第124話 艶噺天空浴場
アーガス島。
宵闇。
消えていた灯りが店々に燈りはじめ、アーガス島が夜の貌をみせはじめる時間帯。
美しくも妖しげなこの島の夜の貌は、ラ・ナ大陸において最上級の冒険者たちが自らの肚の中から生み出す膨大な利益を、可能な限り吸い上げるためにこそ微笑む。
金貨など冒険者の懐にあっても何の価値もなく、食事や酒、歌や踊り、時にそれ以上の愉しみのために兌換されてこそのものだ。
少なくとも冒険者街に軒を連ねる店々にとっては、それこそが真理だろう。
最上級の冒険者たちがその立ち位置を維持するために必要な経費――装備の更新や整備――は、お天道様が高いうちにキッチリ投資されている。
それを怠るような冒険者は、世界の中心とまで言われるこの島で生き残ることなどできはしない。
そして生涯を冒険者であることを思い定めているような連中の英気の養い方というものは、得てして派手になりがちなものである。
次の迷宮攻略で死んでも何の不思議もないのが、冒険者稼業というものだ。
であれば引退を視野に入れはじめた者を除けば、宵越しの金など持ちたがらない。
次回の迷宮攻略の準備を整えれば、その日までは好きに鍛え、好きに呑んで喰い、好きな女を抱くために得た富を好きに使う。
それが冒険者。
別の夢のために冒険者をやるような輩は、冒険の神にそっぽを向かれて早死にするというのが冒険者たちの定説で、実はそうである連中も豪快に振る舞うことをよしとする。
強いられているわけでもなくそれを続けているうちに、肚の底から冒険者になってしまう者も多い。
世界を統べる王の立場にありながら、冒険者であることを最後まで己の第一とし続けたどこぞのバカの存在が、現代の冒険者の気風に大きな影響を与えたことはまず間違いない。
昨今では才ある少年少女の冒険者も増えてきており、むくつけきおっさんが酒をかっくらって呵々大笑する、という絵面だけでもなくなってはきているのだが。
地方の城塞都市などからすれば、毎晩がまるで収穫祭のような夜。
魔導の光が夜の帳を払拭し、夜半を越えて多くの灯りが落とされてもなお、濃密な情欲の気配が渦巻く享楽の街。
それがアーガス島の夜の貌である。
だが今宵はそれともまた違う。
しかも少し、などという程度ではなく大きく違う。
街中というよりも島中が浮足立ち、冒険者たちだけではなく、昨日に続いてはやくから呑んでいる者も多くいる。
反面、総督府に属するウィンダリオン中央王国の公職に就く官吏たちや、冒険者ギルドで重職に就いている者たちなどは呑んでいる場合などではなく、文字通り一日中走り回った末に夜を迎えてなお業務続行中。
多くの店が通りに席を設え、ほとんどの客はそこで空の景色を肴に呑んでいる。
店内で呑んでいる者たちも話題の多くはそれだし、飾りでしかないはずの娼館の窓も開け放たれている箇所が多い。
真上には見慣れた世界連盟本部兼、冒険者ギルド総本部である中枢。
魔法障壁に護られた海上には、きっちり東西南北に四つの封印九柱天蓋。
そしてそれらを支配するように巨大な『天空城の別庭』が、空を見上げる者たちの視界の大部分を占めている。
今宵は晴天、本来であれば満天に輝く無数の星々からなる天の川を喰らう大竜の如く、アーガス島全体を覆うようにして低空に浮遊している。
だがそれだけであれば、二日続けて酒の肴にするほどのものではない。
他所であればともかく、ここは世界の中心アーガス島なのだ。
空に浮かぶ巨大人工物など中枢で見慣れているし、いかな封印九柱天蓋とはいえ、一つ一つの規模からすれば中枢以下である。
ここまで低空に降りてくることなどなかったとはいえ、王都ウィンダスへ赴いた経験がある者の方が多いこの島にとって、別庭ですら「みたことが無い」という代物ではない。
だがそれらが魔導光による派手なイルミネーションを展開し始めたとなれば、当然やんやの喝采と共に乾杯を繰り返しもする。
それも単体ではなく、巨大な別庭と四つの封印九柱天蓋が間違いなく連動して、まるで昼間かと錯覚するほどの光を夜闇にぶちまけている。
