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昼の2時になり、皆がぞろぞろとリビングダイニングの丸テーブルへと戻って来た。
男性同士は、疑われている俊也以外、普通に話していたし、一見何のこだわりも無いように見える。
それでも、腹の中で何を思っているのかはやはり、女性達と同様に分からなかった。
知美も自分の番号の椅子へと座ると、ホワイトボードは真代の椅子の後ろから、涼香の椅子の後ろへと移動させられているのが見えた。涼香は12番なので、1番の知美に位置からは見えづらくなったのだが、文句など言えば今の状態でどうなるか分からなかったので、ただ黙っていた。
涼香が、立ち上がった状態でペンを持って、皆を見回した。
「じゃあ、みんな揃ったわね。議論を続けましょう。それで、昨日は誰が美久さんを襲撃したのか、結局は分からなかったわ。状況で言うと俊也さんと佑さんだけど、佑さんは猫又、俊也さんは状況的に怪しくても時間的に襲撃は無理だったと判断された。それから、佑さんももし偽者だったとしても、トイレのドアを閉めていた時黒い服は着ていなかったわ。だって、そのまますぐに郁人さんに連れられて205号室に来たのに、服はそのままで血は手と背中だけだったもの。そんなわけで、今の私達には、どうやって誰が美久さんを襲撃したのか判断できない状態よ。ただ一つ分かっているのは、人狼陣営の誰かが殺したってこと。だから、ここではやっぱり初心に帰って人狼を探すことにするわ。それで」と、ホワイトボードの、役職名の所を指した。「この四人。この中には、人狼一人と、多分狂信者が一人必ず混じっているわ。つまり、二分の一の確率で人狼陣営を吊ることが出来るの。だから、今日はこの中から真ではないと思う人に投票してほしいと思います。」
郁人は、少し険しい顔をしたが、頷いた。
「つまり、オレ達自身はお互いの対抗が必ず偽だと知っているから、その人に投票することになるってことだね。だから今日は実質、オレ達の票は無いようなものだってことだ。」
涼香が、頷いた。
「そう。それはそれで、人狼票が二票奪われるってことだからいいんだけど、残りの人狼が票を合わせて来る事も考えられるわ。村人は、ここで慎重に考えて間違えずに票を合わせて行かなきゃならないってことね。」
拓也が、言った。
「じゃあ、残りの人って言うと知美さん、佑、オレ、康介、謙太、浩二、涼香さんの中で五人ってことになるな。同時にこの中の二人が人狼ってことだ。」
涼香の目が、スッと細くなった。
「そうね。私と佑さんは村役職だから私達目線、知美さん、拓也さん、康介さん、謙太さん、浩二さんの中に二人ってことだから、とてもスッキリしているのよ。その中で、知美さんは真代さんの白、拓也さんは郁人さんの白だから、どちらが真占い師かっていうことで、もっと分かりやすくなるわ。グレーの康介さんと、謙太さん、浩二さんの中に一狼だろうって感じ。今夜の占いで黒が出たらもっと分かりやすくなるなって。村は結構人狼を追い詰めてると思うんだけどな。」
知美は、やっぱりそうなるのか、と表情を硬くした。だが、自分は猫又で佑が狼なのだ。いや、郁人が真占い師だとしたら狂信者なのだ。村には間違った情報だけが落ちていて、それに基づいて考えているのだからそうなるのだろう。
村をそんな風にしているのが、他ならぬ猫又である自分である事実に、知美は身動き取れずに居た。しかし、康介は言った。
「オレは人狼じゃない。と言っても誰にも信じてもらえないだろうから、占ってもらうしかないか。人狼でない証拠に、オレは今日涼香さんに票を任せるよ。オレの分の票も、涼香さんが決めてくれ。誰に決まっても確実にそこへ入れるよ。」
浩二も、それを聞いていたが、焦る様子もなく頷いた。
「オレもそうしよう。人狼じゃないから誰が人狼なのかも分からないし、決めてくれたところへ入れる。そうしたら、涼香さんが3票持つことになるから、村の判断は確実になるだろう?君が決めた人は、対抗含めて四票入ることになるから、人狼が票を合わせて入れた所で三票、負けることは無いだろう。」
謙太が、肩をすくめた。
「オレだって合わせてもいいぞ。だから、涼香さんは4票持てる。まず大丈夫じゃないか?」
涼香は、そう言われて少し、顔をしかめた。つまり、涼香に全てが掛かって来るということなのだ。
だが、一瞬後には顔を引き締めて、しっかりとひとつ頷いた。
「分かった。今日の時点ではそれを信じるわ。じゃあ、話し合いましょうか。まず、占い師はどちらが真だと思う?謙太さんは襲撃からこっちいろいろ関わってて目立ってるから、情報が多いの。俊也さんの叫び声に反応したのも誰よりも早かったし疑う余地が少ない。だから康介さんと浩二さんからいろいろ聞きたいわ。」
康介が、待ってましたと身を乗り出した。
「みんながどんどん話すから発言出来なかっただけで、オレだって考えてたんだ。占い師は、郁人が真だと思ってる。ちゃんと占い結果を基に考えてるし、冷静だ。真代さんは疑われ始めたら焦ったのか途端に感情的になった。バレたらヤバイと思った人狼陣営なんじゃないかって思うんだ。霊能者は、どちらかと言うと俊也を疑ってる。罪をなすりつけられようとしている真霊能者なのかとも思ったんだが、真代さんが対抗の駿を白と見てるのに異様に庇うのがおかしいと思ったんだ。だからもしかして、人狼は佑を襲撃するのに失敗して、焦ってあんなお粗末な襲撃になってしまったんじゃないかってね。」
