表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その冒険者、取り扱い注意。 ~正体は無敵の下僕たちを統べる異世界最強の魔導王~  作者: Sin Guilty
第六章 その冒険者、伝説の転生者。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

128/195

第107話 偶然か必然か

「お、驚きましたね……」


 本気で驚いている様子の盾剣士(タンク)さんには申し訳ないことをした。


 そりゃ誰だって、迷宮(ダンジョン)でご同業に出逢ったと思った瞬間に、音もなく背後に回り込まれたら驚くわな。

 俺なら間違いなく、できる全力で反撃する。


 一党(パーティー)メンバーの方々も、かなり驚いておられる様子。


 そのうえ失礼なことまで考えてしまっているので、()()()では一方的に俺は感じの悪いというか、有害なだけの子である。


 いや直感的に「怪しい」と思ってしまったのにはきちんと理由があって、落ち着いて見直すとその原因はよりはっきりとしたものになってはいるのだが。


「すみません! その子、まだ迷宮(ダンジョン)に慣れていないので……」


 ――その子! いやまあその子か。この見た目では当然というか、それ以外呼びようもないわな、名前も知らないわけだし。


 クリスタさんが慌てて謝罪している。

 自分が連れている()()がオイタをしたのだから、謝るべきは責任者である自分であると考えておられる様子。


「いえいえ、実際に攻撃されたわけではありませんから。そこまで頭を下げてもらうようなことでもないですよ。ただびっくりしただけです」


 俺に失礼な疑いをかけられている盾剣士(タンク)さんも、にこやかにクリスタさんの謝罪を受け入れている。


 双方ともに大人である。


 冒険者票登録を終えて迷宮(ダンジョン)に潜っているからには――俺は当然未登録とはいえ――そこに本来、大人も子供もない。

 命をかけて挑んでいる迷宮(ダンジョン)という場において無礼、というよりは脅威と判断される行動をした者が相応の迎撃をくらっても、それは自業自得でしかないのだ。


 迎撃できなかった、という事実に気付いたうえで謝罪を受け入れているとなればこちらとしては謝るしかない。

 そこまで理解しているかいないかは置くとしても、この盾剣士(タンク)さんたちは殺されそうになったのに、笑って許してくれているのだ。


 本当にそうなら、だが。


「本当にごめんなさい」


「すみませんでした」


 だが俺としても今持っている()()とは関係なく、反射的に背後に回り込んだのは、自分がぼーっと物思いにふけっていたせいである。


 よって重ねて謝罪の言葉を口にしているクリスタさんに合わせて、俺も頭を下げる。

 謝るべきところはきちんと謝っておかないと自分の尻のすわりも悪いし、対外的に保護者枠的な立ち位置になっているクリスタさんの評判にも関わる。


 それは俺としても望むところではない。


 疑わしきは(ミナゴロシ)などという、どこかの殺伐とした組織の首魁ではないのだ、すくなくとも()は。


 ――あー。また反射的に覚えのない思考をしてしまってるなあ、俺。


「しかし、可愛らしい一党(パーティー)メンバーですね」


 クリスタさんと俺の謝罪を嫌味なく受け入れ、笑顔を浮かべる盾剣士(タンク)さん。

 こうやって見ている分には、普通に美形のお兄さんである。


 ただ他のメンバーが基本的に直立不動で控えていることからも、この人がこの一党(パーティー)において、圧倒的な権限を持っているのはまず間違いなさそうだ。


 雰囲気で言うなら、冒険者仲間というよりも上司と部下といった感じだ。

 まあそんな冒険者一党(パーティー)がいても不思議ではないし、俺の感じている違和感、疑いはそこから発しているわけでもない。


 ――というかこの盾剣士(タンク)さん、声を聞いたうえでも俺を女の子だと思ってるっぽいな……こんな恰好じゃしょうがないとも言えるが。


 なお盾剣士(タンク)さんの名誉のためにも言っておくが、俺を見る目に性的な()()は感じられない。

 クリスタさんを見る目には、男であればしょうがなかろうという程度の()()は含まれているので、ロリコンというわけではないようだ。


「えー……っと、その……はい……」


 だが盾剣士(タンク)さんのその言葉に、クリスタさんが居心地を悪そうにしている。

 クリスタさんはわりとはっきりものを言う人なのに、妙に歯切れが悪い。


『……なんか拙いんですか?』


