事件~2
胸糞悪い家族です(-_-)/~~~ピシー!ピシー!
日菜とお母さんの一方的な親子喧嘩は収拾が付かず、これは駄目だと思った警察によって別室にと分けられた。遠くからお母さんが日菜の事を非難している声が聞こえてくる、どれだけ興奮してんだよ・・みっとも無い。
日菜は冷めた気持ちでまたまた教習所の教本を読んでいた・・することも無いからね、一連の経緯は既に話したし、兄さんが此処に来るまでは一歩も動いてやるものか、そう腹を括ってモアイ像の様に座り込んでいる。
そうこうしている内に夕方となり、空に夕焼けが広がるころ何故か影の薄いお父さんが警察署にやって来た。さては扱いに困って警察が呼び出したな・・。
「日菜、家に帰ろう・・一度家族で良く話をする必要が有るだろう?此処にいても御迷惑になるからな、帰る支度をしなさい。」
お父さんの言葉にも、眉間に皺を寄せて不満そうにしている日菜に、刑事さんが話しかけて来た。
「家に帰って暴力や虐待の心配が有るなら、いつでも警察に連絡してきなさい。これが刑事さんのメアドだ、少年課の者にも連絡を入れておくから。な・・今日の所は帰りなさい。」
どうやら何処にも日菜の味方はいないらしい、殴られた後に連絡してどうなるのだ?殴られ損ではないか・・どうも警察と言う所は事件が起きて被害者が出ないと機能しないらしい。予防の大切さを知らんのかね、刑事さんの顔をマジマジと眺めまわしてやった。不信感丸出しの日菜に、大丈夫だからと慰めにもならない言葉を掛けて来る・・どいつもコイツも糞の役にも立ちゃしない。
そんな話をしている刑事さんと日菜の姿を、お母さんは冷ややかな目で見ていた。
警察署の駐車場に、お父さんのセダンとお母さんの軽が仲良く並んで停まっていた、どちらも古くくたびれた車だ。
今までこの二人はどれだけ兄さんにお金を掛けて来たのだろう・・理系で忙しくバイトが出来ない、欲しい学術書が有るからと言ってはお金を無心しに来たっけ。下宿先だって綺麗なワンルームマンションで、学生には分不相応な家賃が高そうな物件だった。
世界は兄さん中心に回っている訳では無い・・。
お父さんは日菜に車に乗る様に促して来たが、自転車を残していくと明日の通学に不便だからと断った。日菜も自転車で走りながら後の事を考えるから、お父さんもお母さんと話し合って、兄さんを呼び出しておいてくれと頼んだ。
お父さんに呼び出されても顔を出さないのなら、本気で被害届を出すから、これは脅しでは無いからね・・そう最後通牒を告げると、お父さんは解った日菜の気持ちは尤もだと言ってくれた。
お母さんはそんな二人の話を聞いていたが、乱暴に大きな音を立てて軽のドアを閉め、急発進で無理矢理幹線道路に飛び出し、危うくぶつかりそうになった車にクラクションを鳴らされていた。
・・警察署の真ん前で・・良い度胸だねぇ・・・。
夕焼けの空に蝙蝠がフラフラと飛び交うのを見上げながら、日菜は一つの家庭が崩壊していくのを感じていた・・最も日菜の家庭は随分前から経年劣化か金属疲労でも起こしていて内部崩壊が始まっていたのだろう。家族の誰かしらが我慢を強いられ、無理強いをさせられていたのなら・・それは既に健全な家庭の姿では無く虚構の産物だったのに違いない・・少なくとも日菜にとっての沢口家はそんな感じだった。
*****
帰宅するのが憂鬱で小一時間で着く距離を、3時間近くも掛けてゆっくり帰ってしまった。自宅に帰りたくない、帰宅恐怖症のサラリーマンの気持ちが解ってしまった様な気がする。
帰り着いた家は明かりが灯っていたが、家全体が何故か冷え冷えとしていて、居心地が悪そうなそんなオ~ラが見えるような不気味な雰囲気を醸し出していた。
『これは・・兄さんが戻っているな。怒っているオ~ラが2つある、何で怒っているかな?腹が立っているのはこっちの方だし。』
日菜は心の褌を絞め直して、敵陣に切り込む心持で家の中に入って行った。
すぐに顔を合わせるのもはばかられて、先ずは制服を着替えようと自室・・DENと言われる納戸だが・・に入って驚いた。この汚屋敷で、唯一整っていた日菜の部屋が荒らされていたのである、本はすべて床に放り出されていて、僅かな服もベットに積み重ねられ散らばっている。布団もすべてカバーが剥がされており、部屋の中で通帳を探すために家探しした後が如実に残っていた。