火薬による花火であれば、準備にどれだけの時間と金をかけねばならないか想像もつかない規模の、魔力による途切れることなき無数の光の炸裂。
いや金という点で言うのであれば、普通の花火など比べ物にならないほどにかかっている。
魔導灯をはじめとして、魔力を生活に役立つ形に転用する技術はこの数十年でかなりの進歩をみせてはいるが、魔力――それを溜めておける魔石は決して安い代物ではない。
基本的に魔物からしか入手できない魔石は、冒険者たちの収入の軸と言っていいほどの重要物資であり、それなりの値が付けられ、それは維持されている。
金とほぼ同義のそれを、世界規模の記念式典でもないのに湯水のように使われることなど昨今は絶えて久しい。
ゆえに、アーガス島で乾杯を繰り返す人々は伝説の復活をほぼ確信している。
それは官吏や要職者たちも変わりなく、だからこそその対応のために呑んでいる場合ではなくなっているのだが。
復活の弥栄。
だからこそ、これだけの魔石を惜しむことなくつぎ込まれ、伝説のはじまりの地であるアーガスはそのおこぼれに与っているのだ。
伝説を知り、そのはじまりの地で生きることを可能とするだけの力を持った者たちはそう理解している。
まあ大きな勘違いなのだが。
アーガス島を拠点とする彼らをもってしても、まさかこれだけの魔力光の瀑布が、ヒイロがひとっ風呂浴びる際の余興に過ぎないなどとは、さすがに想像の埒外ではあろう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「…………」
だがその光の芸術に酔いしれている場合ではない者もいる。
歴史的な大事に駆けずり回っている官吏や、冒険者ギルドの要職の方々ではない。
光の乱舞を最も美しく見渡せる場所である『別庭』の中央、ヒイロの屋敷内にある『禊水簾』――大浴場で入浴中の美女たちだ。
特にクリスタとリリアンヌは、巨大な湯船に膨大量が満たされ惜しむことなく常に溢れ出ている適温の湯に、口を沈めるほどに浸かって沈黙を維持している。
常に適温に保たれているとはいえそこはやはり湯であり、室内も高湿度に保たれている中でそんなことをしていればのぼせかねない。
だが二人の顔が赤いのは、そのせいだけではない。
のぼせそうであることも確かなのだが。
水簾――滝の名が示す通り、奥の壁面全体上部から常に湯が供給され続け、棚田のごとく設置された各種の湯船を満たしながら床部まで到達している。
この浴場内で、水の流れていない場所はない。
精緻な神々の彫像で仕切られた壁龕――休憩可能な小部屋が半円形に並び、適度な温度に保たれた石材のベッドの上には、高位の魔狼から得られた柔らかな毛皮が布かれている。
最高の技術と、最高の素材を、惜しむことなくつぎ込まれた「贅を凝らす」という言葉をそのままに具現化したとしか言えない大浴場。
だがまったく同じとはいかぬまでも、同程度のものであればウィンダリオン中央王国もシーズ帝国も創り上げることは可能だろう。
事実、王都ウィンダスや帝都八竜の泉にある公衆浴場や、王城、皇城にある宮廷浴場は規模、機能共にそこまで見劣りするモノでもない。
だがこの『禊水簾』が他の豪奢な浴場と一線を画すのは、それがある場所が天空ということであり、天井、壁、棚田のようになった無数の湯船の底、それらすべてに『表示枠』が常時展開されていることである。
つまり上を見れば満天の星空と天の川、その中天に輝く月を。
下を見ればアーガス島が燈す灯りと、別庭と四つの封印九柱天蓋が織りなす魔導光の乱舞を見渡すことが可能。
横を見れば美しい女性たちの裸体が見られる――ハズだったのだろう、本来のコンセプトとすれば。
主観的には湯に浸かりながら、自身が天空に浮かんでいるような錯覚に陥る。
これは一人で入るのであれば得難い経験として騒ぎもできようが、他人がいるとなるとなかなかに落ち着かない状況だとも言える。
どこにいても光学的な遮蔽物が無く、ある意味丸見えなのだ。
当然完全に透明になっているわけではないが、透明な湯に濡れた髪や素肌の艶めかしい色艶、纏うものとてない躰の線はあからさまである。
