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その、広い居間の両開きの扉を開こうとした時、その扉が開いて、真代が飛び出して来た。

「な…!なんだ?!」

康介が、ビックリして飛び退る。謙太は、一番前に居たので、真代を受け止めた。

「おおっと、なんでぇ?!何してやがる?!」

真代は、青い顔をして、震えながら謙太を見上げた。

「と、知美さんが…部屋に居なかったから、探しに来たの…。そしたら…。」

謙太は、眉を寄せた。

「どこでぇ?!」

真代は、震える指で、キッチンの扉を指した。謙太は、それを見て真代をぐいと避けると、物凄い勢いでキッチンへと走った。

それにつられて、他の男性達も謙太の後を追った。真代は、青い顔をしたまま、その場で立ち尽している。

キッチンの扉を開くと、そこは、真っ赤だった。

というか、どす黒いような、濁った赤だ。

「うえ…」

後ろで、拓也が口を押さえる。謙太は、その広がる生臭さに、美久が死んだ時のことを思い出していた。

床には、知美と、郁人が転がっていた。

二人共目をぼんやりと開いたまま、あらぬ方向を見ているような状態で、そこに倒れている。

二人とも血だらけだったが、左の首元から左横がずっと血にまみれていて、知美は首元もだが、顔や正面の方にも血がついていた。

もう、床の血も、誰の血液がどうなってこうなっているのかも、分からない状態だ。

謙太は、その辺にあったタオルで口元を覆いながら、側へと寄って、しゃがんで見た。

「…知美さんがナイフを持ってるな。郁人を殺しに来たのか…?どういうことだ?」

ビニール袋に吐いていた拓也が、こちらを向いた。

「なんで知美さんが郁人を殺すんだよ。猫又なんだろう?それに、人狼だったとしても死んでるじゃないか。意味が分からない。」

謙太は、振り返ってガクガクと震えている俊也と、康介、浩二を見た。

「これ…知美さんが郁人を殺しに来て、自分は佑の猫又の能力で死んだってことか?」

浩二は、悲し気な顔をした。

「…知美さん、人狼だったならオレに言ってくれたら良かったのに。なんだって、すぐにバレるような猫又COしたんだ。」

謙太は、浩二を睨んで首を振った。

「そんなこと言ってんじゃねぇ!村人なら勝つことを考えろ。お前、それとも人狼なのか?」

浩二は、力が抜けたような顔をして、謙太を見上げた。

「もうなんでもいい。オレは別にどっちでも。」

康介が、横から浩二の背を叩いた。

「しっかりしろ!まだどっちだったか分からないだろうが!もし真猫又だったら、お前が勝たなきゃこのまま永久に死んだままだぞ!」

「そうよ。」後ろから、いつの間にか来ていた、真代が言った。「知美さんは真猫又よ!だって…佑さんが黒で、知美さんが白だったんだもの!きっと、知美さんは襲撃されて、郁人さんがその能力で死んだのよ!郁人さんは黒!そうに決まってるわ!」

すると、俊也が泣きそうな顔をして、言った。

「また真代さん側だとか言われるかもしれないけど、昨日結果、佑は黒だった。だから、オレも真代さんが言ってる通りだと思う…。」

真代が、身を乗り出した。

「ほら!佑さんが黒だった!猫又じゃないんだわ!」

謙太は、顔をしかめて康介と視線を合わせた。これでは、分からない。真代と俊也が同陣営らしいことは分かったが、しかし…。

「…だったら、人狼からは猫又が見えてたはずだろう。なのに、なんでわざわざ知美さんを襲撃したんだ?お前らが言う通りなら、佑で一狼吊れてるわけだから、昨夜の時点で後二狼だったわけだろう。なのに、人狼の郁人は猫又だと分かってる知美さんを襲撃したってのか?おかしかねぇか。人狼が勝てねぇじゃねぇか。」

康介は、頷いた。

「だな。どう考えてもおかしい。だが、今残ってるのが六人、だがゲームが終わってないところを見ると、どこかで一狼は絶対吊れてることになる。申し訳ないが、今の段階で俊也ももう信じられないな。やっぱり駿を吊った後、こいつも吊っときゃよかったんだよ。後で悩まずに済んだのに。どちらにしろ、まだ生きてるのが不自然なんだから、真代さんと俊也、どっちか吊るべきだな。郁人の死因が分からない。」

