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みんな一斉にこちらを見たので、知美が一瞬、息を飲むと、それに気付いたのか、端に座っていた俊也が立ち上がって言った。

「ああ、呼びに行こうかって言ってたんだ。一時間ぐらい前から男は全員降りて来てここに揃ってさ。いろいろ話してたんだ。康介や浩二にも、弁明の機会が要るだろう?ちょっと怪しいってだけで、投票対象にするのはさすがに危険だ。」

どうやら、俊也が場を仕切っていたようだ。言われてみれば今、男性の中では一番俊也が白かった。なぜなら、たった一人の霊能者だからだ。初日にみんなが生きている中でカミングアウトした上、たった一人しか出なかった俊也は、限りなく真霊能者に近かった。

もちろん、他に居て何か考えがあって黙っていることも考えられたが、その可能性は今回の状況では低かった。

涼香が、頷いて先にそちらへ歩きながら言った。

「ええ、私達も上で話し合っていたんだけど、男性の方が多いんだからきちんと話をしておかないとと思って。それで、何か議論に進展はあった?」

それには、郁人が答えた。

「駄目なんだよ、感情的になってしまって。何しろ、まだ材料が少ないじゃないか。オレは自分が占った拓也は白だから信じているんだけど、他は分からない。オレ目線、対抗は偽物だから駿が白っていうのも信じられないしね。もしかしたら、狂信者が人狼を白囲いしてるんじゃないかって思ってるぐらい。」

白囲いというのは、偽物の占い師が人狼に白を打つことで当面の間投票させないように謀ることだ。

つまり、郁人目線偽物である真代が白だと言っている、駿が何より黒く見えるということだろう。

涼香は、それを聞きながら側の空いているソファに座り、一番男性から離れた位置へと知美と優子をいざなってくれた。そして、メモ帳を出しながら言った。

「あなた目線ではなくて、村目線で話をしなければならないわ。あなたの言い分も分かるけれど、あなたを信じ切れていない村人目線、自分を攻撃して来るあなたに反発を覚えるのは当然のことよ。あなたももし真占い師なら、そういうことも理解してうまく私達に信じられる材料をくれないと。」

郁人は、あまりに正論なので返す言葉が見つからないのか、そこで黙った。涼香は、自分の手帳を見た。

「…それで、今分かっていることをまとめるわね。まず、占い師は真代さんと郁人さん、霊能者は俊也さん、共有者は私。それから、真代さんの白の駿さん、郁人さんの白の拓也さん。必然的にグレー位置は知美さん、佑さん、美久さん、康介さん、優子さん、謙太さん、浩二さんの7人よ。この中に、共有者の相方と狩人、猫又が混じっていて、残り五人の中に村人が二人もしくは三人、人狼が二人、もしくは三人混じっているということね。」

俊也が、頷いて向こうの端から答えた。

「そう。オレ達も多分占い師を騙ってる一人は狂信者だろうって推測で一致してるんだ。だから、もしも駿で一人囲われてたとしても、最悪二人はグレーに混じってるんだろうって。役職が多い村だから、出来たら共有者が他の村役職をこっそり聞いておいて避けてくれたら人狼を吊りやすいなって思うんだけど。」

知美は、それを聞いて涼香を見た。涼香になら、言っておいてもいいかもしれない。だが、涼香は人間勝利のためなら、一時的に自分の命さえ投げ出しそうな勢いだ。つまり、猫又の自分などうまく利用されるのではないかと、少しためらいも覚えた。

涼香は、そんな知美の動きには気付かず、首を傾げた。

「共有の相方は知っているのよ。でも、狩人や猫又は知らない方がいいのかもしれない。だって、誰が聞いているか分からないじゃないの。ここの部屋は、自室以外はとってもフリーだわ。どこへでも入れるし、どこかに潜んでいても分からないと思う。狩人には絶対に生き残って欲しいし、猫又は切り札だもの、知られるわけにはいかない。だから、その役職の二人に私に知らせに来るなんて危険は冒させたくないわ。」

