第141話 パワー・レベリング
ガルレージュ迷宮最下層、広大な階層主の間ほぼいっぱいに展開された魔法陣が魔導光を吹き上げ、ヒイロが行使しようとしている大魔法が成立する。
基本的に無詠唱で即発動するのがヒイロの行使する魔法の特長といえるが、その魔法そのものにタメがあるものについてはその限りではない。
詠唱こそ必要ないもののその魔法の一部となっている魔法陣の形成から演出、その発動まではヒイロのプレイヤーとしての特異性を以ってしてもすっ飛ばすことは不可能だ。
いやそれとても『世界球体』の深い位置にある設定を弄ることによって簡略化することは可能なのだが、ヒイロはまだそこまでカスタマイズしていない。
というかそういうことが可能なのだということを思い出していない。
もともとヒイロの中の人は技や魔法の演出を楽しむタイプであり、それを何度見てもさほど苦になることはなかった。よって相当な周回を要求され最高効率を構築する必要にせまられたときを例外として、基本的にその手のものを省略、簡略化することはあまり無かったゆえだ。
即時発動できないデメリットを持った魔法は概してその代償として高威力や特殊な強化、あるいは敵弱体を持ち合わせるのが常。
今ヒイロが行使した魔法で言うならば、圧倒的な高威力である。
そのうえ誘導性を持たず行使対象が移動してしまえば外れるという、必中を売りのひとつとする魔法としては少数派ゆえに突出した破壊力を誇る。
目標を魔物ではなくこの場所――階層主の間の床全域に設定した設置型大魔法『墜天・光』は問題なく発動し、地下であるにもかかわらずその天井付近から迸る光を纏った巨大な隕石が出現し、敵のいない空間に炸裂する。
轟音。
巻き上がる砕かれた床の成れの果てと、荒れ狂う魔導光。
狙って当てるのは難しくとも、溢れかえる雑魚の群れや鈍重なボス系であれば一撃で焼き払うだけの火力に対して、迷宮の石畳はもちろん、その下の地層も耐えられるものではない。
すでに十数階層もの地下である床は墜ちてきた隕石のカタチにぶち抜かれ、『墜天』はその魔法効果が消失するまで、まるで巨大な掘削重機の如く迷宮の最奥をなおも掘り進む。
平然としたヒイロに対して、いかな希少職である魔法剣士であるとはいえカイムはさすがに虚心ではいられない。
魔法という力がとんでもないことは知ってはいても、いや知ってはいるからこそたった一つの魔法の行使が、これだけの破壊を引き起こすことを目の当たりにすれば言葉をなくす。
魔法という力の特性上、その行使対象以外にはその破壊は一切及ばない。
だが砕かれた床材やその下の地層がはじけ飛ぶ巨大な岩塊や土片はただの人が喰らえば即死間違いなしの規模だし、カイムほどの高レベル者であってもHPの多くを失うことになる。
ただそれらはヒイロが展開したらしい不可視の魔法障壁に阻まれ、いまや宙に浮く二人のもとまで届くことは無い。
床をぶち抜いた――足元が消失したからにはある意味当然だ。
だが当然というのであれば、ヒイロとカイムはいまだ発動し続けている『墜天・光』を追って迷宮の最下層よりもなお深く穿たれた奈落の如き穴に落ちていってしかるべきだろう。
だが平然と浮いている。
長い冒険者としての人生でもカイムは人が空を飛ぶ、ないしは宙に浮かぶことを可能にする魔法をつかえる者の話など聞いたことも無かったが、冒険者王であればそう不思議なことでもないと、なんとか自分を落ち着かせようとする。
自分の足が何も捉えていない感覚はものすごくおぼつかない気分にさせるが、大地を空に浮かべてそこを己らの拠点とする天空城勢、その中核人物ともなれば空を飛ぶことなど造作も無いのだろう。
人の世にも仕組みこそ理解できてはいなくとも、空を征く魔導兵器は存在する。
ウィンダリオン中央王国の誇る空中要塞九柱天蓋やシーズ帝国の巨大飛空艇八竜の咆哮、都市連盟の魔導戦艦大嵐がその代表といえよう。
――魔法の力を以って空を飛ぶことはありえぬことではないのだ。
だからといって、そんな力を個人がこともなげに行使することを当然のこととして受け入れるのにはまだまだ時間がかかるのだが。
――というか、伝説や御伽噺の方が控えめってマジかよ……
