表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/55

48

そうこうしている間に、昼の二時がやって来て、また皆で集まって話した。

人狼陣営から見たら、こんな話し合いなど時間の無駄でしかなかったのだが、これにしっかり出て皆の信用を勝ち取って行かなければ生き残ることが出来ない。

なので、仕方なくそれに出た。

人狼達と違って何も見えていない村人達はただ的外れなことを言ったり、誰を信じていいのか分からずに右往左往している。

涼香への刷り込みが功を奏しているのか、今のところ涼香は真代より郁人を信じて、佑のことは猫又だと信じているようだった。

他に、猫又が出て来なかったからだ。

しかし、人狼には分かっていた。あの中に、猫又が居る。そして、それは恐らく知美。

その情報は、その二時の話し合いの後、密かに集まった人狼達の中で周知された。

何にしろ、猫又を知っていればこちらは何とかなった。利用できるものは利用しようという魂胆だった。

「涼香から、俊也に入れろって言って来た。」謙太は、グレーなので信用を取るために、他のグレーの康介と浩二と共に、涼香に票を合わせると公言していたのだ。謙太は、続けた。「どうする?霊能に行くようだが、この様子なら駿は大丈夫だろう。少なくても涼香、オレ、康介、浩二の四票は俊也だ。真代はどうか知らんが、知美は恐らく疑われたくないから涼香に合わせて俊也じゃないか?それで五票。恐らく決まる。」

佑が、うーんと伸びをした。

「あっけないな。じゃあオレと郁人は、俊也ではなく真代にでも入れておくか。オレに黒打った偽ってことで。郁人だって対抗占い師なんだから間違いなく偽だし、いいんじゃないか?後々俊也が何だったのかってなった時、その投票が役に立つかも。」

駿が、頷いた。

「じゃあ、オレは絶対に俊也に入れるし、安泰だね。もしかしてローラーとか言われたら明日はオレになりそうだけど…そこは、大丈夫?」

郁人が、駿を見た。

「もし、お前が吊られるとなっても、安心して、絶対に勝つ。お前も死んだからここに居るんだろ?だが、生き返ってる。処刑されてもオレ達が勝てば必ず戻って来れる。だから、悪いけどオレ達がもし、勝つためにそれが必要だと思ったら、お前に投票するし、襲撃もする。そんなことがないようにと思っているが、オレ達は自分の命も勝利に捧げてもいいと思ってるぐらいなんだよ。だから、信じて。必ず勝つ。」

謙太は、駿に頷いて見せた。

「そう、この様子だともしかしたら佑も郁人もヤバいかもしれねぇ。そうなった時、その命の有効活用を考えるんでぇ。佑を見ろ、自分が露出するのに、ああしてただでは死なないと猫又COしただろう。これを利用して何とでも村を騙すんだ。だから、お前もその覚悟でな。」

駿は、ごくりと唾をのみ込んだ。

「…分かった。でも、共有者の信用を得られてるようだから、村はきっとそれに従う。今日はあまり心配してないよ。明日以降は…覚悟しなきゃならないかもだけどね。」

人狼陣営の四人は、頷き合った。

そうして、表からではバレるので、見つけたトイレの上から出る通気口を通って、皆それぞれの部屋へと帰って行ったのだった。


謙太が、少し早めに投票のテーブルへと着いたのだが、涼香が既に来ていた。

「…遅かったか?まだ30分前だが…皆、これぐらいから来るのかと思っていたよ。」

謙太が言うと、涼香は、肩をすくめた。

「別にいいのよ。時間を指定したわけじゃないもの。でも…まだ、真代さんと知美さんが、来てないみたい。」

謙太は、わざと言った。

「…またあの二人か?」

涼香は、少し眉を寄せた。やはり何やら疑っているらしい。

「…困ったわね。ところで、私と票を合わせてもらう人には投票先を言ってあるけど、これから来る人には誰に入れるのか絶対に言わないで。なぜなら、その票を見たいの。放って置いたらどこに入れるのか見て、明日からの判断の材料にしたい。だから、お願い。」

謙太が、ため息をついた。

「あんまり強権的にしたら、皆従わねぇぞ。あんたは村だから疑ってねぇが、反感を感じるのは正直なところだ。自分の考えを押し付けるべきじゃねぇ。でなきゃ間違った時、あんたの立場が悪くなる。気を付けた方がいい。」

涼香は、スッと目を細めると、不機嫌に横を向いた。

「…分かってるわよ。」

投票、10分前になった。

そのアナウンスがあっても、まだ知美は来ない。まさか、こんな時間に人狼が襲撃したとか無いと誰もが思っていたし、人狼自身も身に覚えのないことなので、何があったのか分からない。