『あの方の一党(パーティー)も含めて、お誘いは全て「単独(ソロ)攻略主義者なので」で断っていましてですね……』


『なるほど……』


 クリスタさんの背後の位置に戻った俺が小声で確認したことに答えてくれる。


 そりゃそうか。


 たとえ()()は知らなくとも、クリスタさんのこの美貌と装備である。


 ダメ元も含めて、この迷宮(ダンジョン)都市『アルク・ヴィラ』を拠点としているギルドの連中ほぼすべてからお誘いを受けていても不思議ではない。

 一党(パーティー)ではなく相棒(パートナー)としての誘いも含めれば、一通り断り終えるまでにしばらくの期間は必要だっただろう。


 それを『単独(ソロ)攻略主義』だからと断っていたのに、俺という相方を連れて迷宮攻略(ダンジョン・アタック)している最中に、袖にした相手に遭ってしまったというのはいかにも()()が悪い。

 

 加えて俺が相手を一歩も動かすことなく、背後を取ったというのもよろしくない。


 相手の取りようによっては、()()()の能力もないから組むのをお断りされたのだと思われても仕方がないのだ。

 しかもそれがわりとその通りの可能性もあるのでより厄介とも言える。


 瞬歩みたいな行動(ムーブ)――他に遣い手など居ないであろう『幻影疾走(イルシオ・カルス)』を見せてしまったのは確かに迂闊だった。

 とはいえ、それを加味してもワンピース一枚に外套(マント)を羽織っただけの子供一人を()()()()に見れる者は、そう多くないはずである。


 多くの人は、見た目に印象を大きく左右されるのだ。


 そうならない、なりにくいのはいずれの分野(ジャンル)においても手練れ(ベテラン)とされる者たち。


 つまり今俺たちが、()()()()()()この一党(パーティー)のような。


 俺が彼ら――特にリーダーであろう盾剣士(タンク)さんに感じた違和感。

 それは彼らが熟練者(ベテラン)()()()、という点だ。


 確かに装備などは一党(パーティー)全員がこの迷宮(ダンジョン)都市『アルク・ヴィラ』を攻略拠点としている冒険者としては妥当なものばかりだし、俺の目に盾剣士(タンク)さんらのステータスがオープンされているわけでもない。


 ぱっと見た限りでは、「魔法使い」のような稀少職(レア・ジョブ)も含まれていないように見える。


 だが足の運びや、ふとした仕草、それこそ全員が身に纏う雰囲気に至るまで、彼らがこの迷宮(ダンジョン)には不釣り合いなほどの(つわもの)だと俺の本能が告げている。


 要は勘に過ぎないとも言う。

 だが命のかかった場所で発揮される勘を、蔑にするべきではないとも思う。


 なによりも、初見のはずの俺の『幻影疾走(イルシオ・カルス)』で一方的に背後を取られながらも、ビックリしただけで済ませている――腰を抜かすのでもなければ、反射的な反撃に出たわけでもない――ことが、俺の勘が警戒(アラート)を告げる最大の要因だ。


 動けはしなかったが、見えていた。

 もっと言えば、動こうと思えば動けたが、そうしなかった。


 つまり彼らは、俺がクリスタさんの声で止まらなかったとしても、なんとかできるという確信を持っているのだ。

 

 だからこそ、こちらが素直に謝れば笑って許すこともできる。


 ……のかもしれない。


「我々としてはいつでも歓迎ですので、その子と一緒にでも組んでくださる気になったらお声かけください」


 そのうえ、悪意を持っているかどうかは、また別の話なわけだし。


 目的があって、己のレベルに見合わない迷宮(ダンジョン)に潜ることもなくはないし、こっちがつっかけた形であるにもかかわらず、こちらに害為す行動を起こされているわけでもない。


 実際、クリスタさんが二人組(バディ)を組んでいる――実際は事情が異なるのだが――のを見ても、嫌味ひとつ言うでもない。


 ただ今は、俺が一方的に感じ悪く警戒しているだけである。

 もちろん表情や態度には出していない――つもりではあるのだが、どうかな。


 割と顔に出る方だという自覚がなぜかあるので、イマイチ自分を信用できない。


「クリスタさんに言う台詞でもない気はしますが、地上まで御無事で。我々は少々急ぎますのでこれで失礼します」


 そしてこの場でこれ以上クリスタさんに絡むつもりもないようで、自分たちの目的を急ぐらしい。


 そのうえこちらの無事まで願ってくれている。

 

 男であればクリスタさんを見る目に、少々アレなものが混ざるのは仕方がないとも言えるし、レベル違いの迷宮(ダンジョン)に挑んでいるとはいえ、少なくともクリスタさんの敵ではないのかもしれない。