よってクリスタとリリアンヌは、棚田状になった湯船の中段近くにある薬湯――白濁した湯が湧き出す、比較的大きな湯船につかったきり、身動きが取れなくなっているのだ。
「レヴィさん! レヴィさんはよく平気ですね!?」
「うちの弟がさっきからチラチラ見てるけど、い、いいの?」
三人とも、全裸というわけではない。
風呂で全裸じゃないってどうなんだという向きには「もっともです」と言わざるを得ないわけだが、当然理由はある。
無警戒に「大浴場ってあるんですか? 私たちも入っていいですか?」と聞きに行った際、二つ返事で「もちろん」と言ってくれたヒイロに対して、銀が冷静に告げたのだ。
皆様、思ったよりも大胆ですね、と。
銀にしてみれば、ヒイロが許可を出した以上『禊水簾』を女性陣が使用することに否やなどない。
だが主専用の浴場である『禊水簾』に、男湯も女湯もないことなど当然である。
そして主のための浴場に、主がいない状況で余人が入ることなど想定すらしていない。
銀にしてみればタイミング的に「ご一緒してもいいですか?」という確認としか思えず、それを主が良しとしたのであれば、お愉しみの邪魔をするつもりなど毛頭ないというだけだ。
だが主と出逢ってからの時間で判断すると、御先祖よりも判断がはやい――大胆だと評したわけである。
セヴァスの苦笑いでのフォローに、そんなつもりなど欠片もなかったヒイロも、女性陣も大いに慌てた。
けたけた笑っていたのはレヴィくらいで、アレンなども嫌な汗を大量にかく羽目になった。
風呂に入る前でよかったと言えるのかどうかは、本人のみぞ知るところである。
銀の手前、いまさらいいですとも言いだせず、ヒイロの提案によって「水着着用」でと相成ったわけである。
そういえばヒイロ様は脱がすのがお好きでしたね、との銀の言葉が誰に聞こえて、誰に聞こえなかったのかは特に秘す。
「んー? だってこれ、踊り子の衣装とそう変わんないよ?」
ちらちらこちらを見ているアレンに、レヴィは立った姿のまま何を隠すこともなくひらひらと手を振ってみせる。
あわてて視線を逸らすアレンを、王子様なのに初心いわねえ、と笑ってしまう。
そうして自身の躰を確認するレヴィのスタイルは、当然素晴らしいものだ。
人気酒場の看板娘として全体的には引き締まっていながら、どこか緩みを感じさせる肢体というものは独特の色気を漂わせる。
クリスタやリリアンヌの完成された彫刻のようなスタイルにはない、妙な生々しさがあるのだ。
それを上下に分かれた、暗紅色の水着で包んでいる。
とはいえその布がカバーする面積は非常に少なく、水に濡れた肌が占める割合が圧倒的である。
血の繋がっていない女性として、年頃のオトコノコであるアレンの視線を引きつけてしまうのはやむを得ないことだとしか言えまい。
「確かに! 確かにそうなんですけれども!」
クリスタがブクブクいう。
「どうして? どうしてこんなに恥ずかしいの?」
リリアンヌもブクブクいう。
湯船につかったままブクブクと肯定するクリスタとリリアンヌだが、白濁した湯に隠された己の肢体を、レヴィのようにヒイロと、ついでにアレンの前に晒す勇気を未だもてずにいる。
この湯船に逃げ込むまでにもう充分みられているんだから一緒では? と思わなくもないレヴィだが、生娘のお嬢様方、それも貴顕の生まれともなるといろいろあるのだろうと流している。
レヴィはもちろん、クリスタもリリアンヌも「水着」というものを知らなかった。
先の騒ぎでヒイロに提案され、湯衣のようなものだと安心していたらコレである。
素材こそ違えど、これでは下着などよりもよほど際どい布きれでしかない。
しかもただの布きれではなく、その少ない布面積に凝らされた意匠と技術、ちょっとしたラインや身に付ける際に使用する紐との組み合わせで、女性である自分たちであっても「煽情的!」「なんかハシタナイ!」と叫んでしまうような、なんでこんな小さな布切れが? と思わざるを得ない破壊力を秘めている。
