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その冒険者、取り扱い注意。 ~正体は無敵の下僕たちを統べる異世界最強の魔導王~  作者: Sin Guilty
第三章 その冒険者、神をも殺す者。

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第44話 目的地到着

「いや、さっきのさ――」


 ヒイロがエヴァンジェリン、ベアトリクス、白姫の疑問に答えようとしたのと同時、『千の獣を統べる黒(シュドナイ)』の尻尾九本がそれぞれ、広い空間の別の方向をさす。


 ()()()に着いたのだ。


 迷宮(ダンジョン)第八階層の一角に開けた場所があり、そこは広い空間ではあるが行き止まりになっている。

 その中央に祭壇に見えなくもない天然の岩が在り、魔力結晶が埋め込まれている。


 だがそれはただ嵌め込まれているだけで、今は光を発してはいない。


 ここが神域調査(アーカシオン)の対象地点であることは、一気に開けた場所に出た時に見せた、『教会騎士団(テンプル・ナイツ)』たちと聖女クラリスの表情からして間違いないだろう。


 ここではない別の場所でも、同じような空間を知っているのだろう、アルビオン教の一定以上の立ち位置にいる者たちは。


「間違いなく、ここなのです……」


「たった一日で到達できるとは……。感謝致しますぞヒイロ殿」


 緊張した表情でつぶやくクラリスと、たった一日、というか数時間で目的の場所にたどり着けたことをヒイロに感謝するエドモン枢機卿。

 アルベール以下の教会騎士たちも、さすがに丁寧にヒイロに頭を下げている。


 ふらふらと祭壇の方へ行こうとするクラリスを、ヒイロが止める。


「お待ちを、聖女(クラリス)様。この空間には少々厄介な魔物(モンスター)がいますので」


 ヒイロの声に、はっと足を止めるクラリス。


 エドモンたちも、ここが第八階層――自分たちだけではたった一体の魔物(モンスター)接敵(エンカウント)しただけで、護るべき聖女を危険に晒してしまう危地だと思いだす。


 迷宮(ダンジョン)に入ってヒイロのとんでもなさを己の目で見るまでは、『秘匿級(ノブレス・ラテブラ)』などと言われても半信半疑、というよりも正直八階層まで本当に到達できるとは思っていなかった。


 これ以上冒険者ギルドともめたくはなかったエドモンが、ポルッカの提案を()()()というだけに過ぎなかったのだ。


 ――油断……というより彼を信頼しすぎだな、これは。


 今更ヒイロの実力を疑いはしない。


 だがこの圧倒的な魔法使いが万一自分たちに害意を向けた場合、この迷宮(ダンジョン)で生きながらえる方法などないという事実にすこしぞっとする。


 今はヒイロにとって何の利益にもならない、そんな愚行に出ることはないだろう。


 だが彼が――ヒイロが必要だと判断すれば、『教会騎士団(テンプル・ナイツ)』の中でも精鋭である自分たちであっても、間違いなくものの数秒でこの世からいなくなるのだ。

 自分たちとは違い、替えの利かない聖女ともども。


 それは大げさでもなんでもなく、単なる事実に過ぎない。


 間違いなくヒイロという冒険者ギルドの秘蔵っ子、『秘匿級(ノブリス・ラテブラ)』冒険者はアルビオン教から「神敵」認定されたとしてもまるで痛痒を感じまい。


 実力で全てを排除できる存在に、神敵認定(そんなもの)などなんの威も発さないのだ。


 エドモンは枢機卿として、この神域調査(アーカシオン)が無事に終わって帰還した暁には、教皇庁上層部に本気で今の『冒険者ギルド』と事を構えるのは避けるべきだと熱弁する決意を決めている。


 それどころか可能な限り友好的な立場をとるべきだと。


 近い将来、望まぬ結果となるエドモンの決意を大袈裟だとか杞憂ではないと証明する光景が、その目の前で展開されている。


 小動物の九つの尻尾が反応していたのはこの広い空間にいる、目に見えない魔物(モンスター)たち。

 それを始末するために、ヒイロが『光輪(ニンブス)』を発動したのだ。


 空中から光のしずくが落ちるようにして、いくつもの輝きが広場中央の空間に光の波紋を描く。


 それに呼応するように、広場全体を覆うような巨大な光の輪が、中央の光の波紋へ向かって狭まってゆく。

 あたかも大木の年輪のようにいくつも重なりながら、狭まる途中で輪のどこかにふれた不可視の魔物(モンスター)に反応し、そこへと高速で収斂する。


 ――反応結界型攻撃呪文。


 この呪文の前には、不可視も高速も一切合切関係がない。


 一体につき二、三の『光輪(ニンブス)』が魔物(モンスター)の位置でその輪を閉じ、一瞬だけそのシルエットを浮かび上がらせた後に、跡形もなく消し去る。


 それで終わりだ。


 少々どころかほぼ一瞬で、自分たちであればどう戦っていいのかすらまだ思いつかない未知の魔物(モンスター)十数体は、すべてヒイロただ一人に屠られた。


「綺麗……」


 などと言っているクラリスは気楽なものだが、戦いを知る者としては『光輪(ニンブス)』が、いや『光輪(ニンブス)』のみならず今までにヒイロが見せてきた魔法が自分たちに向いた時のことを想像せずにはいられない。