「皆さんもお気をつけて……」


 クリスタさんが無難な答えを返しておられるが、どことなく落ち着かない御様子。


 俺の見立てが間違っているとしても、少なくともこの迷宮(ダンジョン)においてはトップクラスの実力を持っていることは間違いないであろう一党(パーティー)が、()()といった理由が気になるのかな。


「あの、急いでおられる理由って……」


 案の定だったようだ。


「……つい先程、冒険者ギルドから正式任務(ミッション)が発効され、我々が引き受けたのです」


「内容をお聞きしても?」


迷宮(ダンジョン)に連れ去られたと思しき人物の救援です」


 あ、あかん。

 なんかこれ、いい人たちっぽい。


 要人かどうかはおくとして、人助けのために自分たちにとっては得る物の少ない迷宮(ダンジョン)に潜ってくださっているというのであれば、俺の下種の勘繰りが過ぎる。


 ごめんなさい。


 口に出してもきょとんとされるだろうし、心の中で深々と首を垂れておく。


 ――いや待てよ。


 クリスタさんと挨拶できる程度に、レベルに合わない迷宮(ダンジョン)を拠点として活動しているというのはやっぱりどこか不自然さがないか?


「……急いで地上へ戻ります」


 俺の思考を断ち切るように、クリスタさんがキッパリと告げる。

 確かにこれ以上は同じ冒険者稼業同士とはいえ、守秘義務が発生する領域だ。


 要救助者が誰なのか、どのレベルの正式任務(ミッション)なのかは訊いていいことでもなければ、訊いて応えてくれることでもないだろう。


 よってクリスタさんがこの正式任務(ミッション)に助力しようとするならば、一刻も早く地上へ戻って冒険者ギルドから正式に「応援要員」として登録されるのが、もっとも手っ取り早い。


 まあ拠点としている街の誰かを迷宮(ダンジョン)から救助する正式任務(ミッション)と聞けば、虚心でいられないというのは理解できる。


 ――魔物(モンスター)は人を襲うが、攫ったりはしない。


 つまり人の悪意が顕在化した事件であり、それに対して冒険者ギルドが介入している事態ということになるからだ。


 ()()()()()()お立場でもあるクリスタさんとしては、本来の自分の目的があるにしても看過できないのだろう。


「心強いです。ですがクリスタさんを待っている猶予もないので、我々なりに探索は進めます」


 クリスタさんの言葉の意味を十全に理解したうえで、盾剣士(タンク)さんがありがたそうにしながらも先を急ぐと告げてくる。


 だが。


 その言葉とともに、一瞬だけ浮かんだ表情。

 ()()がさっき内心で謝罪したばかりの俺に、再び警戒(アラート)を呼び起こす。


 ――その顔はあれだぜ。死の帳面を再入手した時の衛星の顔だぜ。


 クリスタさんは全くの警戒心を持たず、地上への帰還を急ごうとしている。


 まあ一度地上へ戻って、再度迷宮(ダンジョン)へ潜るまでにそれなりの猶予はある。

 その際は素直にご一緒するのではなく、あえて別行動をした方がいいかもしれないな。




 勘だのなんだのいろいろ述べたが、俺が警戒している最大の理由は足元の千の獣を統べる黒(シュドナイ)の九本の尻尾。

 それがセンサー能力を持ったアホ毛よろしく、盾剣士(タンク)さんにずっと反応しているからなんだけどね。


 御本体であらせられる子猫殿は、興味なさそうに欠伸を一発くれてくださっているのみなのだが。


 なんかコヤツの尻尾は、危機察知能力を持っている気がするのだ。

 なんとなくだけど。




 少なくとも、この遭遇(エンカウント)は偶然ではなく必然だと考えた方がよさそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
colink?cid=35021&size=m
書籍版第2巻 10月10日より発売しております! 電子書籍版は10/23発売となります!
2巻は本編も大量書下ろし、web版第二章完結後の後日談として下僕たちの会話「在り方の変化」を書き下ろしております。何よりもイラスト担当していただけたM.B様による表紙、口絵、挿絵は必見です! 王都の上空に迫る天空城がクッソカッコいい!

書影
書籍版の公式ページはこちら



― 新着の感想 ―
[一言] てっきりシュドナイがボスを倒したと思ってたわ。つっても何か最初の方に眷属が倒した経験値を主は受け取れる的なことを言ってた様な気もするんだけど
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