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日菜とリンダさん  作者: さん☆のりこ
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偉そうな玉

冠婚葬祭は疲れますね、関係者はなおのこと(+_+)。

 お婆様の御葬式は万事恙なく終了した.


 出来たてで、ほのかに暖かい遺骨は49日が終わるまで長男の家に鎮座しておく事になった。長男夫婦は難色を示したが、家の面積が一番広く、置いておく場所が有る事が決め手になったようだ。

 皆お婆様を嫌っている訳では無く・・・何だか夢に出て来て、お説教をされそうで~~と恐れた為に決定が遅れた様だ。

 大人になって長い間生きていると、脛に隠したい秘密の傷が3つや4つや5つは有るそうで、霊界に移動したお婆様には、そんな隠し事もバレそうなので・・それが非常に恐ろしいらしい。大の大人がマジで恐れている姿が滑稽だ、大人として生きて行くって事は大変そうだなと・・高校生の日菜は思った。





 そんなこんなの譲り合いと言う名の押し付け合いが有ったので、日菜の家族が県をいくつか通り過ぎて、自宅に帰り着いたのは日を跨いだ深夜の事だった。


「疲れたわねぇ・・・。」


お母さんが物憂げに言っている。



 お婆様の様態が危なそうだと、ホームから連絡が有ったのは水曜日の深夜だった。慌てて日菜の家族を含む親戚の皆が駆けつけた時には、すでに昏睡状態で意識は無く、いつもの無表情なお婆様がただ蝋人形の様にベットに横たわっている状態だった。数時間が沈黙のなか過ぎて・・ようやく親戚一同が揃い、どんな具合なのかと改めてお婆様を覗き込んだところで、突然アラームが喧しく鳴り響き、皆死ぬほどビックリさせられたのだ。


 慌てた医師や看護婦が部屋に乱入して来て、家族はベットから遠ざけられる・・・その騒ぎに呆然として見ていたら・・・そのままポックリとお婆様は亡くなってしまった。TVでよくある心電図がピ~~~って言うのは有ったのか・・・無かったのか・・・混乱の極みで日菜は覚えてはいない。


 親戚が全員揃い、顔を合わせた途端の出来事で、実にタイミングを見計らったような、お婆様らしい最後だったと言えるだろう。

 それから葬儀の手配やなんやかんやが有って、火葬場の順番が(亡くなる人が多いとドライアイスに囲まれて、冷やされて順番待ちになるそうだ。死んでも行列しないといけないとは、これはおちおち死ねそうに無い。)お婆様は運が良いのかどうにか滑り込んで、金曜日の最終組にお骨に出来たのは幸いだった。土日は火葬場も休みだとかで、最悪月曜日にずれ込んでいたら忌引き休暇が伸びる所だったそうだ。忌引きに休暇を使うくらいなら、他の事で休みを使いたいのが嫁である母の本音である・・・忌引きも有給休暇もごちゃ混ぜな、そんないい加減な福利厚生の会社が母の会社だ。

 この2日間は、ホームの近くのビジネスホテルに泊まり込み、ホームや葬儀場を行き来していたのだ。食事はコンビニやファミレスで済ましていたし、快適とは言い難・・・実に快適だった。良いよねホテル、余分な物が無くてすっきりしていてさぁ。






「お兄ちゃん、早くお風呂入っちゃいなさい。疲れてるでしょう?」


 こんな時の、母の優先順位は・・兄>母(自分)>父(旦那)>日菜である。


 こんな風に一家揃って疲れている時には、日菜など単なる高校生なのだから、働いている両親を優先するのは当然な事なのだそうだが・・・兄もまだ大学生で働いてなんぞいないのだが?

