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見てみると、そこは入ろうと思えば入れるぐらいの大きさの通気口だった。
とはいえ、格子があるので、郁人がそれに手を掛けた。
「これ、取れるかな?」
ビスは見当たらない。
クイと上へと持ち上げて、斜めに倒してみると、あっさりと格子は外れた。
「あ、外れた。障子とか襖みたいなはめ込み式なんだなあ。」
謙太が、後ろからその、通気口の中へと懐中電灯を向けた。
「どうだ?」
懐中電灯に照らされたその通気口は、ずっと向こうの方へと続いていた。脇には、同じような格子があるのが見えるので、恐らくそれは、トイレだろうと思われた。
「やっぱり、トイレに繋がってるんだ。ということは、浩二の部屋もそうだってことだよね。」
郁人が言うのに、謙太が眉を寄せて言った。
「で、トイレが繋がってるってのが分かった上で、これをどう利用して霊能者が怪しいって思わせるんだ?もし霊能者が女子だったりしたら、男子の部屋にこもるかどうかもわからんしな。」
佑が、謙太をうるさそうに振り返って、言った。
「だから、そこは女子だったら女子の方が心配だから一緒の部屋に居た方がいいとか何とか、言いくるめて何とかするんだよ。そこはオレが何とかするから心配するな。で、確かにこれからどうするかだ。オレがトイレで襲撃されたことにするってことか?で、本当の襲撃はどうするんだ。」
郁人が、じっとまだ通気口の方へと目を向けていたが、言った。
「…その前にちょっと行って来る。実際、どんな風につながってるのか見て来るから、ここで待ってて。」
郁人は、そう言うと頭から通気口へと入った。肩幅が、どうしてもきつかったので対角線上に肩を斜めに入れて、そのままずるずると背を擦る形で進んで行く。
通気口に郁人が詰まっているような感じなので、こちらで見ている三人にはよく見えなかったが、郁人が通気口に到着して、その格子を外してみているのは、分かった。そうして、また格子をはめたのが見えた後、郁人はそのまま、またズルズルと体をこすり付けながら戻って来た。
やっと通気口から出て来た郁人に、佑が言った。
「どうだった?」
郁人は、通気口から出て、すぐにこちらの格子をはめながら、言った。
「…ちょっといろいろ思いついた。とにかく、部屋へ戻ろう。ここじゃ普通の大きさの声も出せないし面倒だから。」
残りの三人は顔を見合わせたが、同感だったのでその、暗いエリアから、一人一人、飛び降りて行ったのだった。
全員が降りて、謙太が蓋をまた元通りに閉じて、四人は部屋の中へと戻った。広い、一人には広すぎる部屋の、絨毯の上に直に全員で円を描いて座り込み、さっきからメモを取っていた紙を中心に置いて、顔を見合わせた。
「さて、で、郁人は何を考えついたんでぇ。さっきまでのことをまとめると、霊能者に下剤を盛って、トイレに籠らせて見張りに立っていた郁人と佑が外のトイレに行っても不自然じゃない状況を作る。で、そこで佑が襲撃されたと騒いで、みんなをあっちへ来させる。その後だ。襲撃するためには、みんながまた、部屋へ戻らなきゃならんだろう。その中で、遅れた最後尾の一人を襲撃するってのが、いいんじゃねぇか。野生動物の狩りと同じだな。」
郁人は、謙太を見た。
「オレもその通りだと思うよ。でも最後尾ったって、誰かに気遣われてたらその隙も無いから、みんなが余裕がないような状態で戻らなきゃ。慌てて焦って一斉に走り出すって感じ。」
駿が、難しい顔をした。
「そんないろいろなことを一度に満たす方法なんてあるか?みんなが佑が襲撃されたら集まって来るだろうが。誰かが残ってて、悲鳴でも上げてくれたら別だけどさ。」
佑が、ポンと手を打った。
「お、残ってるじゃないか。霊能者がトイレの中に!」
郁人は、頷いた。
「そうなんだ。で、思ったんだけど、どうにかして、トイレに籠った霊能者に叫ばせることは出来ないかな。」
謙太は、あぐらをかいて座ったままで、腕を組んだ。
