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お互いへの不信感は大きかった。

康介も俊也も、謙太のことは疑っていないようだ。その証拠に、二人共接するのを避けるように行動していたのに、謙太の所へはそれぞれが少しずつ、話すために寄って来たりした。そしてそれを、二人とも相手には言わないでくれ、と言い置いて足早に去って行った。

二人が誰に投票しようとしているのかは、なので分かった。だが、最後の最後で分からない。

何しろ、ここで間違えば終わりなのは、三人共嫌ほど分かっていたからだ。

それでも、投票時間はやって来る。

謙太は、覚悟を決めて、一階へと降りて行った。


そこには、既に俊也と康介が来て、離れて座っていた。出遅れたか、と思ったが、二人の様子はただ睨み合っているだけのようだった。謙太は、空いている二人から離れた位置の椅子に座って、同じように二人を見つめた。誰がどう動くかで、投票先は変わる。だが、もう投票時間も10分前になっていて、このまま黙っているわけには行かなかった。

俊也は、ただ黙って二人を見ている。謙太は、しびれを切らせて口を開いた。

「…お前が人狼か。」

俊也は、これまでのおどおどした様子が嘘のように、鋭い目で謙太を見て、答えた。

「オレは人狼じゃない。」と、康介を見た。「お前が人狼だろ?謙太はどう見ても白い。昨日からの必死な様子を見ても、白いじゃないか。康介は同じグレーでも回りに合わせてる感じで、自分の意見って感じなかった。」

康介は、じーっと俊也を見ている。まるで、探るような感じだ。

「お前は人狼じゃないとしたら、狂信者か。そうだろ?狂信者なんだろ?」

確かに、村人から見たらそう見えるのかもしれない。何しろ、郁人が真だと思っていたとしたら、真代と同じ結果を出していた、俊也は狂信者か人狼なのだ。だが、ここまでの脅えっぷりから言って、死ぬ可能性のある役職かもしれない。そうなると、狂信者が有力となる。

ということは、康介から見たら、白い白くないにかかわらず、消去法で謙太が人狼ということになるのだ。

俊也は、康介を見たまま答える。

「…だったらどうした。オレは人狼が知りたいんだ。お前だな?」

…謙太は、ふと、思った。こいつらは、もしかして役職の内容を把握していないんじゃないのか…?人狼を探しているって?狂信者がどうして人狼を探すんだ。狂人じゃあるまいし、狂信者は人狼を知っている。もっと村人が残っている時ならその間違いを指摘したかもしれないが、こいつら二人は、揃いも揃って狂人と狂信者の違いを把握していないのだ。ということは、自分は村人として、どう行動したらいい?そうだ…。

謙太は、眉を寄せた。そして、叫んだ。

「…お前、狂信者か?!」と、バンとテーブルを叩いて立ち上がった。「オレが人狼だ!」

それを見た康介が、首を振った。

「今更何を言ってる。オレが人狼だよ…謙太に入れてくれ!」

俊也は、とっくりと二人を見ると、言った。

「…確かに。どう見ても、謙太は人狼じゃない。じゃあ、オレは謙太に入れる。それで、いいな?」

康介は、ブンブンと頷いた。

「ああ!それでいい、謙太だ!」

『投票してください。』

いつもの声だ。

康介は、急いで入力している。

謙太は、椅子に座って腕輪に番号を入力した。俊也は、自分をどう見ても人狼じゃないと言った。謙太は、俊也が真霊能者であることを知っている。その俊也は、ここ数日間で見たこともないほど険しい顔をして、チラッと康介と謙太を見て、番号を入力した。

『投票が完了しました。』

皆が、サッとモニターを見る。


5(康介)→8(謙太)

8(謙太)→5(康介)

10(俊也)→5(康介)


