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目ぼしい意見も出ないまま、夕方近くなって皆それぞれに夕食を摂ろうと席を立ち上がってキッチンへと向かって行った。

知美は、やはり佑が居るキッチンへは入って行けず、しかし涼香に変に勘繰られてはいけないので佑が出るのを待ってからキッチンへと向かった。

そこにはまだ、康介と浩二、謙太と拓也が残っていて、蓋をしたカップラーメンを前に何やら話しているところだった。

謙太が、知美に気付いてこちらを見た。

「知美さんか。ずっと座ってて何も食べないのかと思ったんだが、来たんだな。思いつめちゃ駄目だぞ。昼も食べたか?一人でじっと動かなかっただろうが。」

知美は、見られていたんだと驚いた。そう、今はみんな、回りの動きに敏感になっているのだ。知美一人がじっと座っていたら、それは目につくだろう。

知美は、頷いて答えた。

「お昼もちゃんと食べたよ。いろいろ考えたら全然わからなくて、でもみんなは分かって来てるみたいだし、焦ってたの。ここにいっぱい人が居たら、誰が人狼なんだろうとか考えたら怖くて。つい、人が少なくなってから来ようって思っちゃったんだ。」

それには、拓也が神妙な顔をして頷いた。

「まあな。村人からしたら、誰が誰だかさっぱりだから。オレ達だってこうして話してるが、この中にも人狼が居るんだろうかとか考えたらうすら寒いよ。だから、女子にはもっとだろう。今のところ死んでるのは女子ばっかりだしな。今夜のこととか考えたらそれは怖いだろうな。」

知美は、下を向いた。村のためと言うのなら、自分が襲撃されるのが一番なのだ。でも、人狼はまだ猫又が潜伏しているのを知っているだろう。だから、得体のしれない知美を簡単には襲撃できないと思われた。

「でも…二人のうち、どっちなんだろうって思って。駿さんと、俊也さん。どっちも同じだけ白いし黒いわ。もう、私も涼香さんに合わせて票を入れようと思っているんだけど。」

それには、謙太と康介、浩二、拓也も顔を見合わせた。どうやら、この四人も悩んでいるらしい。

拓也が、言った。

「そうだな。明日のことを考えて入れた方がいいと思うんだ。もし間違った方に投票していたら、絶対あの涼香さんのことだから、どうしてそっちへ入れたんだと責めると思うんだよね。だから、君みたいに分からないなら涼香さんに合わせておくのが一番いいんだろうけど。オレはまだ悩んでる。でも、ここに居る他の三人は涼香さんに票を預けてるから、そんな悩みは無いみたいだ。」

謙太が、腕組したまま頷いた。

「その点は楽だが、それでも間違った判断をされないことを祈ってらぁ。共有は村人だが何も見えてないからな。情報だってオレ達と同じぐらいしかないはずで、その上での判断だから間違ってもおかしくない。いや、むしろ間違えると思った方がいい。結構涼香さんは感情で考える感じだしな。村人だと信じられても、その判断まで信じられるかというとそうじゃねぇ。」

それには、拓也も康介も浩二も黙って頷いた。みんな同じような感想を持っているのだろう。知美ですら、美久が殺された後の涼香の様子には辟易したものだ。こちらを猜疑心に溢れた目で見て来るのにも、精神的に耐えられなくて、どうしても遠ざけてしまう。今夜は一人一人自分の部屋にこもった方がと涼香は言っていたが、知美にはそれが有り難かった。一晩中、あれこれ聞かれて勘ぐられながら過ごすなど、耐えられないからだ。

拓也が、表情を緩めて言った。

「さ、悩んでても仕方がない。飯でも食って、投票時間まで部屋へ帰るといいよ。オレ達もそうするかって言ってたところだ。今日は一日中疲れた…夜中にあんなことがあったし。休んだ方がいい。」

知美はそう言われて、冷蔵庫からサンドイッチを取り出すと、それを持ってキッチンの扉へと向かった。

出る時に少し振り返ると、四人が恐らくは伸びてしまっただろうカップラーメンの蓋を開いて、食べようとしているところだった。その様子は、どう見ても誰一人として人狼ではなかった。あれだけ軋轢を感じていた浩二にすら、そうだった。

