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その部屋は、縦に広い形のもので、正面に大きな窓があり、そこには長いビロードの高価そうなカーテンが掛かっていた。

入ってすぐ横には木製の引き戸があり、そこを開くと、あのモニターの男が言っていた通り、トイレとバスがついていた。

足を踏み入れて中へと進むと、奥は広く広がっていて、入って右側の奥には大きな天蓋付きのベッドがあった。

その足元辺りには木製の綺麗な曲線を描く形のテレビでしか見たことも無いような箪笥が一つ、置かれてあった。

窓の側には装飾の着いたテーブルと、椅子が二脚ある。

左側の壁には大きな鏡が設置されてあり、それにくっつけるように木製の横に長い机があった。その上にはここの雰囲気には似合わない、21型ぐらいのテレビが乗っていた。

知美がその机に歩み寄って見ると、机の上には、茶色の革表紙が着いた「手引き」と書かれた物があり、その横には、クリスマスカードでも入っていそうな金色の縁取りがしてある、封筒が一つ、置かれてあった。

…役職カードだ…っ!

知美は、咄嗟にそう思った。そして、誰か入って来ないだろうかと入口の方を確認してから、自然に震えて来る手を必死に動かして、その封筒を開いた。

封筒は、糊付けもされておらず、あっさりと開いた。

そうして、中からは黒いカードの真ん中に、赤い狼の絵が描かれた物が出て来た。

「え、人狼?!」

知美は、思わずそれを取り落とした。

ヒラヒラと舞ったカードは、床の赤い絨毯の上で、違う絵柄を上にして落ちる。そこには、猫が背を向けて座っている絵柄が描かれてあり、その尻尾は二股に分かれていた。そして、その下に、漢字で「猫又」と書かれていた。

「ね、猫又なの?!」

知美は、慌ててカードを拾い上げた。よく見てみると、最初に見たのはただのカードの背中の部分だったらしい。役職は、その裏側にある。知美は、猫又という役職を振り分けられたのだ。

そうなって来ると、役職の説明を見ておかなければならない。

知美は、茶色い手引きを持ち上げると、中を見た。そこには、丁寧に目次まであった。

『・役職(猫又)について・タイムテーブルについて・人狼の襲撃について・許可事項・禁止事項』

知美は、まず自分の役職である猫又について読んだ。どうやら、あのモニターの男が言っていた通り、猫又は人間陣営で、人狼に襲撃されたらその人狼を道連れに出来るらしい。だが、昼間の投票で死ねば、ランダムに誰かを道連れにしてしまうらしい。つまり、どうあっても疑われるわけには行かず、もし疑われたら猫又だとカミングアウトしなければならない。そして、出来る限り黙っていて、人狼に襲撃されるように…。

知美は、身を震わせた。人狼に襲撃されるのが、きっと猫又の役割なのだろう。自分が猫又だと分かったら、人狼は自分も死ぬことを恐れて絶対に襲撃して来ない。村も、知美を吊ろうとしないだろう。人間が犠牲になったらたまらないからだ。つまり、村のためなら黙っていた方がいいが、自分のためには、言ってしまった方がいい。そう、猫又としてCO(カミングアウト)してしまえば、猫又として村の役には立たないかもしれないが、自分は死なないで済む…。

知美は、猫又のカードを抱きしめて、考え込んだ。まさか本当に殺すなんてことはないはずだ。でも、もし本当に殺すということになったら、どうしたらいい?やっぱり、自分はカミングアウトするべきだ。明日、とりあえず様子を見て、そして…。

知美は、一人考えに沈んだ。


それから、どれぐらいそうしていただろう。

空腹を感じて知美が我に返った時には、部屋の置き時計は夜中の一時半を指していた。

とにかく、自分は猫又なのだから、普通の村人よりは生き残る術があるのだと自分を納得させて、猫又の姿が描かれたカードを大切に封筒に戻すと、机の引き出しにそっと仕舞った。そして、手引きの続きに目を通した。

だいたいは、あの男が言った通りのことが書いてあった。

人狼は、絶対に一晩に一人を襲撃しなければならないらしい。それも、誰も襲撃しないで時間が過ぎてしまったら、ゲームオーバーとなって全員が殺されてしまうのだ。そう、人狼も人間もまとめて死ぬことになる。

皮肉なことに、人間陣営さえも、自分が生き残ろうと思ったら、人狼に誰かを襲撃してもらわなければならないのだ。

知美は、肩を落とした。誰もが、自分以外の誰かにしてくれと思っていることだろう。このままだと、人間の間でも生き残りたいと争いになる可能性がある。初めて会う人達の中で、やはりうまく立ち回れるような気がしない…。