「叫ばせるったって、人ひとり叫ぶほどのショックを与えなきゃ無理だろう?で、叫ばせたとして、どうするんでぇ?」
郁人は、図を描きながら言った。
「ええっと、まあどこの部屋になるかで変わるんだけど、浩二であれ佑であれ、トイレと通気口が繋がってる場所に籠るように場を持って行くんだよ。で、通気口に目が行くように考える。そこから、トイレに襲撃に行ったんじゃないかって思わせるわけさ。どうにかして、それが出来ないかな?」
佑が、唸った。
「そんな都合のいい方法あるのか。霊能者がびっくりして叫ぶほどで、天井に目が行くってさ。」
駿が、顎に手を置いた。
「…何か天井から落ちて来たら?」
謙太が、チラと駿を見た。
「そんなもん、仕込んでる時点でバレバレじゃねぇか。トイレに籠ってるんだから滞在時間長いし、絶対取り除かれるっての。そもそも叫んでほしい時に落ちて来ねぇといけねぇんだろうが。」
佑は、それこそ困ったように天井を仰いで、うーんっとわざとらしく唸った。
「分からんなー。天井から何か落ちて来た方がいいけど、それが時限装置付きって条件って。あの物置部屋には何か無かったのか、郁人?」
郁人は、目の前の図をじっと見つめて考え込んでいたが、言った。
「…物置部屋にはそんなもの無かったよ。というか、それぐらい自分で考えないとさあ。えっと、今何時?」
佑は、いきなり話題が変わったのでびっくりした顔をしたが、金時計を指さした。
「ほら、今夜中の二時過ぎだろ。だからなんだ?」
「ちょっと実験しようかと思ってさ。」と、立ち上がった。「ちょっと、キッチンに行って来る。待ってて、これが成功したらきっと、全部解決だと思うからさ。」
そう言うと、郁人はさっさと立ち上がって、そっと扉を開いて外を確認してから、そこを出て行った。
帰って来た郁人の手には、大きな氷がはみ出ている状態で入っていた。謙太が、呆れたように腰に手を当てて言った。
「はあ?どうすんだよそんなデカい氷、酒盛りか?」
佑も駿も、戸惑っている。郁人は、首を振った。
「なんだって酒盛りなんかするんだよ。違うって、これを使うの。で、ここに水を張って、その水位の変化の時間を計るんだ。」
謙太が、同じ姿勢のまま言った。
「はああ?なんでここに来て理科の実験するんだ?」
郁人は、ぷうと頬を膨らませると、軽く謙太を睨んだ。
「あのね、何も思いつかないのに文句ばっか言わないでよ。これを、天井の上に置いておくんだよ。で、ちょっと少な目に水を張っておくと、この氷が融けるにつれて、水位が上がって来る。そうして、満タンになったらどうなると思う?」
駿が、あ!という顔をした。
「水が溢れて来るんだ!で、天井の蓋の隙間から落ちて来るってことか?」
郁人は、得意げに頷いた。
「そう。正確には、天井のビスを外しておいて、その穴から確実に落ちて来るようするんだけど。これの良い所は、その落ちて来る水も半端なく冷たいってことだよ。氷の浸かってた水だからね。」
佑が、目を輝かせた。
「おお!それは凄いな!じゃあ、誰か知らんが霊能者がそこに籠ってたら、上から冷たい水が落ちて来て当たって、思わず叫ぶって寸法か!いいじゃないか、それで行こう!みんなの注目が天井に行くし一石二鳥だ!」
だが、郁人はふうとため息をついた。
「それはそうなんだけど、氷がどれぐらいの時間でどれぐらい溶けるのか分からないんだよね。だから、ここで一回実験しようと思ってね。早過ぎても遅過ぎても駄目だからさあ。こっちも、どれぐらいの時間でみんなが来て、騒いで、どれぐらいで戻るのがいいのか、計算してトレーに最初に入れる水の量を決めなきゃ。」
謙太は、腕を組んで何度も頷いた。
「よし、じゃあやろう。時間がねぇ、それを置ける時に置いて、その後の時間を考えて襲撃時間を決めることになるんだろう?何時間前になるか分からねぇし、どれぐらいでどれぐらいの水位が上がるのか調べるぞ!」
もう午前三時が近かったが、四人は眠気も忘れるほど集中した状態で、氷の水位の変化を調べ続けたのだった。




