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日菜とリンダさん  作者: さん☆のりこ
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鼻で笑うと茶福豆

 めでたく勝利で終わった県大会1回戦目の翌日、怠い月曜日の朝・・全体朝礼が行なわれていた体育館で、かの<大高源吾>様はU-18への招集・参加を発表された。



 生徒たちの大歓声と校長先生の熱い激励を受けた<大高源吾>様は、清々しいほど落ち着いていて、流石に超高校級のエース?と言うのか、持っている言う人と言うのか・・・いろいろと半端ない感じだった。声援を受けるとオ~ラって光を増すモノなんだね、驚いたよ・・・よくアスリートの人が<皆さんの応援が力になりました>って言っていたけれど・・本当の事だったようだ。全校生徒の声援を受けていた<大高源吾>様のオ~ラは3割増しで光っていて、もうベッカベカだった。

日菜が目を細めていたのは眩しかったからで、決して不機嫌だった訳では無い。


「才能のある人から、地球は狭くなって行くものなんだろうね~。」


 智花ちゃんの感想は至極もっともだ、才能は確かに自分の可能性を広げ、地理的な距離を狭くさせるのだろう・・ヨーロッパの何処かでやるらしいよ?Uー18って。

<大高源吾>様にとってヨーロッパは、もう想像しているだけの憧れの場所なんかではなく、現実に向かう土地になっているのだ・・凄いねぇ。


 悲しいかなモブの日菜などは、関東地方の移動だけでも青息吐息状態で、とてもじゃ無いが海外などで仕事なんぞ出来る気がしない。考えただけでお腹が痛くなりそうだ、NIPPONバンザイ・・海外は修学旅行で行くだけで沢山だ、一生日本にしがみ付いて生きて行こうと思う日菜さんである。

サッカー部の面々&ソフト君は、内心はどう思っているかは解らないが・・皆さん純粋に自分達のエースを応援しているように見えた。


彼らは彼らで、県大会・関東大会優勝を目指し、熱い6月を過ごしていくのだろう。

・・ガンバ!!




 他人には簡単に<ガンバ>とか言ってハッパを掛けている日菜だが、日菜自身も夏休みには次のステップである<CAD2級>に挑戦せよとリンダさんに圧力をかけられているので地味にキツイ。



 そんな6月がゆるゆると過ぎて行くなか、実務コースの生徒達向けに講習会が開かれた。

何処かの<キャリアなんとか>とか言う会社の講師様が招かれて、就職試験時の面接の心得とか立ち振る舞い、その他ビジネスマナーを教えて下さるのだそうだ。主体は就職試験を9月から控えている3年生だが、日菜達2年生も希望者は見学しても良いそうだ。

日菜の友達は誰も参加しなかった(来年受けるからまだいい・・との事だ)が、日菜は予習のつもりで講習会を見学してみる事にした。



     *****



 講習は小体育館で行われた、此処で日菜は酷く感激する事となった・・・講師の人がそれは素敵だったのだ。

思えば日菜の周囲には、スーツを着たビジネスウーマンなどは見当たらなかったのである。

現国の小林先生は確かに女性で、スーツらしきものを着ていたが・・・いや、あれはスーツではない何か違う物に違いない。それぐらい着こなしというか、立ち振る舞いと言うのか・・・月とスッポンほどに違って見えたのである。


 まず講師の方はスタイルが良かった、ボン・キュッ・ボンな訳では無いが、背筋がスッと伸びていて格好が良かったのだ。まさしく働く有能なキャリアウーマンって感じである。

彼女のオ~ラは綺麗なきつね色で・・それは彼女の社交性の高さと、人から信頼される<人望>を持つ事を表しているのだろう。

それに・・きつね色のオ~ラって、お金に困らないらしいよ?良いよね。

顔はそう驚くような美人では無かったが、感じが良いと言うのか?老若男女問わずに好感度が高い感じがしたのだ、飾らない笑顔が素晴らしいではないか。

特別そんなに美人でなくても、仕事には差支えが無い事が解ったので、嬉し(失礼な奴だな)かったのだ・・日菜はその・・容姿を褒められた事が無かったから(涙)。

いやいやフツーだと思うよ?ごくフツーな顔、たぶん。



 講師の方によると、人はその歩き方・座り方・机の周りの片付け具合で、その人となりが解ってしまうそうなのだ・・なんて恐ろしい事だ。

目的が有って緊張感を持ちながらキビキビと歩く人は、キャッチセールスには捕まらないと言う・・まぁ忙しい人には声を掛けにくいだろうけどさ。

ダラダラと腰を落として下っ腹を突き出し、足を引きずるように歩く人は・・・運動不足で筋肉が弱っているそうだ。ふむ、そう言われればそんな気がして来るぞ?気を付けよう。