なんとなれば全裸の方がまだ健全なのではないかと思ってしまうほどに、なんというかその、アレだ。
女性陣が言語化できないそれを指して、ヤロー共は「そそる」と称する。
だからと言って脱ぐという選択肢も許されてはいないのだが。
クリスタの純白、リリアンヌの漆黒の互いによく似た意匠の水着は、その名を知る者とて少ない左府鳳凰エヴァンジェリン・フェネクスと、右府真祖ベアトリクス・カミラ・ヘクセンドールが主と水場ではしゃぐときに身に付けていたものを、侍女式自動人形たちが再現したものである。
元々が思考を停止させてガチャを回させる目的のデザインなので、それはもう力の入った仕上がりであることは当然だ。
事実ヒイロの中の人は、在りし日に全力で出るまで回した。
いくらかかったのかは特に秘す。
それがイラストから抜け出し、テロンとした素材感を得て水に濡れれば完全体と言っていい状態。
これで反応させられないのであれば、それは水着の中身のせいだと断ずるしかないだろう。
普通であれば。
「この程度で狼狽えててどうするのよ。ベッドの中では最終的に素っ裸よ?」
「一対一ならそれは……ナンデモアリマセン」
「クリスタ姉……」
ヒイロを口説きたいというのであれば、最終的にはそういうことだ。
水着? だとかで一応は隠された肢体を晒すのを躊躇しているようではどうにもならん。
クリスタにはそのへん、なかなか生々しい覚悟の方はある程度あるようだが。
リリアンヌは年齢のせいもあってか、美しい憧れとしてはアリでも、生々しい実践となるとまだ腰が引けるらしい。
お可愛らしいことである。
「クリスタちゃんもリリアンヌちゃんも相当な戦闘力だと思うけどなあ、今のそのちょっとあざといくらいの羞恥も含めて」
クリスタのほぼ完成されたスタイルは、男であれば目を奪われずにはいられないだろう。
新品であるが故のある種の硬さすら、瑞々しい果実の如き熟れとは逆の色気を漂わせている。
新雪に自分が一歩目の足跡を付けたくなるような、抗いがたい吸引力を放っている。
リリアンヌはまだほころびはじめた蕾のアンバランスさと、それでいて女であることを主張し始めた全体的なラインが危うい艶を放っている。
ある意味この年頃にしか身に纏えない、朝露のような儚いがゆえの色気になりきっていないなにか。
そっち系を信仰する者であれば、教義を棄てかねない危うさをはらんでいる。
その二人が湯に熱り、それでいて濡れた肢体を少ない布に包んでいるとなれば相当のものである。
のぼせ気味で潤んだ瞳と唇、蒸気に濡れた頬などは女であるレヴィであっても見惚れてしまうほどだ。
そのうえ、二人は嘘偽りなく皇女様と王女様である。
真面目天然系と、勝気我が侭系というなかなかあざといキャラクター性も持ちあわせている。
世の男どもの多くが持つであろう、お姫様信仰、貴顕信仰をこれ以上なく満たした存在だ。
これが通じないとなれば、クリスタやリリアンヌのせいではなく、相手――つまりヒイロの問題であるような気がするレヴィである。
「ヒイロ君は……まるで動じてないですよね?」
「やせ我慢、ってわけでもなさそうなんだよねえ……」
クリスタの意外と冷静な意見に、レヴィは全面的に同意である。
どれだけ取り繕おうが、男性の欲望というのは自動的のようなものだ。
魅力的な女性を見る目に宿る色は、隠しようが無い。
それを引き出してなんぼの酒場の看板娘、踊り子としてのレヴィの観察眼を、どれだけ戦闘力を持っている天才であっても、12歳前後のオトコノコが欺けるわけもない。
なのにヒイロの目は、色欲に濁らないのだ。
照れや、オトコノコであれば当然の反応は一通りある。
だがそのうえで点火するハズの、組敷きたいというような動物的衝動が一切感じられない。
「三美姫すべてを嫁にして、その三美姫ですら霞むほどの超絶美女を常に左右に侍らせていた伝説の艶男の生まれ変わりなんだっけ? ヒイロ君」
あの歳で、あの躰で、枯れていることはあり得ない。
となれば、魂がいい女に慣れ過ぎてそうそう反応しなくなっているとでもいうのだろうか?
