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三日目の今日の投票は、昨日より三時間も早い、午後5時だった。

時計を見ても、もうあと二時間しかない。

分かっていたのだが、さっきの謙太との会話を考えても、知美は部屋から出る気持ちになれなかった。

誰も、信じられないのだ。

すると、部屋の扉が叩かれる音がした。

「知美さん?ちょっと来てほしいの。みんな来てるわ。」

真代の声だ。

知美は、何事かと扉を開けた。

「みんな?いったいどうしたの?」

見たところ、廊下には誰も居ない。真代は、真剣な表情で言った。

「涼香さんの部屋。どうして涼香さんがあの時間に外へ出てたのか、調べようと思って。」

知美は、それを忘れていた。確かにその疑問は残っている。涼香ほど慎重な子が、なぜ襲撃時間に外へ出たんだろう。

「何か見つけた?」

真代は、開いたままの305号室の扉から入って行きながら、頷いた。

「ええ。とにかく聞いて。」

知美が真代について部屋へと入って行くと、本当に皆が揃って部屋の中で立っていた。ベッドには、シーツがすっぽりと掛けられた涼香の遺体がそのままになっている。しかし、腕だけがだらりと外に出ていた。拓也が言った。

「ああ、来たんだな。」と、くるくると回る、知美の部屋にもある金時計を指した。「これなんだよ。」

知美は、その時計を見た。

特になんの変哲もない、普通の時計だった。

「…私の部屋にもあるけど。」

謙太が、首を振った。

「違う、時間だ。今何時だ?」

知美は、金時計を見つめた。

4時、を少し回った辺りを指していた。

「え…」知美は、自分の腕の、時計機能もある腕輪を見た。「まだ3時を過ぎたばかりなのにっ?」

拓也が、頷いた。

「そうなんだよ。時間が、一時間進んでるんだ。で、」と、ベッドの涼香に歩み寄った。「こっちもなんだ。」

知美は、恐る恐る寄って行き、それを確認した。

確かに、その時計はもう、4時過ぎを表示していた。

「どういうこと…?」

康介が、少しイライラしたように答えた。

「だから涼香さんにとって、あの時間はもう襲撃時間を過ぎていたんだ。だから出て来た…それで、襲撃されたんだ。」

知美は、首を振った。

「そういうことじゃないのよ、それぐらい私にも分かるわ。そうでなくて、まだ点灯してないはずよね?廊下は暗かったはずだわ。おかしいと気付いたら出ないでしょう?それに、腕輪の時計なんか腕から外れないのに、どうやって進めたの?自分でやるはずないよね。」

皆が顔を見合せる。謙太が、口を開いた。

「そうなんだ。今話してたんだが、誰かにそそのかされたんじゃないかって。ここの時計は、部屋はそもそも鍵を持ってねぇから、自分が出たら空きっぱなしだ。居ない間に侵入してさっさと変えればいいが、腕輪はそうはいかねぇ。だから、何かの理由で自分で変えたんじゃねぇかって。信頼してる奴が時間を間違ってるとか言ったとしたら、やるだろう。廊下の暗さもだ。何かの手違いで着いてない、って人狼の連中が言ったとしたら?その中に涼香さんが白いと思っていた奴が居たなら、信じるじゃねぇか。」

そうかしら…。

知美は、違和感を覚えた。確かにそれしか考えられないが、あれほど慎重だった涼香が、そんなに簡単に変えるだろうか。

だが、涼香が死んでしまった今、真実は人狼しか知り得なかった。

真代が、言った。

「つまり、人狼は消灯前から誰を襲撃するか決めていて、入念な準備をしていたってことね。ほんとに相手は本気なのよ…気を入れてかからなきゃ。」

佑が、チラと真代を嫌味っぽく見た。

「自分を白くしようとして言ってるんだろうが、オレから見たら君は偽だからな。大した役者だよ。」

真代は、佑を睨みつけた。

「あなたが涼香さんを殺した!美久さんも!分かってるんだからね!」

謙太が、うんざりしたような顔をした。

「もういい。ここで言い合っても仕方ない。これを見た上で、どうするかだ。投票時間は迫ってるし、今日の方針だけ決めよう。霊能ローラーを続けるのか、占い師の決め打ちをするのか、黒のどちらかを吊るのか、それともグレーから吊るのか。ちなみに、今のグレーはオレと康介だ。どうしたい。」

