夏休みの逃走~2
冷蔵庫は魔窟なのですよ・・・(+_+)
「ねぇ、日菜ちゃん知ってる?もやしの最終形態は水なんだよ?」
「・・はい・・?」
「冷蔵庫の中は異次元空間につながっていて、時間の流れが速いの・・いつの間にか賞味期限が過ぎていて劣化しているし・・宇宙人の陰謀なのだと思うわ私」
・・どうしよう・・過労で先輩が壊れ気味な様だ。
「先輩これから学校なんでしょ?お花のデザインの。牛丼買って来たから取り敢えず夕飯にしませんか?食べてから登校するんでしょ?」
「・・牛丼・・どうしよう、後輩の心使いに涙が出そう」
「お茶はペットのだけど、冷たくて良いですか?コップお借りしますね」
荷物が山と積まれたデジャブ感のあるローテーブルに牛丼を広げると、日菜はコップを借りに台所に立った。
『う』
狭い流しの中に溢れ返った僅かな食器と、コンビニなのだろうか?はたまたスーパーの総菜売り場の食品のトレーなのか、その残骸にこびり付いた食材のミイラを眺めて愕然とする。
これでは憎いアイツ<G>が喜んで登場しそうな状態ではないか。
何だかネチャネチャする食器洗いのスポンジを使いかねて、日菜は洗剤を直に振り掛けて手でコップを洗った。
「おい・・し・・い、牛丼は神だわ」
先輩は涙ぐみながら凄い勢いで咀嚼している、余程腹ペコちゃんだったのだろう。なんだか・・C高時代の先輩のイメージとかけ離れてしまっている、そそとした清潔感溢れる、あの素敵な先輩は何処に行ってしまったのだろう・・絶賛行方不明中だ。
とにかく先輩の一日はモーレツに忙しいらしくて、派遣先の会社から帰宅して10分の間に着替えを済ませて、ご飯をかっ込み学校に行かねばならないと言うのだ。
先輩は牛丼を食べながらも、日々の暮らしの厳しさを日菜に訴えてくる。
「手軽なのはコンビニのお弁当やオカズ・おにぎりなんかなのだけど、毎日食べるにはお値段が高いでしょう?でもスーパーで食材を買うと、独り暮らしには大量過ぎて食べきらないうちに傷んでしまうし、意を決してカレーなんかを作ると1週間はカレー尽くしになる羽目になるしね・・カレーうどんにしたり、コロッケにアレンジしたり初めの頃はそれでも頑張ったのよ?それでも」
学校の勉強が進むにつれて、インターンと言うのかな?
現場実習と言う名の職場体験の機会が増えて、休めるはずだった土日も仕事になったそうだ。実習は是非とも花を扱う仕事に従事したい先輩にとっては、外せない職場体験な訳だし顔を売る良い機会だからと頑張ってこなして来たそうだが・・そうすると私生活に激しく皺寄せが来てしまった。
掃除・洗濯をこなす時間が物理的に捻出できないらしい。
実習が行なわれる先様までの交通費は自腹だし、使えるお金は増えないし・・生活はドンドンと厳しくなっていったそうだ。
生活費を切り詰めるのには、先ずは食費からだろう。
食べる食材は簡単な安い物、百均の缶詰やもやし・豆腐などの白物食材を多用して、何とか給料日前を凌いでいるそうなのだが、実習先で急な仕事が入るとそれを自炊をする時間も無い。
食材は冷蔵庫の中でタイムワープを起こし・・気が付くと水になっている・・もやしの他にキュウリも水になるそうだよ?
ちなみに玉ねぎや葱・ニラ等の匂いが強い食材が腐ると耐えがたい匂いを発するそうだ、一度田舎からの母の愛(救援物資の野菜)を放って置いたらガスを大量に発生させてしまい、異様な匂いに驚いた<お隣さん>が警察に連絡してしまって、パトカーや消防車が詰めかけ、大家さんから派遣先の会社に連絡が行って大恥をかいてしまった事件が起こったそうだ。何たって住んでる所が<事故物件>なものだから、周囲の人は何かと過敏になっていたらしい。どうやら腐臭・・確かに野菜の腐臭な訳だが・・と間違って、すわ事件か!地縛霊に付かれて死んでしまったのか!と勘違いをしたらしい。
はた迷惑なのは先輩なのか、はたまたお隣さんなのか・・。
そんな話を一方的に話した先輩は、身支度を整え登校していった。
いってらっしゃいませ。
・・やれやれ・・ふぅ~・・である。
都会に馴染んだカッコいい先輩を見て安心したい、田舎出の高卒でも大丈夫!都会でもOK!!と思いたかった日菜だったのだが・・先輩の方が日菜を見て安心したい様な感じだったな。同郷の馴染みのある後輩にしか愚痴れない、アレやコレやも有るのだろうきっと。
取り敢えず日菜は食べ終わった牛丼の入れ物を洗うと、ついでに流しにうず高く積み上げられた食べ物の入れ物の残骸を洗いゴミに出すべく仕訳をし始めた。都会のゴミ出しの仕方は冷蔵庫の横にお花のマグネットで貼ってあった、地元と少し違うね。
先輩の実家は農家なのでお米は送ってもらっていた様だ、炊飯器のカビカビをふやかして綺麗に洗うと、日菜はお米を上限の5合で焚いた。
一食分ずつ小分けにして冷凍しておけば、取り敢えずご飯には困らないだろうと思ったからだ。小分けにする為のラップが無かったので、預かった合鍵で戸締りをして買い物に出かける。沢山の洗濯物も紙袋に詰めた、大きな紙袋に衣類表示事に分けて3袋だ・・何気に凄いなこの量は。