レヴィの知る男というものは、どれだけ素晴らしい女性を伴侶としていても、それはそれとしていい女には反応する生き物なのだが。
それはなにも、男であれば手当たり次第にいい女に手を出すという意味ではない。
男と女という動物的な意味、時には精神的なものも含めて反応はしていても、自分の惚れている大切のために、その情動を御せる男がいることも知ってはいる。
切ないことにそれでもなお無反応ということは、生き物の性としてできないのだ。
あるとすればそれは家族に対するモノで、クリスタやリリアンヌは相対的に生き物として弱いがゆえにそれを越えても反応してしまい、ヒイロは強いがゆえに「身内」判定してしまっているのかもね、とレヴィは内心思っている。
とはいえ――
「鉄壁とはいえ、攻撃しなくちゃ崩せもしないよ?」
そうなのだ。
恋は戦争、どうしても欲しいのであれば手持ちの戦力で総力戦を仕掛けるしかない。
彼我の戦力差が大きくても、戦を仕掛けねば負けることすらできない。
それに戦い方次第で大物喰いをできることがあるのも、実際の戦となにも変わらない。
「わかってます! わかっているつもりではいるんです!」
クリスタが切なげに宣言し、リリアンヌは無言で湯に沈む。
まあ確かに今の状況で拙速の戦を仕掛けることは、ただでさえ大きい彼我の戦力差を鑑みるに悪手でしかないかもね、とレヴィはそれを見て微笑む。
――じゃあ経験だけは豊富なお姉さんが、大物喰いに協力しようじゃないですか。
田舎迷宮都市の酒場のただの看板娘、力持つ者たちの策動に巻き込まれた力なき一庶民。
元々綺麗な躰でもなく、そのうえどこぞのバカ王子にも穢された自分を、普通に仲間として接してくれるこの娘たちをレヴィは本当に好いている。
コトが済んだタイミングで、ある程度の金を持たせて放り出しても誰にも文句など言われまい。
いやそれすらも慈悲に満ちた対応だろう。
レヴィをひどい目に遭わせたのはヒイロたちではなく、彼らはそこからレヴィを救ってくれたのだから。
自分が子供の頃に夢見た、お姫様のかくあれかしと思う物語を彼女らが紡いでくれるのであれば、それを特等席で見れるのは役得だとも思う。
「あ、僕らでますので、あとはごゆっくり!」
涼んでいたのか、下の壁龕から顔を出したヒイロとアレンがこちらに手を振りながら「風呂からあがる」ことを告げてくる。
その不意打ちに対して、反射的にクリスタもリリアンヌも、ほぼ頭まで湯に沈める。
油断していたのはレヴィもまた同じである。
だから。
ヒロインたちがまごまごしているうちに、気を使った主役が退場を告げる姿に、思わず自分も白濁した薬湯に身を沈めてしまった理由を、レヴィはまだ自分でも知らない。





