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一階のリビングの隅には、確かに真代が言う通りこれを想定していたかのように、ホワイトボードが置いてあった。

広いリビングの隅のカーテンの裏に隠れるようにあったので、知美には最初、それがあるのが分からなかった。だが、数人の男性と真代は、真っ先のそこへと足を向けたので、どうやらそこにそれがあったのを知ってた人は多いらしかった。

真代が康介と謙太に手伝われてそれを皆の方へと引きずって来て、そうして、6番の自分の席の後ろぐらいにそれを置き、言った。

「私がここへ書きます。付け足したいことや、気付いたことがあったら言ってください。忘れてることや、見落としてることがあるかと思うから。じゃあ、ちょっと待って。」

真代は、黒いペンを使ってホワイトボードに記して行った。


【佑の後頭部を殴打】

〇発生時刻

今朝の午前二時頃

〇場所

二階共有スペースの201号室に一番近い位置のトイレ前

〇目撃情報

・黒い上下服に黒い目出し帽

・佑の叫び声と共に逃走


【美久殺害】

〇発生時刻

今朝の午前二時(佑の襲撃の後)

〇場所

二階共有スペースの201号室に一番近い位置のトイレの中

〇目撃情報

・襲撃の時の目撃情報は無し

・胸の真ん中にサバイバルナイフが刺さっていた

・仰向けに血の海の中で倒れていた


【発見したもの】

〇205号室のバスルームの天井裏で、

・A4サイズ、深さ五センチのトレーに入った水と大きな氷

・血が付いた黒い服上下、目出し帽

・外された通気口の格子

・トイレに繋がった通気口

・トイレの通気口からトイレの天井裏までは1分ぐらい


【アリバイ】

佑殴打時。女性四人は全員301の知美の部屋に居た。男性は205号室の床で就寝していたが、全てが居たのかは確認できない。俊也はバスルーム、郁人は共有トイレの中、佑は共有トイレのドアの前。

美久殺害推定時刻に、謙太を先頭に康介と拓也、その後ろに真代、次に知美、涼香、駿、浩二、その後ろを郁人と、それに並んで佑。最後尾の郁人と佑以外は他の誰かに背中を見られている。郁人と佑もお互いが居たことを証言している。郁人は直後にバスルームで天井裏に手を伸ばしていたのを皆に目撃されているので、間違いなく居た。

俊也は、205のバスルームのトイレで座っていた。本当にお腹を壊していたらしき残留物を謙太と知美が確認している。


ここまで書いて、真代はそれをじっと黙って見守っていた、皆を振り返った。

「何か見落としているかしら。あったら言って。」

拓也が、指を差した。

「その、黒い服の下り。血がついていたのは、上着だけだった。腹と背にな。」

真代は頷いて、書き直した。

・腹と背に血が付いた黒い上着、ズボン、目出し帽

「これでいい?他には?」

拓也が言った。

「天井裏を塞いでいる蓋にネジが無かったこともだな。」

真代は頷いて、発見したものの所に書き足した。

・天井の蓋にはネジが無かった

「他には?無かったら、これを見て何か気が付いたことがあったら言って。」

全員が、じっとホワイトボードを見つめた。謙太が言った。

「…こうして見たら、もし俊也が美久さんを殺したのだとしたら、トイレの天井に上がった状態で叫び声を上げて皆をそっちへ誘導して、急いでトイレへと向かってトイレに降りて、最後尾に居た美久さんをトイレに引きずり込んだのか、それとも美久さんが自分で入って来たのか分からないが、トイレで刺して、また戻って来て服を脱いで下へ降りて鍵を開けたってことだろう?そんな時間があったか?」

知美は、それを聞いてハッとした。状況だけ見たら俊也しか居ないが、だが俊也にそれが可能かと言ったらかなり難しいのではないか。

幾分落ち着いた感じの涼香が言った。

「時間と言ったら…叫び声を聞いて、みんなで一斉に205号室へ走ったのよね。バスルームに到着するまでどれぐらいだったかしら。」

「先頭の謙太としたら30秒ぐらいか?」拓也が言う。「いやそんなに無いかもしれない。10秒ぐらいかも。」

「出て来たのはそれから1、2分ぐらいよね?」知美は、思い出しながら言った。「謙太さんが中へみんな居るって呼びかけて、それから鍵を開けたの。」

謙太は、顎に手を置いた。

「そうなると…一番長くても2分半から3分だ。その間に、通気口を抜けて行って刺して戻れるのか?そもそも、そこに誰か残っているなんて誰に分かるんだ?そんなに都合よく行くものなのか?」

