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その冒険者、取り扱い注意。 ~正体は無敵の下僕たちを統べる異世界最強の魔導王~  作者: Sin Guilty
第六章 その冒険者、伝説の転生者。

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第109話 冒険者登録票

「エアリスさん、さっき発効された正式任務(ミッション)の追加人員登録は可能ですか? 可能であれば登録と詳細の説明をお願いします。それと私が身元保証人になりますので()の冒険者登録もお願いしていいですか?」


「あら……可愛らしい子ですね。なんかちょっとクリスタさんに似ているような……親戚の方なんですか?」


 冒険者ギルドの入り口で俺と手をつないだままだったことに気付いたクリスタさん。

 その頬の熱も冷めやらぬままに、担当者であろう自身が「エアリス」と呼んだギルド受付嬢にてきぱきと用件を伝えてくれている。


 クリスタさんのせいで目立たないが、エアリスさんを『美人受付嬢』と言って否やを唱える冒険者はまずおるまい。

 まとめた栗色の髪と、理知的な光を宿しながらも優しげな瞳がいかにも『才媛』という雰囲気を醸し出している。


 ――さすがに美少女冒険者には、おっさんが担当者というわけにはいかないのかな……


 誰の話だというわけでもないが、なんとなくそんなことが頭に浮かぶ。


 クリスタさんが()と言った瞬間、エアリスさんはびっくりした表情を俺に向けてくださったが、違うんです言い訳させてください。

 女装趣味というわけではなく、クリスタさんが持っていた予備の服がこれしかなかっただけなんです。

 いやそこを突き詰めれば、俺が迷宮(ダンジョン)の最奥でなぜか全裸だったことに行きつくわけだが。


 さすがに俺も、俯きがちに赤面せざるを得ない。

 

 非の打ちどころのない美少女であるクリスタさんと、見た目だけであれば美少女でも通じそうな今の俺が揃って赤面しているというのは、なかなかに冒険者ギルドの受付にはふさわしくない絵面だろう。


「そ、そんなところです」


 クリスタさんも動揺が抜けないまま、適当な返事をなさっておいでだ。

 とはいえ「身元の保証をする」とまで言いきれば、そういう風に思われても不自然とは言えない。

 迷宮(ダンジョン)の最奥でたまたま見つけた全裸少年だなどと思う方がたぶん、いや間違いなくおかしい。

 というかそう思える人は、きっと俺の正体も知っていると思う。


 だがそれで()()あたり、冒険者ギルドという世界組織はクリスタさんの正体を把握していると見ていいだろう。


 そのクリスタさんはすでに現在発効されている正式任務(ミッション)の詳細を確認し、応援要員としての登録も完了している。


 訊いていた限りでは、攫われた対象は特に要人というわけではないらしい。

 ここ迷宮(ダンジョン)都市アルク・ヴィラで働く、ごく普通と言って差し支えないお嬢さんだそうだ。

 

 職場は冒険者たちに結構な人気を誇っている酒場、そこの看板嬢。

 ということはトチ狂った冒険者による、色恋沙汰の(こじ)れである可能性も一応は存在するわけだ。


 依頼主もその酒場の所有者(オーナー)ということなので、正式任務(ミッション)の内容としておかしな点はない。

 ある意味通常の依頼(クエスト)扱いでもおかしくないくらいだが、冒険者が絡んでいる可能性も考慮して、アルク・ヴィラ支部が正式任務(ミッション)として扱ったというところか。


 クリスタさんとしては一刻も早く応援に向かいたいのだろうが、俺を放り出すわけにもいかないという二律背反(アンビバレンツ)に陥られたらしい。

 順番というわけでもないのだろうが、結果として俺の冒険者登録完了を待ってくれている。


 戦闘証明(コンバット・プルーフ)はさきの一連の戦闘で完了しているし、もしかしたら戦力としても数えられているのかもしれない。


「ではお名前と、この宝玉に手をのせてくださいね」


 そう言ってエアリスさんが綺麗な宝玉を出してくる。

 ゲームではこんなの無かったはずだけど、いつのまにやらそれこそ時代錯誤遺物(オーパーツ)のような『冒険者カード』が作成可能になっているんだろうか?


