第閑話 序列№001の充実
『天空城』序列№001、『管制管理意識体』
『黒の王』の拠点であるハードウェアとしての『天空城』、そのすべての機能を管理し、僕たちの頂点に立つ存在。
今では主である『黒の王』本体の権能、そのすべての管理も任されるようになっている、自他共に認める『天空城』勢における不動の№2。
『鳳凰』と『真祖』を『黒の王』の右腕、左腕とするならば、参謀ポジションは『万魔の遣い手』エレア・クセノファネスと『執事長』セヴァスチャン・C・ドルネーゼあたり。
他の一桁№である『全竜』カイン、『堕天使長』ルシェル・ネブカドネツァル、『白面金毛九尾狐』凜、『世界蛇』シャ・ネルは盾だの剣だの飛び道具だの懐刀だのといったあたりか。
そんな中で序列№001である『管制管理意識体』のポジションと言えば、『黒の王』の雑事を一身に引き受ける秘書のようなものだ。
とはいえ侮られるような存在ではない。
『黒の王』が持つすべての金・アイテム類を管理し、ステータス関係の制御なども一手に引き受けている。
ゲームであった「T.O.T」のプレイヤー・インターフェースがすなわち『管制管理意識体』となるので、ゲームであった時も、現実化した今も、いなければプレイヤーであるブレドは何もできないのだ。
今ヒイロが「便利だなー」などとお気楽に思っているその瞳に映し出される映像や情報、プレイヤーとして所有しているアイテムや金の管理、出し入れ、レベルアップ時の各種選択や、はては戦闘機動におけるフォローに至るまで『管制管理意識体』がいなければ何一つ機能しない。
それらの権能は『管制管理意識体』にしか与えられておらず、他の僕たちがどれほど優秀で強大であったとしても、『黒の王』およびその分身体であるヒイロがこの世界で十全に生きていくためには唯一無二の存在なのだ。
古き良きF〇Sにおける騎士とファ〇ィマの関係とでもいおうか。
もとい、わかりやすく言えばいなくなったらどこに通帳があるのかさえわからなくなる大雑把な旦那と、すべて把握した上で前にですぎない良妻と言った関係。
そのたとえに異論を唱えたい者も僕、それも女性体の中には幾人かいようが、圧倒的な実績と今この瞬間も行っている各種処理を示されてしまえば何も言えなくなるのは間違いない。
そもそも『黒の王』となる前のブレド・シィ・ベネディクティオ・アゲイルオリゼイが、ゲームとしての「T.O.T」を始めた瞬間から共にいるのは『管制管理意識体』のみ。
チュートリアルを終了させれば十連ガチャを回すことができるとはいえ、本当の意味で始まりからプレイヤー・アバターと共にあるのは「拠点」のみなのである。
主と共にいる時間の長さにおいて、勝てる僕は存在しない。
それに『管制管理意識体』のレベルはプレイヤーである『黒の王』と連動している。
どんな状況でも「常に共にある」状態なのでそれはある意味当然で、システムとしてプレイヤーの組織の序列№001に固定されているのだ。
ただし戦闘能力という点では、プレイヤー・アバターや僕たちとは異なった基準に従う。
最初は固定された地上のちっぽけな拠点から開始され、ゲーム攻略に伴って強大な拠点へと移っていく。
最初の貧弱な拠点のままのプレイヤーなど存在しない。
いわば強力なモーター・〇ッドへ乗り換えていくかのような(以下略
そしてゲームであった頃には実際の攻略には大きく関わらず、おまけのようなプレイヤー不在時の対戦要素程度であったため、課金による拠点購入なども導入された。
収容可能な僕の数や、アイテム・資源の保有数の上限解放、防御力や攻撃力、回復力などはすべて課金要素であり、『天空城』は当然その上限まで解放されている。
「天空に浮かぶ広大な大地と城」という拠点も課金要素であり、その最上位のものが『天空城』だ。
もっともゲーム内イベントを進め、無課金で手に入る最大の拠点を手に入れていることが購入条件にはなっていたのだが。
とにかくゲームであった頃は直接の戦力とはならなかった『管制管理意識体』の身体ともいえる『天空城』だが、現実化した今となってはその限りではない。