郁人が、顔をしかめて腕を組んだ。

「無理だね。誰かが協力して美久さんをトイレにあらかじめ押し込んでたんならもしかしたらって思うけど、そんなこと出来た人が居ないだろう。戻っただけで1分だ。俊也の声がこっちでしたのはみんな聞いてるし、往復2分として刺し殺すのに1分で出来る?よっぽど状況が整っていて行って刺して戻るだけなら出来るかもだけど、ちょっと苦しいかな。」

知美は、頷いて言った。

「それに、あの黒い服よ。脱ぐ時間も要るの。どう考えても時間は無理だと思うわ。」

全員が、ホワイトボードを睨んで険しい顔をする。俊也が、身を乗り出した。

「無理だよ。そもそもオレは、やってないんだ!どうして天井裏があんなことになっていたのか分からない。でも、オレはずっとあそこに籠っていたから、誰かが天井へ上るなんてことも無理だったと思うんだ。だから、それは混乱してる…黒い服には、血がついていただろう?オレ以外だったら、いったい誰かあそこへそれを置けたんだろうって。オレからしたら、205号室のバスルームからでなくて、トイレから入って天井裏へ置いて、トイレへ戻ったのかなと思えるんだよ。」

俊也は、少し落ち着いて来たのか、自分目線の疑問をそう言った。だが、確かにそうだった。俊也が犯人でないとしたら、そこへ籠っていた俊也が邪魔になってあの通気口は使えなかったはずだ。トイレから登って天井裏へ入ったと考えるのもおかしくはない。

だが、誰一人欠けていた人が居ない…。

考え込んでいると、真代が言った。

「…ねえ、謙太さん。」謙太が顔を上げる。真代は続けた。「あの、氷の入ったトレーを見つけた時、その黒い服はあった?見えない位置だったの?」

謙太は、それを言われて顔をしかめると、首を傾げた。

「いや…目の前にあったのがそのトレーだったからな。気が付かなかった。検証のために登った時も、知美さんの足に絡んでから分かったぐらいだしな。」

それには、知美も同意して頷いた。

「真っ暗だし黒い服には気付かなかったわ。パッと見たら本当に見えないの。だから気付かずに歩いて足に絡まって転びそうになったんだもの。」

真代は、真剣な顔で頷いた。

「だったら、その時に有ったのか無かったのか分からないね。」そう言われて、首を振ろうとした知美は、その通りなので出来なくて固まった。真代は、その様子を見て、頷いた。「そうなのよ。後からだって、置こうと思ったら置けたよね。少なくとも直後には、そこに黒い服は確認されていないわ。そう思ったら、俊也さんが犯人ではないんじゃないかって、思うわ。誰かが、俊也さんを陥れようと考えてああしたんじゃないかって。犯人としても誤算だったのは、みんなが俊也さんを確認に行く時間がとても速かったことと、俊也さんの応答が速かったことじゃないかな。俊也さんを犯人にしたい誰かは、俊也さんにもっと時間を取って扉を開いて欲しかったんじゃないかと思うと自然な気がするんだけどどうだろう?」

しばらく黙って皆考え込んでいる。涼香が、戸惑いがちに皆を見回した。

「じゃあ…いったい、誰だと言うの?みんな、誰かを見てるんだよね?誰が欠けてたの?俊也さん以外、居ないんじゃないの?」

すると真代が、自分が書いたホワイトボードの文字を見つめながら、言った。

「…私目線だけど、いい?」

全員が、真代を見た。

「この際なんでも言ってくれ。」

拓也が、急かすように言う。真代は、言った。

「私は占い師よ。つまり、対抗占い師は偽者なの。人狼であれ狂信者であれ、人狼陣営で敵なのは変わりない。つまり私にとって、郁人さんの言うことは信じられないの。だから、最後尾だとその後ろを誰も見ていない位置に居た郁人さんは、私目線一番加害者側に近い位置なの。」

郁人が、グッと眉を寄せた。佑が、脇から言った。

「郁人はオレを見てくれてたから遅くなったんだと言っただろうが。誰も見てないって、オレが見てる。一番後ろだっただけだ。」

真代は、鋭い目で佑を見た。

「そう。郁人さんが加害者だとは言ってないでしょう。加害者「側」だって言っただけよ。つまり郁人さんは、最後尾で殺人を見ていても見逃せる位置に居る。そして血まみれになってても、誰も怪しまない人…と考えたら、私が怪しんでいるのはあなたよ、佑さん。」

佑は、グッと眉根を寄せて真代を睨み付けた。

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