事件~1
嫌な話です・・・(+_+)。
「沢口日菜さんご本人ですか、ご本人と確認できる物を何か持っていますか?」
オレオレ詐欺かと思ったが、ほんまもんの警察からだった。
警察など縁が無かったから・・(運転試験場にはこれから行くけどな)・・緊張しつつお返事をする。
「生徒手帳、学生証ならありますが、家に帰ればパスポートも持っています。」
「今はどちらに?」
「数Aの授業中で、教室前の廊下で話していますけど。」
「貴方名義の通帳からお金を払い戻しをしようとした者がいますが、あなたはその様な依頼をしましたか?」
「していません、ドロボーです捕まえて逮捕して牢屋に入れて下さい。」
詳しい話が聞きたいとの事なので、日菜は学校早引けして警察署に向かう事となった。パトカーを向かわせると言われたが、大事になりそうなので(日菜が逮捕された等とデマを流されそうだもの)ご遠慮してチャリで警察署に向かうことにした。
先生を廊下に呼び出して、事の経緯を話し早引けの許可を得る。鞄に手早く荷物を詰め込んで、教室の皆の注目を浴びながら後ろの出口から早退していった。
授業中に廊下を歩くと何でこんなに音が響くのかな・・明日には尾ひれがついて噂話が流れるのだろうな・・本当にいい迷惑である。
幸い警察署は市内に有るので、そんなに遠い場所ではない、十分チャリ圏内なので焦る事無く安全運転で走る。教習所に通っているからね、このところ交通ルールには厳格に従っているのだ(笑)。
『警察署?・・・騎士団みたいな所か?』
ワクワクしているのはリンダさんばかりである。
日菜は面倒事の予感しかしないでウンザリしていた、亡きお婆様から贈与して頂いたお金は(贈与税が掛からない程度の金額だったが、日菜には十分高額だけれど。)頂いた翌日には銀行に持って行って貯金しておいたのだ。自宅に保管しておくと安心できないから・・そう・・安心できない理由が日菜にはあった。
日菜が使ったお金・・資格試験の受験費用などはカードで降ろしていたし、カードは財布に入れて常に持ち歩いている。問題の通帳は家の日菜の部屋の中だ、しかも通帳は秘密の場所に隠しておいたのだ・・それを持ち出したと言う事は内部の犯行で間違えの無い事なのだろう。
『犯人は、兄さんか・お母さん?・・大穴で隆志か・・。』
こんな事が起きる事を想定して・・日菜はお金を預ける時に声を掛けて来た行員のお姉さんに、よくよく頼んでおいたのだ。自分以外の人間が通帳を使ってお金を降ろす事は有り得ないので、誰かが来たら必ず自分に確認の電話をするか、警察を呼んで引き渡して欲しいと。
今回は警察に先に連絡をしてくれたようだな・・と、言う事は・・お母さんのセンでは無さそうか?悪質と判断されたから警察まで呼ばれたのだろうし、誰だろうか・・日菜の虎の子にチョッカイを掛けた奴は、許しがたい暴挙だ。
それとも本当に家にドロボーでも入ったのだろうか、しかしあの汚屋敷ではドロボーが荒らしたのか家人が荒らしたのか判別が付かないないと思うが。
グダグダと考えている内に無事警察署に到着した。
しかし、警察署と言う処は妙な圧が有って入りにくい場所だった。
『何だ、入らないのか?用が有って来たのだろう。』
『今・・入るよ。』
リンダさんはひたすら脳天気だった・・・。
警察署と裁判所と病院には近づきたくもないと思っていた日菜だったが、そうも言ってられないので端っこにチャリを止めて署内に入って行く。
入ったは良いが・・何処に行けばいいのやら?途方に暮れるぞ。
受付みたいな所に強そうな婦警さん・・・今は女性警察官と言うのかな?がいたので、警察に呼ばれて来たむねを話す。すると強そうな女性警察官はどこかに連絡を取ってくれて、暫く待つように言ってくれたが、ソファを勧めてくれる様な気遣いは無い御仁だった。
