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涼香は、皆に発見された。
相変わらず真代は変な占いをする。この日は猫又COしている佑を占って黒、郁人は浩二を黒と言った。
しかし、前日から話し合っていた通り、郁人の方が先に黒を打ったので、後から黒出しした、真代は少し怪しいとは見えるように思った。
それに、佑にはっきりと黒だと出してくれた方が、人狼を犠牲にして人狼を守ろうとしている、こちらとしては有り難かった。
その方が明日、より真代が黒く見えるからだ。
謙太は、率先して場を動かした。独りになってからの予行練習のつもりでもあった。そんな謙太を称賛するかのように、涼香を運んで行ったその先で、真代と知美に、白い、と思われて、襲撃の心配され、忠告までされた。
そんなものは、真代の占い一発で吹き飛んでしまう白さだったが、それでも今はその方がいい。
謙太は、なので合わせて答えておくことにした。
その日の話し合いは、やはり黒を出された佑か浩二かと、そんな話し合いから、真占い師がどちらなのかという話になった。
その中で、あまりに議論が激化していくので、我慢がならなくなったのか、知美が自分が猫又だとCOした。
…また最悪のタイミングで。
謙太は、心の中で知美を嘲笑した。こちらとしては猫又が思った通りで確定して願ったりだったが、どういう心境の変化なのか、殺されただの殺しただのと軋轢があった浩二を庇って、自分が猫又だと出て来たのだ。
佑が偽で人狼だと知っている知美からしたら、黙っていられなかったのだろう。
だが、村人から見たら怪しいことこの上ない。真代が知美を囲っていると思われても、おかしくはないのだ。
その証拠に、康介は真代、知美、浩二の三狼を疑った。
あまりに安直だが、確かにそう見えてもおかしくはないのだ。
佑は、うまく立ち回っている。うまく自分が真猫又だと主張して、吊られたくないというふりをしている。そうして、皆に自分の真贋を見せるために自分を吊れとまで、言えるようになっている…。
確かに、そんな芝居は佑の黒を見ている真代には通用しない。まして真猫又の知美にはもっと通用しなかった。
それでも、村を混乱させるのには充分だった。
三日目の今日の投票は、昨日より三時間も早い、午後5時だった。
涼香があっさりと襲撃された理由を知りたいと真代がうるさいので、仕方なく皆で涼香の部屋へと行き、そうして、時計のずれを調べさせた。
それが分かったところで、村人には今更どうしようもないからだ。
真代が、言った。
「つまり、人狼は消灯前から誰を襲撃するか決めていて、入念な準備をしていたってことね。ほんとに相手は本気なのよ…気を入れてかからなきゃ。」
佑が、チラと真代を嫌味っぽく見た。
「自分を白くしようとして言ってるんだろうが、オレから見たら君は偽だからな。大した役者だよ。」
真代は、佑を睨みつけた。
「あなたが涼香さんを殺した!美久さんも!分かってるんだからね!」
正確には涼香は佑じゃねぇよ、と心の中で思いながら、謙太が、うんざりしたような顔をした。
「もういい。ここで言い合っても仕方ない。これを見た上で、どうするかだ。投票時間は迫ってるし、今日の方針だけ決めよう。霊能ローラーを続けるのか、占い師の決め打ちをするのか、黒のどちらかを吊るのか、それともグレーから吊るのか。ちなみに、今のグレーはオレと康介だ。どうしたい。」
佑がすっと覚悟をした顔をしたかと思うと、言った。
「オレを吊れ!疑ってるんだろう。オレを吊ったら、明日になったらどっちが真占い師か分かる。猫又が一番よく分かるんだ、霊能者が真であろうが無かろうが、オレが死ねば誰か死ぬ。それで判断してくれたらいい!」
知美が、そんなはずはない、というような顔をして叫んだ。
「私が猫又なのに!あなたが死んでも、誰も死なないわ!」
佑は、知美を睨んだ。
「だったら、君目線オレは人狼なんだから、吊ってもいいだろうが。心配しなくても決まりで人狼は一人ずつしか殺せない。襲撃で二人死ぬなんてことはない…人狼がルール違反で負けになるから。二人の犠牲が出る時は、このゲームでは猫又が死んだ時だけだ。オレは、それをみんなに証明する。この命を懸けてな。」
知美は、絶句した。
場の雰囲気は、佑を真だと知美を責めるような視線を向けている。
その中で、真代が言った。
