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その冒険者、取り扱い注意。 ~正体は無敵の下僕たちを統べる異世界最強の魔導王~  作者: Sin Guilty
第六章 その冒険者、伝説の転生者。

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第102話 解せない勝利

 俺のまっすぐに伸ばした腕の先、開いた掌に魔力が集中する。


 どういう仕組みになっているのか理解できてはいないが、詠唱は必要なく己の目で捉えた対象――魔物(モンスター)を見据えて放てば、ある程度の誘導性を以って着弾する。


 ハズ。


 ハズと言いつつ、それについては何故だか妙な確信がある。


 「記憶」ではなく、「知識」といった方がしっくりするカタチで脳内にあるこのゲームについての情報では、()()はVRモノですらなかった。


 古式ゆかしい斜め見下ろし型で、無数の魔物(モンスター)をあらゆる(スキル)・魔法で蹂躙する爽快感を前提とした、ハック&スラッシュ系RPG。

 最終段階まで鍛え上げれば、(ジョブ)によっては画面を埋め尽くすほどの攻撃が確かに派手で好きだった。


 たしか稀少(レア)武器と(ジョブ)の組み合わせによる特殊攻撃もあったはず。


 にも拘らず一人称視点(ファースト・パーソン)、というかただの現実として「己が身で魔法を振るい、魔物(モンスター)と対峙する」ことに妙な慣れを感じる。

 そうじゃなければこの圧倒的な現実感、腰を抜かしてヘタっている方が自然だ。


 本来の俺は、そんな胆力など持ち合わせていない気がする。

 だとすれば、恐怖を感じないほどにこの状況に慣れているのだろう……たぶん。


 正面に見据えるは、この空間を支配する階層主(中ボス)

 物理攻撃には強そうな、巨大な鎌を振りかぶり、襤褸(ボロ)外套(マント)を纏った骨の魔物(モンスター)


 「死神」のイメージをそのまま形にしたような、「よくある」とも言えるデザイン。


 今は少年の体躯である俺と比べ、どう見ても5m以上はある巨躯がわずかに空中に浮かんでこちらへ迫ってくる様子は、確かに迫力がある。


 だがハナで笑うかのように、『ただの人骨(アンデッド)系がこの()に勝てるとでも思っているのか』――という謎の思いあがったような思考が頭に浮かぶ。


 どうやら俺は骨系に強烈な自負があるらしい。


 さっき割れた球体(スフィア)の欠片で見た自分自身は、少女と言っても通用しそうな美少年だったんだけどな。

 

 だいたい、ふと頭に浮かぶ一人称が()だったり、()だったり……

 新宿の煎餅屋じゃあるまいし、人格切り替わったりしたらどうしよう。


 いやデフォルトの思考では()だし、迷宮(ダンジョン)の風景見て「懐かしいなー」なんて思った時はこともあろうに()だったりするから……つまりただ単に狂ってるだけだなこれは。


 まあいい、まずはこの骨を沈めてから落ち着いて考えよう。


 掌に集中した魔力を撃ち出すイメージ。


 同時、魔力が螺旋状に収束し、白光を纏った『魔弾(マジック・ブレット)』が死神に向かって射出される。


 ――おお、やっぱり「魔法」使うのって()()()()()()感動するな。


 躰から何かがすっと抜ける感覚から、じりじりと戻るイメージ。

 おそらくこれは『魔弾(マジック・ブレット)』に使用されたこの躰に宿る魔力(M.P)と、それが回復してゆく感覚だろう。

 

 さっき生まれ落ちたばかりの俺は、間違いなくレベル1でしかない。

 よって使用可能な魔法は、最初から習得しているアクティブ・スキルである『魔弾(マジック・ブレット)』のみである。


 緩く弧を描いて着弾せんとする『魔弾(マジック・ブレット)』を、死神の野郎は避けるそぶりさえも見せずにこちらへ向かってくる。


 たかがレベル1の初級魔法など、避けるにあたわずと言ったところだろう。

 だが甘いな、強大な本体とリンクした俺の魔力は、レベル1とはいえ強力な――


 ポス。


 ――あれ?


 わりと気の抜けた音とともに着弾の効果(エフェクト)が発生する。

 脇目もふらずにこちらとの距離を詰めてくる死神様は、大して痛痒(ダメージ)を得ておられない御様子。


 あ。


 レベル1から育てた場合、レベルMAXである100を超えてから取得可能な『超越値(トランセン・ポイント)』は、ステータス画面で任意のパラメーターに振り分けないと機能しないんだった。


 本体とのレベル連動で腐るほどある『超越値(トランセン・ポイント)』も、現状では宝の持ち腐れである。

 とはいえ「ステータス・オープン!」ができない現状、どうすりゃいいってんだ!


 いやそんな場合と違う。


 つまりは現在俺の攻撃は、正真正銘ただのレベル1の『魔弾(マジック・ブレット)』でしかないってことだ。


 そりゃ避ける必要もなく突進してきますよね!