3年生達はまず歩く練習をモデルさんの様にさせられた、就職試験の面談の時に、綺麗に歩いて入室できるとそれだけで好感度がUPするのだそうな。


「背筋を伸ばして、軽く顎を引いて目線は2メートル先を見て・・はい、1・2・1・2。」


ほう、確かに講師の方に指摘された様に気を使って歩くと、モブの先輩達でも(失礼な奴だな×2)何だかイキが良く元気に見えて来るから不思議なものだ。背も少し高くなった様に見えるし、姿勢が良くなると屈折率でも変わるのか?オ~ラも前より綺麗に光って見えた。


「だらしなく座る人は、自分のお育ちを申告している様なものですよ。姿勢には感情が現れます、体が前のめりになっている時は、良いに付け悪いにつけ感情が籠っているものです。皆さんも好きな人の話は体を乗り出して聞くでしょう?」


「はははは・・・・・。」


「どうでも良い時は、背もたれに寄りかかってだらしなく聞きますよ、就職試験の時にこの姿勢をされたらまずアウトと思って下さい。」


「ええええええ~~~~。」


講師の先生は色々な座り方をして実演して見せてくれる、有能でありながら笑いも取れるとは・・恐ろしい子。


「自分を偉そうに見せたい人はふんぞり返り・・・」


      隆志だ・・・・。


「自信の無い人は背中を丸めて、防御の姿勢を取ります。」


      ソフト君・・・・。


「一日のうち1回で良いから、自分の姿勢をチェックしましょう。無意識のうちに良い姿勢が保てるようになると、貴方の魅力も上がりますよ。」


日菜は慌てて良い姿勢を取って座った・・・結構疲れるね良い姿勢って、インナーマッスルを使っていそうな感じ?


3年生達は<流れる様にかっこ良く椅子に座る>の練習を始めた、椅子の横に立ちお辞儀をして、進められてから着席する・・・これも筋力が無いとドスンと座ってしまってオバさん臭い。・・と言うか・・筋力が不足して来るからオバさんはドスンと座る様になるのかな?

鶏が先か・卵が先かの話になりそうだ・・・。


「机の周りは貴方の能力を表します、グチャグチャになっていませんか?必要な事柄の取捨選択・優先順位を間違えては居ませんか?貴方の頭の中の状態が机の上に現れています。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


机の片付けだけで、其処まで言われないといけないとは・・恐るべしマナー教室。

これは付け焼刃で身に付くようなものでは無いらしい、日菜は予習に来ていて本当に良かったと思っていた。



    *****



「あんた何しているのよ?」


日菜が帰宅後、台所を片付けつつ良い姿勢で歩く練習をしていたら仕事から帰って来た母に声を掛けられた。お帰りなさい。


「就職に向けて、きびきびと歩く練習?」

「チビがモデル歩きしたって滑稽なだけよ、やめなさいみっとも無い。」


モデルはこうだろうよ?日菜はオーバー目にモデル歩きを再現して見せた。

モデルはターンするのがミソなのだ、その時にポージングとドヤ顔をするのを忘れてはいけない。中坊の時にクラスでガールズコレクションごっこをするのが流行っていたからね、チョッとばかりモデル歩きには五月蠅いのだ。母の前でドヤ顔して差し上げる、よく見たまえ。


「キャリアウーマン歩きはこう、周囲を挑発することなく常に友好姿勢。でも背筋を伸ばして出来る女を演出。今日学校で講演があってね、就職試験に向けた立ち振る舞いを勉強したの。」


日菜は秘書さん風に(想像だが)母に麦茶を差し出してあげた、茶托付きだぞ凄いだろう。


「真似したって自分に似合って居なかったらアホみたいでしょうに、悪目立ちするだけだから止めておきなさい。大体その講師ってどこから呼んで来たのよ、田舎の高校生に都会の大卒の真似をさせるなんて意地悪なんじゃないの?」

「歩き方に学歴は関係ないって言っていたよ、何かね歩き方で人となりが解るんだってさ。せっかちの人はセカセカ歩くし、とろい人はトロトロ歩くみたいな?」

「あんたはチョロチョロ歩くしね、独楽鼠みたいでお似合いなんじゃない?」

  

       ふむ。


「独楽鼠は就職に有利かな、何かよく働きそうな感じがする?」


 母は鼻で笑って着替える為に寝室に入って行った、母の挑発に乗るほど子供ではもう無い、適当にあしらってスルーしておけばよいのだ。


 でも独楽鼠は頂けないな・・・何か身近で良い手本になる人はいないかな・・・従兄弟のJDは、あれは駄目だ筋力が無さすぎる、本を読み過ぎているからニャンコ背気味なんだ。


そうか・・お婆様だ!