「だったら、証明してもらおうじゃないの。あなたが真猫又だって言うんならね。私は、何を言ってもあなたが人狼だって知ってる。今更そんなに真目を取りに行っても遅いわ。どう考えても、あなたは怪しい。初日の事にしても、あなたが殺して俊也さんに擦り付けようとしてたなら説明がつく。それに、郁人さんが加担していたのも私目線からは見える。死んでもらうわ。」
皆が、黙っている。
知美が、混乱したような顔でひたすらに佑を見て考えていたが、答えなど出ようはずもなかった。
謙太が静かに言った。
「…分かった。明日、死体が二つ出たら、真代さんも知美さんも吊ろう。そうなると、俊也もそっちの陣営って事になるな。その代わり、死体が一つだったら郁人を吊って、潜伏している人狼を何としても探し出す。真代さんが占えば、すぐ分かるだろう。それで、みんないいな?霊能者も占い師も信じられない中、縄を何かに消費するなら確かにこれが一番効率的だ。」
浩二は、郁人に黒を出されているので真代が真占い師だと思っているようで、すんなり頷いた。康介と拓也は、回りの皆の反応を見ながら、渋々といった感じで頷く。知美も、それに従うよりなかった。それが、村の総意なのだ。
佑の考えは、もう謙太も郁人も分かっていた。そうして、佑が死ぬということは、郁人も今夜、知美を道連れに死んで逝くのだ。
そんな思いの中で、その日佑は、ただ穏やかに目を閉じて、死んで逝った。
佑を無事に部屋へと運んだ後で、一緒に運んで来た康介と拓也、浩二が居なくなった後、郁人が謙太に言った。
「…謙太、後は頼む。」
謙太は、郁人を見た。
「覚悟は決めたか。」
郁人は、頷いた。
「今夜、消灯時間前に、居間かキッチンで。恐らくあいつは、自分が猫又だとCOしたことで襲撃されないと思って油断しているはずなんだ。何とかおびき出して、そこでやるよ。」
謙太は、フッと肩で息をついた。
「…分かった。後は任せろ。心配するな。」と、ちょっと考えてから、言った。「だが、刃物なんか持ってたら警戒するかもしれねぇ。不器用に見せる必要があるし、お前、左手を使え。そうしたらもっと油断する。」
郁人は、顔をしかめた。
「ええ~?ちょっと、左手って、難しいんだよ?人殺すのってさ、上手くやらないと一発で死なないと思うんだよ。」
謙太は、厳しい目で郁人を見た。
「わあーってらあ。だがな、絶対に成功させなきゃならねぇだろうが。それから、お前は返り血を浴びるな。サッと切るのと同時に、切った方の肩を押したら横へ飛ぶはず。浴びちまったら仕方ないが、一応やってくれ。頼んだぞ。」
郁人は、大袈裟なため息をついた。
「はいはい。まあ後は頼むってオレ達は逃げるんだしね。言うことは聞くよ。ほんとに、後はよろしく。じゃあね。」
郁人は、そう言い終えると、そこを出て行った。
謙太は、それを見送りながら、自分も覚悟を決めていた。
郁人は、じっと居間で寛ぎながら、康介や拓也、浩二と話して、そうして知美を観察していた。
やはり、思った通り自分は襲撃されないと思っているのか、とっくに部屋に帰った真代とは対照的に、まだぶらぶらとキッチンに出入りしたりしていた。
そうこうしている間に、拓也が立ち上がった。
「そろそろ部屋へ帰るかなあ。郁人はどうする?」
郁人は、うーんと伸びをすると、立ち上がった。
「キッチンで食べ物持って来てから上に上がるよ。康介と浩二は?」
二人は、苦笑した。
「お前、さっきこっちが退くほど食べたのに、まだ夜食持ってくのか?オレ達はもういいさ。じゃ、先に上がってるよ。また明日な。」
そう、そのために二人にたらふく勧めて食べさせたのだ。自分も、もしかしたらもうこれが最後の食事かもしれないと思うと、食べたい物は何でも必死に食べた。
郁人は、ぷうと膨れたふりをした。
「腹減るんだもんなー。じゃあね。」
手で、バイバイ、という仕草をする。すると、三人は笑いながら、先に居間を出て行った。それを見てから、郁人は、覚悟を決めた。知美が、さっきキッチンへ入って行ったのを見ていたからだ。
…キッチンで、殺そう。
郁人は、そう決心していた。おびき寄せるまでもなく、知美は自分からフラフラと動き回っている。そう、襲撃されるような状況で居る、知美が悪いのだ。
キッチンへと入って行くと、何かを考えているのか、知美が冷蔵庫の前で棒立ちになり、じっとチルド室の中の刺身を凝視していた。
郁人は、それを見てサッと頭の中で筋書きを考えると、こちらに気付かないでいる知美に、声を掛けた。
