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その男は、ウーンと盛大に伸びをして、目の前にあるたくさんのモニターに背を向けた。カメラに映り込まないように後ろに立っていた男が、言った。

「今日はよく話してやっていましたね。彰さんには珍しい。」

彰と呼ばれたその男は、椅子から立ち上がって頷いた。

「今回はこれまでとは毛色の違うことをさせるし、こちらも確認の意味でな。それにしても要、君が提案したこの方法で、果たして人狼陣営がヒトを殺せるのか疑問だな。これまでは襲撃相手をこちらが眠らせてやっていたし、他の者達を部屋へ閉じ込めていたから動きやすかっただろうが、今度の人狼は自分で何とかしなければならない。しかも、時間制限まであるのだ。殺せなければゲームセットで皆殺しと説明書きしてあるし、それなりに人狼は苦労するのではないか。」

要は、それを聞いてにやりと笑った。

「それはそれ。だからこそ、今回は狂人ではなく狂信者を紛れ込ませてあるのですからね。そろそろ飽きて来たというクライアントからそれなりの金額を引き出そうと思ったら、目新しいことが必要でしょう。思った通り今回参加したクライアントは多かったと聞きましたよ。」

彰は、少し面白くなさげな顔をしながらも、出口へ向かって歩き出す。要がそれに従うように歩き出し、数人の男達がモニターの前に並んで座って行く。彰は、そちらを振り返って立ち止まった。

「今回は勝手が違うから間違いは許されないぞ。よく監視しておけ。各自自分の担当の被験者から目を離すんじゃないぞ。朝の担当とは話をしてあるか?」

モニターの前に座った男のうちの一人が、頷いて答えた。

「はい。私は夜の2番を担当します。昼の2番担当はケインです。」

彰は、頷いた。

「そつなくやってくれ。今回はここまでかなりの手間暇をかけたのだからな。成功させたいと思っている。」

そして、要を見た。

「軽い食事だ、要。その後私は朝まで寝るぞ。君はどうする?」

要は、頷いた。

「そうだろうと思って、準備させておきました。こちらへ。」

要に従って歩き出した彰だったが、ふうと肩の力を抜いて、前を見て歩きながら、愚痴るように言った。

「…まったく…これまでのように普通の元気な検体なら、死体を盗み出すようなことをせずとも良かったのに。君の倫理観とはまったく困ったものだな。」

要は、困ったように顔をしかめてから、苦笑して言った。

「やはり、健康な者を傷つけてというのが少し、性に合わなくて。でも、皆問題のある人で何かあるかもと言ったのは間違いなかったでしょう?軒並み殺傷事件やらに巻き込まれていたじゃないですか。いちいち尾行して機会を待っていたからこそ、薬品投与が間に合ったのだし。」

「それでも事故の奴らは大変だったぞ?」彰は、歩きながらあくびをかみ殺して言った。「あれは予測不可能だからな。衛星で事故を発見して、ヘリで近くまで移動して現場へ急行して処置。ほとんどが間に合わなかったではないか。間に合ったのは事件の絡んだ予測のついた事故だけだった。金ばかり掛かって効率が悪いし、これからは事故の方はやめておこうと思っている。君もそのつもりでな。」

要は、仕方なく頷いた。

「はい。次があればですが。」

彰は、到着した部屋の扉を開きながら、それに答えた。

「まあこれ自体はおもしろい趣向だ。元は死体だと思ったら私もあれらのことを深く気遣うこともしなくていいと気持ちも楽だしな。」

それを聞いた要が、食堂らしきその部屋へと入って行きながら目を丸くした。

「え、彰さん今まで気遣ってたんですか?」

彰は、眉を寄せた。

「なに?私だってこれまで気遣っていたぞ。一応殺しはしないが被験者をしてくれているのだからな。強制的にではあるが。傷もほとんど残らないようにそれは綺麗に処置していただろうが。」

要は、そうだったのかと思いながらも、サンドイッチが乗っているテーブルへと彰と共に座る。彰は、先にトレーに乗ったコーヒーへと口をつけながら、要を見た。

「それより、明日の夜が勝負だな。人狼陣営がうまくやるのか、それで決まる。失敗するようなら、先へ進まないし全てが水の泡だ。…まあ、お手並み拝見と行こう。」

要は、険しい顔をして黙って頷いた。そう、全ては初めての試み。人間陣営は、特に実感もなく昼間の投票をして処刑する人を決めるだろう。そうして、目の前で人が死ぬのを見てやっと慌てるのだろう。だが人狼陣営は、果たして自分達が生き残るために、誰かを犠牲にすることが出来るのか…。

要は、彰と共に、それからは黙ってサンドイッチを食べながら考えに沈んだ。


挿絵(By みてみん)

知美は、皆と共に大きな階段を、恐る恐る上った。

最初女優が降りて来るような階段だと思ったものだが、今はただ得体のしれない場所の得体のしれない階段でしかない。

二階へ上がると、重厚な一枚扉が並ぶ大きな廊下が階段の両側にあるのが見えた。手近な扉を見ると、向かって左横に金色のプレートが付いていて、そこに部屋番号「201」と黒く書かれてあるのが目に入る。見るからに良い部屋のようだった。