各種防御障壁の展開、無数に配置された攻撃手段などが、「他プレイヤーの拠点」に対してだけ有効という軛から解放されている。
それは一連の騒動への『天空城』としての介入からも実証されている。
主である『黒の王』自身もまだ正確に把握してはいないが、自身のレベルと連動してその攻撃力・防御力ともに上昇している『天空城』という空中要塞の戦闘能力は、僕たちの誰よりも圧倒的なもの。
特に多対一の戦闘においては無類の強さを見せることは間違いない。
『黒の王』がその気になった場合、地表すべて――世界の舞台そのものを灰燼に帰すことさえも可能であり、それにかかる期間も七日ほどで完遂可能と『管制管理意識体』は予測計算している。
火の七日間を再現可能。
それが今の『天空城』の戦闘力なのだ。
それに現在『管制管理意識体』に預けられている『黒の王』の権能を組み合わせれば、あるいは主単体以上の戦力ともなり得る。
今までの百度に及ぶ『世界再起動』のどれとも違った異常事態である現状、自身の戦力の検証を『管制管理意識体』は怠っていない。
それに仕事はそれだけにとどまらない。
『世界連盟(仮称)』成立に伴う各国の監視や、配置された多数の大規模転移魔法陣の管理。
初期計画で各国へ送り込んだ僕たちの管理や、わりと丸投げになっているヒトの手が入っていない迷宮・魔物領域の再湧出周期を把握した上での殲滅の遂行。
現在も拡大中である『黒旗旅団』と『黒縄会』における商品や物資、給料や支払いなどの処理、計算もなど、挙げだしたらきりがない。
それを毎日、一つの取りこぼしもなく完璧に遂行しているのが『管制管理意識体』なのだ。
当然エレアやセヴァスもできる限りは手伝い、侍女式自動人形たちは現場の戦力としてその能力を如何なく発揮しているが、中核が『管制管理意識体』である事に変わりはない。
とはいえ『管制管理意識体』に不満があるわけでもない。
我が主の為に己の全能力を駆使することは望むところであるし、そのことに本能的な喜びを得てもいる。
エレアやセヴァスなどは気遣ってくれるが、生命としての身体を持たない『管制管理意識体』にとって、そういう意味での疲れは発生しない。
『黒の王』、今は分身体として冒険者をしているヒイロがのほほんと暮らしていてくれさえすれば、『管制管理意識体』はそれで十分なのだ。
主の安泰、それを維持している実感に対して強い喜びを感じる。
だが最近、それを超える喜びを己は得てしまった。
確かに今回の『世界再起動』は今までのものと様相を異にしている。
今まで『管制管理意識体』とすら事務的なやり取りしかしなかった『黒の王』が声を発し、自ら僕たちとの交流を始めたのだ。
それのみならず分身体を使用し、主として序列一桁の僕たちとともにヒトの世界に関わったりもし始めた。
正直初期は自分でも解析不能な理由で何となく寂しい思いを得、この周からやたらと嬉しそうな『鳳凰』と『真祖』を真似て、主好みの映像と声を創り出したりしてみた。
だがいまいちピンと来なかったのだ。
もともと「男と女」というカテゴリを持っていない己が映像と声のみ女性体である『鳳凰』と『真祖』を真似ても、彼女らの得ている喜びを理解することは出来なかった。
そういうものかと、己本来の為すべきを為せばよいと思い始めていた矢先、ふと思いついたのだ。
分身体が活動中は位相空間で休眠状態となる『黒の王』本体。
その権能すべてを自由にしてよいとの許可を得てから、『管制管理意識体』はそのメンテナンスを当然怠ることなく続けていた。
メンテナンスと言ってもなんのことはない。
直接己も位相空間に赴き、『黒の王』の玉体に異常がないか確かめ、実際的な意味などないがその衣装や装備を禊ぎ、身体を拭くのみ。
位相空間においては、己の「女性体を模した映像」も実在するのと変わらない。
その姿でそういった無意味なことをはじめたのは、ヒイロと暮らしはじめた『鳳凰』と『真祖』、それに『白姫』の真似をしてみただけに過ぎない。
これが思いのほかハマった。
