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日菜とリンダさん  作者: さん☆のりこ
14/35

正月の逃走~1

 修学旅行で海外!そんな一大イベントも終了し平凡な毎日が戻って来た。


 3年生は就職が解禁され会社回りをしている人も多い為か、難しい顔をして登校してくるし・・・早々に内定がもらえた者は、卒業旅行を計画し楽し気に話に花を咲かせている。

日菜は来年の今頃を思い、密かに心の褌を絞め直していた。資格試験に関しては順調である・・・何故かCADの1級や、3DCADの2級まで取得してしまった・・リンダさんが受かった様なものなのだが・・・。

そう日菜の灰色の脳細胞は、リンダさんに浸食され続け、左脳に関してはほぼ明け渡している感じなのである。リンダさん曰く


『ほとんど使われていない状態だったから問題はない、まだまだ詰め込む容量は有る。』


そうなんだが・・私の脳ミソは大丈夫なのだろうか・・いきなり破裂でもされたら怖いんですけど。ほとんど使われていない状態って・・何なんだよ!プンスカだ。





 そんなこんなで時は過ぎ、12月の末に母がまた爆弾を投下して来た。


盆・暮れ・正月と長い休みの時には母の実家の奴隷労働に駆り出される事が多いのだが、特に暮れの大掃除~正月の台所の手伝いコースは、女手が必要とされる為か動員要請が執拗で五月蠅い。


 正月はね・・・嫁いだ娘や孫に<御本家様・お爺様 有難や~~>と忠誠心を示させ、隣近所に見せつけるのが爺のステータスになるのだ、矮小な優越感が満たす為に生贄が必要らしい。

故に<この儂に逆らう事など許さん!とっとと手伝いに来い!>の雰囲気になる・・何だか爺の周辺だけタイムスリップしていて、昭和にどっぷりと浸かっている様な感じだね。平成も30年を過ぎ、もうすぐ元号も変わると言うのに、いい加減にしてほしいものだ。爺は怒らせるとしつこいし、母親(婆・今は故人)や同居の兄夫婦に八つ当たりと言う皺寄せが来るからと、我慢して手伝って来た経緯がお母さんには有る。


「今年はお兄ちゃんが就職試験で大変だから、本家には日菜が手伝いに行きなさい。」


・・・・兄さんの就職試験とお母さん関係ないじゃん。

日菜の不満顔に気が付いたのか


「下宿から疲れて帰って来るお兄ちゃんをゆっくり休ませてあげたいでしょ、お母さんはお兄ちゃんのお世話をしなければならないんだから本家には行けないのよ、だからあんたが一人で行きなさいね。」

「昨日の晩メールで兄さんに聞いたけど、年末年始は帰らないって返事が来たよ。」


         なっ!


お母さんが慌てて兄さんに電話を掛けている、電源を切っていて返事が無い様だ・・・これは荒れるぞ~~~(笑)。

頭の良い兄さんはお母さんの自慢の息子で、お母さんの人生の成功の証で・・一種のトロフィーの様な物なのだろう。小さい頃から兄さんにべったりで、何を置いても兄さんを優先して来たものだ。もっとも最近はウザがられているのか、肝心のトロフィー様はめったに下宿から帰っては来ないのだが・・。外に楽しいことが沢山有るんだから、わざわざ汚屋敷に帰って来て、お母さんのどうでもいい愚痴話&自慢話に付き合いたい様な物好きはいないと言う事だな。


 日菜とて爺や隆志のいる本家などには近寄りたくもない・・・。


信じられる?散々掃除や洗濯とこき使って、御節やご馳走まで作らせといて、日菜は寒い台所で1人ぼっちで残り物を食べさせられるんだよ?

不満を訴えても、お母さんも昔はそうだった・・とか言って庇ってもくれないし、部活で先輩に虐められた人が後輩にやり返して憂さ晴らししている様で、その理不尽さにはイライラさせられる。今時の体育会系の部活でもそんな事をやらかしたら、パワハラや虐めで訴えられて大騒ぎになるのにさ・・・時代錯誤も甚だしい。


「今年は学校で応援練習が有るから本家には行かないよ、隆志にもメールで了解を得て(嘘)有るから。」


 今年はサッカー部が実に良い働きをしてくれた、彼らは正月に行われる全国サッカー大会に出場を決めていたのだ。夏のインターハイのリベンジに燃えていて、卒業後はプロになってJリーグに行くと噂されている<大高源吾>様の最後の全国制覇のチャンスだと一致団結して頑張っている。

その為、内定を貰えて暇になった3年生を中心に応援団が結成され、こちらも練習に余念がない・・・今度はね百均で大量に取り寄せたポンポンを持っての応援だ。

バスが仕立てられて大勢で応援に駆け付ける事になっている、それに日菜も参加申し込みをしていた、逃げるのではない・・母校の応援だ!これは崇高な任務なのである。

日菜の年末・正月・幕の内中の安寧の為にも、是非6日の優勝まで粘って貰いたいものだ、心の底から応援しているぞサッカー部!!

