サッカー場って・・広すぎない?~2
オレ~オレ・オレ・オレ~~~~。
よくもまぁ・・この糞暑い中、玉っコロを追いかけて、右に左にとあんなに夢中になって走れるものだ・・若いって凄いね・・同年代だけどね。
日菜はコテコテの運動部嫌いなので、彼らの気持ちが良く解らない・・・別に体育が嫌いな訳ではないのだが、運動部特有の上下関係とか?規律とか?命令に絶対服従みたいなところが嫌なのだ。
口答えは一切許さん・・みたいな昭和臭い面倒な所は、昭和一桁の母親の父・・・隆志の所の<爺>を彷彿とさせるからだ。絶滅危惧種の癖に元気で、この分なら100歳まで生きそうでウンザリさせられる。
しかしサッカーと言うものを、すぐ近くで初めて見た訳だが。
土埃も物凄いし、体を張って敵をブロックするので驚きだ、ラグビーだけが玉を使った格闘技では無かったよ。タックルして転ばしたりはしないが、押し合いへし合いしているだけでかなり痛そうな感じだ。相手の赤いのを味方の青達が二人がかりで止めている、パス?を出せないくらいに肉薄しているのだ・・本当に邪魔くさい人だな、べったりと張り付かれた敵に同情してはいけないのだろうが。
あぁ、あの人は、昨日しつこい人だろうと日菜が名指しした人だったね。
確かにねちっこい人の様だねぇ、赤にまとわりついている間に、彼は相手の足の間から上手くキックをかましボールを奪う事に成功した。
すかさず我らが<ソフト君>がボールを奪い、ボールを蹴り蹴り走りしながら端から端まで駆け抜けていく・・早いね?すると敵も味方も運動会の様に疾走し始めるではないか。
急に止まったり走ったり、方向を転換したり・・・運動量半端ねぇ、この人達は絶対ご飯を沢山食べるに違いない、お母さん達はご飯の支度が大変だろう。
日菜は埒も無い事を考えながら、ただ漫然と義務的に見物していたが。
『あれ?何だろうリンダさん・・あの人胸の所が明滅していない?』
味方のブルー3号の、光が弱々しくなって来て、胸の辺りの光が点滅を始めているのだ。
『体力の限界なのだろう、今が彼の動作能力の限界だ・・すぐにパフォーマンスが堕ちて来るぞ。』
胸の光の点滅って・・・色タイマーかぃ!ジャワッチさんかい!
日菜は急いでベンチに近づくと、空に帰りそうな<彼>の事を話す。
「6番の人はもう動くのは限界です・・今休ませないと足が止まってきます。
相手で6番の人と同じ状態になっているのは・・9番の人と・・2番の人。」
「そうだな、相手がバテて来て防御が薄れるなら、こっちの流れに持って行きたいところだ。この局面なら誰を使うのが良いと思う・・?」
控えなのか、変な前掛け?を付けている人達を見つめる。
「明るくて元気で、前向きなお祭り男・・・オレンジ色の憎い奴・・・このチャラ男さんですかね?」
高校の運動部のくせして、生意気にソフトモヒカンかなんかしていて、チャラそうな雰囲気な人を推薦してみた。
「流石だな不思議ちゃん、良い所突いて来るじゃん。お目が高いぜ、この俺様にお任せだ。」
監督?みたいなオジサンと、チャラ男は何やら話し合い出し、小刻みに動き始めた・・きもい。
日菜はその他にも、イライラしている人(頭の所が点滅している)とか、焦ってテンパっている人(足の所の光がチラチラしていて、浮足立っている様に見える。)を指摘していった。
何か色々審判の人?と手続きすると板を掲げ、6番の人とチャラ男がタッチして交代していった。
6番の人はベンチに下がると、苦しそうに息をしていたが、市販のお高そうな経口補水液をガブガブ飲んでいる。やがて見つめている日菜に気が付いたようで、何だお前と不機嫌そうに眉間に皺を寄せ睨んできた、彼としては不本意な交代だったので面白く無いのかも知れない。
「今の身体のコンディションが、思う様に動ける最後の状態です、その体の感じを覚えておいてください。それ以上は無理で危険です。」
6番の胸の色タイマーは、まだ点滅し続けている・・・熱中症にならない様に、マネージャーさん達に身体を冷やす様にお世話をお願いする、彼は暑さに弱い質なのかな?
【 おおおぉぉぉぉ~~~~~。 】
突然見物人達から歓声が上がって驚いた、相手の9番と2番の間を擦り抜けて、チャラ男がボールを蹴り蹴り進んでいるではないか・・・交代したばかりで元気なのか相手が追い付けない速さだ。
「確かに9番・2番・・バテているな。」
絶好調のお祭り男をサポートするように、緑君が相手を近寄らせない様に背中で阻んでいる。みんな集まりだして相手のゴール?前は相手と味方で大騒ぎになっている。
・・・何だか大変だねぇ。
チャラ男がキック?をかましたが、相手のキーパーの人にブチ当った・・・ドッチボールじゃぁ無いから、これでは点は入らないのだろう、残念そうな声が見物人から漏れる。
ところがキーパーが弾いたボールがコロコロと転がって・・・ソフト君の前に(と言うか、ソフト君がいつのまにか、そこまで忍者の様に移動していたのだろう。)
彼はこれもシュートと言うのだろうか?・・・前に出ていたキーパーの人の頭の上を飛び越えるような、ポーーーーンとした逆Uの字型の蹴りを見舞ったのだ。
わああああああああああああああああああああ・・ゴール・・・!!