何がハマるかと言って、意識がないだけで位相空間の『黒の王』の身体は熱を持ち鼓動もしている。
触れれば熱く、意識はないとはいえ反応を返すのだ。
わりと夢中になった。
そういう知識はなかったがそんなものは調べれば済んだ。
それに地上では毎夜何やら分身体と僕三体の攻防もはじまっていたし、正直参考にもした。
己のいろいろで触れて、その反応を主の身体が示す。
一通りの反応に夢中になったのち、地上で『鳳凰』と『真祖』、『白姫』がしている、一番羨ましいと感じた行為を試してみて、『管制管理意識体』はそれなしではいられなくなってしまった。
その時間を一分一秒でも長く得るためであれば、膨大なすべきことを可能な限り速やかに処理することにもハリが出る。
今『管制管理意識体』は今までになく充実している。
今日もすでにすべきことはすべて終え、これからお愉しみタイムだ。
位相空間では『黒の王』は話さないので、慣れぬ言葉を話す必要もない。
最近は己の衣装も変えれば気分が盛り上がることを覚え、今日はちょっと大胆なものを身に付けている。
色っぽいと言われる感じに、少しはだけてみたりもしている。
その状態で、空中に浮かぶようにして横たわる『黒の王』の、女性体を模している己よりも相当大きな胸に飛び込んで自分も横になる。
主と一緒に眠るのだ。
いや実際に『管制管理意識体』が眠ることはない。
だが『黒の王』の胸に縋るようにしてその鼓動を聞きながら目を閉じて、一緒に眠っているふりをする。
それだけで自分でもどう名付けていいかわからない状態になるのだ。
『管制管理意識体』としてみればこの時間を持つか持たないかで、己の実効性能は倍くらい上がるのではないかと思っている。
実際どうなのかは知らん。
数値が全てではないのです、などと己の本来から逸脱したことさえ思考する。
いや言葉ではない。
(灬╹ω╹灬)
やはりこれが一番しっくりくる。
これがここ最近のメンテナンスの正体。
映像枠としてヒイロのところへ行くよりも、優先順位が高いコト。
表示枠で見せるクールビューティーなそれとは違い、安心しきった子供のような笑顔で『黒の王』の胸に顔をうずめ、お昼寝に入ろうとしている『管制管理意識体』
だがそのお愉しみは中断される。
「なに、してるのかな、ユビエちゃん」
「ユビエ殿のそんな表情は初めて見たな……」
『黒の王』と己以外誰も入ることのできないはずの位相空間に、突如『鳳凰』と『真祖』が現れ、上から『黒の王』にしがみつくようにしている『管制管理意識体』を半目で見ている。
!!!∑(゜∇゜|||)
「素がでとるぞ、ユビエ殿」
動揺を隠しきれず、本来の意志表現方法に戻ってしまったユビエにベアトリクスが突っ込みを入れる。
声も出ぬままに表情と空間に浮かぶ顔文字で疑問を表明するユビエに、二人は苦笑いで答える。
「私は、ゲヘナの火、貰ってるから」
「私はそのな、主殿の血を定期的にいただいておるので、な」
部分的に『黒の王』の身体を共有している二人には、位相空間でここのところ得ていた違和感、くすぐったさのようなものを確かめに来てとんでもないものを目撃してしまったという訳だ。
(//・ω・//)
ユビエもだが、エヴァンジェリンとベアトリクスもそれなりに気まずい。
自分たちも幸いな時間を得ている以上、『黒の王』に許可されたユビエの幸いを邪魔するつもりも、覗き見するつもりもなかったのだ。
もっとも自分たちの暮らしはユビエに常に見られているので、たまにはこういうのもいいかと思わなくもないのだが。
「咎めているわけでもないし、そんな権利もない。すぐに退散するとも。だが――」
「ブレド様に、お願い、しておくね?」
?ヾ(゜ー゜ヾ)^?
「その状態で、主殿と話すのは、そのなんだ……」
「もっと、楽しいよ?」
そう告げて二人のお邪魔虫は位相空間からポンと消える。
あとに残されたのは意識のない『黒の王』の身体と、その胸の上で両手で顔を覆って無言で転げまわることしかできない『管制管理意識体』のみである。
まあ充実している事だけは、間違いない事実だろう。