それには、佑が反論した。

「別に、人狼だって同じ人間なんだから、透明人間になれるわけでもないだろうが。それより知らずに吊ってしまうほうがもったいないんじゃないかって言ってるんだよ。その役職さえ分かったら、人狼をもっと絞り込めるじゃないか。」

涼香は、佑を軽く睨んだ。

「でも、人狼はあの、玄関脇の大きな物置部屋へ入れるのよ?あの中に何があるのか、人狼以外誰にも分からないわ。もしかしたら、盗聴器だってあるかもしれない。知らないの?今は盗聴だってすごく簡単に出来るんだから。それに、それを知って私がその人達に投票をしないようにすることで、結局は人狼に情報を与えてしまうのよ。だから、私は今はその提案には乗れないわ。もちろん、それを承知の上で私に役職を知らせたいって人が居るなら、知らせに来てくれてもいいわよ。ただ、まずは疑わせてもらうわ。人狼が騙りに来てるのかもしれないから。」

佑が、それを聞いて不機嫌に黙った。涼香のはっきりとした物言いは、しっかりとした意思を感じさせて、とても反論出来るものではなかった。

役職を公開しなくていいのだと思うと、ホッとしたような、残念なような複雑な気がした知美だったが、そんな涼香が怖いながらも、頼もしかった。もし、自分が死んでも、涼香なら村を勝利に導いて行きそうだったからだ。

じっと黙ってしまった場を動かすように、謙太が口を開いた。

「なあ、じゃあ他の役職は公開せずに行くってことで、今疑われている浩二と康介の二人の話を聞かないか?本当に怪しいかって言われたら、オレはそうは思えねぇ。何しろ、オレには誰も怪しく思えねぇんだ。このままだったら、投票の時に迷っちまう。話してもらっていいか。」

すると、浩二がもう疲れたという風に、チラと謙太を見た。

「だから、さっきから言ってるじゃないか。オレは、人狼じゃあない。人狼だったら、議論であんな目立つことを言ったりしないだろう。記憶が戻ったとしても、目立つのを恐れて何も言わなかったと思う。議論を乱してると言ったって、短い時間制限があるわけでも無し、有り余る時間の中でまだこうして議論出来てるじゃないか。オレは、上手い具合に人狼たちにこじつけられて、黒塗りされてる村人だよ。」

そう言われてみたらそうなのだが、それでも知美の中の不信感は、まったく拭えなかった。佑は、浩二をじっと睨むように見た。

「だったら、お前今日占われてもいいんだな?片方からでも黒が出たら、すぐ吊るぞ。」

浩二は、肩をすくめて見せた。

「オレは白い。だから占ってくれたって全然いい。むしろ、占ってほしいぐらいだ。真占い師にね。」

佑は、イライラと黙る。康介が、脇から言った。

「これってもしかしたら、オレも浩二も白なんじゃないのか?なんであれっぽっちのことでみんなから疑われるんだ。考えてもみろ、誰がオレ達を庇ってる?オレには仲間が居ないのか。いくらなんでも、三人しか居ない人狼なのに、初日から仲間が吊られたら苦しいだろうし誰かは庇うだろう。だが、誰も居ない。どっちかに狂信者が紛れてる占い師達ですらそうだ。それっておかしくないか?オレ達の中に人狼が居ないから、全員一致で吊ろうってことになるんじゃないのか。」

そう言われてみて、知美は確かに、と思った。みんながみんな、謙太以外は占い師達ですら、この二人が怪しい、で納得しようとしている。もし、二人のうちどっちかが、もしくは両方とも人狼なら、そうなるだろうか。

涼香も、それには顔をしかめて黙り込んだ。メモを取っていた手を止めて、じっと考え込んでいる。

これまで、仲間の行動のことまで考えてなかったのだろう。だが、確かに全員一致というのは、おかしい気がする。まだ初日なのだ。少しぐらい庇っても、疑われることはないはずなのに。

