければみんな死んでしまうってところですか。」

優子と美久が、体を固くする。涼香は、頷いた。

「そう。狩人の護衛成功以外、人狼は襲撃を失敗できないってことよ。つまり、生き残りたければゲームをきちんと進めて行かなければならないってこと。人狼は三人、ストレートに吊れたとしてもその間にどうしても人間の犠牲は出てしまうわ。狩人が、余程優秀でない限り。」

そこで向こう側から、(たすく)が声を上げた。

「そんなもの!狩人自身が襲撃されたら終わりじゃないか!人狼陣営は4人で、村人は11人なんだ、人間陣営が勝った方が犠牲は少なく済むんだから、名乗り出てくれたらいいじゃないか!」

それを聞いた涼香は、肩で息をついて、佑に首を振って見せた。

「そんなの、誰だって死にたくないに決まっているじゃないの。まして、ここで知り合いってほとんどいないでしょう?知り合いだったかもしれないけど、覚えている人は少ないんだもの、赤の他人のために、命を投げ出して助けてやろうなんて奇特な人は居ないわよ。」

佑は、キッと涼香を睨みつけた。

「じゃあ、君はどうしたらいいって言うんだ?変に落ち着いてるじゃないか。まるで自分は襲われることが無いって知っている、人狼か狂信者みたいな反応だな?」

皆の目が、息を飲んで一斉に涼香を見た。涼香は、それでも冷静に知美と共にソファへと座ると、言った。

「だったら言うわ。私は、共有者よ。私の相方には潜伏してもらうことにしているわ。万が一にも、私が襲撃されてもその人には全て私の得た情報は知らせておくつもりよ。他に、自分が共有者だという人が居るなら、出て来てくれたらいい。」

佑は、グッと黙った。

知美は、こんな状況の中で冷静に自分の役職を遂行しようとしている涼香に、感嘆の視線を向けた。涼香は、生き残ろうとしているのだ。しかも、自分だけが助かるのではなく同じ陣営の皆を生き残らせ、自分が襲撃されても、生き返って来れるというあの男の言葉を信じて戦おうとしている。

知美や他の人達のように、ただ憔悴しているのではないのだ。

そして、人狼陣営が四人であることを考えても、露出を多くしたくない人狼の手の内を考えて、共有者として騙りに出て来る可能性が低いことも計算しているようだった。

「へ~なら、味方なんだねー。」不意に、入口の方から場にそぐわないおっとりした声がして、皆がハッと振り返った。そこには、真代が薄っすらと微笑んで立っていた。「私は、占い師だったの。だから、みんなを助けてあげられるわ。」

知美は、思わず口を押さえた。

涼香も、すっと眉を上げる。それが本当か嘘なのか、判別がつかないのだ。

真代の感じを見ていると、それが普通なのかそれとも演技なのかの判断が難しい。昨日、涼香が部屋へ入る前に重要な役職でなかったら、と言っていたが、それが悪い方に当たってしまったのだろうか。

すると、奥でソファに座って険しい顔をしていた郁人が、その可愛らしい顔立ちをイライラとさせて鋭く言い放った。

「そいつは偽物だ!オレが占い師。人狼なのか狂信者なのか知らないけど、人狼もこんな奴を騙りに出して良かったの?」

知美は、いきなりのCO合戦におどおどと両方の占い師候補を交互に見た。どちらかが確実に人狼陣営…でも、どっち?!

涼香が、じっと品定めするかのように二人の顔を見ていたが、フフと表情を緩めた。

「そう。人狼も戦う気だってことが、これで分かったわね。私達に正体を教えて自分達が犠牲になってはくれないみたいよ、佑さん。こうして間髪入れずに二人出て来たってことは、昨日のうちに人狼側は話し合って、誰が騙りに出るのか決めたはずだもの。そうでなければこんなにすぐには出て来れないわ。」と、ソファから立ち上がった。「あっちの丸テーブルに移りましょう。そうして、話し合いで今夜の投票対象を決めないといけないわ。人間は、負けるわけにはいかないんだから。」