「え…?」

康介が、呟く。機械的ないつもの女声が言った。

『№5が追放されます。』

…やっぱりな。役職のことを把握し切れてない癖に、変な罠を仕掛けようとしやがって。

謙太は、そう思いながら静かに二人を見ていた。

「どういうことだ!」康介は、立ち上がって俊也を見た。「お前、狂信者じゃなかったのか!」

俊也は、フッと口元を歪めた。

「オレは真霊能者だ。始めから言ってるじゃないか…人狼は死ね。」

「ち、違う!待て…、」

康介は、皆まで言うまでもなく、その場にくずおれて床へと倒れた。俊也が、謙太を見て、微笑んだ。

「謙太、これで信じてもらえただろ?オレは、真霊能者なんだよ。」

すると、パッとモニターが切り替わり、声が響いた。

『おめでとうございます。人狼陣営の勝利です。』

謙太は、険しい顔をして、立ち上がった。俊也は、そんな謙太を見上げた。

「え…ちょっと待ってくれ、どういうことだ…?」

謙太は、口の端を歪めた。馬鹿なヤツだ。

「…お前な、ルールはちゃんと読め。人狼と狂信者はお互い知ってるんだよ。オレはお前が真霊能者だって知ってたし、康介が人間なのも知ってた。お前らが勝手に探り合ってたんでぇ。この村のは、狂人じゃねぇ。狂信者だっての。お前の魂胆は見え見えなんでぇ。」

俊也は、見る見る顔色を変えた。

「な…!ちょっと待ってくれ、じゃあ全部、演技だったのか…!」

そこまで言って、俊也はバッタリとテーブルへと突っ伏した。




人狼としての、ここ数日間を思い出してため息をついた謙太は、すっかり綺麗に片付いた居間で、じっとたった一人座っていた。

消灯時間はとっくに過ぎていたが、それでも照明が落ちることもない。本当に、もうゲームは終わったのだ。

さっき全ての部屋を確認して来たが、誰の遺体もそこにあった痕跡すら、すっかり無くなって綺麗さっぱり片付けられていた。

もうこれ以上何も起きないその広い屋敷にただ一人で居ると、寂しいがこれからの事が気になった。

自分は死んで、死体置き場に居たはずなのに。

それでこのまま戻って、いったい皆にどう説明したらいいものか。

考えても、何も答えは出ない。あれから、あのモニターの男は出て来ない。これからの事など、想像もつかなかった。

ホッと息をついて、コーヒーでも淹れて来ようと立ち上がると、誰も居ないはずの廊下の扉が、開いた。

「謙太!」

顔を上げると、佑がこちらへ走って来た。その後ろから、郁人が来て、駿がバツが悪そうな顔をしながら、それに続いた。

「お前ら!やっぱり、生き返ったのか!」

郁人が苦笑しながら歩いて来て、首を示してトントンとそこを叩いた。

「この傷だよ。さすがのあの連中も、綺麗に治すには数日掛かったって言ってた。さっくりやってくれちゃってさあ。」と、息をついた。「でも、ありがとう謙太。あれから大変だったんじゃないの?真代は狂ってるから、記憶を失くしたって変わらないと思うんだよね。さっき勝敗の推移を見せてもらったんだけどさあ。あの日、よく真代吊れたねえ。みんな、信じたの?」

謙太は、嬉しくて涙が浮いて来るのを感じたが、頷いた。

「ああ。郁人が死んだのは真占い師だからという方向で押したんでぇ。それでも生きてるのはおかしいってさ。そうしたら、皆がそれで納得して投票してくれた。浩二は、なんだかおかしくなってたんだけどな。」

佑が、フンフンと聞いていたが、顔をしかめた。

「そんな細かい所まであの推移の報告書には書いてなかったなあ。投票がどうで、吊られたのが誰、襲撃は誰、って感じで。そうか、よく一人でやってくれたよ。」と、駿を振り返った。「で、オレ達はゲームが終わってすぐに目を覚ましてたんだが、しばらく検査だとかであっちに置かれてた。オレ達も知らなかったんだが、この屋敷には地下があってな。今までそこに居たんだ。連中は、死んだ奴らが部屋に安置されたら、24時間以内に回収して地下へ持って行ってたらしいぞ。死体の確認になんか行ったことなかったから知らなかったけど。それで…そこで、駿から話を聞いた。」

謙太は、黙って駿へと視線を移した。駿は、頭を下げた。

「本当に、申し訳ありませんでした!原さん、オレ、あなたを妬んでいたんだ。だって…里美(さとみ)ちゃんを、結構酷く振ったでしょう?」

謙太は、意外な名前が出て来たので、両方の眉を上げた。

「…里美?里美って…誰だ?」

駿は、驚いた顔をした。佑が、苦笑して駿を見た。

「ほら。言っただろうが、どうせ謙太は誰にでも優しいから、何かの勘違いとかだって。」

だが、駿は食い下がった。

「里美ちゃんですよ!ほら、あの、配車の担当の!事務所に居る、山元里美さん!」

謙太は、まだ少し怪訝な顔をしたが、あ、と何かに気付いた顔をした。

「…ああ!そうかあの事務所の姉ちゃんか。で、その山元って姉ちゃんがなんだって?」

佑が、はああああっと大袈裟にため息をついた。

「駿がお前に薬を盛ったのは、その姉ちゃんをお前が振ったからだと。思わせぶりに配送先で貰ったお菓子とか持って帰ってあげたり、雨の日に駅まで送ってくれたりしたって言ってたらしいぞ。駿はな、その姉ちゃんが好きだったんだ。だが、お前のことが好きだってんで、黙って見てたんだってさ。」

謙太は、呆気に取られてそれを聞いていた。そんなことで?