 そのわりには名前は聞いてきているし、エアリスさんは手元の冒険者登録票に、ご自身のペンでそれを記入してくれる感じである。


 基本的には俺の知る、冒険者登録から大きく外れてはいない。


「えーっと、名前は……」


 しかし問題は名前である。

 嘘偽りなく、俺は俺の個人情報の一切を記憶していないのだ。


 さてどうしたものか。


「ヒイロ――でもいいですか?」


 ぱっと思いつく名前もないので、実感はわかないがおそらくは俺の分身でもあろう、この世界における英雄の名前を借りることにする。


 不敬罪! とかにならなければいいんだが。


 冒険者ギルドの初期登録においては、報酬の受け渡し等に困らなければ偽名でも平気で通されていたはずだし、大丈夫だとは思うんだけど。


 ……もっと無難な名前にしておいた方がよかったかな?


「……素敵な名前ですね」


()()()()ですよ」


 どうやら問題はないようだが、あまりにも分不相応な偽名だと思ったのだろう、エアリスさんが半目になりつつ「本気でそれでいいんですか?」と目で訊いてくる。


 隣にいるクリスタさんも、さすがに驚いたようである。

 とっさに「あやかり」ということにしておく。


 実績が伴わなければ揶揄される原因にもなろうが、おそらくそうはならないだろう。

 というよりも隠す努力の一切を放棄すれば、まず間違いなく「再来」レベルの扱いをされるようになる。


 プレイヤーとはそういう存在なのだ。


「なるほど……で、適性は……あれ? おかしいですね」


「どうかしたんですか?」


 素直に宝玉に手をのせている俺に対して、エアリスさんがちょっと狼狽した表情を向けてくる。

 そこにはほんの少しの憐憫――あわれみの感情が見て取れる。


 クリスタさんはその表情の意味がまるで解らない様子で、例のあざとい仕草である。


「いえ……壊れているわけではないですね。えと……ヒイロ君? 適性反応が出ないんですよ」


「そんなはずは。あれだけ――」


「適性が無ければ冒険者登録ができない、というわけでもないですけど……」


 つまりこの宝玉は冒険者に登録する者の適性――(ジョブ)を表示する魔法道具(マジック・アイテム)ということだ。

 そしてそれはこの時代に冒険者を生業(なりわい)にする者にとって、当然のものらしい。


 ――こいつを冒険者ギルドにばら撒いたの、たぶん俺なんだろうなあ……


 そしてその理由もある程度は予測がつく。


 『連鎖逸失(ミッシング・リンク)』から解放され、ラ・ナ大陸中の迷宮(ダンジョン)魔物(モンスター)領域が攻略されていったであろう、大攻略時代とも言える時期。

 冒険者を志す者はひきも切らさず、そこにはおそらく戦う才能に恵まれない者たちも多く含まれていたのだろう。

 無駄な犠牲を抑えるために、この宝玉のような『選別装置』を用意したことは想像に難くない。


 それでもどうしても、と望む者には自己責任という名の冷徹な判断の下、登録自体を不可としたわけではないらしい。

 確かに『村人』や『農民』であっても、充分な安全係数-1(マージン)を持ちさえすれば、魔物(モンスター)を狩れないわけでもない。

 レベル999の村人とか、見てみたくもあるな。


 エアリスさんの憐憫の表情や、実際の戦闘能力を知っているクリスタさんの「そんなはずは」というのは、その大前提に立っているからだ。


「とりあえず登録はお願いします」


 だが俺に『適性(ジョブ)』が表示されないのは、また違う理由だ。

 俺はこの宝玉では判断できない適性を持ったプレイヤーなのだ。


 そりゃ根は同じくするとはいえ、スピンオフで発売された別ゲームの適性なんて測りようがないよな、宝玉先輩も。


 爽快感を売りにした、殲滅系ハック&スラッシュアクションR.P.G。

 それを土台(ベース)とした俺の戦闘能力は、間違いなく本来の「T.O.T」を土台(ベース)としたこの世界では突出したものになるだろう。

 どの(ジョブ)を選択しようが、軍勢を殲滅することを前提とした戦闘能力を持っているのが今の俺なのだ。


 油断は禁物だが。


「承知しました」


「えっと、あの。じゃあヒイロ君? はここで待っていてくれるかな。私は正式任務(ミッション)の応援に行ってくるので……」


 クリスタさんは俺の戦闘能力をその目で見てはいる。