 

 慌てて連射するが、さして効いてはいまい。

 それに当然魔力量もブーストされていないので、あっさり魔力切れに陥る。


 やべえ。


 振りかぶられた大鎌から逃れるべく、右に向かって移動技である『幻影疾走(イルシオ・カルス)』を発動――しない。


 ですよね、『幻影疾走(イルシオ・カルス)』はレベル10で取得でした。


 レベル1の我が身では、自分の足で走って避けるしかない。

 とはいえ、どうやら引きつけてから避ける癖が躰に染みついているらしく、今から走ってもとてもじゃないが間に合わない。


 ――ガァン!


 自分よりもはるかに巨大な鎌の振り降ろし、その直撃を喰らう。


 痛くはない。


 派手な効果(エフェクト)とともに、巨大な鎌は俺を中心に半径一メートルほどに展開されている球体状の『魔法陣』に阻まれている。

 ごく薄い球体を幾重(いくえ)にも重ねたようなそれは、死神の鎌の直撃で二桁単位の破砕音を響かせつつも、なんとか俺への直撃を阻んでいる。


 H.Pの概念がこういう風に現実化しているわけだ。

 H.Pがゼロになれば球状の魔法陣は失われ、魔物(モンスター)が使用するいかなる攻撃であっても直撃すれば致命傷となる。


 ――()()とは、H.Pの扱いが違うんだな……


 いや、()()()()()()()以外は、みんなこの方式だったか。

 まあ盾や鎧、いわゆる防具の防御力や、冒険者や兵士たちの魔物(モンスター)の攻撃に対する耐久力、継戦力を成立させるには()()なるのが一番わかりやすいのかもしれない。


 どれだけ鍛え上げた躰であっても、人に魔物(モンスター)の攻撃が生身に直撃すれば「H.Pが減る」程度で済むとは思えないしな。


 魔物(モンスター)同士であればまだしも。


 とにかく痛くないのは結構だが、削りきられたら即死というのはなかなかに恐ろしい。


 つーかですね!


 敵魔物(モンスター)の頭上にH.Pバーは表示されてないし、俺の視界には自分のH.PやM.P、使用可能なアクティブ・パッシブのスキルも表示されていない。

 

 現実ってなこんなものかも知れないが、落ち着いて戦闘できないぞこれ。

 あとどれくらいくらっていいのか、魔法の連射はどのくらいできるのか、実証を積み上げて体に覚え込ませるしかないとはなんという高難易度(ハードモード)


 とはいえ死神氏の攻撃も単調だし、なんとかなる。なんとかする。

 死んだらどうなるかわからない以上、死ぬわけにはいかないからな。


 というかこれが「現実」とするなら、至極当然なことを考えている自分にちょっと笑う。

 意外と余裕あるな俺。




 かっこよくはないが、というか相当みっともない。


 だがマッパでどたどた走って距離を取っては『魔弾(マジック・ブレット)』を魔力切れまで撃ち込み、またどたどたと走って距離を取りつつ魔力回復を図ることを繰り返す。


 華麗(スタイリッシュ)とはほど遠いが、まずは勝つことが肝要だ。

 いいのだ、誰に見られているわけでもなし。


 何度かそれを繰り返し、そろそろ安定したパターンとなりつつある。


 しかし敵の頭上にH.Pバーが表示されていないと、どこまで削れたかわからないから結構不便だ。

 こういうことを考えてしまうのは、まさにゲーム脳と言っていいのかもしれないが。


 そろそろ削りきれてもいい頃なんだがな、と思いつつ『魔弾(マジック・ブレット)』を撃ち尽くして再び距離を取るために移動を開始する。


 ――()()()()


 この死神ボスのことははっきりとした知識として脳内に存在しないが、それでも何か忘れているような気がする。

 どうも記憶も知識も、部分的に制限をかけられているようでもやもやする。


 あれ、死神氏が追いかけてこないな……


 それに気付いた瞬間、俺は自分の間抜けさ加減に臍を噛む。

 この死神の攻撃パターンを知識として持っていなくても、ゲーム慣れしていると嘯くのであれば警戒していて当然のことを、完全に失念していた。


 ボス系の敵は、H.Pが一定以上削られると攻撃パターンが変化する。

 『発狂モード』とも呼ばれるそれは、最初の一撃が喰らうとなかなかえげつない被害(ダメージ)を負うことも多いというお約束。


 足を止め、こちらに向かって大技のモーションに入っている死神氏に気付くのが、あまりにも遅かった。


 ただ距離を取るのではなく、大きく開かれた白骨の顎部が向く射線から逃れるように真横に走る必要があったのだが、もう間に合わない。


 それでも全力で横に走るが、禍々しい黒い奔流が死神の咢から放たれ、その広範囲の直線状射線に俺の躰は巻き込まれる。


 数瞬、H.Pが残っている間は『魔法陣』が黒い奔流を砕けつつも弾くが、すぐに砕き切られた。


 マッパの躰を護るものは何もなくなり、死神の大技が俺へと直撃し、意識が遠くなる。

 直撃でも痛くないのが、せめてもの救いかな……


 ――『GAME OVER』


 脳裏にそんな赤い文字が浮かぶ。


 全裸で初見狩りの中ボス如きに殺されるとは、下僕(しもべ)たちにはとても見せられんな……


 自分のものではないような、苦笑いを伴う思考とともに、俺の意識は再び途切れた。






 頬に温い、ザラリとした感覚。

 ハッキリしない意識の中でも、この感じは覚えがある。


 ――にゃーん。


 耳元に猫のか弱い鳴声。


 ――あれ死んでないのか?


