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答えは出ない。

そのまま浩二の部屋から逃げるように出て行った三人は、それぞれが別々の方向へと散って、考え込んでいた。

それぞれが話し合うこともなく、それでも投票時間は刻一刻と近づいて来る。仕方なく一階へと降りて来たのだが、全員が自分の番号ではなく向き合った位置の椅子へと座り、ただ睨み合う状態だった。

俊也は、ただ黙って二人を見ている。康介と謙太は、同じように自分以外の二人を見ていた。

「…お前が人狼か。」

謙太が、俊也に言う。俊也は、これまでのおどおどした様子が嘘のように、鋭い目で謙太を見て、答えた。

「オレは人狼じゃない。」と、康介を見た。「お前が人狼だろ?謙太はどう見ても白い。昨日からの必死な様子を見ても、白いじゃないか。康介は同じグレーでも回りに合わせてる感じで、自分の意見って感じなかった。」

康介は、じーっと俊也を見ている。まるで、探るような感じだ。

「お前は人狼じゃないとしたら、狂信者か。そうだろ?狂信者なんだろ?」

俊也は、康介を見たまま答える。

「…だったらどうした。オレは人狼が知りたいんだ。お前だな?」

謙太は、眉を寄せた。そして、叫んだ。

「…お前、狂信者か?!」と、バンとテーブルを叩いて立ち上がった。「オレが人狼だ!」

それを見た康介が、首を振った。

「今更何を言ってる。オレが人狼だよ…謙太に入れてくれ!」

俊也は、とっくりと二人を見ると、言った。

「…確かに。どう見ても、謙太は人狼じゃない。じゃあ、オレは謙太に入れる。それで、いいな?」

康介は、ブンブンと頷いた。

「ああ!それでいい、謙太だ!」

『投票してください。』

いつもの声だ。

康介は、急いで入力している。

謙太は、もはや悟ったのか落ち着いて、自分の腕輪に番号を入力していた。俊也は、ここ数日間で見たこともないほど険しい顔をして、チラッと康介と謙太を見て、番号を入力した。

『投票が完了しました。』

皆が、サッとモニターを見る。


5(康介)→8(謙太)

8(謙太)→5(康介)

10(俊也)→5(康介)


「え…?」

康介が、呟く。機械的ないつもの女声が言った。

『№5が追放されます。』

「どういうことだ!」康介は、立ち上がって俊也を見た。「お前、狂信者じゃなかったのか!」

俊也は、フッと口元を歪めた。

「オレは真霊能者だ。始めから言ってるじゃないか…人狼は死ね。」

「ち、違う!待て…、」

康介は、皆まで言うまでもなく、その場にくずおれて床へと倒れた。俊也が、謙太を見て、微笑んだ。

「謙太、これで信じてもらえただろ?オレは、真霊能者なんだよ。」

すると、パッとモニターが切り替わり、声が響いた。

『おめでとうございます。人狼陣営の勝利です。』

謙太は、険しい顔をして、立ち上がった。俊也は、そんな謙太を見上げた。

「え…ちょっと待ってくれ、どういうことだ…?」

謙太は、口の端を歪めた。

「…お前な、ルールはちゃんと読め。人狼と狂信者はお互い知ってるんだよ。オレはお前が真霊能者だって知ってたし、康介が人間なのも知ってた。お前らが勝手に探り合ってたんでぇ。この村のは、狂人じゃねぇ。狂信者だっての。お前の魂胆は見え見えなんでぇ。」

俊也は、見る見る顔色を変えた。

「な…!ちょっと待ってくれ、じゃあ全部、演技だったのか…!」

そこまで言って、俊也はバッタリとテーブルへと突っ伏した。

二人の死体を前に、謙太はモニターを見上げた。モニターには、あの、最初に見た男が映ってこちらを見ていた。

「…で?終わりだろう。みんな返してくれるのか。」

モニターの男は、クックと笑って頷いた。

「いいだろう。だが、本来なら皆生き返らせて返すんだが、今回は勝手が違う。元々死んでた者達だからな。残念だが、人間陣営の者達には、死体置き場に帰ってもらうことになる。勝った人狼陣営の君達は自由だ…とはいえ、記憶の操作はさせてもらおう。一日待て。仲間をそこへ行かせよう。」

