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日菜とリンダさん  作者: さん☆のりこ
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夏の一日

 夏休みに入った8月の上旬、日菜はCAD2級の試験を受けた。


 基礎の時と違い予約を取って、指定された場所(某パソコン教室だったが)そこに出向き試験を受けるのだ。合否はすぐに発表され、それは喜ばしい結果に成ってバンザイだったのだが・・・その後がいけなかった。


インストラクターだか、パソコン教室の講師だかは知らないが、かなり嫌な感じで勧誘を受けたのである。


講師曰く

「今時CADの資格なんてあっても、たいして役には立たないよ。CADは単なるツールだからね、設計をする者なら誰でも扱えるものだしね、大事なのは仕事に関する知識だよ。ワードが使えても小説家にはなれないだろう?それと同じさ。1級は何で取るつもり、建築?機械?トレース?」


役に立たないのなら、何でスクールで金取って教えてんだよ!

と内心ムカつきつつ、初々しい女子高生を装い、日菜がまだ考えていないと言うと、嫌みったらしくも2枚目半のアンちゃんは鼻で笑った・・(どうも日菜は鼻で笑われる運命を持っている様だ)。

世間を知らない(確かに知らないが)アンポンタンに教える様に、超上から目線で話し始めた。


「2次元も良いけど、就職を有利にしたいなら3次元をやるべきだね。3Dソフトも種類が沢山有るからね、どの業種に進むか最初に考えた方が良い。3Dに合わせて建築の知識や機械関係の知識、そこいら辺も押さえておかないと高卒の女の子が希望するような職場はまず無理だね。建築だって建物か土木か造園関係とか色々有るし?」


・・・むむむ・・・黙って黙々と作業をしていれば良いと思っていたのだが、そう言う訳にもいかないらしい・・コミ障だから、CADオペになろうと思ったのにな。日菜が知っていた情報はかなり古かったようで、今時CADオペ専門で図面を製図しているだけの仕事は少ない様だ。設計の補助的存在になれればいいのだが、それはそれで専門の知識が沢山必要なのだと・・うんざりだよ。


「はい、これうちのパソコン教室の案内パンフレット。自己学習で3Dなんて絶対に習得できないからね、専門学校に通った方が早道だよ。卒業後の就職斡旋もするからね、高校に貼ってある求人案内より断然質は良いし給料も良いからね。資格を取るってそう言う事さ、よく考えて進路を決めると良い・・・あぁ、時間が有ったら体験で3D動かしてみる?難しいよ~~~?」


小馬鹿にした様にアンちゃんが誘って来る、どうしてもこのスクールに勧誘したいらしい、ノルマでも有るのかな?

ふむ宜しい、ならば何でもやらせて貰おうではないか。


 それから、もうお終い・・体験は2時間まで、もう帰って!

そう言われて追い出されるまで、日菜は3Dをいじっていた・・・難しいけど面白かったぞ?リンダさんも興味深そうにしていたしな。今度学校で体験版の無料ソフトをダウンロードしてやってみよう。





 お昼もとうに過ぎて中途半端な時間だったのだが、高校生が一人で立ち寄れる(制服じゃ無いしね、今日はTシャツとジーパンの軽めのスタイルだ。)ファストフード店に寄り腹ごしらえをする。・・・牛丼美味い・・・日菜は半熟卵に紅ショウガ多めが好きだ、七味は少々。

・・こんな時にはリンダさんにも食べさせてあげたくなるが、彼はエネルギー体なので食事は不要だという事だ・・なんかだかそれも辛い境遇だねぃ。

 


 食後は県庁所在地の名所や旧跡などを観光して、リンダさんに異世界の気分を味わってもらう。散々勉強の面倒を見て貰っているからね、少しでも恩返しのつもりだ。有名な梅のシーズンでは無かったが、某公園の日本庭園は珍しかったのか気に入ってくれた様だった。

鯉に餌をあげたら沢山の錦鯉が乱舞して、虹の様に光り大変に綺麗で喜んだ(日菜が)。


その後は、地元より大きめの家電量販店や、本屋などを巡り楽しんだ。

県庁所在地と地元はそんなに遠い距離では無いが、中々来る用事も無い所だからな・・・電車賃分楽しまないと損な気がするので頑張って歩く。


 本屋のパソコン関連書籍の棚には、腐るほどの3D関連書籍が有った・・・リンダさんが見たがるので、取り出してゆっくりパラパラとめくる・・・ダウンロードしている様だ。これは万引き行為に当たるのだろうか?


『リンダさんは何に興味が有る?・・・建築関係か機械か・・・。』

『ふむ、建築も其方の家の様な小さなものは興味はないな。むしろ巨大な構造物・・ダムや橋とか巨大トンネルとかが好きだ。明石大橋だったか・・・あの橋は実に美しいな。構造物を作り上げる所を生で見ていきたいものだ。』

『そんな難しそうな物を作るのは、大手企業が仕切るんだから、ベテランの派遣の人でも行けそうに無いよ。設計と現場は別だしね、工事現場に女性は立ち入り禁止の所も多いからねぇ。昔はトンネル工事とかも女性は立ち入り禁止みたいだったよ。』

『なぜだ?』

『神様がお怒りになるとか?現場はたいがい山奥の人里離れた場所が多かったから、風紀が乱れる・・とか・・・そんな所かな?』

『私は出来上がっていくところを、傍でLIVEで見ていきたいのだ。』

『・・・難しいねぇ。』

『あの金属で出来ている、空を飛ぶ鳥でも良いぞ。』

『飛行機?飛行機は輸入品では無いのかな?ジャイ〇ン国に売りつけられている様なニュースを見た覚えが有るけど、小型ジェット機を作り始めているようだけどね。それこそ航空専門の工学部の頭のいい人が作る物だし・・・。

