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しばらく沈黙が流れた。

意外にも冷静に、涼香が言った。

「…他には?猫又はまだ生きてるはずよね。美久さんの時は共有者だし死体は一つ。優子さんはあれだけ疑われてもCO(カミングアウト)しなかった。ということは、まだ死んでないはずよ。」

知美は、息を飲んで黙った。ここでCOするべきなのか迷ったのだ。言えば、襲撃されなくなるだろう。吊られる心配も無くなる。だから、公表した方が自分にもメリットがあるはず…。

だが、そうとも言えなかった。今の状況は、初日とは違っている。疑われている佑が猫又COして、佑は郁人の白だ。そして、間の悪いことに、自分はその対抗の真代に占われて白を出されている。まだ信じられるか分からないと疑い出した真代と、自分はここでCOすることで同陣営だとみなされる。郁人が真だった場合、真代がボロを出したら自分もまとめて疑われて吊られてしまう可能性があるのだ。

もちろん、知美目線、佑は完全に人狼陣営だった。だが、郁人が真でも狂信者には白が出る。佑は狂信者かもしれないのだ。つまり、まだ郁人が真占い師の可能性も知美目線ではあり得るのだ。

そう思いながら小刻みに震えて迷っていると、拓也が、言った。

「…居ない。」知美が驚いて顔を上げると、拓也は続けた。「猫又が他に居るならここで出ないのは村のためにはならないし、出てくれば噛まれない上に吊られないのに言わないのはおかしい。佑は、真猫又だ。つまり佑は美久さんを殺せたかもしれないが、殺す意味がない役職ってことだ。」

知美は慌てた。

「でも…もしかしたら猫又だって対抗になったら両方吊られるとか思って出て来なかったのかもしれないわ。」

しかし、それには涼香が首を振った。

「出て来るわよ。このリアルな人狼ゲームの中で死なずに済むのに、出て来ないなんてあり得ない。吊られるとしても最終日の決め打ちでしょうし。つまり、佑さんは猫又なのよ。そうじゃないかって昨日から思ってたんだけどね。」

確かに涼香はそう言っていた。

佑は、肩をすくめた。

「誰もかれも疑ったらオレを襲撃して来るんじゃないかって思ったんだ。確かに襲撃されたけど、いざとなったら怖くなって叫んでしまった。襲撃が成功していたら、村のためになったんだろうけど。変に時間を取らせて済まなかったと思ってる。だが、オレだって土壇場になったら命は惜しかったんだよ。」

涼香は、苦々し気に言った。

「人狼を一人連れてってくれてたら、今頃私はあなたに感謝してたわ。必ず勝って取り返してあげたのに。と言っても、もう遅いけど。」

しかし、真代は首を振った。

「そんなはずないわ!だったら、いったい誰が美久さんを殺したって言うの?!俊也さんにそれが出来たの?」

知美には、分かっていた。佑が美久を殺したのだ。俊也は罪をなすりつけられただけなのだ。真代は間違っていない…だが、それがもしかしたら自分を真占い師だと思わせたい人狼の動きだと言われたら、そうかもしれないと味方をする勇気も出なかった。

拓也が、真代を見て厳しい声で言った。

「まだ、誰か美久さんを殺したのか結論は出ていない。でも、君はあまりにも鋭すぎるんだよ。昨日から見てたけど、君ってぼうっとしてる感じでそんなに発言したり、推理したりする感じじゃなかったよね。それなのに、今日になって皆が気付かなかったようなことを言い出せるのはなぜだ?人狼同士で話し合って、何をどうしたらいいのか指示したからじゃないのか?」

真代は、息を飲んで顔色を変えた。

「な…っ!そんなはず…!!」

すると、涼香がチラと真代を見た。

「言われてみたら…昨日はこんな感じじゃなかったわ。それに、昼間は部屋に籠って寝ていたし、時々部屋へ帰ってて私達と一緒に居る時間が他より短かったのよね。もしかして、人狼同士で話し合いがしたかったから?」