涼香が、イライラと扉の方を見ていたが、立ち上がると、駆け出した。

「見て来るわ!あなた達はそこに居て!」

そうして、全速力で走って行った。


ものの数分で、涼香は戻って来た。

知美は、自分の椅子へと走りながら言った。

「ごめんなさい!すっかり寝込んでて…涼香さんが来てくれて目が覚めたの!」

謙太は、心底呆れた。寝てたのかよ。

佑が、呆れたように言った。

「よく寝てられるな。こっちは頭の傷が痛くてそれどころじゃないってのに。」

謙太が、ここは庇った方がいいか、とそれを諌めた。

「まあまあ、みんな一眠りして来たんだ。疲れてるのはみんな同じだろうが。」

「呑気過ぎるって言いたいんでしょうよ。」涼香が、嫌みっぽく言った。「こっちは必死に考えて眠るどころじゃなかったのに。」

知美は、時計を見ながら聞いた。

「それで、誰に投票するか決まったの?私…」

合わせようと思って、と知美が言う前に、涼香は鋭く言った。

「あなたはあなたが怪しいと思う方に入れてちょうだい。明日からの参考にしたいの。白が出ていても、襲撃されない限りどっちが偽物の占い師なのか分からないんだしね。」

知美は、グッと黙った。涼香は、知美も怪しいと言っているのだ。

まあ仕方ねぇな。オレでも怪しいと思うわ。

謙太が、それでも一応同情したような顔をして、知美を見た。だが、もちろん教えてやるなどというヘマはしなかった。

謙太が、明日からのためにも両方に良くして置くかと、助けるように口を開いた。

「…君だけが知らないんじゃねぇから。票を合わせることを約束したオレ達以外、他の奴らもオレ達がどこへ投票するのか知らねぇ。だから、自分が確かに偽だと思う所に入れたらいいんだ。」

涼香が、それを聞いて軽く謙太を睨んだ。だが、謙太はそんな涼香を威嚇するように睨み返した。

「あんたの考えは知ってるし票は合わせる約束をしたから合わせるつもりだが、やり方が気に食わねぇ。人としてあんたが嫌いだからオレはオレのやり方で行動する。これで間違ったら、全部自分で背負うんだな。言い訳なんか聞かねぇからな。」

ちょっと言い過ぎたかと思ったが、少し強めに釘を刺しておかないと涼香は、もっと感情的に動いてそれが人狼にどう影響するのか分からない。涼香は、それを聞いてブルブルと唇を震わせた。

じっと考えていた知美が、わざわざ宣言した。

「…私は、霊能者はどう考えても俊也さんが陥れられようとしている、真霊能者だと思う!だから、駿さんに入れる!」

駿が、眉を寄せる。謙太は、驚いた。それじゃあ真代にべったりの結果で、自分が真代側だとはっきり告げるやり方で、本当なら良くない手なんじゃねぇのか。こいつは、ほんとに自分がどうするべきか分かってねぇのか。

謙太だけでなく、皆が驚いた顔をする。

モニターが機械的な女声で言った。

『投票してください。』

皆が、一斉に腕輪に向かった。


1(知美)→11(駿)

2(佑)→6(真代)

3(拓也)→11(駿)

5(康介)→10(俊也)

6(真代)→11(駿)

8(謙太)→10(俊也)

9(浩二)→11(駿)

10(俊也)→11(駿)

11(駿)→10(俊也)

12(涼香)→10(俊也)

13(郁人)→6(真代)


そして、画面に大きく、「11」の文字が現れた。

『№11が追放されます。』

「嘘っ!!」

涼香が、叫ぶ。謙太も、郁人も佑も同じ気持ちだったが、もう決まってしまったのだ。

駿は、慌てたように立ち上がった。

「待て、そんなはずはないんだ!」

涼香は、画面を見て、必死に投票先を見ている。その瞬間、駿がまるでスイッチでも切ったかのように、立ち上がっていた姿勢のままストンと椅子へと落ちるように尻を落とし、そうして、ぐにゃりと前へと倒れてテーブルへと突っ伏した。

