表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/55

41

結局明け方には、このまま一緒に明け方になると面倒なことになるだろうと、それぞれの部屋へと帰った。

氷が融けるスピードを計りながら、その他いろいろと話し合ったのだが、黒い服やナイフを佑の部屋へと運び入れ、その時に備えることになった。

佑が襲撃される時は、消灯時間が過ぎている。つまり、廊下は真っ暗だろう。なので、襲撃されたと頭を押さえておけば、それで皆が信じるだろうということになった。

誰かが走り出せば、群れの習性で絶対に皆が従って慌てて走り出すだろう。なので、その役目は謙太が担うことになった。

最後尾の佑は、叫び声が聞こえて皆が走り出したら、あらかじめ暗闇に隠しておいた黒服を被り、郁人がトイレに押し込んだ誰かを、ナイフで刺す予定だった。

黒服は、返り血を浴びた時用だった…それは、チャンスを計ってトイレの天井へと上げて置く予定だった。

本当に襲撃されたのだと思わせるための、血は襲撃した村人が提供してくれるはずだった。

「でも、傷を見たいとか言い出したら?」郁人が、苦い顔をして言った。「疑われた時、多分傷を確かめろとかになると思うんだよね。その時傷が無かったら、もう最悪だろ。佑が疑われたら、連携してるオレも疑われて終わりだ。」

佑は、考えたが嫌そうな顔をして、言った。

「じゃあ、実際切ったらどうだ?ちょっとだけだ。頭にしたら、ちょっとの傷でも結構出血するからおかしく思われないだろうし。どうせ、誰かが居ないって騒ぎ出すだろうし、みんながそっち行ってる間に、誰か残ってオレの頭を治療するとか何とか言って、スパッとやってくれ。」

謙太が、げ、という顔をした。

「オレは駄目だぞ。力加減が分からんしお前ほんとに死ぬかも。」

佑は、ギョッとした顔をした。

「お、おい、やめてくれ!謙太以外で頼む。」

駿が、手を上げた。

「じゃあ、オレが。治療をするって積極的に言うことにする。で、残ってスパッと。」

佑は、大きく手を振った。

「だから、深くやるなよ!仲間の手で死にたかねぇし!」

そんなわけで、いろいろな段取りは何とかついた。

そうして、朝を迎えていたのだが、やはりというか、皆が皆一様に沈んだ雰囲気だった。

こちらも徹夜しているので、憔悴し切った様子は、作らなくても自然とできた。

降りて行った居間では、皆ポツポツと離れて座っていて、口を開く様子もないので、とにかく人狼達も、話す事は昨日話し尽くしていたので、離れて皆に合わせて黙っていた。

すると、鈴香と美久、優子が降りて来て、居間の様子を見ると、自分達も脇の椅子へと遠慮がちに座った。それを見た佑が、顔を上げた。

「…なんだか君達は平気そうだな。昨日の、手引きの人狼の襲撃の所を読んだか?」

何を言うつもりなのかと謙太はハラハラしたが、鈴香の方が重苦しい雰囲気で頷いた。

「平気じゃないわ。でも、落ち込んでいても生き残れないと思って気持ちを奮い立たせているだけ。手引きはしっかり読んだわ…襲撃、必ず一人しないとルール違反ってことでしょう?狩人には、頑張ってもらわないといけないってことよね。」

佑は、頷いた。

「狩人の護衛なんかあてになるか。どうせ役職の誰かを守って人狼は別の所を襲撃するんだろうが。この中に人狼が居るなら、言って欲しいね。誰を襲撃するのか言ってくれてたらそこを守れるだろう。もちろん、誰も人殺しなんかしたくないって思ってるよな?」

皆が、困惑した顔をした。それが出来たとしても、処刑するのも間違いなくそれを教えた人狼陣営の人、ということになる。

つまり、佑は人狼を運悪く引いた誰かに犠牲になって村人を助けろと言っているわけだ。

もちろん、佑自身が人狼である以上、そんなことをするはずがないことは、謙太や郁人、駿目線分かっていた。

佑は、自分を自分で白塗りしているのだ。

謙太は、昨日の話し合いの通りに、言った。

「乱暴な話だ。誰も人殺しなんかしたくないだろうが、死にたくもないだろう。中にはそれに同意する人狼も居るかもしれないが、全員がそんなに出来た人間だと期待するのは楽観的過ぎやしないか。逆に村人が危ないと思うぞ。」

鈴香も、同情したように佑を見た。

「私だってそうできたらどんなにいいかと思うわ。でも、人狼がどう考えてるのか分からない。だから謙太さんの言うように期待はせずに、真っ当に自分達のやり方で人狼を探すべきだと思うの。まず、役職者を募って、二人出たら人狼は戦うつもりだってことよ。だから私は、それを見て判断しようと思ってるわ。」

