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トガリ  作者: 吉四六
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仕上げに掛かろう!

残虐な描写があります。

 正座したまま、朝食が終わって、俺達は二階に向かった。

 二階部分に入ると、物凄い悪臭だった。

 そりゃそうだ。十五人からの男が鮨詰になって、排泄物も垂れ流しなんだから、酷くない方がおかしい。

 重傷者も出血を止めて、ほったらかしにしているから、排泄物の始末なんて出来るはずもない。というか、二階部分のトイレを使えよ。

 悪臭の元である排泄物を分解消去して、重傷者のは軽傷に、軽傷者は完治させてやる。

 温かいスープを振舞って、全員に正座させる。

 大きめのソファーを作ってトンナ、オルラが座り、肘掛け部分にアヌヤとヒャクヤが腰を掛ける。

 ロデムスはオルラの膝の上、俺はトンナの膝の上、猫と同じ扱いです。

 一日酷い環境で過ごさせたせいか、全員が大人しい。

 武器を懐に呑んでいる奴も居るが、まったく抵抗してこない。

 十五人の中からリーダー的な奴は誰か、と、聞いてみると、二人の男が手を挙げた。

 地下室を封鎖している石壁は分解したので、俺は、その二人に、地下室に行って、八穢の物の怪達を連れて来るように命じる。

 八穢の物の怪と本屋の店主、女の店員と、二人で一つになったボディガードの男が連れて来られる。

 とにかくボディガードの男が部屋に入って来た時は部屋の中が騒めいた。

 そりゃそうだ。

 俺だって、俺がやってなかったら吃驚する。

 二人の頭を元通りに戻してやる。取敢えず、頭だけだ。

 俺の手が近付くと物凄い形相で恐れていたが、元通りになってからは泣きそうな顔で俺の顔を見詰めていた。

 足を投げ出し、まともに座れない八穢の物の怪を前に、俺は立ち上がる。

「さて、死にたい奴は居るかな?」

 俺の言葉に全員が下を向く。

「心配するな。俺は人殺しが嫌いだ。だから殺さないし、死なせない。」

 全員、上目遣いで、俺の顔を見る。

「だって、死んだらそれまで。苦しい目にも遭わないし、償うことも出来ないじゃないか。」

 全員が目を見開く。

「お前達には長生きして貰いたい、と、俺は思ってる。」

 全員の目が泳ぐ。

「眠いのに眠れなくなったり、体のどこかが一日中痛くなったり、体中の痒みが一日中続いたり、色んな病気があるよな?」

 俺の言葉に震える者も居る。

「お前達みたいな悪い奴らが、そういう目に遭うべきなんだ。」

 俺は、一人一人の顔を見回しながら言葉を続ける。

「誰にも介護されず、誰にも看護されず、誰にも診て貰えず、そして、誰にも優しくして貰えない。」

 俺は天井を見上げる。

「お前達はそういう境遇に生まれて、育ち、そして、そういう人達を作る側に回った。」

 俺は、再びエダケエ全員の顔を見回す。

「お前達の生きる術を奪おうとは思わない。お前達のやりたいようにやれば良い。だから、俺もやりたいようにやる。この建物は俺が貰った。お前達の体は治してやる。この建物から出て行った後は、お前達の好きなようにやれ。俺はいつでも、どこでも、お前達を見てるからな。」