 意識があるということはそういうことだろう。

 ぼやけた思考のまま、うっすらと目を開く。


 映るのは迷宮(ダンジョン)の床と、天井。

 その真ん中にいて不安そうに鳴いている、漆黒の子猫。

 

 尾は九本。


 ――()()()()よな『千の獣を統べる黒(シュドナイ)』。どうした、ずいぶんと小さくなっているようだが……

 

 ん? シュドナイ?

 何でこの子猫の名前、俺が知ってるんだ?


 しかも思考が俺っぽくないというか、凄く偉い人っぽい。


 急速に意識が覚醒し、迷宮(ダンジョン)の床から跳ねるようにして飛び起きる。


 慌てて自分の躰を確認するが、相変わらずマッパであることを除けばどこにもけがなどを負った形跡はない。

 感覚としても痛いと感じるところはどこにもない。


 あれだけの攻撃の直撃を喰らって、無傷とは解せない。

 というかその攻撃をかましてきた死神の骨野郎はどうなった?


 あそこで俺の意識が途絶えている以上、自分が倒したとは考えられないのだが、先と変わらぬ場所から死神の姿だけが消えている。


 代わりというわけではないだろうが、俺の頬を舐めて起こそうとしてくれていた漆黒金眼の子猫がいるが、まさかこの可愛らしいの――なぜか起き抜けに俺自身がシュドナイと呼んだこいつが倒したわけでもあるまいし。


 尻尾が九本あるのはあれだが、人語を解するわけでもなく心細げに鳴いているだけだしな。子猫だし。


 まあ無事であればまずは良しとしよう。


 野生? 動物のくせにまるで抵抗しない黒子猫――シュドナイを抱き上げて周りを確認する。


 何がどうなったのかはわからないが、一時的に去ったのであればまた現れるかもしれない。

 だが見回した迷宮(ダンジョン)の床に()()()()を見つけて、どうやら死神氏は倒されたんだか倒したんだかしたことが明確となった。


 床にはおそらくは中ボス(クラス)である死神氏がドロップした、装備品(アイテム)が落ちている。


 杖と外套(マント)


 ……


 …………


 ………………


 攻撃力増幅(ブースト)と、防御力増幅(ブースト)

 最初に獲得する装備品としては悪くないと言っていいだろう。


「ステータス・オープン」ができなくても身に付ければいいだけだしな。


 いやでもなあ……


 確かに今の俺の見栄え(ルックス)は悪くない、というか相当の美少年ではある。

 とはいえこれ、まだしもマッパの方が少しはマシな気がする。


 全裸に外套(マント)、右手には杖。

 左手には子猫。


 ……変態でしかない。


 いや装備はしますけれども。

 しましたけれども。


 これで迷宮(ダンジョン)を探索するのはさすがになあ……


 そこまで考えたところで、背後から悲鳴が聞こえた。

 っひ、と引き攣ったような、恐怖の響き。


 続いて何か重いものが床に落ちる音が二つ連なって届く。


 慌てて振り返るが、振り返らない方がよかったかも知れない。


 階層主(ボス)の間と言っていいこの空間の、おそらくは入り口にあたる場所。

 外の方が明るいらしく、逆光状態だ。


 そこには白を基調に金の装飾を施されたドレス・アーマーに身を包み、あまりのことに片手剣というには巨大な刃渡りの剣と、同じく巨大な盾を床に落として口を押さえている、可憐な少女が立っていた。


 ――いわゆる一つの「姫騎士」ってやつですね。


 俺の要らん知識がまたしても自動的に発動する。


 振り返った俺の姿をしっかり捉え、口を押えていた手が目の位置もおおうように移動する。

 だけど指の間からキッチリ見ていらっしゃいますよね?


 いや違うんです、変態じゃないんです。

 裸でさっきスタートして、最初に獲得できた装備がこの杖と外套(マント)だっただけなんです。


 だがテレパシーを使えるわけでもない俺の想いは、当然のこととして彼女へは伝わらない。


 青ざめていた表情がみるみるうちに朱に染まり、最初のものとは違う、いかにも女の子らしい可愛らしい悲鳴があらためて迷宮(ダンジョン)に響き渡った。


 シュドナイ? の九本の尾が驚きで全部ぴんと立ち、艶やかな毛皮は総毛立っている。


 まあびっくりはするよな、彼女も、シュドナイも。




 解せない勝利で、「GAME OVER」は免れたかに思えたのだが。


 ある意味、今のこの状態の方が「GAME OVER」と言えるかもしれない。


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