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その冒険者、取り扱い注意。 ~正体は無敵の下僕たちを統べる異世界最強の魔導王~  作者: Sin Guilty
第三章 その冒険者、神をも殺す者。

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第48話 暴走の兆し

 結論から言えば、属神ユリゼンはえらい目にあった。


 いや現在進行形であっていると言った方がより正しい。


 なにしろ己の主神(アルビオン)が、絶対的な(あるじ)であるヒイロからの勅命を受けて舞い上がってしまっている。

 その気持ちはわからなくもない、というよりもものすごく理解はできるのだが正直ちょっと落ち着いてほしい。


 己の一属神に過ぎない自分(ユリゼン)につねに表示枠でくっついて来るとは、これは何の罰なのかと遠い目をしてしまう。


 加えて己の主神(アルビオン)のみならず、自分が謙遜などではなく下っ端として所属する『天空城(ユビエ・ウィスピール)』の最上位序列者たちも、わりとお気軽に表示枠を飛ばしてくると来た。

 そればかりか(ヒイロ)から飛ばされてくることすらある。


 己の主神(アルビオン)に尽くすことは属神として当然としているし、我が主(マイン・フューラー)に至っては会話できるだけで悦んでしまうというのは(しもべ)の性だとは思うが、四六時中上司チェックが入るのはさすがに辛い。


 別に己の為すべきことに手を抜いたり、やらかす恐れをもっているわけではない。

 ないが、善意とは言えあれやこれや横から言われるとなれば「わかってます! わかってますって!!」と言いたくもなる。


 それがただの先輩程度ではない、遙か高みの存在であるのがなおキッツい。


 ――何を言われても「押忍」しか言えない体育会系でしたっけ『天空城(うち)』って。


 押して忍とはよく言ったものである。


 ――『千の獣を統べる黒(シュドナイ)』殿、安易に羨ましいとか思っててすいませんでした……


 到底神らしからぬ感想を抱いてしまうユリゼン。


 だが自分としては神のフリは得意だが、自分がどういう存在か? と問われれば己が主神(アルビオン)の属神であることよりも、『黒の王(ブレド)』の(しもべ)であるという認識が優先されるのが正直なところである。


 そしてそれを己の主神(アルビオン)も是としている。

 

 だからこそアルビオン教の南方を守護する聖女、つまりユリゼンをその身に()()()()クラリスに、己の主神(アルビオン)は姿を見せずにくっついてきているのだ。


 ――属神ユリゼンの憑代聖女クラリス、主神アルビオン付。アルビオン教においては敵なしですね。


 とにかく今のユリゼンは『天空城(ユビエ・ウィスピール)』の中枢陣と直結しており、『千の獣を統べる黒(シュドナイ)』と同じく序列からは乖離した立ち位置に居ると言っていい。