突然沸き返るサッカー場・・ビックリした~~~。
1点が入って見物人達が大層喜んだようだ、自分の高校が試合会場だから応援する見物人も多いのだろう、何だかサッカーファンって情熱的だね。
日菜は驚きつつ大人しく定位置、日傘の下の戻った・・・この頃TVに出てこない某市の非公認キャラクターの団扇でパタパタとあおぎ、内心の興奮をやり過ごす・・・少しでも知っている人が活躍するとドキドキするもんなんだね。
それに厭味ったらしい逆Uの字蹴りとは、なかなかやるじゃぁ無いか。
『日菜よ・・今のはループシュートと言うのだ。』
そうですか・・日菜的には逆Uの字蹴りだけどね。
ピーっと笛が鳴って試合の終わりが告げられる、や~~終わった終わった、これでパソ部の根城に戻れるわい・・と帰り支度を始めた日菜だったがマネージャーさんに止められた。
はい?まだ後半戦が有るって?聞いてないよ!
それぞれの選手は自分達のベンチに集まり話をしている、反省会なのかな?なにやらボードを出して色付きのマグネットを動かして話し合っている。体の他に頭まで使うとは、サッカー恐るべし。真剣な表情は多少個性的なご尊顔でもカッコよく見えるものだ、だから運動部の人は女子に人気が有るのだろう・・・まぁ、学生時代だけだろうけどね。
相手のベンチの方から視線を感じる、此方のベンチを見て話し合っている様だ。
『何をコソコソ話しているんだろうね?』
『エースの不在の割には良く動くと話しているんだろう、とかくエースが注目されがちだが、エースが自由に動けるのは周囲の助けが有ってこそだ。』
『チームプレーの競技だものねぇ、一人だけ強くても勝てないんだろうね。』
TVで有名な海外で活躍するプロの人が、母国の代表に戻ると思う様に点が取れなくなることもある様だし?よく解らないけど?そんな感じなのだろう。
日傘の下で団扇を使いながら、良い具合に溶けて来たカップの氷イチゴをシャクシャクと食べ、美味~~していたら下っ端そうなマネージャーさんが呼びに来た。
・・・氷食べながらじゃ駄目ですか?
・・駄目らしいので保冷ボックスの中に戻し、大人しくドナドナされる。
「不思議ちゃん、皆のオ~ラの色を教えてくれるかしら。」
「はぁ、良いですけど・・体調や精神的な事で色って変わるらしいですよ、あまり重要視しないでくださいね。」
ネットで神秘系の話で稼いでいる人がそう書いていたもの、余り当てにして信じ込まれても、日菜としては責任は取れんし謝罪も賠償もしないぞ?
日菜は詳しい解説は家に帰って各自検索してくれと言いながら、端から・・・青・青・緑・水色・黒・青・オレンジ・・・などと判定していった。
判定しつつ・・・<大高源吾>さん、(今は松葉杖をついている)・・・の前に来た時に)、やっぱりこの人は違うなぁ、持っているなぁ・・・と感心して見惚れてしまった。
金色に輝いているのだ・・・仏像みたいだね・・・。
どうしたの?のマネージャーさんの声掛けに、
「大高さんのオ~ラの色は金色です。」
と答えた、
高校生で<俺はカリスマ性が有る>なんて天狗にならない方が良いだろうし、他の部員のやる気をそがない為にも多くを語る事はしなかった。
緑・茶色・青・・・・・<ソフト君>の番だ・・・これも言いにくいね。
「胸の所に有る殻は沢山ヒビが入っていますが、まだ割れて居ません・・・色は分かりません。」
日菜の判定に周囲からは、早く割っちまえよ~~とか、何お前出し惜しみしてんの?とか言われて揶揄われていた。
そんな話が有って始まった後半戦、流石は強豪校・・・簡単に勝ち逃げはさせてくれない様だ。見ている方が疲れる程の熱戦で、。味方も相手も色タイマーがピコピコ光って来て、熱中症で倒れないかと心配になる様だ。襲い掛かって来る相手の赤軍団に、味方の青達はよく耐えてはいるが、耐えているだけでは勝てない・・・相手のゴールに玉をブチこまなければ点は入らない。
やっぱり<大高源吾>様がいないと押されてしまうのかなぁ、そんな事をみんな思っていた後半30分当りだろうか。
茶色がボールを取り返し、オレンジチャラに蹴り渡した・・・『日菜よ・・それはパスと言うのだ。』オレチャラは蹴り蹴り走りが上手く『ドリブルな。』相手を避けて走っていたが、ついに2人に囲まれてしまった。駄目か・・・そう思った時、後ろから走って来た<ソフト君>にオレチャラが蹴りパスした。ナイス!!<ソフト君>はノーマークだ・・・走るか?そう思った時、彼はかなり遠くの距離からゴール目掛けて長い蹴りを放ったのだ、それこそ大砲みたいにドーーーンとな!!ドーーーン!!