知美はため息をついて、三階の自分の部屋へと向かったのだった。


部屋に帰っても、誰も訪ねては来なかった。

仕方なく昨日の夜のまま物が散乱している部屋を片付けて、運び込まれていたソファなどを、一人で元の位置へ戻すのは無理なので、せめて整えた。

ゴミを袋へまとめていれて入口近くへと転がしてから、知美はホッと机の前の椅子へと座った。本当に、一日が長い…もう、何日もここで過ごしているような気がするほどだ。最初は皆で生き残ろうと軽い気持ちで友達ゴッコのように女性だけで楽しんでいる感じだったが、そんな女性の中にも人狼は居るかもしれないのだ。

知美は、自分と涼香は確かに村陣営だと知っていた。涼香は美久が仲間だと知っていた。優子はどうだったのだろう…白とは言っても、狂信者ではないとは言えない。そして、真代は何を知っているのだろう。

そう思うと、昨日女性みんなでここで集まって過ごしていたのが嘘のようだった。もうそんな風には絶対に過ごせそうにない…意識が完全に変わってしまっている。

サンドイッチを形ばかりに口へと運びながら、知美はどうしたら佑が偽物だと村に思わせることが出来るのかと考えた。カミングアウトし損ねた自分が、皆に信じてもらえる時期はとっくに過ぎてしまっていた。だが、COしないままで佑が偽だと言っても、恐らくは怪しまれるだけで信じてはもらえないだろう。全ては、迷ったせいで。一瞬の迷いだったのに…。

知美は、後悔していた。あの時は、自分の保身ばかりを考えて、村のことなど何も考えていなかった。そのせいで、村を窮地に落としてしまったのかもしれない…。

そんなことを考えながらも、朝からの疲れもあってか、知美はいつの間にかウトウトと寝入ってしまったのだった。


トントンという物音で、知美は目を覚ました。

辺りはもう真っ暗だ…慌てて起き上がって照明を着けると、またトントンという音がした。

誰かが扉を叩いているのだと気付くのに時間の掛かった知美は、急いで言った。

「はい!」

すると、涼香の鋭いイライラしたような声が聞こえた。

「知美さん、投票しないつもり?もうみんな下で座ってるのよ!投票するなら早くして、私までルール違反になるじゃないの!」

知美は、金時計を見た。

…7時50分。投票、10分前だ。

「ごめんなさい!」

知美は、扉を開いて廊下へ飛び出した。

面食らったような涼香は、胸を押さえた。

「ちょっと、驚くじゃないの!とにかく、急いで!」

涼香は、階段へと走ってかけ降りて行く。

知美も、髪も寝癖のまま必死にそれを追った。

リビングダイニングへと駆け込むと、皆が心配そうにこちらを見ていた。知美は、自分の椅子へと走りながら言った。

「ごめんなさい!すっかり寝込んでて…涼香さんが来てくれて目が覚めたの!」

佑が、呆れたように言った。

「よく寝てられるな。こっちは頭の傷が痛くてそれどころじゃないってのに。」

謙太が、それを諌めた。

「まあまあ、みんな一眠りして来たんだ。疲れてるのはみんな同じだろうが。」

「呑気過ぎるって言いたいんでしょうよ。」涼香が、嫌みっぽく言った。「こっちは必死に考えて眠るどころじゃなかったのに。」

知美は、時計を見ながら聞いた。

「それで、誰に投票するか決まったの?私…」

合わせようと思って、と知美が言う前に、涼香は鋭く言った。

「あなたはあなたが怪しいと思う方に入れてちょうだい。明日からの参考にしたいの。白が出ていても、襲撃されない限りどっちが偽物の占い師なのか分からないんだしね。」

知美は、グッと黙った。涼香は、知美も怪しいと言っているのだ。

謙太と拓也が、同情したように知美を見る。だが、何も言わなかった。涼香が誰に投票するつもりなのか、教えてくれるつもりはないらしい。

変に庇って、自分達まで怪しまれてはたまらないのだろう。

知美はつくづく、猫又を公開しなかったことを後悔していた。このままでは、人狼にいいように話を持っていかれて、自分は吊られてしまう…。

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