加害者の妹~2
「此処のデラックスソフトは有名で、一度食べて見たかったんです~。」
<妹>は嬉し気に、メニューの写真をガン見してどれにしようかと・・かれこれ5分は迷っている・・早く決めろ。
「う~~ん、チョコ?蜂蜜ナッツ・・ラムレーズン・・・。」
「全部行きます?」
「いえ!そんな!此処のソフトはお高いし大きいんですよ。それにお腹冷えちゃいますよ。」
結局蜂蜜ナッツに決めて、鼻歌交じりに待っている・・あの写真でトラウマは蘇っては来なかった様だ・・安心した様な気を使ったのが馬鹿らしい様な。
「保育園の年長さんの時に、肋骨を3本兄に蹴られて折りました。でも母は信じてくれなくて・・その日の遅くに病院に連れて行ってくれたのは会社から帰って来た父でした、お医者様にどうしてこんなになったの?と聞かれた時に、父は私が喋るのを遮って階段から落ちたと嘘を言ったんです・・それで、あぁ・・この家には私の味方はいないなぁ・・と思いました。」
ディープな話を笑顔でソフトを食べながら話す<妹>、この子はもう何かが壊れてしまっているのだろうか。
「父方の祖母に愚痴ったら痴漢避けのブザーを買ってくれて、それから喧嘩の時や八つ当たりでヤラレそうになるとブザーを鳴らして隣近所に聞こえる様にしました。世間体が悪いと母に怒られ取り上げられましたが、祖母は100個単位で買ってくれていたんです。ブザーは近所の森のお地蔵さんの祠に隠して有って、鳴り止むことは有りませんでしたね。兄もそのうち根負けして、暴力では無くお小遣いを取り上げたり盗んだり、ワザと私の大事にしている物を壊したり隠したりし始めました。」
それはそれは美味しそうに、ソフトをウットリした表情で食べる<妹>。
「その頃にはもう家族は当てにはしていなかったので、自分で報復しました・・爆弾です。」
「爆弾?」
「近所で犬を飼っている家が有りまして、ビーグル犬で名前はハッチと言うんですけど。お世話が行き届いていないお家なので、犬小屋の周りに爆弾があちこち落ちていて。」
嫌な展開だな・・食事中だろ君は・・・。
「ビニール袋に拾っておいて、学校の植え込みに隠しておくんです。低学年は下校が早いでしょう?高学年の昇降口に忍び込んで、兄の下駄箱の靴の中に<爆弾を投下>しておくんです・・気が付かないで履くと~~。」
楽しげに思い出し笑いをしているが、やはりどこか壊れている様で痛々しい。
「虐めっこだったから、報復してくる相手は見当が有り過ぎて困ったみたいでしたよ。私に洗えと命令して来るけど、そんなの真面目に洗う訳が無いし、臭いから集団登校の時にも皆からハブにされるし。母が気が付いて激怒して学校に怒鳴り込んで行ったんだけど、かえって虐めの事実が発覚して・・まぁ、母も兄も認めやしませんでしたけどね。」
なにそれ・・恐いこの子・・・。
「兄が中学から地元を離れ、私立に行ったのはそのせいです・・まぁ、頭は良かったから行くところは有ったのでしょう。遠いから朝は早く出かけるし、帰りは遅いし・・最高でしたよ。」
その後母親は兄の学費を賄う為に、パート社員から正社員に転職して家にいる事も少なくなった様だ。<妹>はそれでも母に褒められたくて、洗濯物を取り込んで畳んだり、ご飯を炊いておいたりして積極的に家事を手伝っていたそうだ。
それでも母の関心は兄だけに向いていて、有難うの一言も言って貰えない。
成長するにつれ母は、実家の畑仕事や家事の手伝いなどに<妹>一人を放り込んで、自分が嫌悪する親戚付き合いを<妹>に押し付けて来るようになった。
「それで私思ったんです・・もういいやって。
別に母から好かれなくても、相手にされなくても・・もういい・・と。
手に入らないものを欲しがって泣くより、自分で手に入れられるものを探そうって。高校を卒業したらあの家を出て行こう、自分の居場所を探そう・・そう決めたのは小学校の4年生の時でした。」
デラックスソフトを完食すると<妹>は姿勢を正し、真っすぐ俺の目を見据えてから頭を下げた。
「あと8ヶ月で高校を卒業します、あの家から出て自由になれるんです。
今、母の精神状態が悪くなり、鬱とかになられても困るんです。
私は介護する気は有りませんが、母の親戚・本家は私が東京で就職する事・家から出る事を良しとしないでしょう・・手を尽くして妨害してくるはずです。」
「それで・・・こちらに傷害の被害届を出すなと?」
<妹>が顔を上げると、泣きそうな表情をしていた・・さっきからの不遜な態度は何処にもない。
「お怒りは御尤もです、しかし兄は既に就職の内定を取り消され、交友関係も絶たれ社会的に制裁を受けています。
母は慈しんで大事に育てた息子が、よりによって大っ嫌いな己の父そっくりに成長した事に驚き、ショックを受け嘆き苦しんでいます。