 よって雲上人(ヒイロ)たちには全く悪意はないにもかかわらず、ユリゼンとしては仮にも神と呼ばれる存在でありながら、胃が痛くなる状況なのだ。


 そもそもクラリスの体に完全に()()()直後に、ユリゼンはさっそくひどい目にあっている。


 憑代たるクラリスの魔力容量を拡張し、己を馴染ませたまではよかった。


 結果として下っ端とはいえレベル3桁後半には届いているユリゼンの能力をそのまま得ることになったクラリスは、レベル7でありながらヒトの域を超えた能力を身に付けた。


 己の憑代(クラリス)を守護する五人の教会騎士たちにも己の「祝福」を与え、具体的に言えばレベル7でありながらレベル17前後の能力を永続的に付与することとした。

 これはレベルが上がっても常にレベル10前後分のステータス・ブーストを行うものなので、普通のヒトとしては「天才」などというものではなく、「超人」の域に達している。


 それを実感し喜んだ聖女(クラリス)が、己の「加護」を恩人であるヒイロにもかけてくれないかと懇願してきたのだ。


 当然ユリゼンは念話でMURIだと伝えた。


 自分より遙か高みに在る存在に、下っ端の自分が「祝福」などとんでもない話だ。

 とはいえそれをそのまま説明するわけにもいかぬから、「信徒でなければMURIだ」と伝えたのだ。


 十歳に過ぎぬ幼く純粋な聖女(クラリス)は、己の神(ユリゼン)に対して我儘を言ったりはしなかった。

 ただものすごく悲しそうな表情で、この短期間でずいぶんと懐いているらしいユリゼンの主(ヒイロ)に謝っただけである。


「ヒイロ様、ごめんなさいなのです。私の神様の「祝福」は、アルビオン信徒でなければ受けられないそうなのです」


 クラリスにしてみれば、あわよくばヒイロがアルビオン教の信徒になるという都合のいい希望も持っていたものであろう。

 確かに普通のヒトであるならば、アルビオン教に入信するだけで「超人」となれる機会を逃す手はないと考えても不思議ではない。


 もちろんヒイロがそんなことのために、アルビオン教徒になるなどあり得ないのだが。


 万が一そんなことになりでもしたら、ヒイロが入信した瞬間にソッコで主神(アルビオン)が降臨して、『アルビオン教』を『黒教』などという、どこの邪教ですかそれは! と言いたくなるような名に改名しかねない。


 その言葉を受けて、己の主(ヒイロ)は「そうなんだー、残念だねー」などと少々棒読みで答えていたが、SD化している(小っちゃくなっている)とはいえ序列最上位に位置する二人のリアクションが恐ろしかった。


「……ほう」


 クラリスの謝罪を受けて、右府(ベアトリクス)殿の視線がユリゼンに向けられる。

 

 ――ほ、ほう? あれ私やらかしましたか? 断るなんて不敬ですか?


 嫌な汗をかきつつ、クラリスに念話を飛ばした。


『――MURIじゃないかもしれないこともないかもしれない』


 文法がやらかしているのはしょうがない。焦っているので当然です。


「可能かもしれないって神様が仰っています! ヒイロ様、祝福を受けられますか?!」


 輝くような笑顔でクラリスがヒイロに告げた。

 突然180度違うことを言いだすクラリスに、ヒイロは少し引いている。


 いえ大丈夫です。右府(ベアトリクス)殿の言うことに従ったまでなので私はセーフ。


「へえ……」


 クラリスの提案を受けて、左府(エヴァンジェリン)殿の視線がこちらに向けられる。


 ――へ、へえ? もしかして御二人で意見真逆ですか? じ、自分どうすればいいでありますか?


 嫌な汗が一気にふいた。

 念話で「やっぱりMURIですね」と送るのが正解かどうかも判断できない。


 結果として「どっちなのですかユリゼン!」と己の主神(アルビオン)にお叱りをくらった。


 ――上司、それも雲の上の存在レベルの方々は、下っ端にどうしてほしいのかを明確に指示するべきだと思うんですよ?! 「ほう」とか「へえ」じゃなくて具体的な言葉で!


 叫びたかったが叫べるわけもない。


 何のことはない、エヴァンジェリンもベアトリクスも「そうなんだー」というヒイロの感想と何も変わるものでもない、そういう反応にすぎない。

 いきなり何段もすっ飛ばした上役のリアクションに、下っ端(ユリゼン)がテンパったというだけの話だ。


 だからといってユリゼンの胃が痛くなることに変わりはない。


 最終的にヒイロによる、「残念だけどアルビオン教徒でもないのに神様の祝福受けられるわけないよね」という具体的な意思表示によって、(あるじ)に祝福をかけるという罰ゲームからは解放された。


 ユリゼンに残されたのはぶつけどころのないやるせない怒りに似た何かと、気疲れのみであった。






 その後コトが事だけに高価な転移魔法陣を使用して、聖女クラリスとエドモン枢機卿をリーダーとする『教会騎士(テンプル・ナイツ)』五人は聖都『世界の卵ムンドゥス・エンブリオ』へ即時帰還している。

