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次の日の朝、知美は真代に起こされて目を覚ました。

窓からは、朝の光が差し込んで来ている。

急いで起き上がって時計を見ると、時刻は朝の7時を回っていた。

「おはよう。涼香さんが今洗面所使ってるよ。もうそろそろ出て来るから、知美さんも使ってきたらって思って。」

知美は、目をこすりながら頷いた。

「ありがとう。なんか、いつの間にか寝てしまってた。」

「私もよ。」真代は言って、側のパンを渡した。「朝ご飯、済ませて置いた方がいいかも。多分これからいろいろ調べたり、見たりするから、そんな暇ないかもしれない。」

真代は、美久の死体を見るから食欲がなくなるかもしれない、とは言わなかった。

だが、確かに下へ降りたらしばらく食事など出来そうにも無かったので、知美は無理やりに菓子パンの袋を破いて開くと、それを口へと突っ込んだ。側には、美久が昨夜ここを出るまで寝ていたクッションが転がっている。だが、そんなことを思い出して感傷に浸っても仕方ないのだ。助かるためには、前を向くしか方法はない。

知美が、一生懸命咀嚼してパンを飲み込んでいると、涼香がバスルームから出て来た。

その顔は、昨夜ここへ来た時とは比べ物にならないほど疲れ切って憔悴していたが、それでも目はしっかりしていた。

「涼香さん。」

知美が声を掛けると、涼香は寄って来て、知美の前へと座った。

「おはよう、知美さん。ごめんなさいね、洗面所使ってくれていいよ。」

知美は、食べているパンを見せた。

「ううん、これを食べてしまってからにするから。あの…涼香さんは、食べた?」

涼香は、答える代わりに側にある菓子パンの袋を持ち上げて、破いた。

「食べておかないとね。真代さんにも言われてたけど、酷い気分だったし先に目を覚まして来ようと思って。シャワーを浴びて来たら、少しマシになった。覚悟していたつもりだったのに、私ったら、駄目ね。」

そう言いながらも、口の端が僅かに引きつっただけで笑顔は作れていない。知美は、ペットボトルの紅茶に口をつけてから、言った。

「誰でも、簡単には割り切れないものもあると思うわ。まして、共有者の相方だったんでしょう。それなら、本当に信用できる間柄だもの、ショックなのも当然だわ。それも、初日に襲撃されてしまったんだもの。」

涼香は、息をついて首を振った。

「私が思ったのは、それだけじゃないのよ。あの子が懐中電灯を持っていないことを知っていたのに、私は叫び声を聞いて、一目散に205号室へと走ってしまったわ。みんな居るし、ついて来ているものだと思い込んで。しかも、しばらくあの子が居ないことに気付かなかった。私がもっと気を付けていればと思ったら、気が咎めるの。」

知美は、同情気味にそれを聞いて言った。

「あの状況だったら、他の人のことまで気を回せないわよ。私も、何が起こっているのかみんなについて行くのが精いっぱいで、分からなかったもの。今だってそう。みんな居たはずなのに、人狼はどうやって襲撃したの?人狼は、このメンバーの中に確かに居るのよね?」

それには真代が、ゆっくりと答えた。

「わからない。だから、8時に集まるのよ。それを調べるために、美久さんはあんな姿であそこに居てくれてるの。早く調べて、部屋へ連れて行ってあげよう。さ、食べたなら知美さんは洗面所へ。私、早く調べて犯人を見つけたいの。」

知美は、追われるようにしてバスルームへと入った。女子ばかりが二人居なくなってしまった…もう、三人だけだ。しかも、知美目線ここに居るのは役職者ばかりだった。共有者、占い師、猫又。誰がやられても、村人が減る。ただ、知美だけは狼を道連れにすることが出来る…。