「…確かに、そういえばそんなことがあったか。だがな、オレは甘い物は食べねぇし、別にあの姉ちゃんにだけやった訳じゃねぇ。どっちかってぇと事務の佐藤のおばちゃんの方が仲が良かったぐらいだ。雨の日に送ったのだって、その姉ちゃんだけじゃねぇ。一緒に佐藤のおばちゃんも居た。佐藤のおばちゃんはな、息子のついでだって言ってオレの為に弁当だって作ってくれたし、取れたボタンだってつけてくれたんだぞ。その女の名前だってそういえば聞いたな、程度だったってのに。振った覚えも、ねぇ。いや…そういや、佐藤のおばちゃんが何か言ってたな。そろそろ誰かいい人作らないの?って。オレは、面倒くせぇから幼馴染が田舎で待ってるとか答えたっけ。そんなの居ねぇけど、おばちゃんが好きそうなシチュエーションかと思ってよ。」

駿は、茫然と突っ立ってそれを聞いている。郁人が、側の椅子へと腰かけながら、呆れたようにその駿に言った。

「ほら見ろ、謙太はこんな感じじゃないか。ってか、お前も女には気を付けなよ。オレも佑も、女の言うことはあんまり信じないようにって決めたんだ。気を付けないと、お前まで殺される。っていうか、お前も死んだからここに来たんだよな?」

佑も、謙太の向こう側の隣りへと腰かけて、立っている駿を見上げた。

「そうだ。お前、謙太に薬を盛ったのは聞いたけど、なんで死んだんだよ。謙太が事故で死んで、それで?」

駿は、ハッと我に返ると、冷静にこっちを見ている謙太の問いかけるような視線を見て、下を向いた。そして、言った。

「…そう。オレも、死んだ。っていうか、謙太さんを殺そうとまでは考えてなかったんだ。ちょっと事故って会社に怒られたらいいんだって思っただけ。それなのに、薬が効いて来た場所が悪くて、謙太さんは死んでしまった。オレはそれは後悔したよ…それで、謙太さんに振られたって相談されていた里美ちゃんに、もしかしたらオレが渡したドリンク剤が悪かったのかな、みたいことを、言ったんだ。」

謙太は、それをじっと聞いている。佑は、頷いて先を促した。

「それで?」

駿は、頷いた。

「現場からの一報を受けて、病院に駆け付けたのはたまたまそこに居たオレと事務の里美ちゃんだった。謙太さんは既に霊安室に居て…そこで、オレは里美ちゃんにその話をした。そしたら、里美ちゃんがいきなり怒ってオレを突き飛ばして…よく覚えてないけど、倒れたんだよ。多分、謙太さんの枕元にあった燭台かなんかの上に倒れたような気がする。里美ちゃんがなんか叫んでたけど、そんなの覚えてなくて。もう判断するだけの酸素が無かったのか分からないけど…多分、そのまま死んだと思う。」

謙太は、気の毒そうな顔をした。

「お前…悲惨じゃねぇかよ。その里美ってヤツは、馬鹿じゃねぇのか。オレなんかより話を聞いてくれるお前の方が幾らかいいってのによぉ。ま、お前も馬鹿だがな。オレは結果死んでんだし、あのままだったらこうして話すことも出来なかったってことになる。だが複雑だぞ?帰ったらその女、いったい何を言うもんかね。」

佑は、肩をすくめた。

「それを言うならオレ達もだろうが。無くなった死体が、生きて帰って来るんだぞ?ヤバいだろうが。どうしたもんかなってさ。」

『その事については私から説明しようか。』気が付くと、モニターにあの男が現れて、相変わらずこちらを嘲るような笑みを浮かべてこちらを見ていた。『さて、再会の喜びを分かち合っている中悪いが、君達には帰ってもらわねばならないからな。話を聞いてもらおうか。』

四人は、息を飲んで黙ってモニターを見上げた。

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