 そんな事を言おうものなら、お兄ちゃんは勉強とバイトで疲れているとか、日菜より難しい事を習って頭の疲労度が違うのだとか・・色々と理屈を並べて正当化するのが常だった。まぁ、別にいいんだけどね。



「日菜、貴方明日学校休みでしょ。お母さんシフトが入っているから、この喪服クリーニングに持って行って頂戴。お線香臭いし、縁起が悪いからね・・・あぁ~~気持ちが悪い。」


兄と母・父親の喪服のスーツを持って日菜の部屋に来た。


「スーパーの所のクリーニングは仕事が雑だから、駅前の所に持って行ってね。」

「お母さん、あたしの制服はどうしよう?」

「あんた月曜日にまた着なけりゃならないでしょう、もうすぐGWだし、シュッシュしておけば良いんじゃない?」

頼んだわよ、そう言って母は洗面所に化粧を落としに行ったようだ。


「気持ちが悪いか・・それをあたしには着ろと言うのかい?確かにお葬式は独特な感じだしね。お香の香りもキツイし、このまま学校に着て行ったら寺女とか言われそうだよ。」


 日菜の部屋は狭い、建売物件の部屋の作りは総じて小さめなのだろうが、特に日菜の部屋はDENとか言えば聞こえは良いが・・・要するに納戸で3帖の広さも無いと思う。窓も無いし圧迫感は相当なものだ、特に夏は暑くて廊下の引き戸を開けておかなければ寝付くことも出来ない。

その狭い部屋に抹香臭い服を置いて行かれた・・・・。

紙袋に入れられたそれらからは、確かにお葬式の匂いがするので、これはタマランとばかりにベランダの隅に追い出した。自分の制服も廊下の反対側の兄の部屋のドアの取っ手に引っ掛けて部屋から閉め出す。


「ふぅ~~、やれやれだよ。」


 とにかく狭い部屋なのでシステム家具を使っている、2段ベットの様に高い所に寝る場所が有り、其処に布団が敷いて有る。天井までの距離は50センチ程だろうか?日菜の体が小さいから良かったものの、体が大きい人なら毎朝天井に頭突きをカマしてに目覚める事だろう。そのベットの下には勉強机と本棚、残りのスペースに突っ張り棒を使ってハンガーが掛けられる様になってあり、いつもは制服や僅かばかりの服が引っ掛けてある。洋服ダンスなどを置くスペースは無いので、奥行きの浅いカラーボックスに百均で売っている紙で出来た可愛いBOXに下着や靴下、女子高生らしい小物を入れてある。

 ここに有る物がこの家に有る日菜のすべてだ、リビングのソファに堆積している諸々の品々は、母や兄の持ち物なのだ。父はお婆様の躾の賜物か、きちんと整理整頓している様だが。


どうも母・兄の2人は<お婆様>の生き方の真逆を突き進んでいる様だ。


 しばらく家族達がゴソゴソと動く音がしていたが、静かになって来たので、日菜もシャワーを浴びようと洗面所へと移動した。去年壊れた為に新しく買い替えられた乾燥機付きのドラム式洗濯機の中に、何日か分の汚れ物が詰め込まれて放置されている。洗濯物の数は多いが、このところの異常気象の為か、ここ数日は初夏並みの暑さだったので服の生地が薄くて小さめな所が助かる。


「今時の制服は家で洗える、ウォッシャブルなんだよ~~。」


縁起が悪いと言われた喪服代わりの制服を、家族の服と一緒に洗ってやる。

余りに親戚一同(うちの家族を含む)お婆様を恐れ騒ぐので、ザマアミロの気持ちが少しあるのは確かである・・・そんなに怖い人だったかなぁ?ちょっと失礼じゃないか?日菜には優しい良いお婆様だった。


「おっと、忘れてた。」


内ポケットの中からお婆様からの心使い<前倒しの御祝い金>を取り出す、幾らあるんだろう?数えるのも面倒なので明日駅前にクリーニングを出しに行くときに銀行のATMに放り込めば数えてくれるだろう。


「それから・・もう一つあったね。」


 お婆様から渡されたビー玉を取り出して、手の上に置いて眺めてみる。

あの日拾った時の様に、何やら薄ぼんやり光っている様だ。

まぁ時間も遅いしさっさと済ませようか、日菜は制服を洗濯機の中に押し込み洗剤を放り込んでスイッチを押した。



    ******



シャワーを済ませ髪を乾かすと、もう外は明るくなって来た様だ。

海も森も微妙な距離で近く、自然が豊かなこの付近では朝は鳥の鳴き声で喧しい。


「このまま寝ないで、洗濯物干しちゃおうかな。一度寝たら起きれる気がしない。」


 制服が月曜日までに乾かなければ、ヤバい思いをするのは日菜自身だし。

狭苦しいリビングを抜けテラスの掃き出し窓を開けて、朝のすがすがしい空気を吸おうと外に出た時だった。


『やれやれ、やっと広い所に出たか・・緑が多くて空気が清浄だ。』


魅惑のバリトンボイスが突然響いて来た・・・え・・・なに?泥棒?