確かにすごかったのだろうけれど、伝聞となれば大げさになるのは常。
冒険者王、またの名を白の王の全盛時を己の体験として得ていない者たちは誰しもがそう考える。
だがそうではなかったことをカイムは今、実体験として得ている。
――魔法というより、なんでもありだなこの人……いや、本来の魔法というものこそ、なんでもありなのか。
カイムをはじめ世の冒険者、己を強者と信じている者たちが行使しているのは魔法という絶対の力のほんの一端にしか過ぎないということだ。
ヒイロをはじめとした天空城勢に関わった者が例外なく抱く感想をカイムもまた浮かべながら、状況ゆえか四十路にはらしくない、駆け出し冒険者のような新鮮な感動を得ている。
冗談として笑い飛ばされるか、本気だと受け取られれば心の正常性を心配されて然るべきカイムの生涯をかけた願いに対して「ふむ」で済ませる存在とはこういうものなのだろう。
神でさえ覆せないはずの死をいとも簡単に支配下における者にとって、迷宮の最下層にクソ深い井戸を新たに掘ることや、宙に浮かぶことなど児戯なのだ。
どこを見ていればいいのかわからなかったので、カイムの少し前で真剣な表情で己が行使した魔法が果てしなく地を掘り進む様子を追っているヒイロの横顔を見つめる。
――なにを真剣に……
ヒイロが「地獄の蓋を抉じ開ける」といいつつなぜ迷宮最下層に巨大な穴を穿ったのかを理解できるはずも無いカイムが尤もな疑問を浮かべた瞬間――
「よっし! あった!」
わかりやすいガッツポーズと共に、ヒイロが破顔一笑する。
とはいっても仮面を被っているのでカイムにその表情はわからないのだが、その声色から喜んでいることくらいは理解できる。
もしもその表情を見ることができていたら、もはや枯れ気味のおっさんであるカイムを以ってしても、見蕩れざるを得ないような笑顔である。
分身体は黒の王やヒイロの中の人が思う『美少年』を極めた容姿をしているので、すこぶる顔はいいのだ。
それこそ美少女といわれてもなんの違和感も無いほどに。
「あ、すみません。えらそうに言っておきながらこの方法で隠し迷宮にいけるか、確信は無かったので……」
自分のはしゃぎようにビックリしている様子のカイムを前に、どこか照れくさそうにヒイロが理解できるはずも無い言い訳をしている。
現在のヒイロの分身体が基礎としているT.O.Tのスピンオフゲーム、アクション系ハクスラRPG、悪魔シリーズのフォロワーゲームの時代設定は現時点より数百年も先である。
その頃には廃都となっているガルレージュ迷宮都市、攻略する者が絶えて久しい廃迷宮の最奥から、九大地獄から構成される隠し迷宮、『神曲迷宮』に進入可能となる。
スピンオフゲームの本編クリア後に攻略可能になる隠し、ないしは裏とも呼ぶべき迷宮の入り口がガルレージュ迷宮最奥、階層主の間に現れることはヒイロの中の人の記憶からして間違いない。
だがこの時代にもそれがちゃんと存在するのか、本来の入り口は転移門ぽいところからして本当にこの位置からより下層に第一階層である『辺獄』が存在するのか、ヒイロとてもイマイチ確信が持てていなかったのだ。
ゲームの世界が現実化したからには、おそらく奇を衒うことなくそうなっているだろうと予測はしていたものの、である。
もしも『神曲迷宮』が異空間に存在するのであれば、ヒイロはガルレージュ迷宮の最下層に大井戸を掘ったよくわからない人になるところであったのだが、どうやらその心配はなさそうである。
攻撃対象とした階層主の間の床、その下に続く地層をぶち抜いたがゆえに、目標の完全破壊を確認して大魔法『墜天・光』はその発動を停止する。
だが果ての見えぬほどに掘り進んだその果てに、針の穴ほどのかすかな光点が確認できる。
ヒイロの想定よりはものすごく深い位置にあったとはいえ、ガルレージュ迷宮のより深くに隠し迷宮である『神曲迷宮』は存在したのだ。
ヒイロの目にはその針の穴ほどの光がなんなのか、明確に見えているらしい。
「じゃあ行きましょうか」
文字通り地獄へ続くかのような、神、あるいは悪魔の手によってしか創り出すことなどできないと確信できる長大な縦穴を、宙に浮かんだままのヒイロとカイムが当たり前のように降下してゆく。