『ロングシュートな。』
わああああああああああああああああああああ・・・・・・・・・
歓声と共に、蹴られた玉はゴールの上の方の隅っこに上手に入って!1点追加した!!凄い凄い!!日菜も興奮して団扇を振り回し、思わずピョンピョン跳ねてしまった!!
あっ
<ソフト君>の胸に有った殻が、パッカンと綺麗に割れて、中なら眩しいオ~ラが漏れ出て来た。
『何かが吹っ切れて、自信が持てる様になったのだろう。大きな生体エネルギーを持つ者は、肉体と精神の調和を図るために、自己防衛本能で殻を作る事も有るそうだ。』
『カリスマ持ちの<大高源吾>様と違って、慎重派なのかね?』
『カリスマの傍に幼いころから居れば、己の役割を不本意にも押し付けられる事も多いのだろうよ。』
『有能な人も大変だねぇ~~。』
『多くのモノを持つ者は、また多くを背負うものだ。』
日菜は自分の事だけで精一杯・・・モブで良かったと心の底から思う。
しかしその後はイケなかった、疲れが出て来たのか立て続けに2点入れられ・・・延長戦?何それ聞いてないよ!に突入し・・試合が終わるころにはお昼も過ぎて、腹ペコちゃんになったのだった。
暑いしお腹は空くし、思わず興奮して応援したから疲れるし・・・見ているだけでも運動はライフを削るね・・やっぱり。
自分はパソの前が一番落ち着く、パソ部の教室に落ち着いた日菜はお昼のあんパンを食べながらつくづくそう思ったのだった。
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夕焼けも綺麗に、暑苦しくも疲れた一日が終わりに近づき、日菜は例の電気屋の前のソフトクリーム屋さんのベンチでソフトを食べていた。今日はメロン味だ、安っぽい合成のメロン味が美味しく舌を緑色に染めている。ボケッと油断して食べて居たら、隣にドサッと誰かが腰かけて来て驚いた。
隆志か!!
一瞬緊張したが<ソフト君>だった、彼は今日はバニラ味をチョイスした様だ、この前とは違い溶ける前に食べている。
「今日はお疲れ様、あんなに走ったらもうヘトヘトでしょう?」
凄いねぇと・・心底感心して感想を述べる・・・。
「なぁ、俺・・まだ殻を持ってるかな?」
「そんな気がしたんだね・・なにか自分の殻を破ったような感じがしたとか?」
ソフト君は真っすぐ前を向いたまま、静かに日菜の答えを待っている。
確信を深めたいんだろう・・でも、日菜は其処まで他人に親切ではないし、お偉い超能力者でもない。
「ソフト君のオ~ラの色は・・・虹色ですねぇ、青も赤も金色も白も緑もオレンジも黒も入っている。その時々で自分の色を変えられて、ピンチをチャンスに変えられる、プラスのエネルギーに満ちている人ですね。珍しい色だと思いますよ、相性の良いのは無色透明な人・・・何事にも動じないタイプの人かな。うちの学校のメンバーにはいないけど・・・今日の相手高校の、腕になんかつけていた人が無色だった。」
「矢島か・・・同じのユースのチームでプレーしているよ。」
なんでもサッカー部の強い人は皆、地元のプロチームのユース?とか言う処と掛け持ちで活動しているらしい・・・凄いね。
「なんかもう半分プロみたいだね、年がら年中サッカー漬けなんだ。」
「そう、普通の高校生の様な、自由に遊ぶ時間も彼女を作る暇もない。」
時間が有っても彼氏なんか出来ないけどね、日菜は周囲に碌な男(従兄弟や兄だな)しかいないので、恋愛に憧れる気持ちは少ない・・2次元で十分だと思っている。
「プロになって海外に移籍して、ワールドカップとかに出る様になったら、美女さん達と出会い放題になるんじゃないの?サッカー選手の奥さんて皆さん凄い美人さん揃いだし、将来の芳醇な果実を狙って今は精々精進したまえ若人よ、頑張れ未来はきっと美味しいぞ!!」
「何だそれ?」
そうだな・・そうなれば良いな。
そんな気弱そうな呟きも、この前より気持ちが籠っていて力強い。
「じゃぁな、ありがとな。あと、なんで俺ソフト君?」
そう言うと<ソフト君>は、コーンの部分をやはり一口で食べきり去って行った。ソフトを食べるのが異常に早いから・・・ソフト君なんだよ。
日菜は誰にも期待も信じられてもいないので、自分の事は自分で信じて期待する事にしている。
「来年の今頃には、資格もたくさん取って車の免許も取ったるぞ!」
『そうだ、その意気だ。』
挑戦する未来の夢は人それぞれだ、
「うん、日菜も頑張るよ。」
日菜はそう言うと、狭い自室を目指して帰って行った。
頑張れ若人よ~~( *´艸`)