それに東京で就職を決めたパソ部の先輩(女の子)も応援に行くので、移動の道中や自由時間に東京の攻略法を教えて貰う約束をしているのだ、これは何があっても外せないだろう?


 隆志はあんなだが、根は脳筋なので母校には熱い思いを抱いている。

その母校が全国大会に出るのである、TVの前で応援するだろうし(いつもは正月サーフィンとか言って冷たい海に仲間のカッパと浸かっている)、伯父さんもC高出身だからな・・・ここは日菜の我儘が通りやすい。爺は理解しないだろうが、大事な跡取り様の御孫様<隆志>が仕方が無いと言えば文句も言うまい。


1人納得のいかないお母さんが叫んでいる。


「何で私ばっかり!!」


知らんがな・・・・。



    ******



 応援に向かう為、絶賛バスに乗車中である。


何十台と連なるバスは高速をひた走っている、何回も行ったり来たりしたから道順も良く覚えてしまった感じだ。正月気分が抜けないままに熱戦は続いている、有難い事に日菜の願い通り冬休みは丸々応援に潰れていた。今日は準決勝・・勝てれば明日は決勝だ、お礼の気持ちも込めて今日は精一杯応援するつもりでいる日菜だ。


バスの中、お菓子を食べながら日菜は今年社会人となる先輩の体験談を聞いていた。


 東京で就職を決めた先輩は既に暮れから東京に部屋を借りているそうだ、何でも<派遣会社>の担当者のアドバイスも有り、早めに早めに行動・準備したらしい。

2月~3月は住所を移動する人(進学や就職・転勤など)が多い為、部屋探しも難航するそうで、良い物件を探したいならシーズンより早めに動くのが良いそうだ。

先輩が登録をした<派遣会社>は小さな会社だが、派遣会社に入る為に試験を受ける必要が有る様な、ある意味とても厳しいところなのだと言う。

<使える人材を創る>がモットーで、夏休みには学生相手の研修(有料)なども有り、青田買い?なのか、見込みの有りそうな人には声を掛けてくれると言う。

先輩もその研修で声を掛けられたクチなんだってさぁ。

長年優秀な派遣さんを送り込んでいる為、受け手の企業側の信用も厚く、かなり大手が良い条件で雇ってくれるそうだ、実際先輩が決まった派遣先も日菜が名前を知っている様な有名な所だった。


「補助業務の求人だったら学歴はあまり関係ないそうよ、Fランの大学生より擦れていない資格持ちの高卒の方が使う側にとっては良いらしいわよ?文句も言わず、安く長く使えるしね。」


先輩はパソコンに関しては優秀で各種資格を取っている、日菜の憧れの先輩なのである。


「私、9時から5時までしっかり働いて、アフターは憧れていたフラワーアレンジメントの勉強をしたいの。」


 先輩はその手の学校の進学を家族に反対されていた為に、就職してお金を稼ぎ自分の力で勉強をする決心をしたそうだ。そんな先輩が憧れているのはTVの番組に写り込んでいるフラワーアレンジメントで、あれだ<某子の部屋>とか日曜のニュース番組に置いてある華やかな大きなフラワーアレンジメントだ。確かに綺麗だし御高そうなアレンジメントだよね、結婚式場とかにも需要が有るそうだ。

そんな夢を語る先輩は、目がキラキラとしていて未来の希望に輝いていて眩しかった。黄色のオ~ラもキラキラしているしね。

先輩は今回も試合終了後は自分のワンルームマンションに戻り、生活の基盤を整える為に部屋の整理や買い物をするそうだ。

そうして夕食は、派遣会社の担当さんと共にする約束をしていると言う。


「良かったら日菜ちゃんも一緒にどう?」

「ええええ、良いんですか?いきなり部外者が乱入して。」


先輩は見込みの有りそうな子が居たら紹介して・・と担当さんに言われているそうなのだ、日菜は見込み有りそうなのかな?・・ちょっとばかり嬉しい!!

何しろ東京に伝手もコネも無いのだ、顔見知りが出来るだけでも有難い。





 バスが国立競技場に着いた、日菜と先輩は後で落ち合う約束をしてそれぞれの学年に戻って行った。智花ちゃん達を見つけ一緒に歩いていたら、


「けっ、共学なんかに絶対に負けねー。」


とか聞こえて来た・・・?・・・相手高校の応援団かな?

見れば坊主頭が集団で此方を見ていた、どっから来た人達なのかな?


