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「だからみんな一緒に居た方がいいと思うの!」涼香が、叫ばんばかりの声で訴えた。「全員で一塊になるということよ!そうしたら、誰かが居なかったらすぐ分かるでしょう!襲撃なんか簡単に出来ないわ!」

だが、郁人が反論した。

「だから、オレは、それに俊也だって役職行使のために一旦部屋へ戻らなきゃならないんだ!オレ達だけで懐中電灯片手に戻って行ったら、それこそ危ないじゃないか!それに、狩人はどうするんだよ!部屋へ戻ったら人狼に狩人だって知られるぞ!怖いってだけで考えるな!勝つためには利用できるものは利用して情報を集めなきゃならないんだよ!」

知美は、それを見て美久と二人でオロオロとしていた。確かに、涼香の言う通り一緒に居たら心強いし、人狼も動きづらいので明日からの投票がしやすくなるだろう。だが、それでは役職者達が困るのだ。人狼にまるわかりになるようなことは、出来なかった。

時刻は、もう21時を過ぎていた。もう消灯まであまり時間がない。このままここで言い争っている間に真っ暗になったら、それこそ人狼の思う壺だ。襲撃の時間にはまだ遠いが、襲撃するのがその時間というだけで、その時間まで誰かがどこかに閉じ込められていたとしても、誰にも分からなかった。暗くなってから、なるべく暗い場所には居ない方がいいのだ。

真代が、言った。

「私は、0時まではみんな部屋へ籠るべきだと思うわ。役職行使が11時から0時までって指定されているんだし。それから、どこかへ集まりたいなら、そうしたら?」

涼香は、睨むように真代を見た。

「そんなの、人狼の襲撃時間になってから出て来るってことじゃない!そんなの、それこそ危ないわ!殺してもらうために出て来るようなものよ!」

すると、俊也がうんざりしたように言った。

「じゃあ、もう面倒だし役職者は11時半までに役職行使を終えて、出て来ることにしたら?それなら人狼の襲撃時間まではまだあるじゃないか。30分あったら上から降りて来られるだろう。で、ここに集まる。」

佑が、首を振った。

「いや、それは危ない。ここに13個…いや、12個の懐中電灯を持って来たとしても、全体を照らすには少な過ぎる。これだけの広さなんだぞ?トイレに行くだけでも見えなくなる。集まるのなら電灯が着く場所の方がいいに決まってるだろう。」

「誰かの部屋ってことか?」それには拓也が答えた。「じゃあ、階段に近い位置にするか、それとも奥にするか。近いなら201の佑か205の浩二だし、奥なら204の謙太か208の郁人だな。」

涼香が首を振った。

「三階から二階まで降りて行くのが危ないじゃない。私達のリスクが高いわ。」

しかし、それには謙太が顔をしかめた。

「でも、女子の部屋に行くのはなあ。だったら、男女で分かれたらどうだ。そっちは四人で固まって同じ部屋へ入ったらいいし、こっちはこっちでどこかへ固まるから。」

美久は、不安そうな顔をした。

「でも…何かあった時に女ばかりじゃ心細いわ。」

郁人が、時計を見つめながらイライラと言った。

「もう、時間が無いんだってば。じゃあ女子は階段に近い301の部屋に集まってて。オレ達も階段に近い201か205の部屋に集まっておくよ。そうしたら、距離的には近いから、叫んだら聴こえる位置だ。誰かが行くようにするよ。」と、手をパンパンと叩いた。「さあ!時間が無い、食べ物とか飲み物を出来るだけ持って行くんだ!で、一旦は自分の部屋へ戻って、11時半になったらそれぞれの部屋へ集まる。分かった?ほら、解散!」

郁人は、まだ何か言いたげな涼香の背も押して、追い立てた。確かに、もう消灯時間まで15分ほどしかない。

知美は、優子の倒れた様子を無理やりに心の隅へと押しやって、皆と一緒にキッチンへと駆け込んだ。

冷蔵庫に山ほど詰め込まれているものを、片っ端から側のカゴへと放り込み、夜に備える。そんなに食べるとも思えなかったが、ここへ暗い中来るようなことは、避けたかった。

涼香が、同じようにペットボトルの飲料を放り込みながら、言った。

「食べ物はお願い!私は飲み物を持って行くから!」

知美は頷いて、とにかくお菓子や菓子パンなど手を掛けずに食べられる物ばかりをかごへと放り込んだ。

佑の声が、キッチンの入口から聞こえる。

「おい!あと五分だ、早く戻れ!」

そういう佑の腕にも、山のような菓子パンが抱かれていた。

知美は、山盛りに食べ物を入れたカゴを抱えて、キッチンを飛び出した。


階段を駆け上がって行きながら、脇の涼香が、ボソッと言うのを聞いた。

「私…自分の部屋に、戻りたくないな。」

知美は、驚いて涼香を見た。

「え?」

涼香は、二階の部屋へと向かって行く男性達を後目に、まだ階段を上がりながら、続けた。

「だって、私は一番奥なの。隣りは、優子さん。その横が真代さんなの。」

言われて、知美はハッとした。今、304には優子の遺体がシーツにくるまれて安置されてある。男性達が、そうしておくのが一番いいだろうと運んでくれたのだが、そうなって来ると、一番奥の涼香は、端の部屋で隣りが遺体の部屋、ということになるのだ。

