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日菜とリンダさん  作者: さん☆のりこ
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正月の逃走~2

 ガタンゴトンガタンゴトン・・・・・・


 電車で絶賛移動中です、いいよね都心の電車って・・・乗り遅れてもまたすぐに次が来るってさぁ。時刻表を気にしないで生活できるって、かなりストレスが軽減されると思うよ?先輩と日菜はまだ正月気分を引きずっている為なのか、比較的空いている電車に並んで呆然と腰かけていた。漫画で表現するのなら揃って埴輪の顔で、ポッカリ開いた口から魂が出かかっている事だろう。それほど2人は呆けていた。


     C高が負けた・・・


 前半にソフト君のロングシュートで1点をもぎ取ったC高だったが、後半に入るとジリジリと押されはじめた。敵はかなり強い学校だったのだ、それでも果敢に踏ん張って何とか均衡を保っていたのだが・・・残り10分に1点を入れられ同点に。日菜達の必死のポンポン応援も叶わず、残り3分に追加点を入れられて逆転を許してしまったのだ。

逆転を許してしまったキーパーの人だが、彼はすぐさま玉を蹴りだして、<大高源吾>様はじめソフト君達は必死に敵のゴール目掛けて走って・・カウンター?だかを仕掛けに行ったのだが・・虚しく途中半ばで試合終了の笛の音が競技場の中に響き渡ってしまった。


喜びを爆発させて団子の様に絡まって燥いでいる敵の選手と対照的に、力が抜けてガックリとうなだれるC高のメンバー達。


ソフト君は只ひとり、皆と離れて芝生の上に寝転んで空を見上げていた。

日菜も真似をして、冬場に特有な乾燥して透明感のある雲一つない青空を見上げてみたが・・・日菜が見ているこの空とソフト君が見つめている青空は、きっと違った景色で色なのだろうなぁ・・そんな風に感じていた。

彼は今日この日・この時の空の青さを生涯忘れないのだろう・・彼だけの大切な苦い宝物なのになるのだろうなぁ・・きっと。

泣いているのかな・・辛いよね・・あんなに努力して頑張って来たのに。


どんな言葉を掛けたらいいものか判りかねて、日菜は悄然とソフト君を見つめていた。周囲の女子生徒は皆涙を流して<大高源吾>様やサッカー部の面々の悲劇を嘆いていが、日菜はサッカー部の面々の中でただ一人・・ソフト君の思いを案じて心を痛めていた。






 そんなこんなが有ってからの移動だから、何となく脱力して呆けていたも仕方が無いってなものだ。


「応援がこんなに疲れるなんて、思ってもみなかったわね~。」

「ホントですね、他人でこんなに疲れるのだから、有名選手の身内の方って大変でしょうねぇ~。海外に移籍とか心配だろうし。」


二人は母校の応援ぐらいで丁度良いね、とか話し合って苦笑いをしあった。




 今、先輩の新居に向かっている途中だ。

先輩は通いたいフラワーアレンジメントの教室の近くに部屋を借りていた、そうして部屋の近くに有る会社から派遣先を探したそうだ。

先輩のメインはフラワーアレンジメントなのだ、運よく都心と言われる場所に手頃な部屋と派遣先を確保できたそうだが・・。


「いわゆる事故物件なの・・痴情の縺れで凄惨な事件が有ったそうよ、でもね救急車で運ばれたから死んだのは其処の部屋じゃなくて病院なの。」


ニッコリと笑う先輩、先輩的にはOKらしい・・。


「日菜ちゃん、何か見える不思議ちゃんなんでしょ?鑑定してね、それから何かいたらついでにお祓いしてくれない?」


いやいやいあや~オ~ラが見えるだけで、其方の方は専門外ですから。


 そんな有る意味図太い先輩の後に付いて、大きな賑やかな駅で下り、駅前に有る量販店でラグを買うのに付き合った。

ラグも一人で運ぶのは重いからね・・なかなかしっかりした先輩は日菜の事を使い倒す気満々だったようだ(笑)。その他、一人暮らし用にパックになっている食器セットを買ったり、マグカップを選んだり・・・嬉し気に選ぶ先輩・・・自分の城を作る買い物はかなり楽しそうだった。

日菜も先輩の引っ越し祝いに、何かプレゼントする事にして希望を聞いた所、モフモフのピンクのクッションを所望されたので買ってあげた(値段も手ごろだったしね・・お値段以上かどうかは知らないが、可愛い後輩の贈り物だ喜びたまえよ。)。

