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その計画は、こうだった。

まず、恐らく皆は怖がって、一か所にまとまろうとするだろう。むしろ、それを勧めて皆で同じ部屋にこもり、アリバイを作る。

いくら何でも一晩中起きているのは無理だろう。

なので、交代で見張りに立つ提案をする。

そこで、佑と郁人が見張りに立つことにしようとなった。

一番殺しやすいのは、どこだろうという話になった時、個室がいいなあと郁人が言った。だが、誰かの部屋で死んでいたら、その誰かが疑われるし、廊下となると誰かの目についてしまうだろう。

「…トイレは?」佑が、言った。「ほら、端に四つトイレがあるだろう。あそこへ、誰か一人を押し込んで殺す。で、さっさと閉めて何食わぬ顔で帰るってのはどうだろう?」

謙太が、顔をしかめた。

「二人で出て行って一人帰って来なくて死んでたらお前が犯人だってなるだろうが。」

郁人が、二本指を立てた。

「じゃあ、二人で行くんだよ。で、佑が襲撃されたって騒ぐ。そうしたら、みんな絶対すっ飛んで来ると思うけどね。」

駿が、言った。

「でも、現場に一旦みんなを集めるのか?それに部屋にトイレがあるのに、どうやって外のトイレに?」

郁人が、ポケットをまさぐった。

「ええっとね、オレ、下剤持ってる。」と、小さなプラスティックの容器を、親指と人差し指で挟んで見せた。「ほら。何かに使えるかなって、ちょっとポケットに入れて来たんだけど。」

さすがの佑も、目を丸くした。

「え、そんなもんどこで見つけたんだよ。」

郁人は、ニッと笑った。

「下の物置き場だよ。鍵が有っただろ?みんな上に上がったのが見えたから、オレはさっさと鍵を持ってそっと下へ行って中を確認して来たんだ。ナイフも何本か有ったから、部屋に置いてる。後で渡すよ。」

佑が、感心して郁人を見た。

「お前、やること早いな。で、他に何か有ったか?」

郁人は、下剤の容器を置いて、答えた。

「いろいろ有ったよ。スタンガンとか斧とか刀みたいなのとか、とにかくありとあらゆるものが。真っ黒の繋ぎみたいな服もあったし、目だし帽とかロープとかも有ったし…そうそう、見るからに危険そうな薬の瓶と注射器も何本もあった。薬にはラベルはなくて、紐で荷物のタグみたいなのがぶら下がってた。そこに、劇薬で一本使いきり、体内に入ると瞬間的に意識を失い死亡するって書いてあった。ちなみにどこでも良いから動脈か静脈に打てってさ。そんなの、どうやったら分かるんだって思ったけど、要は血管狙って打つといいってことだよね。」

謙太は、顔をしかめる。

「暴れるだろうし大変だぞ?注射なんか慣れてねぇのに。誰かが押さえ込める時にそれを使うしかねぇな。どっちにしろ、今回の作戦には無理だ。」

佑は、息をついた。

「だな。じゃあ、その下剤だが郁人はどう使うつもりだ?」

郁人は、頷いた。

「誰かにトイレに籠ってもらうんだよ。そうしたら、外のトイレに行ってもおかしくはないだろ?パンか何かに…注射器で仕込んでさ。」

佑は、うんうんと頷いた。

「じゃあ、誰にする?オレがさりげなくそいつにそのパンを渡すよ。」

駿が、横から言った。

「霊能者がいい。」皆が駿を見る。駿は続けた。「明日出てくる真霊能者に、仕込んでほしい。そいつは、絶対オレが出るまでは真目を取ってるはずなんだ。誰も他に居ないんだからな。そいつがトイレに籠ってる間にいろいろあれば、そいつのアリバイだけその時ない。トイレに居たってだけだ。だからこそ佑達が外に出ていく事になったんだから、少しは疑われることになるんじゃないか。」

謙太は、うーんと顎に手をやって考えた。

「トイレに居たってことは、それだけで結構なアリバイになりそうなんだがなあ。他の人狼に襲撃させるために、ってことにするのか?それだけじゃ弱いかもしれん。」

郁人は、頷いた。

「そうだよね。みんな一緒だからこそ、居ない人は目立つんじゃないかな。だから居ない人は居なかったとなると、霊能者本人が何かしたんじゃないかって方向で見てみない事には。」

