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日菜とリンダさん  作者: さん☆のりこ
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別れの予感~1

 「色々とお世話いただき有難うございました、お陰様で最良の結果に成ったと思っています」


本日の日菜はリクルートスーツ冬バージョンである、夏よりも幾分生地が厚いらしい・・コートはまた買っていないから高校指定のダッフルコートだけどな。濃紺で校章など付いていないので普段にも使える優れものなのである、尤もこのコートは入学時にお母さんが何処からか手に入れて来た誰かさんのお古なのだが。肘とかテカリが出ていいて貧乏臭い事は否めない。まぁ、これから物入りなので今シーズンは我慢して、来シーズンには量販店で好みの品を手に入れようと思っている訳なのだ。


「沢口さんは頑張って来たものね、あそこの社内検定を入社時にパスする派遣は少ないのよ、貴方を契約で取ったのは相手の会社にとっても良い判断だと思うわ。」


就職先も無事に決定し、本日は派遣会社の人との最終面談なのであった。

面談してくれているのは去年サッカー部の大一番<涙の準優勝・国立の悲劇>の試合の後に、先輩と夕食を共にしてアドバイスをいただいた<バリキャリ>の女性である。


「沢口さんは素直にアドバイスを聞いてくれるから、此方としても遣り甲斐もあったし、是非とも良い所へ就職して貰いたかったの。あそこはかなり硬派な職場だけど沢口さんも、気に入ってくれてよかったわ」

「社員さんとは、それほどまだ親しく会話をしたわけでも有りませんが。無愛想棒の割には、悪い人達だとは感じませんでした、お仕事するのが楽しみです(本当は社員食堂のランチが楽しみな訳だが、それは秘密って奴である)」


男性に対して些か偏見を持っている日菜である、むしろ兄さんや隆志みたいな一見優しそう風とか、話がしやすくて面白そうな感じのチャラ男に対して警戒警報が頭の中に鳴り響いてしまう。お父さんは<空気>だしな、碌な印象が無い・・ソフト君は愚痴垂れヘタレ野郎だしな。


「日菜さんはしっかりしているから、あまり心配はしていないけれど、手元の資料を見て<アフターフォロー&ケア>の項目が有るでしょう。

仕事先の悩み・・主に人間関係の事や、それ以外の私生活でも困ったことが有ったらフリーダイヤルに連絡を頂戴ね。そこに貴方の登録番号が有るでしょう、そのサービスは毎年案内を送って更新するかどうか確認がするから返事を頂戴ね。就職してからの1年間は無料サービスよ、寂しいから少し話をしたいとか恋バナの相談とかのお話も受け付けているからね。似たような悩みの人と集まってお喋りすると気が晴れるものよ、お食事会とか開くから良かったら参加してね。」


はぁ・・傷の舐め合いですか・・。


「それと、これは最後のアドバイスだけど・・その黒縁の眼鏡、パソコン用のブルーライト阻害眼鏡でしょ。何故いつも付けているのかな?余り可愛くないし・・沢口さん、自分で気が付いている?いつも眼鏡を触っていて、変にキョロキョロしているし・・不自然な感じがするわよ。何か凄くその<黒縁眼鏡>に依存している感じがするわね」


日菜は驚いてまた眼鏡の縁を触ってしまった、その仕草は別に依存とかではなく、リンダさんに彼方此方見せる為の角度調整だったり、リンダさんがそこにちゃんと居るかを確認したくて触っていたのかも知れない。

確かにリンダさんは日菜にとって大きな存在だ、ここまでCADを教えて導いてくれた師匠だし、数少ない話し相手だし・・日菜の事を今一番案じてくれて、煩わしい事から守ってくれていた<守護霊様>みたいな存在だ。

いきなり手放せと言われても、日菜は困るしリンダさんだって行くところも無いだろう。


アドバイスを聞いて顔色を悪くした日菜に


「貴方にとって大事なお守りの様な物なのでしょう、無理に手放せとは言わないけど、もうちょっと見栄えの良い物に代わると良いわねビジュアル的には。他に代わるモノとか無いのかな?考えてみてね」


バリキャリさんは最後に大きな爆弾を投下し、面談を終え去って行った・・依存ねぇ。



    *****



 面談後には会社近くに新居を借りる為、あらかじめメールをしておいた不動産屋に向かう、絶賛電車で移動中である。便利な世の中だ、ある程度の物件がパソコンで見られるなんて・・綺麗に映っているが実際はどんなものなのでしょうかねぇ。


日菜は契約社員として就職した為に、派遣会社のウイークリーマンションは使えない。社員さんには社員寮や借り上げ住宅が有るらしいが、日菜は契約さんなので家賃補助が有るだけらしい、補助が有るだけ有難いが。会社の周辺には社員さんを当て込んだマンションやアパートが多いそうだが、地形の関係で家賃が御安い所ほど、傾斜地の丘の上の方に有るらしい。


平らの所が多い地元とはえらい違いである。


「部屋を決めるのに保証人とか要るかもしれないし、転入届を出して住民票を移したり、免許書の住所変更とか・・会社指定の銀行に口座を作らないと給料の振り込みができないしな。公共料金とかはどうすればいいのかな・・不動屋さんが教えてくれるかな?そう・・あああ・・卒業記念にスマホにしたいし。」