調子に乗って買い過ぎたのか、かなりの荷物になってしまった塊を(送料が惜しいので自力で運ぶのだ)2人してフウフウ言いながら運ぶ事20分。

駅から遠い・・駅近はとてもじゃ無いが家賃が高くて手がでないと言う。


 日菜は就職先は都心じゃなくてもいいや・・と思い始めていた、いやいやト~キオでなくても発展している地方地域は有るし・・リンダさんに頭の中で言い訳しながら歩く。途中で不動案屋さんの店先でみた物件はワンルームで8万から~14万と恐ろしいお値段だった・・そんな屋賃を払ったら給料がスッカラカンになってしまう・・恐るべし大都会。

これじゃぁ先輩が事故物件に飛びつくのも無理は無い、高すぎるよ家賃が・・ここはニューヨークか!良くは知らんが。


やっと着いたワンルームマンションの外観は洒落た感じで良い雰囲気だった・・まぁ事故物件な訳だが。


「オートロックなのよ、女の子の一人暮らしは何かと不用心だからね。日菜ちゃんもセキュリティーはしっかりしているところを選ぶべきよ。」


まぁ、室内で惨劇が起きてしまえばセキュリティーもクソも無いが。

入って入って・・と明るく言う割には、日菜を先に押し込もうとするのは何故ですか・・先輩よ。


「お邪魔しま~~す。」


恐々と中に入ったが、リホームが完了している為か、綺麗に片付いていて何もない(オ~ラ的にも)部屋だった。白いフローリングがお洒落だね!


『リンダさん・・残存思念?とかそんな感じの物は無い?』

『・・何も無いな。』


何もない様だと先輩に言うと大層喜んでいた、やっぱり気にはなっていた様だ・・日菜も事故物件探そうかな、安くていいよね。


先輩のワンルームは素敵だった・・・都心で家賃4万は破格の値段だろう、東向きの日当たりで角部屋なので窓が二つあり6帖間だが開放感がある。既に窓には可愛らしい若い女性らしいカーテンが下がっていた。日菜は先輩を手伝って床掃除(何もないので箒と雑巾がげで十分だ)ラグを広げたり、窓辺にサボテンの鉢植えを置いたり(棘で不審者を撃退するそうだ)、買って来た食器類を設置してある台所の引き出しに仕舞ったりした。


部屋の印象は全体的にピンク色で、日菜の趣味とは合わなかったが、それでも一人暮らしの自分の部屋はとっても魅力的に見える。

先輩は据え付けの白い飾り棚に、自作のブリザードフラワーのアレンジメントを飾り付けている、その様子が凄く楽し気で・・これからの生活を本当に楽しみにしている様で楽し気な姿だった。

日菜だったらどんなインテリアにするだろうなぁ・・6帖にインテリアも無いが、それでも今寝起きしている納戸から比べれば別天地だ。

早く高校を卒業して一人暮らしをしたい、日菜の胸は来年に向けて高鳴っていた。


     ******



 夕方駅前で待ち合わせていた派遣会社の担当さんと言う人は、妙齢なベテランさんで、とっても仕事が出来るキャリアウーマンって感じの女性だった。


先輩が担当さんに挨拶している間、後ろに控えていた日菜だったが、先輩に促されると前に進み出て挨拶をした。この辺の作法は<秘書検定>の最初の部分で出て来る、面接のさわりの部分の感じで良いだろう・・覚えておいて良かったよ。そつなく挨拶を済ました日菜に

ベテランさんは

「上手に挨拶ができましたね、よろしくね日菜さん。」

熟女の余裕で微笑んでくれた・・掴みはOKかな?




 連れて行って貰ったお店はフレンチで、たくさん並べられたホークやナイフにドギマギしたが、担当さんが優しく教えてくれたので恥をかく事も無く味も楽しめた。フレンチなど親戚の結婚式に呼ばれて食べた以来だが・・・よく解らないが、たぶん美味しかったと思うぞ?


 先輩の話の聞き役に徹していた日菜だが、食後のコーヒータイムで担当さんが話を振って来てくれたのでパソコンで自作しておいた履歴書・・主に取った資格の一覧表だが・・それを差し出した。担当さんは頑張っているのね・・っと褒めてくれたので、日菜としては大変嬉しかった事も。

今までいくら資格を取得しても褒められる事など無かったからね。

ちなみにリンダさんも

『うむ、この私が指導したのだ、当然だ。』

と言って褒めてはくれない。


資格の方は褒めて貰えたのだが、思わぬところからダメ出しが出た。

・・・予想外・・の方面からである。


「日菜さんは髪は何で洗っているの?失礼を承知で言わせて貰うけど・・・艶が無いわね。リンスやトリートメントを使っている?」

「・・いえ、家族と共有の製品です・・母が買って来る特売品で。」


詳しく結うと父と日菜が使っているスーパーのオリジナル商品だ、それも良い商品なのだろうが・・お母さんはTVのCMで宣伝されている様なお洒落な一品を使っている。一度勝手に使ったらえらく叱られた事が有ったのでそれ以来手は出していない。