別にサービス業では無いしね・・仕方が無い事なのだろうが、日菜は被害者であって犯人では無いのだけれどなぁ・・・。
ぽつねんと待つことしばし・・・四角い顔をした体格のいい893みたいな男性刑事さんなのかな?がやって来た。
「沢口日菜さんかな?授業中に悪かったね。」
何やら会議室の様な所へと案内されると、刑事さんが事件の詳細を教えてくれた。
刑事さんが説明してくれたところによると、10時過ぎころ<沢口日菜>名義の通帳とハンコをもった、年の頃なら20歳過ぎの女性が駅前の・・日菜がお金を預けた・・銀行を訪れたらしい。
丁度受け付けた行員の女性が、以前日菜の話を聞いてくれた人だったらしく、払い戻しにも関わらず本人では無い事に不信を持ってくれた様だ。
しかも高額な金額を一偏に下そうとした事・持って来たハンコが届け出印と違っている事など・・犯罪の可能性が有ると確信したそうだ。
御本人確認をしたいので何か持って来ていないかと尋ねると、そんなモノは無いと言うし、<沢口日菜>さんは高校生ですよね・・と聞いても、口を濁して項垂れるばかり。
しまいには下ろして来てくれと頼まれたんだから、早くお金を出して下さい・・私困りますと泣きそうな顔で訴えてくる。
委任状が無いと下せないと突っぱねると絶望したのか挙動不審となり、銀行内でガタガタ震え泣き出して・・・しまいには通帳と印鑑を取り返そうとしてカウンターの上によじ登り、行員さんに掴み掛かって顔を引っ掻き怪我をさせたそうだ。
『・・うへぇ・・行員のお姉さん・・申し訳ない。』
暴れる所を数人の行員が何とか取り押さえて、警察に突き出したとの事だが・・・その犯人の女性は凄く大人しそうな、そんな事をする様な人に見えなかったそうだ。
「その女は道であった男から、金を下ろして来たら5万やるからと言われて犯行に及んだらしい。その男は君の通帳と印鑑は道に落ちていたと言っていたそうだ、道に落とした覚えはあるかい?」
「いいえ、通帳と印鑑は自宅の自室、ベットの横に置いてある縫いぐるみの服の中に(縫いぐるみの熊が着ぐるみを着ているタイプのものだ。)隠していましたから道に落とす事など有りえません。」
・・家庭内のイザコザは、警察は介入し無いんだが・・・。
893風の刑事さんはそんな風に呟いた、日菜も犯人に心当たりがあり過ぎて眩暈がしそうだ。
「その犯人の女性の言う事は本当なんですか、その男は捕まっていないんでしょう?その女性と男は本当に行きずりの関係なんですか?男と知り合いで命令されて犯行を犯したんじゃ無いですか?ほら・・DVとかモラハラとかあるでしょう?彼女に弁護士を付けて本当の事を言える環境を作ってあげて下さい、早く彼女のご家族に連絡をして保護して貰えるように手配して下さい。」
日菜が強く言うと、身元は割れているから(何でも彼女が素直に白状したらしい)それは既に手配済みだと言われた。
刑事さんは腕組みをすると
「被害届を出すと刑事事件となるがそれで良いのか?女の方も君が被害届を出さなければ銀行は不問にすると思うが。」
面倒だと思っているな・・この親父。
やる気の無さそうなオ~ラをしている。
「私が心配しているのは女性の方です、聞いた感じでは喜んで銀行に行った感じでは無いでしょう?彼女ばかり嫌な思いをして、警察の御厄介にまでなって・・今隠れている犯行を指示した<男>が許せません。彼女のご両親だって、自分の娘が犯罪を実行させられたと知ったら許せないでしょう?犯行の経緯を明らかにして、民事でも何でもやって男にはペナルティを科すべきです。・・・それが正義ってもんじゃ無いんですか、郷土の英雄・角さん介さんだってそう言うにきまってます!」
民事不介入・・そんな事を言っているから、家庭内で殺人事件が起こったリ、虐待事件で幼い子供が酷い目に合ったりするのだ。働け肉体派公務員!
