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その冒険者、取り扱い注意。 ~正体は無敵の下僕たちを統べる異世界最強の魔導王~  作者: Sin Guilty
第四章 その冒険者、世界を変えた者。

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第62話 誰が為の在り方か――『鳳凰』の場合

 『九柱天蓋ノウェム・カノピウムズ』旗艦の基部、魔力炉を破壊せんとしている十三愚人の一人、(オクトゥ)


 (Ex-)プレイヤー。


 阿弥陀被りをした狐面と、少女の体躯。

 その身に纏う着物もこの世界には本来存在しない奇異なものだが、それよりも目を引くのはその()()だ。


 隻眼という意味ではない。

 もとより顔の中央に、大きめの眼が一つあるのみの単眼少女。


 それが(Ex-)プレイヤーたちの集団「十三愚人」、(オクトゥ)の姿。


 一目でヒトではない、魔物(モンスター)ですらない()()()()の類だとわかる見目(みめ)でありながら、そこに美しさを感じてしまうのが一番の怪異であるかもしれない。


 『静止する世界』に囚われていながらにしてなぜか自在に動けはするものの、『管制管理意識体(ユビエ)』が多重展開する防御陣を砕ききれもしない。


 そのために目的である魔力炉を破壊することができずに、攻めあぐねているのが現状だ。


 その目の前に、金色の炎が燈る。


 中央に大きく一つ。


 そしてそれを中心として炎の結果を張るが如く、単眼少女(Ⅷオクトゥ)の周りを無数の炎が取り囲む。


 中央の大きな炎がヒト型ではあれどもその姿も、身に纏う衣装も、揺れる髪さえも金色の炎と化したエヴァンジェリン・フェネクスの形を成す。


 『鳳凰』――その戦闘形態の一段階目(ヒトガタ)である。


 その胸元には主である『黒の王(ブレド)』から与えられた、「ゲヘナの火」が燃え上がっている。

 エヴァンジェリン本来の炎と混ざり合い、溶け合いながらもけして一つにはならない。


 それを愛おしそうに両の手で抱くようにしながら、『鳳凰(エヴァンジェリン)』が完全に顕現する。


「――()()が来ちゃったか。できれば貴女たちの(あるじ)と相対したかったけど……しょうがないね」


 それを見て、慌てるでもなく単眼少女(Ⅷオクトゥ)がため息と共に言う。


 『天空城(ユビエ・ウィスピール)』最強戦力である『鳳凰』を前にして、唯一それ以上の力を持つ『黒の王』と相対したかったと、鈴の音のような可憐な声で告げる。


「ブレド様に、勝てるとでも?」


 金色の炎そのものの姿で、感情無き声でエヴァンジェリンが問う。


 己を軽く見るのは好きにすればいいが、(あるじ)である『黒の王(ブレド)』を言葉()()で軽く見ることは赦さぬとばかりに。


「どうかな。――一応言っておくけど、今回の私たちの目標は貴女たちじゃないの。それでも()()?」


 今回の十三愚人の目的は、『世界会議』の成立を阻止すること。


 なぜその必要があるのかまで語る事はさすがにしないが、それさえ成れば、今この時に『天空城(ユビエ・ウィスピール)』と直接事を構える気はない。


 そのことを念のためと言わんばかりに告げる。


 だが語るに及ばずとばかりに、無言のままにエヴァンジェリンが周囲に張った結界の如き炎を単眼少女(Ⅷオクトゥ)へと集中させる。


 (あるじ)に任されたこの場から、(しもべ)がそんな言葉だけで引くわけもないのだ。


「そうだね。貴女たちの()()()は、ほんの少しだってブレることなく変わらない」


 それを苦も無くすべて消滅させ、苦笑交じりで単眼少女(Ⅷオクトゥ)が言う。


 懐かしいものを愛おしむような目で、(あるじ)の命令に忠実足らんとするエヴァンジェリンを見ている。


 初撃を出し惜しみするエヴァンジェリンではない。


 殺すなと命じられてはいるものの、死と再生を司る『鳳凰』たるエヴァンジェリンにしてみれば、消し飛ばしてから再生させる方がはやい。


 『天空城(ユビエ・ウィスピール)』序列№003、戦闘力においては(しもべ)筆頭の己が、()()()()()で放った一撃――いや数十撃を、単眼少女(Ⅷオクトゥ)が苦も無く無効化してみせたことにすくなからずエヴァンジェリンは驚いている。