空腹だったが、誰もが皆敵のような気がして、こんな時間に階下へ降りて行く気にはなれなかった。

なので知美は、そのままベッドへと倒れ込んで、そうして手引きを手に持ったまま、眠り込んでしまったのだった。


「知美さん?」

ハッとして、知美は目を開いた。聞いた声…涼香の声だ。

慌てて起き上がった知美の目に、扉を開いてこちらを覗き込んでいる、涼香の顔が映った。

「涼香さんっ?ご、ごめんなさい、すっかり眠ってしまってて…。」

涼香は、申し訳なさげに首を振った。

「こちらこそごめんなさい。ノックしたけど反応がないから、鍵が開いていたし勝手に開けてしまったわ。でも、鍵はかけておいた方がいいわよ。昨日は問題なかったけど、これからは。」

知美は、なんとか笑顔を作って、頷いた。

「ええ。手引きを頭に入れておこうと思って…眠ってしまったみたい。これからは気を付けるわ。」

涼香は、頷いて廊下へと引き返しながら言った。

「じゃあ、先に下へ行ってるわね。まだ真代さんが起きて来ないけど、鍵が掛かってて起こせないのよ。美久さんと優子さんを連れて、先に行ってる。」と、知美の服が昨日と同じなのを見て、続けた。「あの、箪笥に新しい服が入ってたわ。女性用と男性用が両方とも。シャワーでも浴びて、目を覚ましたらどう?すっきりするわよ。」

知美は、そういえば箪笥の中を見ていなかったとそちらを見た。

「そうなの?わかった、着替えてから行くわ。先に行ってて。」

涼香は、頷いて出て行った。知美は、うっかり鍵を掛けずに寝てしまった自分が不甲斐なかった。昨日だったから良かったが、これがゲームが始まってからだったら、格好の餌食になるのは目に見えているのだ。

「気を付けよう…。」

知美は、手にある手引きをまた丁重に机の引き出しへと収めると、箪笥の引き出しから適当な服を引っ張り出して、急いでバスルームへと向かった。


昨日は気付かなかったが、そこには一通りのアメニティは揃っていた。シャンプーもボディソープも横文字で知美の知らない物だったが、それでもとてもいい香りがした。

それを泡立てて体をこすっていると、ふと、胸の辺りに違和感を感じた。

痛みはない。だが、急いで泡を流して目の前にある鏡に映して見てみると、薄く、本当に薄く、一本、白いような筋が胸の真ん中辺りに見えた。

「…?」

知美は、その筋を指でなぞった。長さは五センチぐらい、僅かにその部分だけ、すべすべと感覚がないような気がする。それでも、昨日一階のリビングで見た浩二という男性の腕の傷に比べたら、無いようなものだった。

もしかしたら見間違いかも、と、慌てて残りの泡も流して備え付けてあるバスタオルでふき取って、明るい所でもう一度見よう、と、机の前の大きな鏡の前へと向かった。

そうして、窓に掛かっているカーテンを開くと、朝の光の中、その筋を見た。

それは、離れて見てみると、はっきりと白い筋があるのが見てとれた。

縦に五センチほどの長さで、パッと見たところ爪で引っ掻いたぐらいにしか見えなかったが、それでも意識して見て触れてみると、明らかにそこだけ針金でも通しているように固く、他の皮膚とは違っていた。

…自分の体を確認して傷が薄っすらとしか残っていない者達が居たら、安心すればいい。その者達は、私が真面目に生きていたと判断した者達だということだ。もちろん、私の個人的な判断だがね。普通は絶対に傷は残るものなのだ。治してやっただけでも感謝してもらいたいものだな…

「ひっ!」

知美は、あの男の言葉を思い出して思わず鏡の前で飛び退った。これが、傷…!私が、殺された時の傷!

知美は、ガクガクと震えた。そうだ、これがその傷なのだ。あの男は、私が殺されたのは私のせいではなく、真面目に生きていたと判断したから、こうしてほとんど分からないように治療して、蘇生したのだ。

そして、この傷のままに刺されたのなら、恐らくは男が言うように自分は死んだのだろう。

「いったい、誰かこんなことを…!」

知美は、浮かんで来る涙を堪えきれず、その場に泣き崩れた。こうして生きているとはいえ、一度は殺されたという事実に、行き場のない感情で泣くより他に出来なかったのだ。

そうして、また殺されるのかもしれない。もう、二度と殺されたくなんかない…!

知美は、しばらくそのままそこで、泣き続けたのだった。

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