『誰が泥棒だ、失礼な小娘だな。この偉大なる魔術師サマリンダ様が、此処に有るような有象無象を盗む訳が無かろう。』


玉が喋った・・有象無象って、お母さんと兄の大事な物なんですけど・・この堆積物は。


『もっと景色を見せてくれ、畑が多いようだがエライ田舎の様だな、見るべき物などは無いのか。』


 何なんだよ、この面妖な玉は偉そうに・・・。


 田舎・・と言われれば確かに田舎だが・・失礼な奴だな、少し車で走れば国でも有名な企業のコンビナート郡が見えるわ。疲れていた日菜は突っ込む気力も体力も無く、2階に行くとロフトに上る梯子を降ろしノソノソと登って行った。ロフトに有る小さな窓なら3階位の高さが有るので、遠くまで見渡せると思ったのだ。

 腕を背一杯伸ばして玉を翳し周囲の景色を眺めさせてやる、此処からなら工場群や大きな鎮守の森とか県道沿いの店舗などが見えるはずだ。


『ほぉ、なかなか興味深い。』

「そりゃ良かった。」


 お婆様が遺して行った物が・・まともな筈がなかったよ・・・。


 日菜の家は駅から遠い分格安で、周囲には家がまばらで畑や空き地が広がっている。瓦の重厚な屋根は、昔から此処の土地に住んでいる根付きの人の家で、農作業をする作業場や日本庭園風に植木などが植えて有って、昔ながらの日本家屋って感じだ。日菜の家は一軒家だが、今風なデザインの建売で、それは父親が就職してこの地にやって来た新参者と言う事を物語っている。


「遠くに薄っすら見えるのが海、その手前にあるのが工場のコンビナート郡。あそこの深い森には古い神社が有るんだ、大昔からの信仰の対象で此処の土地の人達には大切な場所なんだよ。」


日菜自身は宗教に興味は無いが、この土地の住む者の礼儀として尊重している。


『コンビナート郡とは何だ、何の役割を担っているのだ。』

 

 そこは日菜の父親の勤め先が有る工業団地だ、夜通し稼働しているそれらは、早朝にも薄っすらと明かりを灯している。今も煙突からは薄い煙がたなびいていて、今日は丁度いい風が吹いている事を示している。市の中央を貫いている国道や県道は広く、左右に並ぶ有名チェーン店は2階建てがデフォで駐車場が広く取ってある、この辺は車が無いと住みづらい地域だ。


 玉を翳していたら、何だかカラスやカモメが沢山寄って来て、カアァカァアと鳴き出したので、慌てて引っ込み窓を閉める。カラスは光る物が好きなんだっけ?ちょっと引くぐらいの数が飛んで来た、この玉はカラス使いなのか?


『あの老婆にずっと閉じ込められていて退屈していたんだ、もっと何か見せろ、私にこの世界の知識を与えろ。』


 玉が五月蠅く騒ぐ、家族が起き出して来て玉を見たらまた大騒ぎになってしまうだろう、それは面倒臭くて嫌だった。

 日菜は考えた結果、誕生日に贈られた<兄の中古>の電子辞書のスイッチを入れて、その上に玉を置いてみた。電子辞書には国語辞典や英和辞典・薬の辞典・世界や日本の地理・歴史・古文・名作文学の触り・防災の知識のあれこれまで入っているから時間潰しには良いと思うよ?


 電磁辞書の上に鎮座した玉はフルフルと震え、光を強めると中の魔法陣の様な模様を高速回転し始めた・・・喜んでいる・・?様で何よりだ。日菜は自分専用のパソコンをまだ持っていない、バイトをしながらお金をためている最中なのである。


「みんなが出かけたら、家族用のパソコンを起動して乗せてあげよう。」


 何やら偉そうな玉だが、この世界の情報の海の負荷に耐えられるかな?

 そんな事を考えて居たら洗濯物が洗い終わった音が鳴った、ベランダにカラス達の姿も無くなったので、日菜は手際よく洗濯物を干していった。


次話は玉の秘密・・です。

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