もはやカイムは驚くことを放棄している。
これだけのものを目の当たりにして、これ以上なにに驚けというのか。
その悟ったつもりの想いは、降下しきった直後に覆されることになるのだが。
「えーっと……カイムさんは魔法剣士でしたよね?」
縦穴の側面が流れる様子からしてかなりの速度で降下しているにもかかわらず、いっかな大きくなろうとしない針の穴のような光にたどり着くまでまだまだ時間はかかりそうだ。
カイムにしてみれば今後この下にあるらしい迷宮を攻略することがヒイロの言う『人類進化加速計画』とやらして、今はまだ進化せざる凡人でしかない冒険者たちはどうやってこの縦穴を通ればよいのかな? などとわりと深刻に悩み始めている中、ヒイロが話しかけてくる。
「あ、はい」
特異な状況にもかかわらず、面接官と受験者のような妙な空気が流れる。
歳からすれば十代前半であるヒイロと、四十路のカイムではおかしな立ち位置関係ではあるが、ヒイロの被っている仮面のおかげでまだましか。
「ってことは……、あ、ほんとだ『魔法剣士』だ。すごい希少職。……第一成長限界を突破すればかなり強力な上位職になれるなー。今はレベル67か……想定どおりだったら今日中に上限は簡単にいけるかな?」
ヒイロの眼前に浮かぶ綺麗な球体を触れずに操作するようにして、ヒイロがひとりごちている。
いまや使える者などラ・ナ大陸が広しといえども三桁には満たないであろう、無数の表示枠を自身の周囲に展開し、それらを確認しながらだ。
どういう仕組みかはわかれという方が無理だと思うカイムだが、どうやら自分自身以上にカイムの詳しい情報がそれらの表示枠には映し出されている様子。
それを見たヒイロが落胆するわけではなく、珍しい動物を見つけた子供のようにわくわくしているっぽいことにほっとするカイムである。
――驚かれたり、恐れ入られたりするのではなく、面白がられて安堵する経験をするとはね……
人生というものは長く続いていれば、思いもよらない経験をするものらしい。
「カイムさんは『行動阻害』使えますよね? このあと魔物と接敵したら、まずはそれを使ってください」
「……わ、わかりました」
わけがわからないが、とりあえずカイムはヒイロの指示に従うことを明言する。
確かにカイムは魔法剣士が必ず習得する『行動阻害』を使うことができる。
カイムの体感であれば、それだけに限定するのであれば一日で二桁半ばくらいの回数使用可能だろう。今日は先刻、アイナたちを助けるために大技を連発しているとはいえ、それでも今の感じであれば5、6発であれば間違い無く発動可能。
自身の保有魔力を可視化して把握することができないこの世界の中の人としては、経験則といま自分が感じる感覚で判断するしかない。そこに充分なマージンを確保しておくことは技・魔法の行使可能回数こそが生命線となる冒険者であれば当然のことだ。
だが。
冒険者として駆け出しの頃から使用可能だった『行動阻害』は使い方、というか使いどころによっては便利だが、そんなに強力な魔法というわけではない。
その証拠にそれが使えたとて、カイムたちに降りかかった不運を払うことは不可能だった。
使用すれば文字通り、相対した魔物の行動を阻害する。
自分に敵対意志を持っている魔物であればその全てに効果を発揮する、範囲型の魔法だとカイムは認識している。
魔物の強さに応じてその期間は変化するが、第一階層や地上の魔物領域に湧出する雑魚、それどころか野生の獣相手であっても動きをとめることができるのは十秒にも満たない。
敵が遣い手であるカイムと同格以上ともなればほんの刹那でしかない。
それでもカイムが使い方次第で重要な魔法だと認識しているのは、カイムの知る限りにおいては格上であっても確実に通ることがひとつ。
もうひとつは『行動阻害』を敵の固有技や魔法の行使直前に合わせることができれば、その発動をキャンセルすることが可能だからだ。
それは一瞬だけ止めるという意味ではなく、発動にタメや詠唱を必要とする敵のいわば大技を、一から再充填させることができるという意味だ。
うまく使えば敵の大技を完封することもできるという、魔法剣士の基礎にして究極の魔法ということもできる。