「日菜さんはもう少し身だしなみに気を使った方が良いわね、髪に気を使ったり眉毛を整えたり。全体的にもっさりしているから変えて行きましょう。」


      ・・・・もっさり・・・・。


「嫌な話だけれど、就職試験で同じ点数なら美人を選ぶのが普通の事なのよ。ビジネスメイクは夏の講習会で教える事が出来るけど、まずその前に髪の手入れやスキンケアをする事を覚えましょう。今まで何もしてこなかったでしょう?それでは駄目よ。」


何でも会社の中でも仕事の出来る出来ない以前に、美醜によってヒエラルキーが出来上がってしまうらしい。芋っぽく大人し目の・・要するに日菜みたいのが・・理不尽な辛い目に合いやすいと言うのだ。派遣同士で反目し合う事も有るらしくて、そんな目に合わない為にも女性はメイクで武装するのだと言う。

・・いやはや・・大人の世界って大変そうだ。


「電車の痴漢だってそうよ、美人や気の強そうな女の子には手を出さないのもの。大人しい感じの気の弱そうな・・ブスの子を狙うの。痴漢がばれても<お前みたいなブスを誰が触るか!>って居直るのよ。最低だと思わない?」


・・電車には乗らずにチャリで通えるところに就職したいものだ。


「日菜さんは夏の講習までに、髪の手入れとスキンケア・・陽に焼いたりしないで<日焼け止め>を塗る事。余り黒いと遊んでいるように思われるからね、それから・・・。」


社会人になっていきなりヒールの有る靴を履くと、膝が前に突き出て、お尻が下がって何とか原人の様になって格好が悪い歩き方になるそうだ、そうならない為に今からヒールの靴を履いて練習しておくようにと言われた。

ヒールの高さは3センチだそうですよ・・3センチのパンプス・・何処で履こうか。悩んでいたら先輩は学校で校内履きとして履いていたと教えてくれた、そうだったかな?気が付かなかったよ、社会人用の練習と言えば先生も五月蠅く言わないらしい。


 その後・・食事を終えて店から出た後、駅ビルの中の靴屋さんで練習用にパンプスを、薬屋さんでスキンケア一式とヘアケア用品を買わされた・・・思わぬ出費である。

荷物を抱えて半ば呆然としている日菜に


「これ良かったら使ってみて?」


そう言って担当さんが何かを荷物の中に入れた・・・。

プレゼントを確認をする時間も無しに、帰るバスの時間が有るからと慌ててお礼を言って先輩と担当さんとお別れをした。

東京発7時40分の高速バスに乗らなければならない、地元に着くのが9時30分・・チャリで急いで10時には家に帰らないと面倒な事になる。放任主義の割には門限には五月蠅いのだ、心配なら駅まで車で迎えに来てくれればいいのに・・そう言う心使いは無いらしい。


 事前にマップを読み込んで(リンダさんが)いたので迷う事無く目的のバス停にたどり着けた、東京のビル群の明かりが眩しい・・今度此処に来るのは夏の講習会の時になるだろう。


 全席指定だが空いているので好きな所に座って良いと言われたので、遠慮なく一番後ろの足が延ばしやすい所に陣取った。

行きは学校の皆と一緒だったな・・帰りは一人きりで何だか寂しい気分だ。

都会の眩しい灯りが通り過ぎて、何も見えない暗い緑地の中をバスは進んで行く・・ガラス窓に写った自分の顔が妙に暗くて心細そうに見えた。

寂しかったので携帯を出して(日菜はまだガラゲーである)先輩にお礼のメールなどをしてみる、先輩はまだ出先の様で返事は無かった。




『ソフト君はどうしているかなぁ・・。』


今まで日菜からメールをした事など無かったが、今日のあの寝転んで動かないソフト君を思い出すと胸が苦しくなってくる。


・・・でも何てメールしたものか・・・。

軽い言葉の慰めなんて・・失礼で送れないし・・・。


どうしたものか、しばらく悩んだ日菜だったが・・・。



From       不思議ちゃん

Subject     無 題

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

確かに君は輝いていた。



それだけを送信した・・・返事は来なかったが。





それから担当さんがプレゼントしてくれた品物は・・アイ〇チだった。


アイ〇チはメーカーさんの登録商標、類似品が沢山出ていますがみんな違う名前です。

でもユーザーさんはどれもアイ〇チと呼んでいますねぇ・・最初のインパクトが強かったのでしょう。

婆がお嬢さんの頃はアイ〇チは売っていなかったので、肌色の絆創膏を細く切って使っていましたねぇ。

今ではそれどころじゃぁ無い皺だらけですが(笑)。

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