佑は、頭を抱えた。

「みんな襲撃が怖くないのかよ!今夜からなんだぞ!」

そう言って、頭を抱え込む。実際今夜、佑は襲撃を受ける予定なのだ…フェイクなのだが。しかし、頭を傷付けられるのは確かなので、そこは本当に怖いのかもしれない。

佑の叫びに、皆が困惑して黙りこんだ。

謙太も、合わせるべきなのでここは黙った。その可能性を考えているのか、誰も口を開かないまま重苦しい雰囲気の中で、ひたすらに時間が過ぎるのを待っていた。

すると、呑気なのか何なのか、やっと知美が降りて来た。

どんよりとした雰囲気に、自分も暗い様子で入ってきたのに、戸惑ったような顔をした。

鈴香が、場の空気に耐えられなかったのか、急いで知美に視線を送る。知美は鈴香に気付いて控えめに言った。

「あの…みんな何かあったんですか?」

それを聞いて、謙太は心の中でなんて危機感がないんだろうと呆れた。自分が人狼でなかったら、まず疑うレベルの呑気さだ。

それを見ただけで、謙太はもしかして…と思った。人狼に襲撃されない唯一の役職。狂信者でさえ白塗りのために殺されるかもしれない中、絶対に襲撃されないだろう役職が、この村にはある。

そう、猫又だった。

謙太達人狼が一番知りたいのは、占い師でも襲撃出来る狩人でもなく、この猫又なのだ。

カミングアウトしてくれたら助かるが、村がまず許さないだろう。だから探すしかないのだが、謙太の中で今、知美は猫又候補筆頭に上がったのだ。

まだ分からないが、しばらくはそういう目で知美をよく見ておこう、と謙太は思った。

その間も、涼香が知美に、皆が何を考えて暗くなっているのか説明していた。謙太が眉を寄せながらそれを聞き流していると、佑たすくが声を上げた。

「そんなもの!狩人自身が襲撃されたら終わりじゃないか!人狼陣営は4人で、村人は11人なんだ、人間陣営が勝った方が犠牲は少なく済むんだから、名乗り出てくれたらいいじゃないか!」

それを聞いた涼香は、肩で息をついて、佑に首を振って見せた。謙太は、佑がやり過ぎではないかと思ったが、黙って見ていた。

「そんなの、誰だって死にたくないに決まっているじゃないの。まして、ここで知り合いってほとんどいないでしょう?知り合いだったかもしれないけど、覚えている人は少ないんだもの、赤の他人のために、命を投げ出して助けてやろうなんて奇特な人は居ないわよ。」

佑は、キッと涼香を睨みつけた。

「じゃあ、君はどうしたらいいって言うんだ?変に落ち着いてるじゃないか。まるで自分は襲われることが無いって知っている、人狼か狂信者みたいな反応だな?」

皆の目が、息を飲んで一斉に涼香を見た。涼香は、それでも冷静に知美と共にソファへと座ると、言った。

「だったら言うわ。私は、共有者よ。私の相方には潜伏してもらうことにしているわ。万が一にも、私が襲撃されてもその人には全て私の得た情報は知らせておくつもりよ。他に、自分が共有者だという人が居るなら、出て来てくれたらいい。」

佑は、グッと黙った。

適当に黒塗り出来そうな所へ噛みついたようだったが、これは失敗だったな、と謙太は思った。共有者だから、涼香は落ち着いていたのだ。他の村人より、見える所があるからだ。

共有者の、相方だった。つまり、涼香にとって相方だけは自分の味方なので、信じる者が居る分、強気に出られるのだろう。

早速共有者が出て来たのは想定内だったが、そうしたら占い師はどこだ。

人狼陣営の四人が皆と反応を合わせながら見ていると、窓際に座っていた謙太には、廊下側からこちらへ入って来ようとしている、真代が見えた。どういう訳か、薄っすらと笑っていて気味が悪かった。

「へ~なら、味方なんだねー。私は、占い師だったの。だから、みんなを助けてあげられるわ。」

知美が口を押さえ、涼香がすっと眉を上げる。それが本当か嘘なのか、判別がつかないのだ。

だが、人狼からはこちら側でない以上、彼女が本物なのは筒抜けだった。だが、真代が普通の人の感覚なのかが未知数で、この掴みどころのない感じは、村人なのに勝手に占い師だとか言っている可能性もあった。

郁人は、その様子に腹が立ったのか、イライラとした様子を隠しもせずに言った。

「そいつは偽物だ!オレが占い師。人狼なのか狂信者なのか知らないけど、人狼もこんな奴を騙りに出して良かったの?」

村人達は、オロオロとあっちこっちを見ている。謙太は、段取り通りなので、特に驚きはしなかったのだが、それでも一応、皆に合わせて値踏みしているように真代と郁人を見比べた。