日菜は頭に血が上って、目の前が真っ赤に染まった。
階下のダイニングに向かったら、煤けた親子が物が積み上がって機能不全のテーブルの前に座って話し込んでいた。どの顔も深刻そうな雰囲気を装っているが、所詮身内のゴタゴタだと思っているのか、チョッとしくじったぐらいな感覚なのだろう・・日菜に詫びを入れて誤魔化せばどうとでもなると思っているのが見え見えだ。
日菜は黙って冷蔵庫を開けると麦茶を取り出してコップに注ぎ一息に飲み干した、そんな様子を家族は黙って眺めている。
日菜が何も言わないのでお母さんが口を開いた、
「日菜、あなたお兄ちゃんに何か言う事は無いの?」
「泥棒。」
「日菜!」
日菜は自分のガラゲーを見せ付けると
「部屋を荒らしてくれてどうも、証拠として写メ撮って刑事さんにメールしておいたから。」
「日菜!あなた自分のお兄ちゃんを陥れて楽しいの、お兄ちゃんは今大事な時期なのよ、将来の事を考えたらこんな酷い事なんて出来るはずないでしょう。だから私は日菜に大金を持たせるなんて反対だったのよ、お金はお兄ちゃんにあげなさい、あんたが持っていても無駄なだけなんだから。」
お母さんの喚いている後ろで、兄さんが嫌な顔でニヤニヤ笑っている・・本当に解っていないんだなこの親子は。
「いい加減にしないかね貴子さん。」
日菜の纏う雰囲気が一変して皆が息を飲んだ。
日菜は例のお婆様のポーズ・・両肘に手を当てて斜に構えるお得意の姿勢を取って、お母さんの顔を侮蔑する様に横目でチラ見してから兄さんを正面から見据えた。
『どうせ日菜が何を言っても、この家族はまともに相手にせず反省などしないのだ、此処はお婆様に降臨して貰うに限る。』
一重の頃にはかなりお婆様に似ていた日菜だったが、今はアイ〇チで二重だからどうかな?と思っていたが・・思いのほか3人が本気でビビッているので驚いた。
『あの老婆なら私も見知っているからな、姿かたち・声など再生するなど簡単な事だ。其方言いたい事が沢山有るのだろう、存分に言ってやれ・・それがあの方達の為になるだろうよ。』
リンダさん、グッジョブだ!
「馨さん・・あんた自分が利口な人間だと自惚れている様だが、それほどの利口者では無い事を知る時が来た様だよ。現に今回だって日菜さんに出し抜かれて下手を打っただろう、日菜さんはねあんたの手癖の悪さを身に染みて知っていたから自衛をしていたんだ。貯金通帳にワザと違う印鑑を付けて輪ゴムで止めていたのはその為だ、簡単なトラップに引っ掛かる様じゃ頭の出来も知れたものだね。」
通帳の届出印と違った印鑑をワザと組み合わせて保管しておくと言うのは、ネットで見た盗難避けの裏技だ・・元銀行員のスレ主さんが投稿していたのを見て参考にしていたのだ。お陰様でトラップは見事に作動して、犯人は捕まり日菜の貯金は払い戻される事無く無事に手元に戻って来ている。
「今回の件はあんたが思っている程に簡単に片付きはしないよ、何たってよそ様の大事なお嬢さんを巻き込んだんだ、相手の親が怒っているからねこのままでは済まされないだろうよ。」
兄さんは心底訳の解らない様な顔をして此方を見ている、彼の中で格下認定している女なんか、頭の隅にも無かったのだろう。兄さんの予定の中では彼女が大人しく罪をかぶって、自分の事など自供しないとでも思っていたに違いない・・何処までお花畑なオツムなんだか。
「あんた随分とあのお嬢さんに酷いことをして来たみたいだね、Fランの女子大生だからって何をしても良いって訳じゃぁ無いだろうに・・・。
本命の彼女が居ながら、家政婦扱いして良いように利用して来た様だね、その甘い顔で愛を囁けば簡単に騙されて言う事を聞く様になるとでも思っていたのかい?今回だって成功して金が手に入ったら彼女は精々浦安の夢の国にでも連れて行ってお茶を濁して、本命の彼女とは海外旅行にでも洒落込もうってと算段していたのだろう?呆れたものさ・・・遊びに行きたかったら自力で稼ぐがいい。妹のお金を狙うなんて、その腐った根性には反吐が出る。」
『日菜・・あの老婆はそんな言葉は使わなかったぞ?』
むぅ・・リアリティが無くなるか・・もっと罵倒したいのだが。
「あのお嬢さんはね、あんたにやられた事を克明に日記に書いて記録しているよ、殴られたり蹴られたりした後は病院に掛かって診断書も取ってある。