だがそれはその特性からして当然のことだが、よく知っている魔物相手が大前提となる。
その魔物が使う大技、魔法の充填時間、発動の兆候などを知悉していなければ必要なタイミングで『行動阻害』を被せることなど到底不可能だからだ。
よってカイムがその存在すら知るよしもなかった未知の迷宮で、初見の魔物に喰らわせたところで一瞬にも満たない硬直を生み出すだけに過ぎない。
そもそもヒイロは最初にぶちかませといっているので、カイムが認識している本来の使い方とはまるで違う目的があるのであろうが。
とはいえガルレージュ迷宮の最下層、その階層主の間よりも深い領域に湧出している魔物が相手である。
現状のカイムが持っている最大の技・魔法であってもまず通用することは無いだろうし、魔法使いとして比べるべくも無い高みにいるのは間違いないヒイロ(二代目)の指示に従うことに異論などあろうはずも無い。
無いのだが。
「あわわわわわ」
それにしたってこれは想定外が過ぎるといわせてもらいたいカイムである。
今感じているのは驚愕などという生易しいものではなく、取り繕う余裕すら無き純然たる恐怖である。
己の口から出ている冗談みたいな声に笑いそうになる自分にちょっと感心するくらいだ。
長い時間をかけて針の穴のようだった光が、階層主の間に穿たれた隕石の大きさと同じくなり、そこを抜けた先はやはり迷宮であった。
ただしカイムが目にしたことなど無い、地下迷宮としては妙に明るい巨大な城の回廊めいてはいるのだが。自分たちが通ってきた縦穴が開いている天井は冗談のように高い。
『神曲迷宮』の第一階層、『辺獄』である。
ずいぶん久しぶりに足が地に着いたカイムの目に映ったのは、自身の冒険者人生の中でみた中でも他の追随を許さぬほどの巨躯を誇る魔物? であった。
カイムの知る魔物と軸を同じくする存在かどうなのかすら疑わしい。
ガルレージュ迷宮の最下層よりも遥かに深い位置に存在する迷宮だ、あるいはそれくらいは当然のことと捉えるべきなのかも知れない。
少なくともガルレージュ迷宮の最下層主よりも巨躯なことに驚くべきではないのだろう。
だがそれは、その魔物が単体であった場合だ。
カイムの知っている迷宮での戦闘とは、基本的に魔物1体vs冒険者複数。
それこそカイムのような単独冒険者であったとしても1vs1が大前提で、相当な格下であれば対複数も何とかなるという認識。
それが複数というのも笑ってしまう、数を数えることすらできないくらいの群れで殺到してきているとなれば先のような声がでても、そう恥ずべきことでもなかろうと思う。
一体でも踏まれれば即死するような巨大魔物。
それらが無数に連なり、まるで津波の如く押し寄せてきている。
ゲームとして言えばクリア後の隠し要素、高難易度迷宮であるからにはある意味当然だが、そんなことは前提となっているゲームすら違う、一般迷宮で最初の成長限界にすら到達していない世界の中の人であるカイムには知ったことではない。
「カイムさん、詠唱。詠唱急いで」
だがそんなカイムの様子に頓着するでもなく、ヒイロがせかしてくる。
その声の調子はもちろん切羽詰ったものなどではなく、「はやく食べ始めません?」というような、豪華な食事を前にした子供のようなニュアンスだ。
「え、あ、は、はい……えーっと……不可視の衝撃よ積み上げられし小石の山を崩せ、行動阻害!」
その声に強制的に落ち着かせられたカイムが、半ば無意識のままに『行動阻害』を発動させる。
おそらく生涯で最も気の抜けた魔法の詠唱であったことだろう。
同時、カイムにとって意外なことが起こった。
発動と同時に視界を埋め尽くし、なおもせまりくる無数といってもいい巨大魔物そのこと如くが一瞬、カイムの『行動阻害』によってその突進を止めたのだ。
カイムの認識では一定範囲内にいる魔物全てに作用する『行動阻害』。
それは『神曲迷宮』というスピンオフとはいえ違うゲームを骨子とする空間において、行使者に対して敵対意志を持つすべての魔物に作用するのだ。
それがどれだけの広範囲、数になろうとも。
これはその魔法の種類によっては、この迷宮で稼ぐに際して大きな優位点となる。
「よっし想定どおり! いっくぞ! 連鎖雷撃ぉ!」