どこからともなく、防護服に身を包んだ者達がわらわらと入って来て、俊也と康介の二人を慣れたように運び出して行く。

謙太は、独りっきりになってしまったその居間で、ただむっつりと座って時間を過ごすよりなかった。

そして、ここ数日のことに思いを馳せた。




謙太は、部屋に人狼のカードが置いてあった時、絶望した。

ここの人狼は、本当に人を殺さなければならない。そうしなければ、ゲーム自体が無くなり、皆死ぬ。

そもそもは、自分達は死んでいたのだ。

謙太自身の記憶は、実は薄っすらとあった。

最後の記憶は、峠道をトラックで走っていたこと。抜け道にしている場所で、いつもの慣れた道だった。それなのに、なぜか手足がしびれるような気がして、その上眠気もようなものまで襲って来て、ぼうっとなって、必死にそれを振り払おうと、どこかに停める場所は無いかと目を凝らしていた…。

最後に見たのは、真っ青な空だった。

そこからの記憶は、一切無かった。

恐らく、その後死んだのだろう。

謙太が、人狼仲間と狂信者の部屋番号を見てじっと考え込んでいると、部屋の扉が、薄っすらと開いた。

「…謙太?入るぞ。」

201号室、佑の声。

謙太は、我に返って行った。

「ああ、いいぞ。」

佑は、駿と郁人と共に、部屋の中へと飛び込んで来た。駿は、同じ会社の営業だ。なので、柴野という苗字で呼ぶ方がしっくり来たが、それでもややこしいのを避けるため、下の名前で呼ぶように言われていた。

「なんだ、皆で。一か所に集まるのは、襲撃の夜になってからの方がいいんじゃねぇのか。」

佑が、首を振った。そして、小声で言った。

「今でないとダメだ。今ならみんな実感が無くて、おまけに襲撃のない夜だってんでぼっとしてるから。全員で話せるのなんか少なくなるぞ。で、方針を決めたいんだ。」

いきなりだった。謙太は、顔をしかめた。

「方針?誰が殺すかとかか?」

佑は、真剣だった。

「それもだが、どういうスタンスで行くかってことだ。」と、郁人を見た。「郁人が、得意だって言うんで占い師に出る。駿は潜伏させて、ここぞってところでCOさせるつもりだ。もちろん、霊能者にね。」

狂信者だからか。

謙太は、頷いた。

「そうか、分かった。じゃあ、オレは郁人側に着けばいいってことか?」

佑は、首を振った。

「その反対だ。オレが郁人につくから、お前は逆の方を頼む。もしオレ達が怪しまれても、お前が残るだろう。この村には13人しか居ないから、多くて6縄、猫又が死んだら5縄になる。うまく利用していけたらいいと思ってるんだ。」

謙太は、眉を寄せた。

「オレだけが吊られる可能性もあるってことだな。」

佑は、それにも頷いた。

「そうだ。だが、普通に考えて役職の方が怪しまれるから、危険なのはオレ達の方だ。お前はうまく潜伏して、占い師に占われないように立ち回ってくれ。少しオーバーなぐらい善人を演じるんだ。お前なら出来る…駿が言ってた。お前って頼まれたら嫌とは言えない良いヤツで、事業所の中でも嫌ってるヤツは居なかったって。そのままで行動したら、みんな信じるさ。」

謙太は、駿を見た。駿は、少しばつが悪そうな顔をした。

「いや、その、そうだったでしょ?ここでは謙太って呼ばせてもらうし偉そうに話すけど、先輩だったし。職種は違うけど。」

謙太は、息をついて、自信がなさげに首を振った。

「自分では分からねぇ。だが、このままでいいんならやってみる。で、明日だな。どうする?襲撃の方法を見てたんだが…。」

郁人が、側の椅子へと座りながら、肩をすくめて見せた。

「襲撃可能時間に入ったら、襲撃前に腕輪で番号を入力するんだよね?で、狩人に守られてたら、襲撃出来ないって出る。それでも襲撃したら、人狼の負け。だからその日は諦める。ってことは、襲撃出来そうな子が居たら、急いで入力して結果見て、さっさと殺すってことだよね。」

謙太は、息をついた。

「忙しねぇな。初日はみんな警戒するから、周到に計画した方がいい。誰かに疑惑を持って行くようにな。意見は割れるだろうが、その時の意見をお前らと違う方向にしたらいいってことか。」

郁人と、佑は頷いた。

「そういうことだ。じゃあ…ちょっと、今夜のうちに考えよう。寝るのは明日でもいいじゃないか。絶対明日はみんな疑心暗鬼だからな。みんな一緒に寝て監視し合うってことになりそうだろう?それで、どうなると思う?」

人狼陣営の四人は、そこから額を突き合わせて、じっと紙にいろいろと書き込みながら、その計画を練って行った。

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