「ちょっといいかな?」
知美が、驚いたように振り返って、郁人が居るのを見ると、身を固くした。
郁人は、極力殺気を出さないようにと気を遣いながら、困ったように笑って見せた。
「いや、その、その刺身が欲しいんだ。短冊だし切らないと持って行けないし、消灯までにやってしまいたいんだよね。」
知美は、慌てて場を開けた。
「ご、ごめんなさい!私も、お刺身持って行こうかなって思って…。」
郁人は、チルド室からマグロとイカの短冊を取り出して、眉を上げた。
「君も?」と、短冊へと視線を落とした。「そうか…一人分には多いんだよね。じゃあ、オレが刺身を切るから、君はそっちのご飯のパックをレンジで温めといてくれない?オレ、ご飯と刺身、大好物なんだよね。あ、お湯も欲しいな。そっちにインスタントの味噌汁あった。」
知美は、振り返って棚の上を見た。そこに並んでいる紙コップの味噌汁を確認しているようだ。
「じゃあ、私がお湯を沸かすね。」
知美は、電子レンジにパックのご飯を放り込んでセットすると、急いでヤカンに水を入れて火をつけた。
郁人は、まな板の上にマグロを乗せると、謙太から言われた通り、左手で包丁を握った。だが、思った通りこの持ち方では細かい動きは難しい。自然、眉根が寄って機嫌が悪くなって行く中、知美が郁人の左側へ寄って来て、プ、と噴き出した。
「…慣れてないの?私がやろうか?」
郁人は、今の瞬間気を許しているのを感じて知美を見ると、心底馬鹿な女だ、と思った。猫又だというだけで、自分は殺されないと思っている。佑は、死んだのに。
郁人は、心の中の嘲笑を、人懐っこい笑顔に変えて、フッと笑った。
「そうなんだよ~。どうせ食えないのに。いくら何でも左手でって、そりゃ無理な話だよね。でもさあ、そうしろって言われたからさ。」
郁人は、グッと包丁を握り直すと、知美の首筋をしっかり狙って、一気に振った。
と同時に、右手で知美の右肩を突き飛ばし、知美は何が起きたのか分からない、呆けた顔でその場に棒立ちになってこちらを見ていた。
首筋からは、勢い良く血が噴き出して横へと飛び散っている。
「え…?」
知美は、それでまだ何が起こったのか分からないらしい。
ガクッと膝を付くと、郁人を見上げるような形になる。目の前は、真っ赤だった。床が見る見る真っ赤になって、その血だまりの中へと倒れ込む。
知美の開いた目が何も映さなくなったのを、冷たい目で見降ろしていた郁人は、手に持っていた包丁の柄を、丁寧に拭いた。
恐らく謙太がいろいろやってくれるのだろうが、まだ時間があるらしいので出来ることはやって置こうと、知美の右手にその包丁を持たせると、小さく呟いた。
「…後は頼むぞ。」
その瞬間、手首の腕輪の辺りが、チクリと傷んだ。
…やっぱり腕輪に薬が…
そう思った瞬間、郁人はその場にぐにゃりと倒れた。
謙太は、誰も居なくなったのを確認してから、居間へと降りて来た。
シンと静まり返って、誰も居ない。郁人は、居間かキッチンだと言っていた…キッチンにしたようだ。
謙太がそっと、扉の外側から中を伺うと、何の音もしないようだった。なので、思い切って扉を開いて見ると、そこは、鮮血が飛び散った大惨状と化していて、郁人と、知美の二人が倒れていた。
謙太は、大きくため息をついた…そうか、やっぱりそうなったか。
見ると、包丁は既に知美の手にあった。郁人が死ぬまで、少し間があったのだろうとそれで分かった。なので、それを使うのをやめて、指紋が着かないように袖で手を覆いながら、他の包丁を取り出した。
…すまないな、だが無駄な傷じゃねぇから。
謙太は心の中でそう言いながら、郁人の首にも知美と同じような傷をつけた。
とっくに死んでいる郁人からは、血が滲み出して来る程度で噴き出して来るようなことは無い。
これでは不完全なので、側の知美の血液を、郁人を転がしてつけると、知美も転がしてうつ伏せにし、顔も体も正面から血だらけを偽装する。そして、郁人を刺した包丁を丁寧に洗って、また元の場所へと戻した。
…これで、村人には正確に何が起こったのか分からねぇだろう。
謙太はそう思いながら、じっと郁人の動かない瞳を見た。絶対に勝つ…お前達が、オレに全てを託したんだから。
謙太は、決意を新たにすると、そこを出て扉を閉めた。
その瞬間、消灯時間が来て、真っ暗な中、郁人と知美は置き去りにされた。
そうやって、あの現場は作り出されたのだった。