「たとえどんな相手であっても、己が主の敵と認めれば一切の躊躇なく殲滅する」


 だが一切の出し惜しみをせず連続して繰り出すエヴァンジェリンの一撃を、すべて単眼少女(Ⅷオクトゥ)は同じように無効化する。


「勝てる勝てないどころか、己の生き死にすらも顧みない。主が最後に勝つことを確信して、自分が消滅することすら厭わない」


 そして憐れむように、愚直に攻撃を続けるエヴァンジェリンの事を語る。


「それが(しもべ)としての、正しい()()()


 『凍りの白鯨』ですら一撃で殺しかけた己が身に炎を纏って突進する技ですら、語る単眼少女(Ⅷオクトゥ)の言葉を止めることすらできずに無効化される。


「――それじゃあ、ダメなんだよ。エヴァンジェリン・フェネクス」


 そして言われる。

 エヴァンジェリンのすべての攻撃を無効化してみせた上で。


「それじゃあダメなんだ。そのままだと貴女たちの(あるじ)()いずれ必ず()()()。そして(Ex-)プレイヤーに――愚か者の一人に()()()


 それを単眼少女(Ⅷオクトゥ)は、()()()()()と言わんばかりにエヴァンジェリンへと告げる。

 

 十三愚人たちはみな、(Ex-)プレイヤー。

 つまり今の『黒の王(ブレド)』と同じように本拠地を持ち、多くの(しもべ)たちを従えていたはずだ。


 ――(Ex-)が付くまでは。


 だが今、単眼少女(Ⅷオクトゥ)孤独(ひとり)


 そして愚直に(あるじ)の命令に従わんとする『鳳凰(エヴァンジェリン)』を、憐れむような、懐かしむような目で見ている。


「今日はそれだけ覚えておいてくれればいい。――今日はこれで引くよ」


 『鳳凰(エヴァンジェリン)』の攻撃は()()()()()一切通らない。


 だが単眼少女(Ⅷオクトゥ)の今日の目的は『天空城(ユビエ・ウィスピール)』――『鳳凰(エヴァンジェリン)』を倒すことではなく、『世界会議』を成立させないために被害を与えることだが、それも『管制管理意識体(ユビエ)』に阻まれて叶わない。


 千日手だ。


 ゆえに溜息交じりで、(Ex-)プレイヤーとしての忠告をしたことを良しとして、撤退の宣言をする。


 ――だが


「逃がさない、よ?」


 今まで一切の攻撃が通じなかったエヴァンジェリンが、宣言する。


「――え!?」


 ここへ来た時と同じ「転移門(ゲート)」を開こうとして、それを即座に()()()()ことに単眼少女(Ⅷオクトゥ)は驚愕する。


 今まで『鳳凰』のすべての攻撃を無効化してきた鉄壁のはずの防御を、苦も無く()()()ている。


「ずっと、貴女の言うとおりだった、よ」


 そう言って、エヴァンジェリンは笑う。


 『黒の王(ブレド)』が「ヒイロ」という分身体を創り、何を思ったか冒険者を始めたりするまでの自分たち(しもべ)の在り方は、確かに単眼少女(Ⅷオクトゥ)が言うとおりだったなあ、と思い出しながら。


「でももう、今は、ちがうの」


 そう、まるで違う。


 前周までのエヴァンジェリンは、まさか自分が己が主(ヒイロ)と同じ部屋に暮らし、料理を作ったりメンテナンスと称して()()()()()ようになるなど、想像すらしたこともなかった。


