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俊也も、そしてなぜか浩二までが真代に投票し、真代はあっさりとテーブルに突っ伏した。

土壇場になってもまだ何か叫んでいたが、誰も同情することもなく、これまでの処刑の中で一番冷ややかに見守られたものだったかもしれない。

後は、淡々と、儀式のように真代をシーツにくるんで、自室へと運び込んだ。

これで、女子は皆、居なくなってしまった。

「三階は死体だらけだ…二度と行きたくない。」

拓也が言う。謙太は、頷いた。

「もう行くこたないさ。だがこれで、人狼は殺れたか?…分からねぇ。後何人だ。」

焦っているような謙太は、遠慮なく他の拓也、康介、浩二、俊也を値踏みするように眺め回した。康介がその視線に居心地悪そうに体を揺すると、浩二をつついた。

「そうだ、お前、郁人に黒出されてるってのに。なんで真代さんに入れた。真代さんが黒ならお前も黒だってことだぞ?いいんだな?」

浩二は、寂しげに頬笑むと、頷いた。

「別に、それでいいさ。みんながやりたいようにやればいいかって、思ってる。だから真代さんに入れた。次はオレ吊りでも、別にいいよ。」

謙太が、イライラと浩二に向き直ると、まだ階段の途中なのに、その足場の悪い中で軽々と浩二の胸ぐらを掴んで引っ張り上げた。

「どっちだ?!お前、どっちなんだよ?!命が懸かってるんだぞ、いい加減にしろ!」

それを見た康介と拓也が、必死にそれを止めた。

「待て、謙太!気持ちは分かるが、お前の力で絞めたら死んじまうぞ!」

謙太は、ギリギリと歯ぎしりしていたが、浩二を階段の終わりに、投げ出すように放した。

「…すまねぇ。今夜は、オレかも知れねぇと思ったら、イライラしちまって。郁人と、佑があんな死にかたしたんだ。どうあっても、勝って生き返らせてやりたいと思うじゃねぇか…。」

それに、康介はしんみりとした顔をした。謙太は口は悪いが、最初から皆を気遣う男だった。次々に仲間が死んでいく事が、心にどんどんと重荷になっているのだろう。

浩二が、階段の下で尻餅をついたまま座り込んでいたが、それを見て、言った。

「…誰か、オレを殺してくれ。」皆が驚いて浩二を見る。浩二は続けた。「どうせ人狼は勝てない。知美さんを、オレは守れなかった。せめて打ち明けてくれていたら、オレだって努力したのに。もう、ダメだ。だから殺してくれ。」

知美が人狼だと言っているのだ。そして打ち明けてくれていたら、と…つまり、浩二は知らなかった。浩二は、村人ということになる。

「え…じゃあ、お前は村人か?!」

しかし、康介が謙太の肩に手を置いて、首を振った。

「人狼でもそう言う。投票先といい、こいつは油断ならない。今の時点では信じられないよ。」

謙太が、キッと顔を上げると、言った。

「今の時点では?お前、分かってるのか。今日一気に三人が居なくなった。この中に人狼が二人居たとオレは思っている。真代さんと知美さんだ。だから、昨日八人で終わって今日七人のはずが、六人スタートだったんでぇ。そして、今真代さんを吊った。五人だ。明日は、何人になる?」

康介が、謙太を見た。

「…明日は、四人になるのか!」

謙太が、何度も頷いた。

「そうだ。ということは、人狼が二人なら人狼が襲撃してゲームが終わりなのに、こうして何もアナウンスされねぇ。ということは、思ってる通り二人死んでて一人なのか、それとも狩人が生き残っていて護衛成功を起こすかもしれないから残されてるのか、どっちかってことだろう。」

拓也は、声を潜めて、言った。

「つまり…もし、謙太の考えが間違ってたら、人狼がここに二人居て、生き残っている狩人任せって事になってるってことか…?」

謙太は、厳しい顔で頷いた。

「そうだ。だから、もし狩人が居るなら、人狼ではない位置の二人のうち、一人を守れば当たる確率が高いって言っておこう。そうしたら、明日は五人スタート。縄が一本増えて二回チャンスが得られる。もし護衛成功が出たら、オレは明日、俊也を吊ることを提案する。」

俊也が、息を飲んだ。

「な、なんでオレがっ?!」

それには、康介が謙太と同じような顔で頷いた。

「そうなるわな。狂信者だったら、最終日勝てないから。人狼だったらラッキーだ。真代さんを人狼だと思ってる謙太なら、そう考えると思うよ。オレもそれでいいと思うがな。」

俊也は、必死に言った。

「オレは本当に霊能者なんだよ!なんで信じてもらえないんだ!」

康介が、肩をすくめた。

「真代さんと同じ結果だからだ。役職者は決め打ちするのは危険なんだ。ローラー出来る縄があるなら、ローラーしてしまう方が安全なんだよ。そもそも、お前なんで生きてるんだよ。他は殺されたり吊られたりしたのに。真なら駿が吊られた時点で襲撃されたっておかしくなかったんだ。それが、ここまで普通に生きてるんだから、縄が出来たら真っ先に処理したいと思うじゃないか。」

「処理って…!」

俊也は、絶句した。どうあっても信じてはもらえないと、分かったらしい。康介は、謙太を見た。

「で、護衛成功が出たらその流れだが、襲撃されたらどうする?」

謙太は、踵を返して、自分の部屋の方へと足を向けた。

「そんなもの、誰が襲撃されるかで分からねぇじゃねぇか。明日残った奴らを見て考える。いや、そもそももし二人ここに残ってたら、もう村にはそれで希望は無いんだ。ゲームは終わる。」