駅からの途中で見つけたコインランドリーに洗濯物をぶち込む、洗濯機が3台空いてて助かった。
『凄いね~この業務用洗濯機は洗いから乾燥まで1時間で出来るんだって、使用料も中々なモンだけど、ひと夏居候させてもらうんだからこのくらいの出費は当然だよね』
洗濯機を回して終了の時間を確認してから買い物に出かける、近くに業務用のスーパーが有ったので其処を覗いてみる。いくらか買い物をしつつ、これまた近くにあった百均にも顔を出す。
『欲しいモノが近くですべて手に入るのって、流石都会だね~移動が少なくて済んで助かるよ』
『せまっ苦しいがな、あの先輩とか言う女の部屋は牢獄より狭いのでは無いか?』
その狭い牢獄が、正規の家賃だと14万はするのをリンダさんは知らないのだろう。来年には家賃が上がるそうなので(事故物件扱いは1年で終了らしいが・・地縛霊が居ないで営業妨害しない限りは)ここのマンションにも住んでいられなくなるそうだ。
それまでに学校を卒業し新たに花関係の会社に就職したいと言う。
・・・先輩も大変そうだよなぁ。
*****
買い物も洗濯も終了し、日菜は大荷物を抱えて先輩のマンションに帰り着いた。
ここからまた作業である・・炊きあがったご飯を、先輩の御茶碗一杯分ごとに分けて、ラップの上に広げて冷ましていく。広げてぺちゃんこにして冷凍した方がレンジで解凍する時に早く均等に温まるし、冷凍庫に詰め込むときも場所を取らないで便利なのだ。そんな作業は日菜が家にいる時から、お弁当を自作する為にやって来た事だ。
「IHなのは良いけど、一口しか無いのは使い勝手が悪いよね」
それでも先輩の台所には圧力鍋が有ったから、三種の有難い野菜・・玉ねぎと・人参・ジャガイモを下茹でする為に皮を剥いて大量に切っていく、圧力鍋に入れてスイッチを入れたら後は放置して掃除にとりかかる。
引っ越した時には、あんなに綺麗に飾り付けてあった<夢のお部屋>が廃墟の様に埃が降り積もっている、指をつーーっと滑らすと綺麗に線が引けた。
先輩の名誉の為に言っておくが、彼女は決してこんなに<片付けられない女>では無かった。先輩のご実家に遊びに行った事も有ったが、きちんと片付いたセンスの良いお部屋だったのだ。
忙しすぎる生活がいけないのだろう・・ふと窓辺をみたら防犯用に置かれていたサボテンが干からびていた・・お前・・いったいいつから水を貰っていないんだい?システムバスに持って行って給水してやる。
生きろ
この部屋は砂漠よりサバイバルらしい。
部屋を片付け雑巾がけまで済ますと、見違える様に綺麗になった・・ほとんど家にいないから、片付ければ綺麗で汚れも無いのだろう・・・黒い小さなゴマの様な物体、たぶん・・いや絶対<G>の落し物だ・・であろう物は多数あったが見なかった事にした。
私は何も見ていない・・これは、ゴマだ・・ゴマ塩のゴマなのだ。
次に洗濯物をクローゼットにしまっていく。
『先輩引っ越した当初は、こんなに服は持っていなかったよね・・。やっぱり、都会ではお洒落に気を使わないとやりにくい所なのかな』
周りにお洒落女子が沢山いて、プ~クスクスとかされたら遣りにくいでのだろう。
ここら辺は無駄に都会の真ん中だし、高級住宅地やお洒落な店が(業務スーパーや百均もあるが)多いから目に毒な感じなのだ・・特にお洒落女子には辛いかもしれない。
日菜は何も感じ無いがな?
この辺は面倒臭い地域な様なので、日菜としたらもっと職住接近で、だだっ広い工業地帯寄りが良いかもな・・・何だかそれでは地元に似ている感じだが。無意識に知っている所と近い場所を求めるのだろうか?人と言うのは。
その後日菜は小さめの鍋に豚肉を投入して、圧力鍋の野菜と合わせて、カレーと肉じゃがを作った。鶏肉と野菜+コーンの缶詰でクリームシチューを。牛肉と玉ねぎ+白滝(嵩を増すために)で牛丼も作ってみた。それぞれ冷まして冷凍専用のジップに入れて冷凍すれば、何回か使える日持ちのするオカズになるだろう。
後は先にお風呂を頂きつつ、妙に沢山種類のある、お高いシャンプーを使って風呂とトイレ掃除をして(マッパでやると濡れても良いから気が楽だ、これは意外な発見であった)今日の作業は終了とする事とした。
『休みに日になったら、あのランドリーで先輩の布団も丸洗いしよう』
日菜はフローリングの上にクッションを引き詰め、その上にバスタオルを敷いて就寝だ。
窓の上の方に風通しの為の小さなシャッター?横向きのブラインド見たいな隙間が有るので風通しも良い、床も冷たい事だし快適だ。
何処の部屋でも、日菜の自室よりはマシって事だろう。
先輩が帰るのは11時過ぎだと言う、先に寝ててねと言われた事だし甘えよう。
今日は疲れたんだよ・・リンダさん。
日菜はすぐに一日の疲れが押し寄せて来て深い眠りに付いた。
その眠りは、帰宅した先輩が部屋が見違える様に綺麗になっているのに気が付いて、歓喜の悲鳴を上げても目覚める事が無いほど深いモノだった。
戸締りはしっかりと、お嬢さん方はドアチェーンをしておきましょうね!