「普通に旅行に来たならラッキーだと思うところだろうな。」

佑が、それを見て言う。郁人が、腕輪を上げて言った。

「それより、早く部屋に入ろうよ。オレ、13だから最後だよね?ここには201から208まであったはずだから、オレは208に行くよ?いい?」

郁人は疲れているのか見るからに眠そうだ。俊也が、首を傾げた。

「ええっと…いいんだよな?さっきの話だと番号順だから、201が2番、202が3番って感じだろう?この階は男だけなんだし。」

佑が、頷いて近くの扉へと歩み寄った。

「ああ、オレが2番だから201だ。他も順番にな。」

佑がその扉に手を掛けると、涼香が後ろからそれを呼び止めた。

「ちょっと待って佑さん、一応三階も見ておかなくていいの?」

佑は、振り返って顔をしかめた。

「後でいい。もう疲れた。飯も食って来たいし、気が向いたら見取り図を持って見て回るよ。部屋に入ったら明日まで自由行動にしよう。そっちも好きにやってくれ。」

佑は、言うだけ言うと、さっさと扉を開いて中へと入って行った。ちらと開いた扉の中が見えたが、かなりの広さがある部屋のようだ。

知美は、こんな時なのにまるで貴族が住むような部屋にドキドキと胸が高鳴るのを感じた。一度は、使ってみたいと思っていた設えの部屋だったからだ。

そんなことを思っている知美を背に、涼香は不満そうにフッと肩で息をつくと、後ろに居る女性たちを振り返った。

「じゃあ、私達は三階ね。行きましょう。」

知美を含めた涼香の他の四人は、頷く。そして、男性達がさっさと自分の部屋へと急ぐのを後目に、五人はさらに階段を上がって行った。


三階は、少し様相が違っていた。

二階では上がって階段の両側に広い廊下があったにも関わらず、三階は上がって右側に廊下、左側は別の部屋の扉と壁があった。

居室らしい方の右側の扉の横には、「301」の金色のプレートがある。二階よりは狭い感覚でプレートが並んでいるところを見ると、こちらは少し二階とは間取りが違うようだった。

「じゃあ、男性と一緒で番号順でいいかしら?」涼香が、金色のプレートを見ながら言った。「女性は別のやり方がいいって言うなら、そうしてもいいけど。」

日焼けした明るい雰囲気の女性…確か美久という名だったと思う…が、疲れた様子で言った。

「なんでもいいわ。とても疲れたから、今日は休みたいし。私は4番だから、ええっと、みんな何番?」

知美は、腕輪のある手を上げた。

「私は、1番。」

美久は、首を傾げた。

「ええっと、吉沢さん…だったっけ?」

知美は、慌てて頷いた。

「ええ、あの、知美って呼んでください。」

美久は、やっと少し微笑んで、頷いた。

「知美さん。私は、美久で。」

涼香が、割り込んだ。

「私のことも涼香って呼んでね。他の二人は、6番の畑田真代さんと、7番の芝田優子さんね?」

呼ばれた二人も驚いたようだったが、聞いていた知美と美久も驚いた。ほぼ初対面なのに、涼香はもう覚えているのか。

四人の反応を見て、涼香は肩をすくめた。

「人の顔と名前を覚えるのは、得意なの。というか、私、暗記が得意なんだ。こんな時だし、みんなもこれからいろいろ覚えておいた方がいいよ。もし覚えられないなら、メモを持っておいた方がいいわ。こんなことになって、この先どうなるか分からないから。で、みんな下の名前で呼んでいいのね?」

ハキハキと言い放つ涼香にドギマギしながら、知美が二人を見ると、真代の方がおっとりと答えた。

「ええ。真代って呼んで欲しいわ。友達もみんなそう呼んでいるの。」

育ちがいいというよりも、ぼんやりというか、熱で浮かされているというか、少し異常があってゆっくりしているような感じの子だった。隣りに立っていた優子が、そんな真代とは目を合わせないようにしながら、言った。

「私も、優子って呼んでください。あの、先に言って置きますけど、5番の松本康介って人、私、モニターの男に交際相手とか言われたんだけど、ぜんっぜん好みじゃなくて、でも見覚えはあるぐらいなの。みんなは、知ってる人居る?」

知美は、顔をしかめた。

「分からない。あのモニターの男は知ってる人が居るようなこと言ってたけど、私に男性の知り合いっていなかったと思うから、きっとこの中に居ると思うんだけど、何も思い出せなくて。逆に私を覚えてるって人、居る?」

涼香は、首を振った。

「私は知らないわね。覚えがあると感じるのは、美久さん。友達だったんじゃないかな。でも、ほら謙太さんと駿さんって人、結構はっきり覚えてたでしょ?あのレベルで思い出せるなら、私のは覚えがあるなあって感じるだけだから、気のせいなのかもしれないわ。あそこまではっきり思い出せるわけじゃないから。」

美久は、涼香に身を乗り出した。

「いいえ!きっと気のせいじゃないわ。私も涼香さんのこと、最初からどこかで見たかもって思っていたのよ。きっと消されてる記憶の中の人、あなたなんじゃないかなあ。」

涼香は、美久に微笑みかけた。

「本当?それならいいんだけど。早く思い出せたらいいわね。それで、部屋なんだけど。」と、目の前の301のプレートを見た。「やっぱり順番にしましょう。役職カードがあるとか言っていたし、後々ややこしいことになってもいけないから。301が知美さん、302が美久さん、303が真代さん、304が優子さん、305が私。それで行きましょう。」

他の三人が頷いていると、真代が弾むような足取りで、さっさと言われた303のプレートの方へと足を進めながら言った。

「じゃあ、私はここ。じゃあねー。」

「あ…、」

声を掛ける暇もないほど早く、真代は扉の向こうへと消えて行った。知美が戸惑って涼香を見ると、涼香は苦笑しながら言った。

「少し変わってるわね、あの子。重要な役職だったりしなきゃいいけど。」と、自分も一番奥の部屋へと足を進めて、言った。「じゃあ、また。用があったら部屋へ来てね。」

知美は、それに会釈と笑顔で答えて、自分は一番近い301の部屋の扉を、思い切って開いたのだった。

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