浩二が、茫然と知美の遺体を見つめている。

謙太は、それを見て、もう一度知美に目をやった。そして、険しい顔をした。

「…真代さんがそうこじつけたいのは分かる。だが、見てみろ。郁人は血を浴びてない。知美さんは正面から血を浴びてる。おまけにナイフを握ってる。どう考えても、知美さんが襲撃して返り血を浴びて、郁人が倒れて、知美さんは襲撃が終わった後、佑の猫又の能力で死んだと見るのが自然だろう。他の誰かだったら大変だったが、人狼で良かったとオレは思う。」

真代は、謙太を、まるで狂っているかのような目で見上げて、叫んだ。

「違う!さてはあなたが人狼なのね!俊也さんは占って白だって知ったわ。だから違う。私から見たら、あなたか拓也さん、康介さんが怪しい!浩二さんは郁人さんの黒だから、白なの!」

謙太は、その真代の目を、蔑むように見た。

「ああそうかい。あんたが真占い師だなんてオレは信じてねぇからな。郁人が死んだんでぇ。猫又だって言ってた自称白の知美さんに刺されてな。オレから見たら、知美さんと示し合わせて郁人を殺して、今日人狼を過半数にするつもりだったんじゃねぇかと思えて来るんでぇ。そうしたら、佑が真猫又だって知れてもいいじゃねぇか。だって、そこで人狼が過半数で終わるんだもんよ。だが、計算が狂ったな。お前達は賭けに負けた。人狼が死んだから。それでも、オレも今、絶望を感じてるんだ…もし本当にオレが思ってる通りで、俊也が狂信者だったら、潜伏してる人狼がいるならそれと、真代さん合わせて人狼陣営が三人。半PP、つまり半パワープレイだ。投票の時票を合わせて来て、村人を殺すつもりじゃねぇかって。オレはその手には乗らねぇぞ。ま、潜伏人狼が居たらってことだがな。」

俊也が、ブンブンと首を振った。

「オレは真だよ!本当に真霊能者なんだ!票を合わせたりなんかしない、きちんと自分で考えるよ!」

謙太は、チラと俊也を見た。

「…ほんとだな?じゃあお前、オレに票を預けられるか。まあ、そんなことしなくても、真代さんとお前の二択にしたら、どっちにしろ人狼陣営だ。お前が狂信者だったら吊られることになるんだろうな。気の毒なこった。」

俊也は、顔を赤くした。どうあっても、自分の白を信じさせるのが難しいと感じているらしい。

「…なんだって人狼はこんなことをしたんだよ!」俊也が、叫んだ。「オレは真なのに!オレを代わりに吊らせるためか?!真代さんは何なんだよ…結果は同じだけど、仲間を切った人狼か?!ほんとに分からないんだよ!」

康介が、ふんと小さく鼻を鳴らした。

「…焦ってる狂信者か人狼に見えるよな。土壇場でヤバイから仲間を切ろうとしてるみたいだ。でも、もう遅い。自分の真を取りたかったら、こうなってるのを見た時に予め用意してた黒結果でなく、白だって言って切ってたほうが良かったんだよ。もう、何も信じられない。役職者は、みんな死んじまったんだ。」

拓也が悲壮な顔をしている。浩二は相変わらず心ここに有らずだ。

謙太が、憮然としたまま、呟くように言った。

「…シーツを持って来よう。その上に乗せて運ぶんだ。ここに転がしとく訳にゃいかねぇ。」

それぞれがバラバラに頷き、知美と郁人の二人は部屋へと運び出された。

その後、皆でキッチンを掃除したが、終始無言のまま、お互いに対する憎悪と猜疑心で、場はずっとピリピリしたままだった。


その日の投票も、5時だった。

それでも直前まで、誰も集まる事はなく、4時を過ぎてやっとパラパラとテーブルに着き始めた。

誰よりも早く来て待っていた真代は、皆が揃うや否や、堰を切ったように話し始めた。

「あと、人狼は一人なのよ!だから、私が占って知った白の俊也さんと郁人さんの黒の浩二さん以外、拓也さん、謙太さん、康介さんの中から吊る事を提案します!明日は吊られなかった人から占うわ!それで残りの人狼も吊れて、村は勝つの!」