知美はシャワーを浴びながら、真代が真占い師であることを信じたいと思っていた。


8時少し前、何度もせっつく真代に押されて涼香と知美は部屋を出た。

廊下は、窓からの光もあるのだが、点灯していて明るい通常の仕様になっている。

実際は人狼の襲撃時間が終わる朝の6時には、もうこの状態になっているはずだったが、その時にはまだ寝ていた知美には、その切り替わる瞬間を見ることは出来なかった。

階段を降りて行くと、既に男性達が集まって、トイレの前で話し合っていた。

佑は、頭に大きなガーゼを当てられていて、それにはまだ薄っすらと血が滲んでいた。

「おはよう。何か分かった?」

涼香が言うと、じっと調べていた謙太が振り返った。

「死因は、恐らく胸を一突きにされたことによる心停止か肺が傷ついた事による窒息じゃねぇかと。胸にまだナイフが刺さったままだったんでぇ。」

郁人が、隣りで頷いた。

「可哀そうだし、今抜いたよ。洗ってどこかに隠しておこうって話してたんだ。人狼がまたこれを使えないようにね。」

トイレの手洗い場所には、引き抜いたらしい長いナイフが置かれてあった。まだ幾分青い顔をしている佑が、言った。

「で、結局どういうことなんだ。昨日は、俊也がトイレで叫んだのを聞いて、みんなそっちへ向かったのは覚えてるんだ。オレだってみんなと一緒にそっちへ向かったしな。」

すると、昨日は居なかった俊也がやつれた風情でそこに立っていて、言った。

「その様子は後で聞いたけど、確かにみんな居たのか?ええっと、先頭は誰だった?」

謙太が、手を上げた。

「オレだ。一番205に近い位置に居たから、そっちへ走った。」

康介が言った。

「そうだ、謙太が一番先頭だった。その後ろにオレと拓也が続いた。近くに立ってたからだ。」

それを聞いた知美が、手を上げた。

「その後ろを真代さんがすごい勢いで走って行ったから、私も遅れちゃ駄目だってついて走ったの。後ろは見てないわ。」

涼香が、言った。

「その後ろは、私。」と、佑と駿、郁人を見た。「すぐ後ろに駿さんが居たのはチラと見えたけど、他は?」

浩二が手を上げた。

「オレが、駿の後ろだった。後ろは気にしてなかったな。それどころじゃなかったから。」

郁人が言った。

「オレは浩二のすぐ後ろを、佑を連れて走ってた。佑はフラフラしてたし、オレだって他を見てる暇なんかなかったよ。ただ、すぐ前に浩二が走ってたのは覚えてる。」

浩二は、それを聞いて頷いた。

「そう言われてみれば、バスルームに着いた後、郁人が便座に登って天井裏から何か取ろうとしたっけな。みんなが見てたんじゃないか?あれは、到着してからすぐの事だし、オレの後ろに居た郁人が居たことをそうやって覚えてるわけだから、郁人が殺せたはずがないんだ。」

謙太が、それを覚えているのか、同意した。

「そうだな。郁人じゃ身長が足りなくて、結局オレが登って取ったから覚えてる。佑は襲撃されて頭に怪我をしてその郁人に連れて来られた、となったら、みんな居たってことになるか。」

涼香が、イライラしながら言った。

「でも、美久さんは?!誰か見てないの?」

全員がお互いの顔を見て確認してるようだったが、誰も分からないと困惑した顔をしていた。郁人が、言った。

「残念だけど最後尾だったのかな。でも、オレが佑を連れて走って来る時も、後ろからは何の気配もしなかったけど。無我夢中だったし、しかも真っ暗だし、あまり覚えていないよ。」

俊也が、一人一人を見て、ため息をついた。

「みんながそれぞれの背中を見てるんだよなあ。証言がないのは最後尾らしい郁人と佑だけど、ここは二人で並んで移動してるし佑は襲撃されて大怪我していた。それに、一緒に来た証拠に郁人はバスルームですぐみんなに目撃されてる。オレも見た。誰も美久さんを殺せた人は居ないんだ。」

涼香が、眉を寄せた。

「俊也さんは?」皆が驚いた顔をする。涼香は続けた。「あなた、ずっとトイレで籠ってたんでしょう。だから二人は外へ出て来ることになったし、佑さんは襲撃されて、私達は降りて来ることになって、そうして美久さんが殺されたのよ!あなた以外に、目撃されてない人は居ないのよ?もしかして、抜け穴か何かがあって、あなたがトイレに籠っているふりをして、美久さんを殺したんじゃないの?!」

それには拓也が驚いた顔をした。

「え、俊也は霊能者なんじゃないのか。昨日COしたの一人だけだったよな?だから白いって言ってたんじゃなかったか。」

涼香は、何度も首を振った。

「だったら、誰だって言うの?!他にあんなことが出来た人は居ないじゃない!霊能者、他に居るんでしょう?!早く出て来てよ!なんだって出て来ないのよ、昨日偽者だって分かっていたら、この人を吊ったのに!」

すると、じっと黙って聞いていた、駿がため息をついた。

「オレだよ。」皆の目が、見開かれて駿を見た。駿は続けた。「オレは白を打たれていたし、吊られないからもう1日潜伏しようと思ってた。霊能はローラーされやすいし、相手がもし狂信者なら、襲撃先になるかもしれない。だから黙ってたんだ。」

涼香の顔が、みるみる赤くなった。怒っているようだ。目がつり上がり、人相が完全に変わってしまっていた。

「あなたのせいで!あなたのせいであの子は死んだのよ!」

駿は、涼香の怒りの視線をまともに受けて、冷静に答えた。

「君は共有者だが、やり方が気に入らないんだよ。オレにはオレの考え方があった。誰が襲撃されたのかなんか、分からなかったじゃないか。オレだったかもしれないんだ。昨日の時点で霊能者は何の情報も持って居なかった。出た所で殺され損だったかもしれないんだぞ。それなのに出て来た俊也を、あっさり信じた君が悪いんだ。」

涼香は、言葉に詰まった。

俊也が、必死に言った。

「そんなはずはない!そいつは嘘をついてるんだ!オレが真霊能者だ!昨日は本当に腹が痛くてこもってただけなんだよ!」

知美は、何が何だか分からなかった。駿が、霊能者だという。それが本当だとしたら、確かに俊也は誰よりも怪しい。だが、駿は本当に霊能者なのだろうか。

混乱しているのは、知美だけではないようだった。

皆が皆、言い合いをする涼香と駿に呆然と、ただそこに立って見ていた。

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