やらなければならない事が一杯で大変だ、引っ越し等面倒なので良い場所を見つけて半永久的に巣を作りたい・・瑕疵物件もこの際視野に入れよう。

先輩も大丈夫だったしな、痩せたのはハードワークと貧乏のせいだし。





『そうだリンダさん、眼鏡からこっちに移れるかな?』


 日菜が鞄からゴソゴソ取り出して来たもの、それはお婆様の形見のプチペンダントだった、何でも新婚さんの頃に唐突にお爺ちゃんが買って来てプレゼントしてくれたらしい・・競馬で勝ったからとか言って。お婆様は邪魔だからと指輪はしない派だったらしく、ペンダントをセレクトしたらしいのだ、かなりの年代物だがチェーンの部分も白金なので劣化は少ない・・デザインは古風な感じだがな。こんなものにも流行りすたりが有るらしい。


例によって金目の物は安全の為、すべて持ち歩いている日菜だ。

なんか遊牧民さんの様な気がして来る・・弓でも習うかな。

お爺ちゃんのプレゼントか・・若い頃も有ったのだろう。

日菜にとっては影の薄い・・お婆様がインパクトが有り過ぎたからだが・・印象の無いお爺ちゃんだったが・・無口だったしな。


『ほう、クオリティーは低いが金剛石か・・面白いカットをしているな、光を多方面に反射する様だ』

『ブリリアンカットとか言うんだよ、眼鏡より彼方此方見やすいかな?』

『・・そなた初めからこれを出さんか』

『高校生はアクセは禁止なんだよ、首のすぐ下ぐらいの位置に来るから服に邪魔される事も無いと思うんだけど』


眼鏡とペンダントをひっ付けると、リンダさんらしき何かが、スルリと金剛石の中に移って行った。ペンダントを身に付けてみる、ちょうどいい長さだね。


『どう?リンダさん』

『以前より多方面が見れて良い感じだ、其方が見ていない方向も確認できる、これは良いな』


気に入って頂けて何よりである。



    *****



 その後会社指定の銀行で口座を作り、僅かなお金を入金して通帳とカードも手に入れた。


不動屋さんに行ってメールをしたモノだと挨拶する、若いお姉さんが車を出してくれていくつかのワンルームを紹介して貰う。

若い日菜一人だと信用されないかと思って心配したが<内定通知>をの威力はバッチリで、黄門さまの印籠の如くに効き目が有った、会社の信用は絶大らしい。

先輩の所の様に都心ではないので家賃は安い事は安いのだが、それでも住居費を払うのは大変だ。瑕疵物件は無いか聞いたところ、幾つか紹介され(いくつも有る所が驚きだよ)部屋に案内されたが、そ~~っと部屋を覗いた所、透けている住人さんが部屋の真ん中におられたので諦めた。


幾つかの候補のコピーを貰い、審査表?と保証人の書類とかを受け取って帰路についた。

帰りの電車でのんびりとお喋りをする・・東京駅までがかなり遠い。



『リンダさんはどこがいいと思った、何処も似たような感じでは有るよね』

『最初の所は隣人の老人が神経質の様だったな、不機嫌そうにチラチラと此方を伺っていた、其方が下手に音を出すと怒鳴り込まれるだろうよ』


何それ怖い、とくに爺にはアレルギーが有るのですよ。


『2番目の所は、見える所は綺麗に直されていたが、配管や床下に不具合が有った、そのまま使うと水漏れが起こるだろう』

『そう言えばなんか黴臭くて、なんか湿気っぽい感じがしたよね』


そうすると少し値段は高いが3番目の物件が良いかな、古い団地みたいなコンクリートの造りで玄関には重い金属ドアが付いていた。あれで足を挟むと非常に痛そうだけど、古い外観だが造りは堅牢そうだったし、なんとバストイレは別々で、リノベーション工事をしたのか最新式のバスには風呂乾燥機まで付いていた。防犯的には女性の衣服は外に干さない方が良いと本に書いてあったし、ワンルームよりは少々お高いが、古いせいなのか間取りは広く1LDK何だよね・・食べる所と寝る場所が離れているのは有難い。布団に食べ物の匂いが付くのって嫌なんだよね。


「築35年かぁ~、私より年上だねこのお家」


『オーナーが工務店を経営していて、独自に造った自社物件なのだろう、その分堅牢に造ってあるみたいだぞ』

『オーナーさんが隣の家(結構な豪邸)に住んでいるのって、心強いものなのかな?それともウザイのかな。あって挨拶のひとつもした方が良かったかしらん』

『さあな、私は自分の屋敷にしか住んだことが無いから、入居者の心得は解らん』


さようで・・質問が間違ったみたいだね。


お父さん保証人なってくれるかなぁ・・駄目なら保証してくれる会社を挟まないとダメか・・探し直しになるね~。引っ越しって大変だぁ。



眼鏡の時と違って、屈折しつつあちらこちらが見えるようで、リンダさんは終始ご機嫌だった。


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