「きゃあ!!」

隣りの涼香が、悲鳴を上げる。反対側の俊也は、もはやガクガクと震えていて駿がどうなったのか確認すら出来ない様子だった。

そんな様子に、椅子一つ向こうの郁人が険しい顔で駿へと近寄ると、その突っ伏した首へと指を沿わせた。

そして、もはや諦めたように、呟いた。

「…死んでるな。」

知美は、口を押さえて吐き気を押さえていた。駿の何も映していない瞳は、見開かれたままガラス玉のように光を失っていた。

『№11は追放されました。それでは夜時間に備えてください。』

また機械的な声が聞こえて来て、モニターは投票先を映したまま沈黙した。

涼香が、ブルブルと震えて、立ち上がって叫んだ。

「どういうこと?!私は、私は俊也さんだって言ったわ!どうして皆違う所へ入れたの?!」

佑が、強張った顔のまま、涼香を凍り付いたような視線で見て、言った。

「オレ達は違うだろう。勝手に好きな所へ入れろっていったじゃないか。だからオレは、四人の中で偽物だと一番強く思う所へ入れた。郁人だって対抗なんだからそうだろう。知美さんだって拓也だって、君は知らせなかったじゃないか。ちょっと四票持っただけで、気が大きくなってたんじゃないのか。」

涼香は、グッと一瞬黙ったが、それでも首を振って、モニターを指さして何度もその腕を振った。

「他の子達は良いわ!でも、私に票を合わせるって言ってた浩二さんはどうなの?!あなたがちゃんと私に合わせてたらこんなことにはならなかったのに!私の指定した人が吊られたはずなのよ!」

すると、言われた浩二は、バンと前のテーブルに両手をついて、立ち上がった。そして、涼香を睨みつけると、ハッキリと言った。

「オレは、詳しく覚えてないが知美さんに謝りたいと思った事実があるんだ!彼女がこんなことになったのも、恐らくオレが彼女に何かしたからだ。だからこそ、オレは彼女が思うように進めたいし、これで吊られるなら代わりに吊られたっていい!どうせ死んでるんだ、彼女の思う通りにしてやりたいんだ!君に疑われるなんかどうでもいい!」

浩二は自分が疑われるのを承知で、土壇場で知美に票を合わせたのだ。

そして、結果その一票で駿は吊られたのだ。

涼香は、そんな答えが返って来ると思っていなかったらしく、愕然としている。拓也が、呆れたような顔をしながら、涼香を見た。

「君自身が感情的なんだ。誰も彼も疑うし、その疑いの割合で決めるとかではなくて、感情的に疑わしいってことで決めてる。オレは、多分君は俊也なんだろうなって思ったけど、でも俊也にはどうしても出来なかっただろうことだし、オレも知美さんと同じで、黒塗りされた真霊能者なんだと思った。だって、あんなに穴だらけの殺人があるか?そもそも、あの氷は何だったんだ。そんなことも分かってないのに、何だって駿は信じられて俊也は信じられないんだよ。オレを疑うなら疑ってもいいけど、君の票に合わせた謙太と康介だって君の判断に同意してるなんて思ってないぞ。君は村の中で少数意見ってことだ。共有者なら、もっと村人の意見を聞いてすり合わせて行かなきゃならない。共有者である事実以外で納得させる材料を、君は揃えられてない。」

涼香は、目に見えてショックを受けた顔をした。拓也は、白いのだ。涼香は郁人寄りの考えであるのは知っていたので、その郁人が白を打っている拓也は、涼香の中では限りなく白に近かった。他ならぬその拓也からの批判は、涼香にはかなりのダメージを与えたようだった。

「そ、そんな…私は…!私も、考えて…」

謙太が、ここは涼香を庇って置いてあとで利用方法を考えようと、割り込んだ。

「まあまあ拓也、確かにオレ達だって共感出来ないし、今回はいわれなく黒塗りされたらたまらないから票を合わせたが、これで俊也が吊れたら、翌日絶対駿だとも思ってたのは確かだ。だがな、共有だってただの村人なんでぇ。見えてないんだから、間違えても仕方がねぇ。これで分かってもらえたら、いいじゃねぇか。」

佑が、険しい顔のまま、決してわざとらしくなく、ため息をついた。

「…もう、村に票を強要するなってことだな。片っ端から黒塗りするのが共有の仕事じゃないし。それで反感をかったら、村は違う方向に行っちまう。それが分かっただけでも、いいんじゃないか。」と、立ち上がった。「じゃ、駿を部屋へ運んでやろう。このままじゃ気の毒だ。時間が惜しいし、早いとこ連れてってやろう。」

俊也は、まだ駿の隣でブルブルと震えていた。無理もない…自分がこうなっていたのかもしれないからだ。

謙太が、立ち上がった。

「手伝うよ。康介も頼む。」

康介は、黙って頷いた。そこへ郁人も加わって、男性四人で、慣れたように駿の遺体を運び出して行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