「ああ…確かに。じゃあ、私の部屋に来る?私には役職行使はないし、どうせみんな集まって来るんだから、いいと思うわ。共有者も、役職行使はないでしょ?」

涼香は、パアッと明るい顔をした。

「いいの?」

知美は、頷いた。

「ええ、いいわ。私も一人じゃ退屈だろうし。」

涼香は、微笑んで三階へと到着すると、そのまま知美について歩いて来た。真代と美久が、振り返って言った。

「あれ?涼香さんは、そこ?」

涼香は、頷いた。

「ええ…一人、離れた部屋へ帰るのはちょっと。」

それだけで、二人は察したようだった。そうして、頷くと、自分達の部屋へと向かった。

「じゃあ、後でね。枕持って行くわ。かわりばんこに眠れるかもしれないもの。」

美久が言う。

涼香は、笑って手を振った。

「ええ。じゃあ、待ってるわ。」

そうして、女子達はそれぞれの部屋へと入って行ったのだった。


部屋へ入ると、もう22時直前だった。

だが、部屋の電灯は着いていて、消える様子もない。

知美は持って来たカゴを昼間に使っていた休憩スパースから持ち込んでいたテーブルの上に置き、ソファへと崩れるように座り込んだ。

疲れた…いろいろなことがあり過ぎて。

知美はそう思って、肩で息をついた。涼香は一人で部屋へ戻らずに済んだことが余程嬉しいのか、幾分ウキウキと見えるような様子で同じように飲み物が入ったカゴをテーブルへと乗せた。

「何か飲む?疲れたわね、口がカラカラよ。」

同感だったが、今何か口にする気持ちにはなれなかった。

心の隅へと意識的に押しやっていたが、優子が死んでしまったのだ。

あんな死にざまを見てしまった後で、精神的にもいっぱいいっぱいな知美は、手を振った。

「私は、後でいいわ。どうせずっと起きてるんだし…。」

涼香は、それでもお茶のペットボトルを一つ、持ち上げると、それを持って知美の前に来た。

「気持ちはわかるわ。私も、その時はショックで言葉が出なかった。でも、あれは自分にも起こり得ることなんだって思った時、しっかりしなければって思ったの。」

知美は、目の前に差し出されたペットボトルを渋々受け取りながら、首を傾げた。

「共有者なのに、処刑対象にはならないんじゃない?」

涼香は、知美の隣に座って、首を振った。

「そういう事じゃないの。まだどうなるのか分からないけど、人狼の襲撃だって起こるんでしょう。私だって、殺されるかもしれないわ。人狼が誰なのかまだ分からない以上、共有者の私なんて本当に危ない位置よ。だからああならないためには、落ち込んでる場合じゃない、考えなきゃって思ったわ。」

知美は、それを聞きながらペットボトルの蓋を開け、少し口に含んだ。カラカラだった口の中が、少し潤って落ち着く。涼香は、続けた。

「優子さんのことは気の毒だったわ。でも、思い出して。私達、みんな元は死んでいたのよ。覚えていないけど、体の傷とあの男の話が一致する以上、認めるより無い状況だわ。優子さんは、元に戻っただけ。でも、まだチャンスは無くなったわけじゃない。あの子がもし人狼だったらそんなチャンスは潰させてもらうけど、人間だったら私達と一緒に帰れるのよ。一度は死んだ私達の、これはチャンスなの。そう考えたら、怖いと思わなくなったわ。優子さんが人間なら、私は絶対に勝ち残って生き返られせてあげるつもり。だから、あなたも落ち込んでないで、村を勝たせるために、しっかりして。」

知美は、そう言われて変に納得していた。涼香の言う通り、ここに居る人達はみんな、一度は死んだのだ。それがこうして生きているが、本来は優子のように死体だった。このゲームは、生き残るチャンスなのだ。またあんな風に戻らないための、チャンスのゲームなのだ。

「…そんな風に考えてなかったわ。」知美は、涼香を見て言った。「でも、確かにそう。私も生きて帰りたい。どうして死んだのかも知りたいし…元の生活に、戻りたいの。だから、がんばるわ。ここで負けたら、何も叶わないんだもの。」

涼香は、微笑んで知美の肩を軽く叩いた。

「そうよ。その意気よ。一緒に頑張りましょう。」

涼香は、とても親しげだ。知美は、グレーの自分にこんなに寄って来る涼香に、不思議に思って問うた。

「でも…涼香さんから見たら、私はグレーで得体が知れないでしょう?どうして、信用してくれるの?」

それには、涼香はフフと笑った。

「あなたが、あっさりと私に部屋へ来る?って聞いたから。」知美は、何のことかと眉を上げた。涼香は続けた。「私が部屋へ帰りたくないって言ったら、あなた間髪入れずに部屋へ来る?って聞いてくれたでしょう。もし人狼だったら、あんなに迷いなく聞けないわ。なぜなら、このみんなが部屋へ籠っている時間は、人狼にとっても話し合う絶好のチャンスだから。」

知美は、目を丸くした。つまり、涼香は…。

「試したの。」涼香は、バツが悪そうに白状した。「優子さんの遺体なんて今更怖くないわ。だって、私も元はそうだったんだもの。そういう考え方の私が、気味悪がるなんておかしいでしょ?でも、だからあなたを信じたわ。だって、人狼仲間に聞こうともせずにこうして部屋に入れたんだから、あなたは人狼じゃない。人狼だったら、仲間がこの隙に部屋へ来たり、連絡を取ろうとすることを考えて、絶対に部屋へ来いなんて言えないもの。」

知美は、感心するやら呆れるやらで、口がきけなかった。確かに涼香は、ああいう考えだと今聞いたので怖がるなんておかしいのだ。だが、話すことをそのままに聞いているだけで、知美は違和感も感じなかった。

それにしても頭が切れるとは思っていたが、涼香は本当にしたたからしい。

それでも、その涼香から信じてもらえたことは、知美には心強かった。これで、一緒に戦える…。

金時計は22時を大きく過ぎて、23時の役職行使の時間が刻々と近づいていた。

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