そう言い終えると、謙太はさっさと自分の部屋へと向かって歩いて行った。

残された康介は、浩二と拓也、俊也を見て、言った。

「さあ、お前達ももう部屋に籠った方がいい。この中に人狼が居るんだろうが、村人は襲撃されたくないだろうが。明日を待とう。」

拓也が、何かを考え込みながら、自分の部屋へと向かう。

康介は仕方なく、まだぼうっとしている浩二をせっついて、俊也を引っ張って、それぞれの部屋へと押し込み、そうしてやっと、自分の部屋へ戻ったのだった。


次の日の朝、金時計が六時を指した瞬間、謙太が204の部屋の扉を物凄い勢いで開いて出て来た。

バアンと大きな音を立てて開いた扉に、同じように時間を待って出て来た俊也と康介が、ギョッとしたような顔で謙太を見る。謙太は、鬼気迫る顔で言った。

「誰が死んだ?!それとも生きてるのか?!」

仁王立ちで言う謙太に、さすがの康介もしどろもどろになって言った。

「い、いや、まだ分からん。その、オレ達も今、出て来たばっかりだし。」

謙太は、それを聞いてずんずんと歩いて康介の隣りを抜けると、202号の扉をどんどんと叩いた。

「拓也!拓也、出て来い!」

答えを待つ事もなく、ガチャガチャとドアノブを回すと、スッと扉は開いた。

「おい!」

謙太は、中へと足を踏み入れて、そして、すぐに止まった。

康介が、困ったようにその後に続けた。

「まだ寝てるのか?」

そして、絶句した。

扉を開いたその真ん前に、拓也が血を流して倒れていたのだ。

目を見開いたまま、口から血を流して息絶えている。

胸の辺りの出血が酷いようで、その辺りが真っ赤だった。

「う、うわ…!」

俊也が、後ろから覗いて叫ぶ。謙太は、グッと眉を寄せると、くるりと回れ右して駆け出した。

「浩二は!」

浩二の部屋は205、あの、例の初日に皆で集まっていた部屋だった。康介と俊也もつられて走ると、謙太は今度は、扉を叩く事もなく、浩二の部屋のドアノブを回した。

しかし、ガチンと音がする。

鍵が、掛かっている。

「おい!浩二、寝てる場合じゃねぇ!出て来い!」

しかし、応答がない。

これほど外で騒いでいるし、それに今日は誰が襲撃されているのか、さすがの浩二も気になるはずなのだ。それなのに、出て来る様子がない。

「…鍵が掛かってるってことは、他に誰も入ってないってことだろう?熟睡してるとかじゃないのか。」

しかし謙太は、更に扉を叩いた。

「浩二!!起きろ!出て来い、お前を吊るぞ!浩二!」

俊也が、呟くように背後で言った。

「…もしかして、人狼だから出て来るのが嫌で籠ってるとか…?」

謙太は、二人を振り返った。

「ここを見張ってろ。下から鍵壊すような物無いか探して持ってくらあ。人狼だからって夜まで籠らせるかよ。」

謙太は、一階へと矢のような速さで降りて行った。

残った二人は、顔を見合わせた。謙太は、初日の頃とまるで様子が違う。勝ちを焦っているようだ…あれでは、勝てるものも勝てないだろう。

しかし、今の謙太に意見する勇気は、俊也にも康介にも、無かった。


数分して、謙太はバールのようなものを持って帰って来た。

「使用人居間のロッカーの中に工具箱があった!これを使おう。」

謙太が持つと、もうバールは凶器だった。俊也と康介が思わず道を空けると、謙太はバールを扉の隙間に突き刺して、そうして、グイグイと力を入れる。

ミシミシがギシギシになり、あっという間にバッキリという派手な音を立てて、扉の鍵の部分が、板ごと割れて散った。

中で籠っている方の立場だったら、さぞかし怖かっただろうな、と俊也も康介も思った。

「開いたぞ!」

もはやぶら下がっているだけの状態になったフラフラの扉を、ガバッと開いた謙太は、中へと飛び込んだ。

「浩二!隠れても無駄…、」

謙太は、また足を止めた。康介と俊也は、目を見開いて顔を見合わせると、まさか、と慌てて浩二の部屋へと飛び込んだ。

「どうした、まさか浩二が?!」

浩二は、ベッドできちんと横になっていた。

安らかに目を閉じていて、行儀よく眠っているように見える。

だが、その浩二の手は両手ともにしっかりと果物ナイフを握っていて、左の首にナイフはしっかりと刺さっていた。

血が大量に溢れたのか、ベッド脇と壁には大量の血液が飛び散っていて、それでも浩二の顔は、あくまでも安らかだった。

「…まさか、自殺…!?」

俊也が、フラッと後ろへふらついて、尻とテーブルへとぶつけた。振り返ると、そこには、メモ帳を切り取った切れ端が乗っていて、一言、『ごめん』と書いてあった。

俊也は、それを手に取った。

「こ、これ…!浩二が!」

康介が、寄って行ってそれを見た。謙太がむっつりと寄って来るのに、その紙を渡した。

「こいつは、いったい何だったんだ。郁人が真なら人狼だ。だが、真代さんが真なら人間だ。こいつは、知美さんを勝たせたいんだろう。違う陣営だったって考えたら、人間だったから死んだのか?それとも人狼だったから村の知美さんのために死んだ?」

謙太は、膨れっ面のまま、言った。

「…分からねぇ。だが、ゲームは終わってねぇ。こいつが死んだから続いたのか、それとも関係なく昨日から一人だったのか、全く分からねぇよ。普通のゲームなら自殺なんて出来ねぇもんな。だが…三人になっても、まだ続いてる。この中に、人狼が居るってことだ。」

謙太と、康介と俊也との三人は、じっとお互いを睨み合った。

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