 神に祈る暇も与えられず、神の御許へ召されることに疑う余地はない。


「これでこの空間には魔物(モンスター)は居ません。再湧出(リ・ポップ)までかなり時間が在りますから、存分に神域調査(アーカシオン)を行ってもらっても大丈夫です」


 なんでもないことのように言うヒイロが頼もしいやら、恐ろしいやら。

 この存在が自分たちの組織の属していないということを、肝に銘じようと思う教会騎士たち五名である。


 今のはなんなのです? なんなのです? などと聞いている聖女様はいい仕事をしている。

 この際幼女の無邪気さは、聞きたくとも迂闊に聞けぬことを聞くためにはこれ以上なく有効な力である。


 ヒイロもわりと無警戒にあれはねー、とか教えているのが恐ろしい。


 後ほど聖女クラリスからは、ヒイロが語った「光の魔法」について詳しく聞く必要があるだろう。

 だが今は素知らぬ顔をして、神域調査(アーカシオン)を進めるのが得策だ。


「重ね重ね感謝いたします、ヒイロ殿。このご恩は後日、必ずアルビオン教として致しますゆえ」


「いえいえお気になさらず。冒険者ギルドからの正式任務(ミッション)ですから、冒険者である僕にとってもみなさんと同じくお仕事です。――報酬もかなり出ますしね」


 あらためて礼を言うエドモンに、嫌味のまるでない笑顔でヒイロがからからと笑う。

 無垢な聖女と接して、ヒイロ自身も毒気が抜けているのだ。


 これから聖女クラリスが身に付けようとしている()()()よりも、この目の前で笑う美少年(ヒイロ)に好かれる能力こそが、自分たちアルビオン教にとって重要なのではという気がしてくるエドモンである。


「では遠慮なく、神域調査(アーカシオン)を始めさせていただきます」


「はい。僕たちはこの場の入り口となる通路で、万が一にも魔物(モンスター)が広場へ侵入しないように控えています。調査が終わったら声をかけてください」


(かたじけな)い」


 そう言って、中央部に在る祭壇のような岩へと歩を進める。


 本来神域調査(アーカシオン)の様子は冒険者どころか、アルビオン教信徒でさえも一定以上の位階に在る者にしか見せてはいけない、アルビオン教の秘儀(アルカナ)である。


 だが聖女クラリスはもとより、枢機卿であるエドモンも、度し難い態度を冒険者ギルドでとっていたアルベールたちですら、ヒイロにこの場を外せと言うつもりなどない。

 いや近くにいてくれねば、万が一魔物(モンスター)が発生した際、自分たちではどうしようもないのだ。


 こうなればさっさとやるべきことをやって、二ヶ月を覚悟していた()()()()()をすることなく聖都『世界の卵ムンドゥス・エンブリオ』へ帰還できることを素直に喜べばいいと開き直っている。


 自分たちがヒイロになにかを強制する力がないことなど、ここまでで嫌というほど理解させられている。


 一方クラリスは、今まで幾度か行ってきた神域調査(アーカシオン)の中で、最大に気合が入っている。


 これからする秘儀(アルカナ)は大変で本当は好きではないけれど、聖女としての義務だと理解している。

 苦しいけれどもその時の様子は「神々しい」「美しい」と立ち会った者皆が言うので、そうなのだろうと思っている。


 それをヒイロに見てもらえる事がちょっと嬉しいのだ。

 苦しくても痛くても、頑張ろうという気になれる。


「ヒイロ様! 見ていてくださいなのです!」


「?」


 入口の通路で佇むヒイロに振替って声をかけるクラリス。

 神域調査(アーカシオン)のなんたるかを理解していないヒイロは、何を見ればいいのかわからないので首をかしげる。


 ただ可愛らしい幼女が鼻息を荒くしているので、ひらひらと手を振って応えてみせる。

 クラリスはそれで満足したらしく、ずんずんと真ん中の祭壇らしき岩へと歩いてゆく。


 聖女がこんなにやる気を出しているのは初めてだなと思いつつ、まだ準備にしばらくかかるので今から見ていろはないんじゃないか、とも思うエドモンたちである。


 せっかくの聖女のやる気をそぐわけにはいかないので、可及的速やかに準備を整えるべく行動に移す。


 秘儀(アルカナ)が始まるまでの間、何やらヒイロは複数の表示枠を周囲に展開して、会議らしきものをしているようだ。


 その間にも通路の外側に向かって、幾筋かの『追尾する閃光(ホーミング・レイ)』がときおり発射されている。


それを見てエドモンたちは冒険者ギルド、というよりはヒイロ個人と事を構える事が無いように己が神に祈りつつ、作業を続けた。


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