皆が皆、黙ったままだった。しらけた雰囲気から、誰も真代の言うことを信じていないことがわかる。

謙太が、重い口を開いた。

「…だから役職者がなんで生きてるのか聞きたいね。俊也はともかく、占い師のあんたがなんだってのうのうと生きてやがるんだ。そんな単純なことなのか。それで村が勝つなんて言われても、オレ達にゃ信じられねぇんだよ。なんで郁人が殺されてあんたが生きてる。そもそも占い先だって最初からおかしかった。知美さんを占う日じゃなかったのに占って、仲間だから囲ったんじゃねぇかって今になって思うじゃねぇか。あんたは真占い師の動きをしてねぇんだよ。」

真代は、テーブルの下で椅子に座ったまま地団駄踏んで首を振った。

「だから!あの子が白だって皆に知らせたかったから!そうしたら、吊られないでしょう?村人の友達を守りたいと思って何が悪いの!」

拓也が、それに突っ込んだ。

「だからオレ達には人狼を殺されたくない人狼に見えるんだってば。そう聴こえるんだ。真代さん、自分が白い要素を言ってみてくれないか?」

真代は、うんざりしたように頭を抱えた。

「そんなの、占い師だからに決まってるじゃない!どうして分かってくれないの、後少しで勝てるのに!みんな黒に見えて来た…。」

謙太、康介、拓也の三人は顔を見合せた。浩二は相変わらずぼうっと座っている。俊也は、びくびくと議論の進むのを見ているだけだ。恐らく自分が吊られる流れになるのを防ぎたいので、なるべく目立たないようにしているつもりなのだろう。

謙太が、真代を見た。

「あんたは疑われてるんだ。もっと真剣に考えて納得させてくれなきゃ今日はあんたに票を入れる。浩二を占ってないのに外す理由はなんだ?あんた目線、占ってねぇんだから黒かもしれないだろう。郁人が人狼なら黒囲いしたのかもしれねぇぞ?そういう考え方はしねぇのか。」

真代は、それこそ鬱陶しそうに、チラと浩二を見ると、言った。

「ああ、黒囲い?だったら私なんか吊ってる場合じゃないじゃないの。浩二さんを吊ればいいでしょ?あなた達がそう思うなら。私は占い師よ。吊るなんておかしいわ!」

浩二は、そんな風に言われているのに反応もしない。

康介が、渋い顔をした。

「…こりゃダメだ。自分以外なら村人かも知れなくてもいいのかよ。そんな乱暴な話はないじゃないか…真占い師が言うことじゃない。」

拓也は、肩を落とした。

「残念だ。もしかしてもう村勝ち直前なら、どんなに気が楽か。思わず真代さん真置きして楽になりたいとか思っちまうところだった。」

謙太が、真代を睨みながら言った。

「あんたが皆を殺す手助けして村を騙してたのか。どう考えても、殺された占い師の対抗は黒いんだよ。浩二だってオレ達から見たら黒い。だが、それは明日からの話だ。今日はハッキリ分かってるところからだ。」

パッと、モニターが点灯した。

『投票10分前です。』

皆が、無言で腕輪へと視線を落とした。真代が、それを見て立ち上がって叫んだ。

「違うの!私は人狼じゃないわ!郁人さんが人狼で知美さんを襲撃したから死んだの!私を殺してもダメよ!」

皆、何も言わない。俊也でさえ、ぶるぶると震えながらも、口を開いた真一文字に引き結んで腕輪を見つめていた。

「…浩二、入力するんだぞ。これ。ちゃんと考えて入れろよ。」

浩二は、仕方なく重い腕を上げて、テーブルへと乗せた。

「ちょっと待って!浩二さん、あなたには分かるわよね?私は占い師よ!あなた郁人さんに黒打たれたじゃないの!俊也さん、あなたが真霊能者だって私は知ってるわ!私は占い師なの!」

だが、誰も答えない。

そうして、投票は始まったのだった。



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