 話し終えて、俺は全員の怪我を治してやる。

「さあ、出て行け。」

 アヌヤが部屋のドアを開ける。

 ぞろぞろと構成員達が出て行くが、八穢の物の怪がその場に残った。

「どうした?出て行けよ?」

 八穢の物の怪に出て行くように促すが、動こうとしない。

 カナデが俺の目を睨みつける。

「あんなことを言われて、はい。そうですかと出て行けるもんかね。」

 結構、酷い目に遭った割に気合が入ってるな。

「死なせないって言ったね?それが本当かどうか試させて貰うよ!」

 カナデが立ち上がり、懐に呑んでいた匕首を閃かせて、体ごと俺にぶつかって来る。

 人間にしては大したスピードだが、人間にしては、だ。

 俺は人差し指と中指で刃先を挟み込み、カナデの突進を止めていた。

「くっ!」

 カナデが匕首を引き戻し、そのまま自分の首に突き立てようとするが、俺がその匕首を分解消去してしまう。

 カナデの両手が自分の喉にぶつかり、そのまま自分の両手と喉が溶け合うように接合される。

 俺はカナデの顎関節を外し、舌を噛めないようにする。動き回れないように足の動きを制御してやる。

 カナデは芋虫のように這いずりながら、言葉にならない呻き声を上げている。

「試した結果に満足か?」

 俺は他の八穢の物の怪を見回し、言葉を続ける。

「全員で試してみるか?」

 俺の言葉にロマンスグレーの男、モンゴロイドの男、スカーフェイスの男が即座に立ち上がり、俺に向かって銃と刃物を翻した。

 銃弾も刃物も分解消去、俺は三人の体を動けなくして床に転がし、八穢の物の化に向かって歩き出す。

 全員が、恐怖に顔を歪める。

「ひっ!」

 ネグロイドの女が、引き攣った声を上げる。

 俺に選ばれ、その顔が、絶望に染まっている。

「恐怖は人間を動かすが、本当に人間を動かす感情は何か知っているか?」

 俺はしゃがんで、女に問い掛ける。

 ネグロイド、黒人の女の目には恐怖が滲み出ている。

「お前達なら、よく知ってるだろう?快楽であり、歓喜だ。」

 俺は、女の黒い肌に指先を滑らせる。

 女の頬に一筋の汗が流れる。

 その汗を、滑らせた指で掬う。

 そのまま上へと移動させ、女の下瞼に指を当てて力を籠める。

 眼窩にめりこむ。

 女が「ああっ…」と喜びの声を上げる。

 他の八穢の物の怪達は女の声に敏感に反応している。

 女の眼窩に指を無理矢理捻じ込み、女の眼球が外に零れ落ちる。

 それでも女は快楽の声を止めない。

 恍惚とした表情で、座ったまま腰をくねらせ、喜びの声を上げている。

 他の八穢の物の怪達は驚愕の目で、その様子を見詰めていた。

 視線を外すことが出来なくっているのだ。

 コイツらは、気付かない内に俺のマイクロマシンに支配されている。

 狂気と恐怖が綯交(ないま)ぜになって、コイツらを支配しだしている。

 指に付いた涙と血を振り落とし、女を正気に戻してやる。

 たちまち上がる、女の絶叫。

 女の髪の毛を掴み、引き上げる。再び女の声に快楽の色が含まれる。

「これを繰り返すと、女がどうなるかわかるか?」

 八穢の物の怪、お前達は物の怪なんかじゃない。ただの人間だ。それを教えてやる。

「女は、自分で傷つくことを喜ぶようになるんだよ。」

 俺は自分の外見を変える。

 黒い外殻を纏い、黒い翼を生やす。

 女が再び絶叫を上げる。

 自分の顔を抑えて(もがく)が、俺に髪の毛を掴まれているせいで、のたうつことが出来ない。俺の手にぶら提げられたまま、女は体をくねらせ、激痛を訴える。

 俺は、女を脇に放り投げ、両手を広げる。

 女の絶叫が途絶える。

「はは…」

 俺は八穢の物の怪達の前で、本当の怪物になる。

「ははははははははははははははははははっ!」

 遠吠えのように笑う。

 喉を真直ぐに天に向け、歌うように笑う。

 羽を打つ。

 肋骨の間から圧縮空気を噴出させて空中に自分の体を留める。

「行けよ。お前達がどのように生きて、どのように死ぬのか見届けてやる。」

 カナデと黒人の女を残し、全員の体の制御を解除する。

 二人の女を残して、八穢の物の怪達が、物の怪とは言い難い格好で逃げて行く。

 俺はそれを黙って見送った。

 奴らの頭には強烈な恐怖を植え付けた。

 俺の(おこな)った、残虐行為の映像をマイクロマシンで増幅した恐怖と共に植え付けたのだ。

 今後、奴らが俺の姿を見る度に、思い出す度に、恐慌状態になるだろう。

 カナデと黒人の女を元通りに戻してやる。

 黒人の女に活を入れ、意識を戻してやると「ひっ!」と引き攣った声を上げた。

 俺は立ち上がって、元の一〇歳児の姿に戻る。

 その姿を見ても、カナデと黒人の女は恐怖を張り付けた表情のままだ。

 俺は陰惨な表情を見せて、二人に囁くような声で話し掛ける。

「お前達には仕事がある。」

 カナデがゼンマイ仕掛けのように首を小刻みに振る。

 ハノダ用のアクセサリーに「ハノダ、来れるか?」と、問い掛けると、直ぐにハノダから了承の返事が来る。

 俺はこの場にハノダを瞬間移動させる。

「ひっ!」

 カナデと黒人の女が、突然現れたハノダに驚く。

 酷薄な表情。静かな佇まい。

 恐怖を植え付けられた八穢の物の怪達を管理させるにはピッタリの外見だ。

 見ようによっては悪魔の使い魔に見えるし、瞬間移動での登場だから、余計に、そう思い込んだかもしれない。

「お前達の上司だ。」

 カナデと黒人の女がハノダの顔を見る。

「ハノダ、この二人はエダケエの最高幹部八人の内の二人だ。お前の好きに使え。」

 ハノダが俺の前に跪き「御意。」と答える。

 俺は頷き「この場所を使え。」と言って、この部屋の内装を変える。

 赤い壁に赤い絨毯。

 黒い柱に黒い梁。

 金色の天井。

 何の模様も装飾もない。シンプルだが毒々しい部屋だ。

「ありがたき幸せ。」

 ハノダが再び頭を下げる。

「あとは任せる。」

 俺はそう言って、ハノダとカナデ、黒人の女を残して、トンナ達を連れて、瞬間移動でその場を後にした。

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