一斉に皆から向けられる疑惑の視線に、真代は慌てて首を振った。

「違う!私は真占い師…みんなが、生き残れるようにって、自分が頑張らなきゃって思って、一生懸命考えているだけよ!」

しかし郁人が、睨むように真代を見て言った。

「人狼だったら全部見えているはずだよね。鋭いのも頷けるし、議論の主導権を握りたいのも頷けるよ。他の潜伏人狼たちを守るために、都合がいいように場を転がして行けるから。オレから見たら、君は人狼陣営だし分かりやすいんだ。オレを陥れようとして、自分がその罠に落ちたんじゃない?人間だって、そんなに馬鹿じゃないよ。簡単には騙されない。」

真代は、必死に全身を使ってそれを否定した。

「あなたが人狼陣営じゃないの!私は違う、真占い師よ!」

これまで冷静だった真代が叫ぶ様を見て、皆が黙って疑惑の目で真代を見た。

しばらくしてから、涼香が立ち上がった。

「やっぱり、まだ占い師が確定してもいないのにその片方が場を仕切るなんておかしいわ。共有者の私がやるわ。感情的になってたのは謝るわ…相方を殺されて、頭に血が登ってしまって。もう大丈夫。」

昨日までの、涼香に戻ったように思えた。

真代は、まだ何か言いたそうだったが、涼香からペンを取られて椅子の方へと顎を振って促されると、これ以上はもっと疑われると思ったのか黙って自分の椅子へと座った。

涼香は、冷静になったその口調で、言った。

「じゃあ、仕切り直しましょう。ここに、これまでの役職カミングアウトも書いて、結果も書くわ。こうしておけば、みんなが頭の中を整理しやすいでしょうし。」

涼香は、真代が書き出した情報の横の空きスペースに、書いて行った。


【占い師】

真代→駿○→知美○

郁人→拓也○→佑○


【霊能者】

俊也→優子○

駿→優子○


【共有者】

涼香-美久


【猫又】


涼香は、書き終えて言った。

「優子さんは白確定。昨日吊られた優子さんは人狼じゃなかった。でも村目線、狂信者の可能性も無いわけじゃないわ。美久さん目線駿さんと知美さんは白。郁人さん目線拓也さんと佑さんは白。それぞれ役職COしている人が混じってるわね。色だけを見たら美久さんと駿さん、郁人さんと佑さんが同陣営に見えるけど、議論を聞いていたらそんな単純なことではなさそう。両方とも、自分が白を打っても狂信者じゃないかって疑ってたしね。」

郁人が、言った。

「オレは佑をもう疑ってないよ。たった一人のCOで猫又だって分かったんだし、だから白が出たって納得したから。村の決定には従うよ。だから、オレ目線対抗が狂信者か人狼かはまだ分からないってことだ。」

真代は黙っている。涼香が代わりに言った。

「真代さん目線は違うわね。まだ駿さんが狂信者の可能性もあると思っているということね。ただ、色だけを見たら俊也さんと駿さんのどちらが真霊能者なのかまだ分かっていない状態のはず。でも、俊也さんを庇ってるのはどうして?」

責めるようではなく、あくまでも事実を聞いているといった感じだ。真代は、先ほどとはうって変わって淡々と呟くように答えた。

「…郁人さんが佑さんを庇って、俊也さんを陥れようとしていると思ったから。そうなると俊也さんと対抗している駿さんが偽なのかと思ったの。」

「でも、郁人さんは佑さんも怪しいかもしれない、ってその時の状況を情報として村に提供したよね。それまで庇っていた自分もそれで疑わしくなるかもしれないのに。」

真代は、少し涼香を睨んだ。

「さっきも言ったように、自分まで疑われるから切ったと思ってる。佑さんが猫又だって、私にはまだ信じられない。何かの理由で黙っている猫又がまだ居るんじゃないかって。」