「こんにちは~、珍しい髪型ですねぇ。」


勇者<智花>が話しかけた、智花ちゃんは自分が可愛いと自覚しているからこんな時には躊躇なく行動できる・・営業に向いているかも知れない。

可愛い子に話しかけられた坊主頭’Sは、驚いてキョドッテいる。

女の子慣れしていないのがバレバレだ、態度の割に内面は純情そうだ。


「知らん男に話し掛けるモンでんなか。」


どうやら九州方面らしい・・・眉毛が濃いね、西郷さんみたいだね。

勇者<智花>はそんな事では怯まないので、可愛らしく話しかけ最後には坊主頭をナデナデさせてもらっていた(刈り上げ部分を下から撫で上げると気持ち良かったんだって。)撫でられていた坊主君は涙目になっていたが、高校時代の一生の良い思い出になった事だろう・・たぶんな・・これってセクハラになるのかなぁ?なんか・・ごめんね?

最後にはお互い良い応援をしようとエールを送り合って別れた、先生たちがハラハラしながら此方を見ていたからね・・問題なんて起こしませんってっ・・大事な試合の前に。


ふっ・・・うちらのポンポン応援を甘く見るなよ。

日菜は応援委員会の会長に頼まれてエクセルを使って人文字を作っていた、某北の国のパフォーマンスには遠く及ばないが、少なくとも全国放送のTVカメラが注目するのは間違いの無い出来だと自負しておる、試合の中休み?の注目はうちらが持って行かせて貰おう!ピッチの外でも既に戦う気は満々だった。



      ******



          わ~~~~~~~~


 試合が始まる前から何だか外が妙に賑やかだな・・・ロッカールームにいたC高の面々は只ならぬ雰囲気に驚いていた。ポンポン応援の評判は知っていたし、試合が進み優勝に近づくにつれ高度な人文字が作られているのは皆夜のニュースで見ていた。


          わ~~~~~~~~


「何かやってんだろ、俺達の応援は注目の的だからな、ニュースでも必ず写っているし(笑)。」


その人文字の基をパソコンで作ったのが日菜である事をソフト君は知っている、昨晩メールで応援ありがとうと送信した時に


=まだまだ新作が有るからね、乞うご期待!頑張れーー!=


と返事が来た事を思い出す。


『大高先輩のオ~ラは今日もビッカビカに輝いているのだろうな・・・でも、俺のオ~ラだって負けていないと不思議ちゃんは言っていた。俺のオ~ラは虹色・・不可能を可能にする男なんだと。』


ソフト君は藁でも・日菜でも・何にでも縋りたい気分の様だ、故郷の神様にも頼み来んで此処まできたのだ・・この試合に勝てば明日は決勝・全国制覇だ。


「時間だ・・・行くぞ!」

「おう!!」


大高先輩の声で皆檄を飛ばす、体の奥が小刻みに震えているのが感じられる・・それを振り払う様に、体を動かしUPを始めた。



     ******



 流石に準決勝ともなると相手も強い、正月サッカーの常連校で有名なJリーグの選手を多数輩出している強豪なのだそうだ。


『どひゃ~、これは凄いね。<大高源吾>様並みにベッカベカに光っている選手が4人もいるよ、これは苦戦しそうだね。』


試合も前半30分を過ぎているが、お互い一歩も譲らずノーゴールで頑張っている・・しかし出来る男<大高源吾>様はマークされている様だ。<大高源吾>様る1人に3人がかりで纏わり付いて来て、思う様に動かせてもらえない。マークがキツイと言う奴なのだろう。

・・・だんだんと敵に押されてきて、後退しているように見えるが・・どんなものなのだろう?オ~ラ的には味方の光が弱って来て、敵の光が強くなっているように見える。

・・・気持ちが押され気味なのだろうか?


       ピーーーーーーーーッ


笛が鳴らされた、誰かが蹲って痛がっている・・・ぶつかったのかな?試合は一時中断した。この時とばかり応援委員会の会長が合図を出した、人文字を作るのだ。


       わ~~~~~~~~っ


大声で叫んで注目を集めてから人文字を作る


信じろ  (白ポンに赤ポンで)  信の字は直線が多いから作りやすかった。

己 を              自分だと面倒だから己にしたのだ。

信じろ

友 を          仲間だと格数が多いし、チームだと軽い気がして。


気が付くかな、見て見て!!気持ちで負けないで!!

日菜も一生懸命に応援した、サッカー部がどんなに頑張って練習して来たのかC高の者ならみんな知っている。頑張れーーー!


味方がボールを奪って敵のゴールに向かって走っていく、前を走る<大高源吾>様が早い!敵が素早く3人も寄って来てまた<大高源吾>様の邪魔に入った。


・・・・・・・今ボールを持っているソフト君はノーマークだ。

・・・・・・・やっちゃえ!!いけ~~~~っ!


日菜の心の叫びが聞こえたのか、ソフト君が遠くからドーーーンと蹴った、ドーーーーンだ!!


       ゴーーーーール!!


ロングシュートが前に出ていたキーパーの頭を越してゴールに吸い込まれて行った、入った!入った!!1点だ!!きゃ~~~~~~~っ!!


日菜達は人文字で ドーーーン と書いてウエーブをした。


頑張れ若人よ・・・婆になるなどアッと言うまだ(*´Д`)。

青春を悔いのない様生きておくれ。


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