 それが今や、エヴァンジェリンにとってのかけがえのない、大切な日常と化している。


「ブレド様を愉しませることが、()()私の正しい在り方。だから――」


 そしてブレドは確かに明言した。


 エヴァンジェリンたち『天空城(ユビエ・ウィスピール)』を成す(しもべ)たちはみな、ブレドを愉しませるため()()に存在しているのだと。そのために身命を賭して奮励せよと。


 ――それこそが(しもべ)たる己らの存在理由(レゾン・デートル)なのだと。


「もしも勝てない相手がいたら、私はブレド様のところへ逃げるよ?」


 そうであれば、勝てぬ相手に自己満足で挑んで死んでいる場合ではない。

 

 (あるじ)より後に死ぬことさえなければ、それでいいと思っていた頃の自分たちではもうないのだ。

 

 勝てない相手からは逃げればいい。

 そして(あるじ)と、仲間たちと力を合わせて迎え撃つ。


 それでも勝てねば主と一緒に滅びればいいのだ。

 

 今のエヴァンジェリンが己の死を良しとするのは、『黒の王』が消えてしまった後だけだ。

 それ以外であれば、何としてでも生き延びることを第一とする。


 『黒の王(ブレド)』を愉しませる――悲しませないためにこそ(しもべ)たる己は存在する。


「――だけど、貴女は違う、ね」


 確かに単眼少女(Ⅷオクトゥ)は、エヴァンジェリンの攻撃その悉くを無効化してのけた。


 だがその攻撃は『管制管理意識体(ユビエ)』の展開する多重防御障壁を抜くことができず、エヴァンジェリンへと攻撃してくることもないままに()()という。


 それにそもそも、最初の『天空城』からの魔導砲を無効化ではなく、躱している。


 単眼少女(Ⅷオクトゥ)(Ex-)プレイヤー。

 つまり何らかの手段で、「(しもべ)」の攻撃を無効化しているのだ。


 それはおそらく、エヴァンジェリンの攻撃を無効化するたびに単眼少女(Ⅷオクトゥ)の指で一つずつ砕けていた「指輪」だ。


 誰かから与えられたものか、エヴァンジェリンたち(しもべ)が知りえない、プレイヤーにだけ赦された「課金アイテム」の類なのかはわからない。


 十指の指輪すべてが砕けても、いくらでも予備があるのであれば確かに千日手だ。


 だが、単眼少女(Ⅷオクトゥ)が撤退しようとして開いた「転移門(ゲート)」は、いとも簡単に焼くことができた。


 プレイヤーである『黒の王(ブレド)』から与えられた、「ゲヘナの火」を混ぜ合わせた己の炎を駆使すれば。


「ブレド様の力を借りれば、勝てる、よ?」


 そう言って「ゲヘナの火」と混ぜ合わせた巨大な炎を、単眼少女(Ⅷオクトゥ)に叩き付ける。


「――ぁ」


 その炎は無効化されることなく、まだいくつか残っていた指輪ごと単眼少女(Ⅷオクトゥ)の小躯を焼き尽くす。


 その後に残された、黒白の世界に浮かぶ単眼少女(Ⅷオクトゥ)の魂を、『鳳凰』たるエヴァンジェリンが支配する。


 十三愚人の一人、単眼少女(Ⅷオクトゥ)はこうして、わりとあっさりと『天空城(ユビエ・ウィスピール)』の手に堕ちた。


 十三愚人の思惑を大きく外れるカタチで。


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書籍版第2巻 10月10日より発売しております! 電子書籍版は10/23発売となります!
2巻は本編も大量書下ろし、web版第二章完結後の後日談として下僕たちの会話「在り方の変化」を書き下ろしております。何よりもイラスト担当していただけたM.B様による表紙、口絵、挿絵は必見です! 王都の上空に迫る天空城がクッソカッコいい!

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