そうそう・・酷いモラハラの会話はボイスレコーダーに記録してあるようだよ・・・覚えが有るだろう?今回の盗みの指示もボイコの中に記録されている、あんたが思っていたよりもずっと賢いお嬢さんだった様だね。」
ここにきて初めて事の重大さを認識したのか、兄さんは青くなっている。
人間って本当に青くなるんだぁ・・逆にお母さんは真っ赤になっているが、これでお父さんが黄色くなったら信号機だね。
『ふむ、その様な事が本当に有ったのか?』
『いや?当てずっぽうのハッタリだけど図星だった様だよ、元々すぐに手が出るDV気質のある奴だったから。そのくらいの事はやりそうだと、長年妹をしてれば見当がつくってもので。』
彼女がちゃんとDVやモラハラの証拠を取っているかは定かではないが、今時の女子大生ならそのくらいの自衛は出来て当たり前の事だろう・・日菜の様にネットの住人なら良いのだけれど。
「あんたが彼女に掛けた服従の呪いは残念ながら解けてしまったのさ・・どんな人だって粗末に扱って良い訳が無い、あのお嬢さんは家族に大事に育てられて来た箱入り娘だ、それ故にあんたの様な下種野郎に良い様に扱われてしまったんだね・・・日菜さんぐらい家族にぞんざいに扱われていたら人を見る目もあっただろうに・・・残念な事だ。」
ついでだから長年の鬱憤も吐き出してやったぞ?
日菜の扱い方を平均だと思うから酷い事を平気で出来る様になるのだ、世の中には愛娘に甘い親も沢山いる事を思い知れば良い。
「彼女も彼女の親御さんもあんたを決して許さないだろう・・親御さんは民事で訴えるだろうし、教授の所にもご注進なさるだろうさ。教授の推薦は取り消され内定は反故になり、本命の彼女には軽蔑され逃げられ、あんたの周りに残る友人知人は一人もいなくなるだろう。」
お母さんが驚いた様な顔で兄さんを見つめている、お母さんの前では従順でジェントルな良い息子だったからね、乱れた男女関係など信じられないのだろう。
まぁ言わせてもらえば、日菜の聞き触りの悪い苦情や非難はずっと無視していて、聞こえないふりをして理想の息子の幻影に酔っていただけだと思うが。
「誠心誠意謝る事だ、彼女は心を病んできているからカウンセリングも必要だろうし・・それ相応の慰謝料を出す事になるだろうが・・それしか彼女の苦悩や相手のご両親に詫びるすべは無いだろうよ。」
「そんな・・家のお兄ちゃんだけが一方的に悪いなんて、言いがかりだわ!」
ねぇ!そんな事していないんでしょ、有り得ないわよね?
お兄ちゃんは勉強が忙しくて、そんな低級なFランの女子大生となんか付き合っている暇なんか無いでしょ?
兄さんに思いがけなく女の影など出現してきて、お母さんがヒートアップしている。いい歳なんだから彼女の一人や二人いてもおかしくはないとは思うが、二股はイケませんでしょ・・人としてそれはどうよ?
「そうなれば裁判になるだろうさ、忠告が聞けないのなら好きにすれば良い。」
日菜は<お婆様ポーズ>を終了するとワザとらしく座り込み、あれ?私どうしてたの?みたいな臭い芝居をした。リンダさんの幻術魔法から覚めた振りをした日菜は、何故だか家人から非常に恐ろしいモノを見る目で見られたが何故だろう?
『老婆な既に亡くなっているからな、それなりの雰囲気で演出してみたのだが・・効果が有ったようだな。』
何それ怖い・・呪〇系ですか?天使系ですか?恐山のイタコ系でしょうか?
その後お父さんは詳しい事を聞かないと対策も立てられない正直に全てを話せと、兄さんを連れていつも空いている(なぜか潰れない)ファミリーレストランに男どうしの話合いに出て行った。
お母さんは
「本当に薄気味悪い子ね!みんなみんな、あんたのせいよ!!」
などと叫んで日菜に掴み掛かって来たので、キシャァアアアアァァァァァ~~~~ッと叫んで(某昔の怪奇漫画の様に・・赤んぼ少女とか言ったかな)襲う真似をしたらビビッて本気で悲鳴を上げられた(笑)。
その後お母さんは和室に引きこもったので、日菜は荒らされた自室の整理整頓に励んだのだった・・やれやれ疲れたよ。
兄さんはサイコパスに成れる程の緻密さや、感性は有りません。
たんなる勘助の自己中モラハラ・DV野郎なんです!!
十分酷いな・・やっちまいな!(◎_◎;)