 まさかの先遣隊のみ、それもたった一日で終了した神域調査(アーカシオン)の、それ以上に信じられない結果を報告をするためにだ。


 そして今、どれだけ言葉で説明してもとても信じることなどできない内容を、事実をみせることによって証明している最中である。


 つい先日までほぼ同等であった「祝福」を受けた五人それぞれに対して、精鋭とされる同じ教会騎士団員が一人に対して五人がかりでも勝てない。


 魔法や技・能力(スキル)の類は増えていなくても、約10レベル分のステータス・ブーストはそれだけ圧倒的な差を戦闘においては生み出すことになる。


 剣を切り結ぶことすらできない速度の差。

 防御しても盾ごと弾き飛ばされる膂力の差。

 同じ強化魔法を使っても、効果と継続時間、そもそもの魔力量の差。


 埋めようのない実力の差が、エドモンたちが受けたという神による「祝福」が真実であると証明する。


 そして四聖女の中では最も年若く、まだほとんど己が司る神の権能を身に付けていなかったクラリスが、他の三聖女を寄せ付けぬ魔力をみせる。

 もはや奇蹟と呼んでも過言ではない、圧倒的なユリゼンの権能を一通り見せた後、最も説得力を持たせるデモンストレーションが行われる。


 聖都『世界の卵ムンドゥス・エンブリオ』、教皇庁が管理する広大な中庭『神の庭』

 そこへクラリスに完全に()()()ユリゼンの本体が顕現する。


 本体のサイズは主神たるアルビオンには及ばぬまでも約二百メートル。

 火を司り、天頂――太陽を宿星とする能力通り、その後背に小さな太陽を伴って『神の庭』に屹立する、実在する神。


 それが主席枢機卿の指示した「力を示せ」の命に従おうとする聖女クラリスの意志に従い、火――破壊の力を解放する。


 結果として「神の庭」に最も近い無人の岩山は小さい太陽に文字通り消し飛ばされ、聖都『世界の卵ムンドゥス・エンブリオ』の景色を少しならず変化させることとなった。


 同時に聖都で暮らす信徒たちや、近隣都市国家に相当の混乱を呼ぶ。

 突然山が一つなくなり景色が変わったとなれば当然だ。

 教皇庁の近くに暮らす者たちは、教会のステンドグラスでみる属神ユリゼンの美しい、しかし巨大な姿を目視できてもいる。


 間違いなくユリゼンが貯めていたストレスとは無関係ではない結果だが、ほんの少しだけすっきりしたユリゼンに反して、アルビオン教の要人たちの反応は劇的であった。


 「祝福」による強化だけではなく、神そのものを使役できるという揺るがぬ事実。

 そしてその力は、被害を出さずに地形を変えることさえ可能にする圧倒的なもの。


 それは()()()()()の目と魂を曇らせるには充分なものだったのだ。


 この日この時よりアルビオン教()()()は、力に酔って暴走を始めることとなる。


 ヒイロの目論んだとおりに、降ってわいた力を得て派手に踊りだしたのだ。

 人知れず十三愚人がかけていた首輪とリードを引き千切り、その制御を受けない勢いで。


 己が制御可能な形で敵性存在を暴走させ、裏からそれを操らんとしている者からその統制能力を失わせる。


 ヒイロがアルビオン教を衰退させ、十三愚人が世界に対して持っている影響力を()()ために選んだ手段がそれである。


 そしてユリゼンのように、今後『天空城(ユビエ・ウィスピール)』の(しもべ)たちは深く静かに重要国や組織に「代替なき戦力」として溶け込んでゆくことになる。


 大傭兵団『黒旗旅団』、世界規模の商会『黒縄会』と連携し、ヒイロの望むがままの歴史展開を、極力犠牲者を()()ながら世界に刻んでゆくために。 


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書籍版第2巻 10月10日より発売しております! 電子書籍版は10/23発売となります!
2巻は本編も大量書下ろし、web版第二章完結後の後日談として下僕たちの会話「在り方の変化」を書き下ろしております。何よりもイラスト担当していただけたM.B様による表紙、口絵、挿絵は必見です! 王都の上空に迫る天空城がクッソカッコいい!

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