ねぇリンダさん、日菜よりも頭の良い特進クラスの人に乗り換えた方が良いんじゃないかな?日菜と一緒だと平凡な人生に終わって、知的好奇心的にはつまらないと思うよ・・・それこそ筑波でも行けば宇宙ロケットも夢ではないかも知れないし。』




しばらくリンダさんは、沈思黙考していたが・・・非常に残念、かつ言いづらそうに言葉を絞り出した。


『以前からかなり試みて来たが、日菜以外の人間で意志の疎通ができる者は皆無だった。パソコンからネットに潜り込んで世界中探してみたが・・私の呼びかけに応じる者はいなかったのだ。』

『そうですか・・・すでにリンダさんは足掻いて諦め済み何ですね。』


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


『其方、理系で受験してみないか?親に反対されても奨学金を貰えばどうにかなるのだろう?』

『借金背負ってまで、勉強なんかしたくないね。

リンダさんがその気になれば、日菜の意識など乗っ取る事が出来るんじゃないの?良いよ・・別に、好きにすれば?』

『馬鹿な事を言うな、それでは聖女様との約束をまた違える事になってしまう。異世界に無暗に干渉する事は、思いも因らない事象を起こすかもしれん・・・日菜ぐらいの平凡さが丁度いいのだろうよ。』


・・・何だか自虐的だね・・・意識だけ有る状態ってのが想像できにくいのだが、背後霊の様な者と考えれば良いのだろうか?

仕方が無いヘッポコなりに、リンダさんの好奇心を満たすべく考えてみよう。



・・リンダさんはモノ造りが好きな様だから、機械製造の方が良いだろうが。

日菜が就職(派遣含む)できそうなところは、いわゆる中小企業で・・・航空機関係の仕事と言っても、螺子とか何だか解らない部品の一部を作る事になるだろうが・・いや、螺子は重要だけどさぁ。昔TVでやっていたよ、世界で唯一緩まない螺子を作る事が出来るのは下町の小さな工場だって・・開発したのは工場の親父さんで・・大企業がその螺子を買いにくるんだってさ。


・・十分凄い事だけど、異世界人のリンダさんに解るかなぁ?


出来ればリンダさんの希望は叶えてあげたい所だが(日菜はこれと言って希望もないからさ)・・・作る工程がまじかで見られ、完成品を女性でも拝める仕事か・・・何処か有るだろうか?


そんな事を考えながら、さてそろそろ帰ろうかと駅前を歩いていたら、電光掲示板にニュースが流れて来た。




【インターハイ・サッカー 準々決勝 県代表C高校 1-0で惜敗。】




・・・ソフト君達だ・・負けちゃったのか、残念だったねぇ・・。

夕暮れのビルの壁に、電光掲示板は何回も何回もニュースを流し続けていた。





日菜の利用する電車は、1時間に2本・・途中から減って1本の区間も有るが、夕方にはそれなりに混んで賑わっている。

日菜はリンダさんに景色を堪能して貰う為に、ドアの端っこに立って景色を眺めていた・・・畑や田んぼのど真ん中を高架で走るジーゼルだがな。

それでも高い所を走るので、遠くまで見渡せる畑や、一部海や水郷などが夕日に映えてそれなりには美しい・・とも言えなくはない・・と思う・・贔屓目に見てな。



『1級は機械で取るよ・・その方が製造業に近いだろうから。3Dの製造業だと・・部品の金型とか、その組み立て・・機能や動作まで解らなきゃならないかも。電気関係だと回路図とか読めないと駄目だしねぇ・・・工業高校に行けばよかったかも。今更だけどね。』

『回路図か・・・魔術陣の複雑さに比べれば、児戯たる物だ。私の掛かれば造作も無い事よ。』

『それはリンダさんが、難しい回路図を見た事がないから・・・。』

『其方私を馬鹿にしているのか?ネットに潜り込んで複雑なパスワード潜り抜け、この世界を縦横無尽に覗き込んで来た私を。』




『ちょっと!家のパソコンからやらかしたんじゃ無いでしょうね、追跡でもされたらどうすんのさ!』

『そのようなヘマはしない。』


エライものを背中に、顔か・・しょい込んでしまった・・。

いや?・・眼鏡を外せば・・。


『其方、私の協力なしに1級が取れるのか・・11月にはついでに3Dの2級も取るが良い。それから背後霊では無く守護霊様と呼べ、呼称が間違っているぞ、失礼な奴だな・・これだけ守ってやっているのに有難く思うが良い。』


ううう~~~~。

<世界の不思議辞典>までダウンロードしているので無駄に五月蠅い。


外が真っ暗になり、何も見えなくなってきた・・田舎だなとリンダさんが言う。


『でも道から電車を見上げるとね、暗い夜空に明かりをつけて走る銀河鉄道の様に見えるんだよ。』

『何処までも遠く遠く・・空に・・か。』


それは、ナンチャラの鳥の星の話ではなかろうか?リンダさんは文系はさして興味が無い様なので、いい加減に覚えている様だ・・文学名作辞典。世界の不思議辞典の方が面白かったのか?


『リンダさんと日菜は、何処まで行けるかねぇ?』


関東地方から飛び出せるだろうか・・能力のある人から世界は狭くなる・・か・・・日菜の外界の世界は限りなく広い様に感じられる。




ピンポーン!

日菜のガラゲーにメールが来たようだ。




【負けた。】


ソフト君か・・・いつの間にかメル友になっていた。

そんなにメールもしないけどな。


【ドンマイ!】





高校生の夏は、楽しいばかりでは無いらしい。


夏休み・・・学生時代はお金が無い・・・大人になると休みが少ない(*´Д`)。


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