「…そうね、確かにおかしいわ。」涼香は、やっと口を開いた。「言われてみればそう。誰も庇う様子はないわ。むしろ、煽って行くような。それって、二人が人狼じゃないからなのかしら?」

すると佑が、涼香に言った。

「仲間に切られた人狼が苦し紛れに言ってるのかもしれんぞ。これだけみんなの意見が一致して居たら、庇う方が逆に危険だ。それなら潜伏して生き残って、仲間を生き返らせようと考えるだろう。明日からだってゲームは続くんだからな。疑われるようなことはできないと思うぞ。」

すると、俊也が割り込んだ。

「…でも、最初からだったよな?」皆の視線が、俊也に向く。俊也は続けた。「話の流れで誰かが康介だの浩二だの言い出して、それにみんなが追随する感じだった。人狼に良いように誘導されてるかもしれないぞ。間に仲間が何人も挟まってるはずなのに、最初からこの二人の名前しか出て来てないのが逆に怪しい。そう言われてみると、オレも流されてたかもしれない。二人が必死に弁明するのがまた疑わしく思ってしまってたが、オレだって役職が無かったら自分が疑われたらああなると思うしな。」

駿が、顔をしかめた。

「じゃあ、いったい誰だって言うんだ?」

全員が顔を見合せる。涼香が、首を振った。

「分からないわ。初日だもの、ボロが出てないのよ。みんながみんな、話してる訳じゃないし。今のところグレーで積極的なのは佑さんぐらいでしょう?グレーにもっと話してもらわないと、話が進まないわ。疑われている二人は、こうして聞いていると案外にしっかり考えてるのよ。今は一旦考えをフラットにして、他のグレーの人、話してくれない?」

知美はウンウンと聞いていたが、よく考えたら自分も村目線グレーだった。番号が1番なのもあり、皆の視線は自然知美に集まって来る。知美は、慌てて口を開いた。

「わ、私は自分が人間だって知ってる以外確かな情報はなくて。でも、今までみんなの話を聞いていて、それだったら黙っている人の方が逆に怪しいのかと思ったわ。確かに私も黙ってるんだけど、自分の中では考えてるの…でも、分からないからみんなの意見に左右されてしまって、混乱して確かに意見に出来ないだけで。」

それには、康介が言った。

「そんなことなら、誰にでも言えるぞ。自分が疑われてないから安心してる人狼にも見えて来るんじゃないのか。それに」と、優子を指さした。「そっちの子も、全然話してない上にずっとうつむき加減でおかしいんじゃないか。人狼だからバレちゃ駄目だって潜もうと必死なんじゃないのか。」

それには、優子もビクッと体を震わせたが、他の男性達も驚いた顔をした。

「ちょっと待て、あのモニターの男はあの子がお前の交際相手とか言ってなかったか?覚えてないのか。」

俊也が言うのに、康介はあからさまに嫌な顔をした。

「違う、そんなはずはない。全く覚えがないし、それならそれなりに好意だってあるんだろうが、全くオレの好みじゃない。だから一緒に事故にあったというんなら、仕事か何かだったんじゃないのか。それに」と、声の調子を強くした。「オレはもし交際相手だったとしても、人狼だったら投票するぞ。誰が人狼を引いててもおかしくない。人間みんなの命が懸かってるんだ、甘いことを言ってたら皆殺しにされてしまうじゃないか。」

優子は、憎々し気に康介をじっと睨んでいる。それを聞いた俊也は困惑した顔をしたが、しかし佑が力強く頷いた。

「その通りだ。男でも女でも関係ない。みんな勝手に順番を考えて部屋に入ったらカードがあったわけだから、誰が人狼になっててもおかしくはないんだ。例え思い出して自分との関係が深くったって、それに流されて見逃せば自分が死んじまうんだぞ。康介は間違ってない。オレだってそうする。」

涼香も同感なのか、何も言わなかった。そこで皆の視線を集めた優子は、康介を見つめるその表情が鬼ように険しく赤いのにも構わずに、立ち上がって叫んだ。

「私だって!あなたなんか交際相手なんて思えないわよ!」

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