涼香は、息をついた。

「その議論は終わったの。猫又がこの状況で潜伏する意味なんてないもの。出てくれば自分は襲撃されないし明らかに怪しい佑さんが今夜吊れたのよ?こんな状況で潜伏するなんて村の害でしかないわ。誰でもわかることよ。」

知美は、身を固くした。言わなかったのは、そんなに愚かな事だったんだろうか。でも、考えているうちに村の議論が進んでしまって、結果出られなかっただけなのだ。でも、今出ても更に怪しまれるだけだろう。真代に疑惑が集中している今、真代の白である自分が不用意に出てしまっては疑惑の種を撒くようなものなのだ。

佑が人狼陣営である以上、真代が間違っていないことは人狼たちにも見えていることだろう。つまり本当の猫又が、まだ潜伏しているということを、人狼は知っているのだ。

謙太が言った。

「まあ、だが可能性がないって訳じゃないんだ。もし猫又が潜伏しているとしたら、佑は確かに怪しい位置だし怪しまれたから仕方なく猫又COしたヤツだって思われても仕方がない。ただ、その可能性が低いってだけで。」

涼香は、謙太を見た。

「そんな薄い可能性を追っていたら、それはたくさんのことを考えなきゃならなくなって時間が足りなくなるわ。出て来て居ないんだから、私は佑さんが真猫又だって特定するつもり。もちろんこれからの動きを見て怪しかったら考え直すけれどね。今は他の状況から見ても間違いないと思うわ。」

拓也が、時計を見てから、言った。

「なあ、もう昼過ぎだ。腹も減ったし、村の方針はどうするんだ?犯人が分からない以上、グレランか?だったら…康介、謙太、浩二の三人になるぞ。この中に黒いヤツいるのか?」

涼香は、自分のメモ帳を見て、口元に手を置いて考えた。

「そうね…どうかしら。こうして見ると、明らかに二つに分かれた感じなのよね。占われているからって、白いとは限らない。人狼が囲って来ていることも考えられるわ。初日だって、真占い師になら白い村人だけが知らされていたかもしれないけど、騙ってる方は囲うことが可能だったわけだし。こうなって来ると逆にグレーが白いのよ。昨日グレランになったことを考えても、占って色を付けて吊らせないことを考えたとしても、おかしくはないし。」

すると佑が言った。

「だったら、役職ローラーしたらどうだ?2-2進行になってこの中に確実に人狼陣営が二人居る。4縄で二人殺せることになる。」

謙太が、首を振った。

「それは駄目だ。どっちかは決め打ちにしないと、昨日1縄使ってあと5縄しかねぇんだ。人狼陣営が四人居ることを考えても、役職の中に狂信者が居たら足りなくなる。いや、狂信者が混じっていると考える方が自然だ。」

「そうね。人狼も混じってるけどね。」涼香は、苦々し気に言った。「狂信者なんか吊ってる場合じゃないのよ。人狼を吊りたいの。役職者の中に、必ず一人人狼が居る。その可能性があるのは、一体誰?」

全員の目が、ホワイトボードに書いていある名前を凝視した。真代、郁人、俊也、駿。この中に、人狼が1人は絶対に混じっている。嘘をついている人が、二人居る…。

考え込んでいると、拓也が両手を上げた。

「駄目だ、頭が働かない。とにかく飯にしよう。それで、午後からまた考えるんだ。今は解散しよう。いいだろ、涼香さん。」

涼香は、拓也を見てため息をついた。

「分かったわ。じゃあ、2時にまたここへ。それまで、みんなは誰が真で誰が偽か、その理由も考えておいて。」

そうして、皆がバラバラと立ち上がって、キッチンへと向かって行く。

知美は議論が終わって肩の力を抜いたが、それでも佑という人狼陣営の男が居る場所へは行けなくて、皆がキッチンから出るまで、自分は中へ向かうことが出来なかった。

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