 とはいえこの時代の常識ともなっているであろう宝玉による(ジョブ)適性を持たない俺を伴って、再び迷宮(ダンジョン)に潜るのはさすがに憚られるようだ。


 ――いよいよ、相手の思うつぼの状況が整いつつあるな。


「ちゃんと待っていてくださいね! それとエアリスさん、今回の私の報酬は全部ヒイロ君に渡してあげてください。それで基本的な装備を一式揃えてもらえれば……」


 そんなことを言いながら、俺をおいて冒険者ギルドの大扉から迷宮(ダンジョン)へと急いで走って行ってしまわれた。


 太っ腹(実際はほっそいね)なことに、今回最下層まで潜って得た報酬はすべて俺にくれるつもりらしい。

 中級とはいえ迷宮(ダンジョン)の最下層まで達した報酬がどれくらいのものなのかはピンとは来ないが、すくなくともまだ逢ってから半日も経たない正体不明の相手にポンとあげていいものでもないだろう、本来は。


 やれやれという表情を浮かべるものの、驚きもしないエアリスさんはけっこう「クリスタさん慣れ」しているらしい。

 思わず顔を見合わせてお互い苦笑いをしてしまう。


「……心配なので、僕も行きますね」


 とはいえ、本当に単独(ソロ)で行かせるわけにもいかない。


 今の俺の心配が杞憂、あるいはただの邪推であればいい。

 そうでなかった場合は相手はクリスタさんであっても、というよりはクリスタさんにこそ照準を合わせた罠を張っているはずだからね。


 それを放置しておくわけにもいかないだろう。

 どうやら本当に攫われている人もいるみたいだしな。


「あ、じゃあ基本的な装備を用意します」


「ありがとうございます。そうですね……」


 ド新人(ルーキー)とあっては、正式任務(ミッション)の応援要員登録は無理である。

 というより本来であれば、第一階層以外の立ち入りも許可されまい。


 まあ階層ごとに改札があるわけでも無し、無視すればいいことだ。

 本来であればその愚行の対価は命で贖うことになるのだろうが、もともと最下層に現れた俺にはその鉄則は当てはまらない。

 エアリスさんは黙認してくれるみたいだし。


 それに――


「おそらく冒険者ギルドが扱っていると思うんですけど……誰が装備しても魔法効果を発しない、それでいてかなりの下層でドロップ――発見された装備類があるかと思うんですけど。ここにもありますか?」


「え、ええ……非適応装備群(ジャンク)でしたら、分解不可能なものについてはギルドで保管していますけど……」


 よっしゃ!

 

 ()()があるのであれば、たとえ相手が()であっても後れは取るまい。

 まあどの『セット装備』があるかにもよるんだけど……


「見せてもらっていいですか?」


「それは私がご案内いたします」


 意気込んでお願いする俺に答えたのは、ちょっと引き気味のエアリスさんではなかった。


 落ちついた、歳を重ねた老婦人の声。

 声の聞こえた方向へ、俺とエアリスさんが同時に振りかえる。

 

「アルジェ副支部長!」


 エアリスさんがその名を呼ぶ。


 いつの間にやら背後に現れていたこの上品な老婦人――お若い頃はさぞや男性陣の視線を集めたであろう――は、この冒険者ギルド、アルク・ヴィラ支部で二番目にえらいお方らしい。


「たった今、冒険者ギルド副支部長の職は辞してきました。今はただのアルジェです」


「え?」


 俺の案内を引き受けてくれるというアルジェさんは、そう軽くないであろう職をあっさり辞してきたと仰られる。

 

 そして今、俺の目の前に傅いている。


 エアリスさんにしてみれば驚愕の連続だわな。

 雲の上とまでは言わないまでも、自分の職場の№2があっさりその職を棄て、登録を終えたばかりの新人(ルーキー)冒険者に対して下僕(しもべ)の如く傅けばそりゃまあ驚くしかない。


 ただ俺には、なんとなくその理由がわかってしまう。

 そりゃ御歳を召されても綺麗なままなわけだよ。


 なぜかはわからないが、()()がわかる。

 今俺の目の前で傅いているこの女性は、人ではない。


「侍女式……自動人形(オート・マタ)?」


その通りでございます(Exactly)執事長(サー・ドヴァレツキィ)直下軍団(レギオン)所属№1971、個体識別名『(アルジェ)』――本日今この時より、御身にお仕え致します。『禁則事項』に抵触しない限り、御身のあらゆる御命令に従います」