あのスッと背中に1本筋が通っていて、何事にも動じない浮世離れしたあの感じ。

日菜がお婆様を思い浮かべながら背筋を伸ばして立っていたら、台所に入って来た母が「ひっ」と息を吸い込み気味が悪そうに日菜を眺めた。


そんなに似て居たかな?背格好は日菜の方が大きいのだが。


悪乗りした日菜が、例のお婆様のお得意のポーズを取って(両肘を掴んで斜に構えるあれだ)、


「貴子さん。」


と母の名を呼んだら・・・本気で恐がられた・・・(笑)。






 早番の父も帰って来て、久々に3人で夕食を囲む・・兄は大学近くのアパートに一人暮らしだ。テーブルの上のモノを横に避けて、どうにか配膳をする・・今日はスーパーのコロッケがメインの様だ。良いよねコロッケ美味しいし。

夕食の話題はもっぱら日菜が提供する、長く夫婦をやっていると話題も枯渇して来るらしいから仕方が無い。



「それでね、その講師の先生が言う事には<秘書検定>を取っていると就職に有利なんだって。」

「はぁ?高卒が秘書検定なんかとっても、秘書になんかなれないでしょうに。」

「お母さんが想像している秘書さんは、眺めの良い高層ビルでタイトなスカートをはいてて、髪をUPしている様な、英語や仏蘭西語ベラベラな感じの人でしょう?そう言う大卒の人は1級とか準1級とか、難しい資格を取る人達なんだよ。日菜が目指しているのは3級・・上手くいって2級。高校生が持っているとね、一般常識が有ると思われて、就職の時に有利なんだそうな。」


常識ねぇ・・フンッとまた母が鼻で笑う。


日菜は素早い動きで食卓の<茶福豆>を箸でつまむと、母の鼻の穴に突っ込んだ!


「ちょっ、何するのよ!」


茶福豆は母の鼻の穴に半分ほどめり込んでいた・・案外鼻の穴が大きいねお母さん。


「鼻で笑うのが得意そうだから、豆も遠くまで飛ばせそうだと思ってさ。フンッって鼻息で飛ばしてみてよ、上手く出来たら<鼻で笑う1級>を贈呈するよ。」

「馬鹿馬鹿しい、あんたの頭どうかしてるんじゃないの!」


母は怒って洗面所に行ってしまった、ジョークが解らないなんてマダマダだね。


「食べ物で遊ぶのは感心しないぞ。」


これが遊んでいる様に見えるのなら、父も相当ズレている。





『さっきの豆は面白かったな、其方の行動は突飛過ぎて予想がつかなくて興味深い。』


自室と言う納戸に戻った日菜に、リンダさんが愉快そうに話しかけて来た。

母は大学進学の為に実家を離れた兄の空き部屋をかたくなに守り、日菜に明け渡してはくれなかった。一度下剋上とばかりに乗っ取ろうとしたのだが、エラク怒られて現在に至る。


「母親はずっとあんな感じ、プライドが高くてさ、だから日菜を馬鹿にしているんだろうね・・本当にそんなに偉いのかはさておき、母親の中では日菜は我が家のヒエラルキーの最下層なんだと思うよ。」


だから何でもズケズケと言いたいことを言い、日菜を下げ、鼻で笑うのだろう。


『承認欲求が強いのだろう・・自分は正しい・・勝者なのだと、認めさせたいのだろうよ。』

「誰に認めさせたいんだか?・・まぁ、たぶんお母さんの兄のオジサンと爺に何だろうな。自分の息子はアンタの所のチャラサーファーより出来が良い・・育てた私って素晴らしいって事だよね。」


それが母の唯一のプライドで、己の存在証明なんだろう・・。

日菜は端から戦力外通告をされていて、見向きもされてこなかったのだが。


『承認欲求が強い者は、劣等感も強いものだ・・故に、其方が資格を持ち、自分を超えるのが許せないのだろうさ。』

「別に許してもらう気も無いけどね。」


母親のオ~ラは深い灰色で・・それはプライドの高さや、頑固さ、負けず嫌いな面が有るのを表しているそうだ、ネットで検索した情報によるとね。日菜とは相性は悪いらしいよ?




「リンダさん・・CAD勉しても良いかな?」

『共にトキョに行くのだろう、せいぜい頑張ることだな。』





その晩も、日菜の部屋の明かりは遅くまで点いていた。

何処の親子も、それなりの不満は抱えて居るものなのでしょうね。


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