そう言われて、皆は顔を見合わせた。そうして、一人二人と立ち上がり、言われた通りに丸テーブルの方へと向かう。

涼香は、側のサイドテーブルに置いてあったペットボトルの飲み物と、パンを知美に押し付けた。

「さ、議論しながら食べて。あなたも人間陣営だったら、しっかり考えて誰が人狼なのか見極めて勝たないと。一緒に生き残りましょう。ね?」

知美は、その迫力に押されて思わず頷くと、食べ物を抱きしめた。

そんな涼香の姿を見ていると、自分が猫又なのだとカミングアウトすることが、とても出来ないような気がした。


涼香は、青色の手帳をポケットから出すと、開いてテーブルへと置いた。そして、ペンを片手に、皆を見回した。

「じゃあ、共有者である私が議論を進めさせてもらいます。みんな、それでいい?」

全員が、黙っている。異論はないようだったが、それでも展開の速さにまだついて行けていないように知美には見えた。

涼香は、構わず続けた。

「私、人狼ゲームは好きでよく遊んでいたから、そこそこ得意なの。猫又入りの村は久しぶりなんだけど、がんばって考えるからよろしくお願いします。それで、もしかしてあまりこのゲームを知らない人が猫又になっていたらいけないから先に言うけど、猫又の人は、絶対に言わないで。吊られそうになったら、言って。猫又はね、人狼をその命で道連れに出来るとってもすごい役職なの。もし襲撃されても、絶対に勝って助けるって約束するから。だから、言わないで。」

知美は、それを聞いて下を向いたまま体を強張らせた。先に釘を刺された…つまり、死んでくれということなのだ。

知美は、さっき見たばかりの薄い傷跡を思い出していた。また、殺されるのか。もう、あんな思いをするのは、真っ平なのに…。

そう思うと、自然体が震えて来た。隣りの、郁人が心配そうに言った。

「あれ?知美さん、大丈夫?そんなに緊張しなくても平気だよ。みんなおんなじなんだからさ。」

反対側の隣の、佑がチラと知美を見て、小さく鼻を鳴らした。

「人狼が自分を人狼だって知られたくなくて怯えてるようにも見えるけどな。」

知美は、びっくりして佑を見た。私が人狼?!

「ち、違うわ!私は人狼なんかじゃない!ただ…あの、傷を、見てしまって。」

佑が、片眉を上げて知美に視線を向けた。

「傷?」

知美は、正直に言おうと思い、頷いた。

「ええ。目を覚まそうと思って、今朝シャワーを浴びたの。その時に、胸の真ん中に、薄っすらと、爪で引っ掻いたみたいな線があって。最初は何か分からなかったけど、触ってみたら硬くて…多分、これ縫った痕なんだろうなって。私手術も怪我もしたことないし、そうしたら、そこを誰かに切られたってことだから、これが原因で死んだのかなって、そんなことばかり頭に思い浮かんじゃって…。」

佑は、押し黙った。向こう側では、美久が青い顔をさらに白くして、今にも倒れそうだ。涼香が、慌てて美久を見た。

「美久さん?!大丈夫、真っ青よ。」

美久は、何度も頷きながら、胸を押さえて、下を向いたまま、絞り出すように言った。

「大丈夫…。わ、私も、胸に傷があったから…。」

知美は、それを聞いて美久を見た。

「え、美久さんも、同じ?」

美久は、知美の方を見なかった。

「ええ…同じかどうかは分からないけど、でも、傷があったの。びっくりして…覚えがないし…。」

涼香は、いたわるように頷いた。

「私も、あっちこっちに。」それを聞いて、皆が驚いたように涼香を見た。涼香は物怖じせずに皆を見回しながら、続けた。「手にも足にも、最初は服のシワが体についているのかと思ったわ。でも、首の所とかにも。昨日の浩二さんみたいなはっきりした傷じゃないけど、筋みたいな感じ。パッと見目立たないから、見逃しそうなほどよ。事故にでもあったのかもしれないわ。」

そう言いながらも、落ち着いている。そうして、サラサラの髪を持ち上げて、皆に首筋を見せた。

「ほら、ここよ。」

知美は、それを見た。

ちょうど頸動脈の辺りになるだろうか。そこを斜めに、薄っすらとそれこそよく見なければ分からないような、薄紅色の筋が一本、通っていたのだ。

色は少し違うけど、私と同じ…!

「同じだわ。私と…!」

涼香は、髪を下ろして、頷いた。

「ええ。だから、あの男が言ったことは嘘ではないのよ、きっと。私達、何かがあって死んだんだわ。そして、助けられた。でも、このままじゃまた死んでしまう。どうしても、勝ち残って生きて帰らなきゃならないの。」と、グッとペンを握りしめた。「だから、話し合いましょう。人狼だって必死なのは分かってる。でも私達だって生きて帰りたいんだもの。意見を出して。まずは、占い結果を知りたいわ。」

知美は、涼香が自分と同じものを見て、自分と同じ判断をしたのに、自分より前を見て生き残ろうとしている姿に、自分がなんて小さいのだろうと、心から恥ずかしく思った。

そうして、絶対に猫又だと知られてはいけない、と、心の中で誓った。

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