 №1971ということはかなり新しい個体だな。

 ということは生体式。


 相も変わらず自動的に頭に浮かぶ要らん知識のとおり、彼女らの血液でもある賢者の石水(エリクサー)の霧に包まれながら、(アルジェ)の名を持つ侍女式自動人形(オート・マタ)は本来の姿に戻ってゆく。

 老婦人の姿は、長く人の世に馴染むために取っていた仮の姿に過ぎないのだ。


 彼女らは老いないからなー。


 その名の示す通り、緩やかにウェーブした輝くような銀の髪と、同色の瞳。

 磁器のように白く滑らかな肌は、とても創りモノとは思えない――って思いっきり矛盾した表現だなこれ。

 とにかく文字通り人形のように整った顔が、緊張さえ浮かべて俺に従うことを宣言している。


 ついさっきまで数段階上の上司だった老夫人が、あっという間に自分よりも若い少女へ変じたことにエアリスさんは声もない。

 

「……僕の正体は?」


「禁則事項です」


 そうだろうねー。


 でありながら、俺が侍女式自動人形(オート・マタ)に傅かれる存在であることを隠すつもりはないと来た。

 つまり俺が早々に自分の正体に行きつくことは、想定済みだということだろう。


 と同時に、かたくななまでにその情報の提供、記憶の復活は禁じている。


 つまりは予断の無い状態で、()()()()()()を見ろということなのだろう、やっぱり。


 そしてある程度以上、好きに振る舞えるような()は用意されている。


 まあ今は流れに任せればいいか。

 ある程度は下手踏んでも、安全装置(セーフティ)が働くっぽいし。


 ――死神氏でやらかした時は、間違いなくそれだよなあ……


「貴女の戦闘能力は?」


(わたくし)は戦闘特化型侍女式自動人形(オート・マタ)ではございません。ですが、魔力糸(フィルム・マギカ)は少々扱えます。成長限界を解除されていない人程度であれば、後れを取ることはありえません」


 なるほどね。


 この時代の迷宮(ダンジョン)に潜ることや、必要に応じた護衛くらいは充分に可能ということらしい。

 

 とはいえメインは、俺の身の回りの世話ということになるんだろうか。

 しかし行く先々で侍女式自動人形(オート・マタ)が増えていくことになったら少々大変だな。


「あ、一式揃ってる」


「ご自由にお使いください。()()()()のモノですので」


 くだらんことを考えながら(アルジェ)に案内された冒険者ギルドの武具倉庫には、俺が期待していた装備が一通り揃えられていた。


 とはいえ、ここに在るのは稀少(レア)ではあれ、ハクスラの果てに厳選されたものではないのだろうが。

 まあそういった究極装備は、落ち着いてからのんびり整えればいい。


 少なくともこの装備をした俺に、勝てる人間などこの時代には存在しない。


「あ、あの、ヒイロく……様? 冒険者登録票の(ジョブ)欄には、なんと書き込んでおけばよろしいです、か?」


 目を白黒させながらも俺と銀についてきていたエアリスさんが、そんなことを訊いてくる。


 (アルジェ)に「内緒ですよ」とか「ヒイロ様には丁寧に」などと言われて、素直に従っているのはある意味大したものである。

 いまやエアリスさんの方がお姉さんになっているのに、「はい! はい!」と少女のような(アルジェ)に対して素直に頷いているのは見ていてなんか面白い。


 質問内容に関しては今更と思わなくもないが、冒険者登録票が未完成というわけにもいかないのも理解できる。

 冒険者ギルド自慢の適性判定用宝玉は、俺は冒険者に適した(ジョブ)を持っていないと判断したわけだしな。


 ではそこも、()()()で行くことにしましょうか。


「ああ、()()()()通り――そこは「魔法使い」でお願いします」


 ぽかんとした表情を見せるエアリスさんを後に、俺もクリスタさんを追って迷宮(ダンジョン)へと向かう。



 中長期的には、先代の自分が関わった世界が今、どんな状況なのかを確認するために。



 短期的には、物語の冒頭で出逢った見目麗しい秘密を抱えた女性冒険者を、どうやったって無くなるはずもない、人の悪意から護るために。


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