涼香が、じっと品定めするかのように二人の顔を見ていたが、フフと表情を緩めた。

「そう。人狼も戦う気だってことが、これで分かったわね。私達に正体を教えて自分達が犠牲になってはくれないみたいよ、佑さん。こうして間髪入れずに二人出て来たってことは、昨日のうちに人狼側は話し合って、誰が騙りに出るのか決めたはずだもの。そうでなければこんなにすぐには出て来れないわ。」と、ソファから立ち上がった。「あっちの丸テーブルに移りましょう。そうして、話し合いで今夜の投票対象を決めないといけないわ。人間は、負けるわけにはいかないんだから。」

ここからだな。

謙太は、ここは涼香に従っておこうと、皆と一緒に言われた通りに丸テーブルの方へと向かう。

涼香は、青色の手帳をポケットから出すと、開いてテーブルへと置いた。そして、ペンを片手に、皆を見回した。その様子が、なぜか謙太をイライラとさせた。共有者というだけで、何やら慇懃に見えたからだ。

「じゃあ、共有者である私が議論を進めさせてもらいます。みんな、それでいい?」

全員が、黙っている。涼香は、構わず続けた。

「私、人狼ゲームは好きでよく遊んでいたから、そこそこ得意なの。猫又入りの村は久しぶりなんだけど、がんばって考えるからよろしくお願いします。それで、もしかしてあまりこのゲームを知らない人が猫又になっていたらいけないから先に言うけど、猫又の人は、絶対に言わないで。吊られそうになったら、言って。猫又はね、人狼をその命で道連れに出来るとってもすごい役職なの。もし襲撃されても、絶対に勝って助けるって約束するから。だから、言わないで。」

やっぱりな。

謙太はそう思いながら、知美をそっと見ていた。体を強張らせたようだ…意識して見ていなければ、恐らく見逃しただろう。

そして、フルフルと小刻みに震え出したので、隣りの郁人が気付いて、声を掛けた。

「あれ?知美さん、大丈夫?そんなに緊張しなくても平気だよ。みんなおんなじなんだからさ。」

反対側の隣の、佑がチラと知美を見て、小さく鼻を鳴らした。

「人狼が自分を人狼だって知られたくなくて怯えてるようにも見えるけどな。」

知美は、びっくりして佑を見た。

「ち、違うわ!私は人狼なんかじゃない!ただ…あの、傷を、見てしまって。」

佑が、片眉を上げて知美に視線を向けた。

「傷?」

知美は、頷いた。

「ええ。目を覚まそうと思って、今朝シャワーを浴びたの。その時に、胸の真ん中に、薄っすらと、爪で引っ掻いたみたいな線があって。最初は何か分からなかったけど、触ってみたら硬くて…多分、これ縫った痕なんだろうなって。私手術も怪我もしたことないし、そうしたら、そこを誰かに切られたってことだから、これが原因で死んだのかなって、そんなことばかり頭に思い浮かんじゃって…。」

佑は、押し黙った。向こう側では、美久が青い顔をさらに白くして、今にも倒れそうだ。涼香が、慌てて美久を見た。

「美久さん?!大丈夫、真っ青よ。」

美久は、何度も頷きながら、胸を押さえて、下を向いたまま、絞り出すように言った。

「大丈夫…。わ、私も、胸に傷があったから…。」

知美は、それを聞いて美久を見た。

「え、美久さんも、同じ?」

美久は、知美の方を見なかった。

「ええ…同じかどうかは分からないけど、でも、傷があったの。びっくりして…覚えがないし…。」

涼香は、いたわるように頷いた。

「私も、あっちこっちに。」それを聞いて、皆が驚いたように涼香を見た。涼香は物怖じせずに皆を見回しながら、続けた。「手にも足にも、最初は服のシワが体についているのかと思ったわ。でも、首の所とかにも。昨日の浩二さんみたいなはっきりした傷じゃないけど、筋みたいな感じ。パッと見目立たないから、見逃しそうなほどよ。事故にでもあったのかもしれないわ。」

そう言いながらも、落ち着いている。そうして、サラサラの髪を持ち上げて、皆に首筋を見せた。

「ほら、ここよ。」

ちょうど頸動脈の辺りになるだろうか。そこを斜めに、薄っすらとそれこそよく見なければ分からないような、薄紅色の筋が一本、通っていたのだ。

「同じだわ。私と…!」

知美が言う。涼香は、髪を下ろして、頷いた。

「ええ。だから、あの男が言ったことは嘘ではないのよ、きっと。私達、何かがあって死んだんだわ。そして、助けられた。でも、このままじゃまた死んでしまう。どうしても、勝ち残って生きて帰らなきゃならないの。」と、グッとペンを握りしめた。「だから、話し合いましょう。人狼だって必死なのは分かってる。でも私達だって生きて帰りたいんだもの。意見を出して。まずは、占い結果を知りたいわ。」

謙太は、自分の体にも傷があるのは知っていた。それが、恐らく事故でついたものだとも。そして、なぜその事故に至ったのかの、その直前の事も…。

村の話し合いは続いていたが、謙太はチラと駿を見て、そうして険しい顔をしたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