日菜は犯人の女性と話がしたいと申し込んだが、それは出来ないと断られた・・未成年を危険な目に合わせられ無いんだってさ。
危険なのは犯人か・・それとも・・・。
日菜は断りを入れると刑事さんから離れて電話をかけた
プルルルルル・・・・プルルルルル・・・何回鳴らしても出ようとはしない、電話に出ないでしらばっくれるつもりだな舐められたものだ。
・・よろしい・・ならば・・。
From 日 菜
Subject 警 告
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
彼女が完落ちするのは時間の問題だよ
今ならまだ自首になって処分は軽くなるだろう
1時間以内に出頭して来なければ被害届を出すから
自分のケツは自分で拭け・・卑怯者・・・
わざわざ内定の報告とか言って帰宅して来たのも怪しかったんだよ、初めから日菜のお金狙いで帰って来たに決まっている。
兄さんめ・・・・
小学生の小さな頃からだ・・日菜の貯金箱のお金を勝手に使いこんだり、金を貸せと執拗に迫って無理矢理奪った挙句「無い物は返せるか!」と怒鳴り、暴力を振って借金を踏み倒して来た兄の事は忘れられないし許してはいない。
兄さんの事をお母さんに泣き付いても面倒臭そうに、あんたの勘違いでしょ・・と無かった事にされたし。お金を返してくれないと泣くと、心底ウンザリした顔でお金を投げてよこした姿も忘れられない。
いつだってお母さんは兄さんの味方で、兄さんだけを庇って大事にして来た・・その教育の成果が今回の事件だ・・笑っちゃうよね。
今回ばかりは兄さんも誤魔化せないだろう、ツケを払う時がきたのだ。
身内の情けだ・・1時間だけ待ってやる。
そう思って警察署の硬い椅子に座って・・暇だから教習所の教本など読んでいたのだが・・今度の学校創立記念日に運転免許センターで試験を受けるのだ、センターは平日しかやっていないのでこの機会は貴重と言えるだろう。教習所の課題は既にクリアしているので、後はセンターのテストを受けるだけで目出度く運転免許が取得できる。公道も走れるぞ、若葉マークだけどな。
教本を読み込んでいたら、手に持っていた本がいきなり吹き飛んだ。
「あんた!いったいどう言うつもりなの!」
何故だかお母さんが、怒髪天の勢いで日菜を引き裂きそうな顔で目の前に立っていた、本を薙ぎ払ったのはお母さんだった様だ・・ドメスティックだねぇ。
どう言うつもりなのか・・・聞きたいのは此方の方だ、兄さんが来ないでなぜお母さんが来たのだ?どこまで腐っているのか・・あの男。
その後日菜とお母さんは、狭い部屋に通されて聴取?とやらを取られた。
TVドラマと違ってかつ丼も出てこなければ、書き物をする人もいないで何やらパソコンに打ち込んでいた・・紙に書くよりパソコンの方が便利だものねぇ・・修正も簡単だし。
何故かお母さんは娘がご迷惑をおかけしまして申し訳ありません、すぐに連れ帰りますから・・等と頓珍漢な事を話して刑事さんにペコペコ頭を下げていて滑稽だった。日菜が何を迷惑をかけたと言うのだ、お天道様に恥ずべき行為など誓ってしてはいない。
「日菜!あんたがお金を下ろして来てって頼んだんでしょ!そうでしょ!
ほら、怒らないから本当の事を言いなさい!!」
日菜に掴み掛からんばかりに詰め寄って、唾を飛ばして喚いている中年のおばさん・・何だかもう自分の母親には見えなくなって来たよ。
刑事さんが二人の間に入ってガードしてくれた、どう考えてもこの事態は変だ。
どんなに喚かれても、日菜は真っすぐ前を向いてお母さんと目も合わせなかった。
「あんたは自分のお兄ちゃんを犯罪者にするつもりなの!それでも家族なの!!」
正にどう考えても犯罪者でしょうが・・・。
お母さんの恫喝も懇願も、日菜の心には何も響かなかった・・