・・全ての元凶は母を愛さずに蔑ろにして育てた、男尊女卑の塊の祖父に有るのでしょう・・母が私を嫌うのも、私ばかりが良い思いをしていて狡い、自分の小さな頃はもっと酷い目にあった・・と言っていましたから。」
そんな事は、被害者の女性には関わり合いの無い事だとは解っていますが・・。
呟く様にそう言うと・・
「・・・・しないで下さい・・お願いします。」
深々とまた頭を下げて来た・・・。
******
・・・・・・・と、言う話でした。
弁護士事務所に戻って、次の打ち合わせの時に<妹>の意向をそっくりそのまま依頼人に告げた。基本的に優しい人柄である依頼人と、子煩悩で愛情あふれるそのご両親は、信じられない思いで<妹>の告白を聞いていた。
「同じ腹を痛めた子供に、そんな仕打ちが出来るなんて・・。」
「娘が可愛くないのか?信じられん・・今だって放置している状態なのだろう。」
そう言いながら父親は依頼人の頭を撫でていた・・それもどうかと思うが。
「そうですね・・300グラムのステーキを完食し、サラダを3回お代わりするくらいには餓えている感じでした。身なりも洗濯は行き届いていて、こざっぱりした感じはしましたが衣服は古くくたびれた感じがしましたね。受け答えも丁寧でグレている感じではありませんでしたが・・何事にも冷めていて他人を信用しない感じはありました。貴方のお嬢さんと真逆な感じの少女でしたよ。」
鞄の中から少女から受け取った資料を出す。
「これが<妹>が自立の為に取得した資格の一覧表です、人と係わるのは苦手だそうなので機械相手のパソコン関係で資格を取得したそうです。」
渡した一覧表を、親子で頭をひっ付けあって覗き込んでいる。
「凄い・・私、この半分も取れていない・・。」
「頑張ったのねぇ・・・。」
暫くの沈黙の後・・
「解りました・・あの男の事は今でも許せませんが、同じ被害を受けて育って来た妹さんの自立の邪魔はしたくはないですから・・・。こんなに努力して、どうしても家を出たいのでしょう・・可哀想に。その子が安心して暮らせる場所が出来る事を、私達も願っていますよ。」
「有難うございます・・・これであの子もホッとする事でしょう。
その分、民事の方はガッチリ行きましょう、あの男が二度とふざけた真似が出来ない様に叩きのめしてやりましょう。」
*****
『結局、其方の予言通り事は進んだな。』
予言では無いな・・こんな事件を起こす<核>は幼い頃から芽生えてたのだ、それを無視して目を瞑って来たツケを払う時が来ただけだ。
『予言何て無いそうだよ?・・お婆様がよく言っていたっけ。
状況を冷静によく見て、余計な先入観を持たず、相手の本質を考えてみれば・・大方の先の事は読めるものなんだと。』
『被害者の女と親はどう動くと思う?』
日菜はクスッと笑った
『泣き落としが聞くタイプだと思うよ?娘に甘そうで情に脆い感じだから・・娘と年がそう違わない妹が、苦労して健気に自立をしようとしていれば、其処は人として邪魔は出来ないでしょう~。』
まぁ弁護士のオ~ラの色が<白>で、純粋で他者を理解し大切にしようとするタイプだったから仕掛けたのだが・・弁護士としてはどうかと思うが・・ステーキ美味かった、デラックスソフトまた食べたい。
その弁護士のオ~ラの肩の上に、依頼人の両親と思われるオ~ラの色がチョコンとスライムみたいに乗っかっていたので驚いたが、そのスライムの色が<緑>と<水色>だったので共に思いやりのある平和主義だと判断したのだ。
『まぁ、効果のある報復方法も教えておいた事だし?』
『おぬしも悪よのぉ。』
ほっほっほっ・・リンダさんはこの頃時代劇に凝っている。
その後、最終的に示談が成立し慰謝料の額も決まった。
慰謝料は一括払いでは無く、加害者の男の給料から支払われる形式となった。
【一括払いだと親に立て替えさせて、平気で踏み倒しますから・・兄は。】
毎月の給料から4万の支払い・・内定を取り消され、新たに就職先を推薦無しに探している兄には辛い罰になるだろう。払いが滞れば、民事の件を仕事先に通知する手はずで合意して有るのだから逃げられない。
その額300万・・新入社員には重い借金で有ろう、奨学金を借りたと思えばよくある金額だ。兄も高い勉強代を払ったと言ったところだろうさ。
因みに被害者のお嬢さんのご実家は古い地主で、かなりの資産家で不動産も沢山所有していた・・兄のワンルームマンションも実は彼女の親の物件で、兄は部屋を追い出されて地元に戻って来てしまった。
・・・誤算だった・・・うえ~ぇ・・・・
でも明日から夏休みだ!!
日菜は夏休みには、先輩の部屋に居候しながら講習やバイトをする予定だ。
ドヨ~ンとした家の雰囲気を余所に、日菜は東京行の荷造りに余念がなかった。