言われて、知美は考えた。自分は、黒を吊りたい。もしかしたら、この様子だと佑が吊れるかもしれないのだ。だったら、佑を吊って、翌日死体が二つ出ないのだから、偽だと分かるだろう。その方がいい。

知美が口を開こうとすると、佑が言った。

「オレを吊れ!疑ってるんだろう。オレを吊ったら、明日になったらどっちが真占い師か分かる。猫又が一番よく分かるんだ、霊能者が真であろうが無かろうが、オレが死ねば誰か死ぬ。それで判断してくれたらいい!」

知美は、絶句した。

佑は、絶対に猫又ではないのだ。だから、自分が吊られたら誰も死なず、それがバレるのを知っているはずだ。そうなった時、自分に黒を出した真代の対抗になる郁人が疑われて、同じように吊られるのを、知っているはずなのだ。

「私が猫又なのに!あなたが死んでも、誰も死なないわ!」

佑は、知美を睨んだ。

「だったら、君目線オレは人狼なんだから、吊ってもいいだろうが。心配しなくても決まりで人狼は一人ずつしか殺せない。襲撃で二人死ぬなんてことはない…人狼がルール違反で負けになるから。二人の犠牲が出る時は、このゲームでは猫又が死んだ時だけだ。オレは、それをみんなに証明する。この命を懸けてな。」

知美は、返す言葉が無かった。

自分が何も知らなければ、佑は間違いなく真猫又に見えただろう。恐らく、ここに居る皆がそう思ったはずだ。

皆の視線が知美に疑惑の雰囲気を作って向けられていたが、その中で、真代が言った。

「だったら、証明してもらおうじゃないの。あなたが真猫又だって言うんならね。私は、何を言ってもあなたが人狼だって知ってる。今更そんなに真目を取りに行っても遅いわ。どう考えても、あなたは怪しい。初日の事にしても、あなたが殺して俊也さんに擦り付けようとしてたなら説明がつく。それに、郁人さんが加担していたのも私目線からは見える。死んでもらうわ。」

皆が、黙っている。知美としても、佑が人狼なのだから死んでもらえるのならそれに越したことは無いが、どうしてこんなにスッキリしないのだろう。どうして、佑は人狼が不利になるのが分かるのに、自分から吊られに行こうとするんだろう。

考えても、分からなかった。皆が言葉も出ずに混乱している中、謙太が静かに言った。

「…分かった。明日、死体が二つ出たら、真代さんも知美さんも吊ろう。そうなると、俊也もそっちの陣営って事になるな。その代わり、死体が一つだったら郁人を吊って、潜伏している人狼を何としても探し出す。真代さんが占えば、すぐ分かるだろう。それで、みんないいな?霊能者も占い師も信じられない中、縄を何かに消費するなら確かにこれが一番効率的だ。」

浩二は、郁人に黒を出されているので真代が真占い師だと思っているようで、すんなり頷いた。康介と拓也は、回りの皆の反応を見ながら、渋々といった感じで頷く。知美も、それに従うよりなかった。それが、村の総意なのだ。

だが、知美には佑が何を考えてそんなことを言い出したのか、本当に分からなかった。

佑本人はと言えば、悟ったような顔をして、もはや落ち着いて涼香の部屋を、真っ先に出て行ったのだった。


そうして、その日の投票では、佑が暴れることもなく、ただ一人真代に投票してあっさりと目の前のテーブルに突っ伏して、吊られて行った。

覚悟の上だったので、佑は先に目を閉じていて、これまでの者達のように、目を見開いたままではなく、ただ眠っているだけのような様子だった。

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