謙太が、立ち上がった。

「ちょっとトイレを見てくらあ。何か使えそうな物はないか考える。」

謙太がさっさとバスルームへ向かうのに、他の三人も急いで従った。

そこは、他の部屋と全く同じ形のバスルームのはずだった。郁人も駿も、佑も同じ形の部屋から来ていたので、恐らく他の部屋も同じだろうと思われた。

そこには、入って正面に洗面台があって、左にトイレ、右にバスタブという普通のユニットバスの造りだ。

「やっぱり窓はねぇなあ。」謙太が、コツコツとバスルームの壁を叩いた。「アクリルだな。人工大理石ってやつだ。」

上を見ると、換気扇のあるらしい場所があって、格子になっている所と、その隣りに蓋のような物があった。

「あれは?」

佑が言うと、郁人が答えた。

「天井裏とかに入るための場所だよね。メンテナンスのためじゃないかな。」

「上って何があるんだ?」

佑は、誰にともなく言う。謙太が、便器の蓋を開けて、便座に登った。

「…ここ、ビスで止まってる。手で開けるように頭に手が掛かるようになってるな。ちょっと開けてみよう。」

謙太は大きいので、余裕で手が届いた。すぐにくるくるとネジを回して、全てのネジを外し終えると、その蓋を持ち上げて、横へとずらした。

「開いた。」と、手を淵に掛けると、軽々と懸垂して、中を見た。「…真っ暗だぞ。確か部屋の懐中電灯があるとか言ってたな。持って来てくれないか。」

謙太が言うのに、駿が頷いてそこを出て行った。そして、すぐに戻って来て、言った。

「テレビモニターの横にあった。」

見ると、謙太はもう上に上がっていて、両足をブランと下へと垂らし、その淵へと腰かけていた。

「おう。こっちへ頼む。」

ヌッと伸びて来た謙太の手に、背伸びをして駿が懐中電灯を渡すと、謙太は、それを使ってキョロキョロと天井裏を見ているのが分かった。

「結構高さがあるな。中腰ぐらいならきっと立って歩けるぞ。」

謙太が言うと、それを見上げながら佑が言った。

「どこかに繋がっている感じか?」

謙太は、あちこち見ていたが、しばらく見てから、首を振った。

「いや…この部屋の上の天井だけだな。隣りの部屋の天井との間には壁がある。だが、通気口らしい物があるぞ。隣りの部屋の方へ伸びる穴と、ここは角部屋だから壁の開口部の格子が見える。結構ガッツリな格子だから外すのは無理そうだ。だが、隣の部屋に繋がってる方の通気口の格子は、弱そうだから行けそうだけどな。」

佑は、見上げたまま言った。

「隣りって、康介の部屋か?…行っても仕方ないしな。襲撃に役が立ちそうだってことぐらいか。そうだな…もっと、トイレに近い位置の方が良くないか?オレと浩二の部屋がトイレに近いんだが、一度オレの部屋の方のトイレの屋根裏も見てみよう。」

それを聞いて、謙太は頷いて、懐中電灯をポケットに入れると、ぴょんと飛び降りた。

皆がびっくりしたが、謙太は目の前の天井の端に手でぶら下がって、そして、床へと着地した。

「謙太は運動神経がいいんだな。」

佑が驚いたように言うと、謙太は答えた。

「鍛えてるだけだ。別に他と変わらねぇよ。それより、行こう。お前、先に廊下の様子を見てくれ。」

言われて、佑はそっと扉を開いて廊下の様子を見た。シンと静まり返っていて、誰も居ない。

「よし。」佑は言うと、皆を振り返った。「ちょっと先に行って扉を開けるから、誰も出て来ないのを確認してこっちへ来てくれ。」

謙太と駿、郁人は頷く。

佑は、それこそ付け焼刃の泥棒のように、コソコソといった様子で自分の部屋へと足音を忍ばせて走って行く。

だが、そんなにコソコソしなくても、床はふかふかの絨毯敷きなので余程力強く歩かない限り足音はしない。佑は、そんな滑稽な様子に見えているのを知らずに扉へと到着すると、扉を開いて、来い来いと必死に手を振った。

こちらで見ていた三人は、苦笑してなるべく急いでそちらへ向かった。

中へと急いで速足で入ったが、佑は音を立てないように扉を閉めて、ほーっと息をついた。

「みんな部屋に籠ってるのかな。静かなものだ。」

郁人が苦笑した。

「大丈夫だって。みんな疲れてるし寝てると思うよ?騒ぎさえしなければ大丈夫だよ。じゃあ、早くトイレを見てみよう。急いで環境を把握しないと、作戦が立てられないじゃないか。」

謙太が、横からさっさとバスルームの扉を開いた。

「お、全く一緒だな。じゃ、見てみよう。」

謙太は一度やっているので、スイスイと手際よく天井の蓋を外すと、上を覗いた。

「こっちは違うな。見るか?隣りの部屋へ通気口は同じだが、あっち側、恐らくトイレの方なんだが、そこにも通気口が開いてるのが見えるんだ。」

佑が、見上げて言った。

「え?トイレの方向なのか?ちょっとオレも見てみたいな。」

謙太は、顔をしかめたが、頷いて手を出した。

「引っ張り上げてやる。だが、静かにな。これだけ静かなんだ、通気口から声が漏れるかもしれねぇ。ほら、こっち。」

佑が便座の上に立って手を伸ばすのに、謙太はその手を掴んで引っ張り上げた。駿と郁人も、その後に続いて上がって来る。

全員が、謙太に引っ張り上げられなければ上がって来るのは難しかったが、もっと腕力があれば、懸垂して結構あっさり上がれるのだろうな、と思った。

「コツがあるんだ。」謙太は小さめの声で言った。「腕だけで上がるんじゃなく脚も使って。まあそれは今はいい。トイレの方への通気口ってのが、あれだ。」

謙太は、そちらへ懐中電灯を向けた。確かに、トイレがある方向へ開いている穴があって、その入口には格子がついていた。

「…取れるかな?」

郁人が、小さな声で言う。佑は、ポンと郁人の肩を叩いて、言った。

「試してみよう。」

そうして、四人は足元に気を付けながら、少し頭を屈めるような形で、その格子へと向かって行った。

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