そしてそれはどうやらヒイロの想定、あるいは期待通りであったようだ。
T.O.Tのような一党形式のゲームを前提としたものであれば、一党の一員として登録されていれば獲得経験値はその戦闘内容、行動に拘わらず全員で入手することができる。
だがアクション系R.P.Gであればそうではないこともある。
N.P.Cであればその限りではないのかもしれないが、P.Cであれば共に相手取っている敵に対して、なんらかの攻撃を通さなければ経験値を得ることができない。
いわゆる初代PS○系というやつだ。
その前提であればどのような格上が敵であっても確実に通り、その範囲、数を問わない敵対意志反応型の魔法はうってつけである。
それを確認してヒイロは、辺獄程度の魔物であれば確実に一撃で屠れる己の魔法――『連鎖雷撃』を発動した。
最前列にいた魔物に瞬時で炸裂し、そこから二つに分かれてその背後の二体に、それが四つに分かれ次の目標へと、倍々で蜘蛛の巣のように連鎖してゆく。
本来であれば距離をとりつつ幾度も数を重ねて敵を削る類の魔法だが、超越値によって極限まで強化されているヒイロが行使したそれは一撃で全ての魔物を屠ってゆく。敵の死が螺旋状に広がってゆく。
「あ、あ……」
だが本来であればその光景に目を剥いて然るべきなカイムはそれどころではない。
ヒイロの『連鎖雷撃』が敵を屠るたび、曰く言いようの無い感覚が躰を幾多も貫くからだ。
これはカイムの知らない感覚ではない。
若い頃は短い期間に何度も、自分でも強くなったと自認しはじめた頃からは年に何度かしか感じなくなり、最近では数年に一度、忘れた頃に戦闘終了後に訪れていたよく知った感覚。
だがそれがこんな続けざまに、自身の躰が発光するような勢いで繰り返されたことなど経験したことは無い。
人の戦闘能力を、ひとつ上がっただけで劇的に向上させるその現象――レベル・アップ。
それが今33回分、釣瓶打ちにカイムの躰に発生しているのだ。
そしてほぼ一瞬で第一成長限界まで到達した後も、余剰経験値はカイムの魂に積み上げられ続けている。
なにが起こっているかは理解できなくとも、それがカイムの意識を奪っているのだ。
「パワー・レベリング成功!」
それを見てヒイロが快哉を上げる。
ヒイロの目前に浮いている『世界球体』が展開する表示枠で、今カイムになにが起こっているのかを正確に把握できているのだ。
かくしてカイムは己の今までの人生全てをかけて積み上げてきた経験値に数倍するそれを、己の行使したたった一回の『行動阻害』と、それに重ねられたヒイロの『連鎖電撃』で入手したのだ。
この時代に生きる一般冒険者における最強の位置まで、一瞬で到達する。
それがヒイロによるパワー・レベリングというものだ。
それを虚しい、本来あるべき成長とは違うという者もいよう。
力とは、強さとは、そういうものではないのだと。
あるいはそれこそが正しいのかもしれない。
だからこそヒイロは最初に聞いたのだ。
己の絶対の目的のためには「なんでもやります」と答えられるのかどうかを。
目的のためとあらば、あらゆる手段を厭うことは無いのかどうかを。
そしてカイムは己がそう答えたとおり何一つ後悔もしていなければ、あるいは正しいであろうことを語るつもりも無い。
カイムにとって、失った仲間と再び生きて出逢えるために必要なことであれば、その後に己が死ぬことですら厭うつもりは微塵も無いのだから。
次話 近日投稿予定
本日、コミックウォーカー様に漫画版その冒険者、第一話後編が掲載されております。
ぜひとも御読みいただければと!
筆者の拙い文章を、ものすごくわかりやすく面白くコミカライズしていただいております。
シュドナイは可愛いしヒイロがホントに美形で、自分でそう書いていたのにもかかわらずなぜか感動してしまいます。
M.B先生、満月シオン先生、本当にありがとうございます。
コミカライズ版の更新を一番心待ちにしているのは自分かもしれません。
なろう版とは別ルートになる予定の書籍版二巻ももちろん楽しみなんですが!
そちらの方もぜひよろしくお願いします。
ヒイロの魔神形態がすごく楽しみです。なろう版よりはやく幼女王が登場しますし。
なにとぞ今後もよろしくお願いします!