涼香は、冷静に頷いた。
「つまり、あなたは今日は霊能者なら俊也さん、占い師なら真代さんに投票した方がいいって考えてるってことね。」
康介は、頷き返した。
「ああ。そう考えるのが自然じゃないか?」
今は康介が話す時間なので、皆じっと黙ってそれを聞いている。だが、真代は康介を睨みつけていて、俊也は諦めたような顔をしていた。
しかし浩二が、言った。
「オレは少し違うんだ。」涼香は、浩二を見た。浩二は続けた。「真代さんが怪しいと思っているのは変わらない。だが、俊也がそんなことを出来たのかって言うと、出来ないと思うんだ。腹を壊してたのが嘘ではないとすると、一人であれこれ出来るのかって思ってな。それも、あのスピードで。服を着替えて必死に戻って、せっかくトイレに籠っていてアリバイがあるのに天井に皆の意識を向けたり、本当に襲撃していたら絶対にやらないことだ。現に俊也が天井から水が落ちて来たと言ったから、天井を確認することになったんだし。オレにはあれが、天井に意識を向けさせて俊也を陥れようとする人狼の仕業なんじゃないかって思う。だから、天井に水と氷が入ってトレーを仕込んだりしたんじゃないかって。ネジを外したままにしていたのも、その穴から水が落ちて来るのを想定したからじゃないのか?それが落ちて来て、俊也が叫ぶのを待っていたのかもしれない。オレはそう思ったんだがな。」
知美は、それを聞いてやっとトレーの謎が分かったような気がした。皆が言うように俊也が襲撃したのなら、あのトレーの説明が出来ないのだ。だが、浩二が言った通りだとすると説明がつく。
涼香もそう思ったのか、うーんと唸った。
「そう言われてみたらそうだわ。氷を入れていたのも、思わず叫ばずにいられないほど冷たい水じゃないと駄目だったからだとしたら説明がつくし。でも、そうなると誰も襲撃出来ないのよ。佑さんしか居ないし、でも佑さんは猫又で殺す理由がない。それとも、他の誰かがってことなの?」
浩二は、それには天井を仰いで両手を上げた。
「分からない。だから、こっちが怪しいとは言い切れないんだ。康介が言うことも分かるし、だがそれならすべてに説明がつかないしで、迷ってる。真代さんが怪しいのは確かだしな。人狼が自分が疑われてまで真役職を庇うのは不自然だ。だから君の判断に任せるよ。さっきも言ったように、君の判断に任せていいと思ってる。」
涼香は、ますます眉を寄せた。今の意見を聞いて、いくらか迷いが生じたようだった。謙太が、息をついた。
「オレも康介と浩二の意見がそれぞれ可能性があると思う。オレはどっちかというと康介の考え方だったんだが、浩二が言っていた事も確かにそうなんでぇ。オレは俊也が腹壊してたのをトイレで見たしな。そんな状態で人を殺せるかってぇと、無理だろうなと思うんでぇ。しかもあのスピードだ。だから黒塗りされてるだけじゃあねぇかと考えちまうんだよな。それでも、真代さんの様子を見たらどうしても同陣営だろうって思える俊也が怪しくなっちまう。だから、決められねぇんでぇ。」
そこでやっと、俊也が言った。
「オレから見たらなんだって真代さんがオレを庇うのか分からない。オレは自分を真だって知ってるが、真代さんは占ってもないし分からないはずだから。それに、この状況でオレが怪しいと言わないのもおかしいと我ながら思ってしまうし、庇ってもらって申し訳ないがやっぱり村が真代さんを怪しむのは道理だなって納得してしまうんだよ。」
謙太が、それを聞いて腕を組んで顔をしかめた。
「それなんでぇ。お前はそんな風なのに真代さんの方がお前を庇ってるような感じ。人狼同士なら両方からわかってるんだろうが、真同士なら分からないはずだからそういう感想になるはずなんだよな。となると真代さんが人狼で、真を黒く見せるために疑われている自分が庇うとか、そういうことになるか?」
康介が、それを聞いて唸った。
「どうだろうなあ…役職はマジでわからん。繋がりを見なけりゃ郁人と俊也が真でも充分に考えられるんだが、思惑が全く読めない。」
知美も、分からなくなっていた。どちらも白く、どちらも黒い。そんな感じなのだ。
涼香は、ますます眉根を寄せていたが、それでもキッと顔を上げると、皆を見回した。
「…四人となると、訳が分からなくなると思うわ。でも、私は誰が狂信者で誰が人狼なのかの判断が付かないの。せっかく票を合わせてくれるって言ってるのに、私が迷っているのはいけないと分かってる。でも、本当にどちらがどちらか分からないのよ。普通のゲームなら、最後まで吊られないだろう占い師に人狼が混じっていると考えるんだけど、今回は分からないわ。それで…」と、涼香は、ホワイトボードを見つめた。「真占い師の検証は明日まで保留にしようと思う。今日は、霊能者の二人からどちらかを選んで。真代さんの白の駿さんか、状況的に怪しいだろう俊也さんの二人。明日も噛まれず残っていたら、もう片方も吊ってしまうって方向で。その間に占い師を決め打ちするのに十分な情報が集まるはずよ。それで、お願い。」
知美は、二人を迷って見た。俊也と、駿。どちらかが確実に偽物なのに、これだと決めるだけの確かに情報がない。
険しい顔をした皆を見ながら、知美も同じように悩んでいたのだった。




