さて、大掃除に取り掛かろうか
ブックマークへのご登録、ありがとうございます。もう、しばらく犯罪組織編が続きます。最後までお読み頂ければ幸いです。
次の日も朝から本屋に向かった。
当然のように、色んな店の、色んな食べ物を食べるために沢山寄り道しながらだ。
本屋では大掃除を始めた。
三階から五階までのアパートメントの掃除だ。
三階から始める。
三階を一室ずつ回り、そこに住む構成員を叩き出し、二階の店主の住居へと押し込んでいく。
四階、五階も同様に二階へと押し込んでいく。
その時の被害概要は軽傷八人、重傷三人、無傷四人と、中々、軽く済んでよかった。
うん、軽いかどうかは、個人の見解によるな。あくまでも、俺の主観ですからっ!
ホノルダ群統括中央府のインフラは上下水道が設置されているが、完備とは言い難い状態だ。
上水はポンプが無いため、高低差を利用して、各建物に水を送っているので、高い建物の上階までは水が送れない。
俺達が泊っているホテルの場合は、地下に設置されている人力ポンプで屋上の受水槽まで水を送って溜めている状態だ。
俺は地下に貯水槽を作って、浄水作業を行うマイクロマシンをばら撒く、水道管から貯水槽へと水が流れ込み、その水をマイクロマシンが浄化するようにした。
建物内の配管を鉄管から、車椅子用のバッテリーを作った時のノウハウで、合成樹脂製の配管へと入れ替え、錆び対策、幽子で稼働する水中ポンプを貯水槽に放り込み、建物配管と接続して完了だ。
下水の状態は上水よりも更に酷い。
建物と道の境目に溝が設けられており、そこが下水道となっている。
当然、下水としての役割を果たしておらず、ゴミ溜めと化しており、汚水が道にまで溢れ出している。よく病気にならないものだと感心する。
俺は、地下に排水専用の部屋を作り出し、三層に分かれた汚水槽を設置する。
貯水槽と同じく浄水作業用のマイクロマシンをばら撒き、排水管を建物外へと伸ばしていく。
最も近い河川で三十メートル、地下の配管をその河川にまで延長する。土手の藪を偽装に使い、小さな排水溝を川の法面に設けて、増水時に川の水が逆流してこないように弁を設ける。
下水用の配管を建物全体に張り巡らし、各階にトイレ、台所などの水回りの設備が設置できるようにする。
地下には、従来からの地下室があるため、汚水槽はその更に下に設置した。
汚水槽を設置した部屋の周りを一体構築した岩で固め、耐震強度を上げる。
汚水槽の真上は八穢の物の怪を閉じ込めている地下室だ。その地下室を内包する形で、岩を一体構築し、先に造った貯水槽も内包させたのだ。
その岩を基礎として、岩から伸びるようにして、鉄骨を構築、建物の壁内を数百本の鉄骨が再構築されて、建物全体を震わせる。
木製の梁の中身も鉄骨に入れ替え、外観は変化させないまま、鉄骨構造へと変貌させる。
石積の壁体も内部に鉄筋を格子に走らせ、補強する。
俺は屋上に移って、階段専用に作った塔屋の横にもう一つ塔屋を作る。
大型の霊子バッテリーを作り、その隣に大型のモーターコイルを作る。
霊子バッテリーは、マイクロマシンに命令を走らせ回転稼働する。その回転運動を発電用の大型モーターコイルに接続させれば、経年劣化で壊れない限り…いや、スゲエ勢いで回ってるな。こりゃ、油をさしたり、メンテをしっかりやらなきゃ、燃えちまうな。
まあ、とにかく、これで電気を作ったので、その電気を各階、建物全体に送電し、電気の明かりを灯せるようにした。
ホント、燃えねぇだろうな?この発電機。
『潤滑油用のタンクを構築しろ。そのタンクにはフロートを設置して、潤滑油がなくなれば、警報が鳴るようにしておけば、メンテナンス時期の目安になる。』
なるほど、と、いうわけで、潤滑油用のタンクも作る。
配線と同時に風道も配管して、空気清浄用のマイクロマシンを配管内にばら撒いておく。これで、空気にガス等を混ぜられても無効化できる。
皆が待つ事務所に戻る。
「大丈夫?この建物崩れるんじゃない?」
トンナが心配そうに聞いてくる。確かに色々弄っている時に結構揺れたから、トンナが心配するのも無理はない。
「大丈夫。そうならないように補強したから。」
全員の緊張が俺の言葉で緩む。
「それよりも、この建物の間取りをどうするか、皆の希望を聞いておくよ。」
俺は大きな机と大きな紙を再構築する。
「トガリと一緒に寝られる部屋とベッドが欲しい!」
トンナ速攻だな。
「そんなのズルいんよ!いっつもトンナ姉さんばっかりで、ズルいんよ!」
「そうなの!チビチビ助平は皆のご主人様なの!いっつもトンナ姉さんばっかりズルいの!」
「ふむう、我は個室の方が嬉しいがのう。」
「あたしも個室の方が良いけど、こうなるとトガリのことが心配だね。」
くっ、揉めそうな予感がビシビシだ。
「お前達は黙っといで!オルラ姉さん!大丈夫、トガリと二人っきりの時は獣人化しとくから、トガリに変なことしないって!」
「そんなの信用できないんよ!トンナ姉さん、チビジャリのこととなると、おかしくなるんよ!」
むう、その意見には、激しく同意だ。
『懐かしの2ch用語だな。』
そうそう。最近、見れてないけどな。
「そうなの!この間の昼寝の時もトンナ姉さん獣人化してなかったの!」
「何だって?本当かい?!」
あっロデムスが部屋の隅に行ってる。
「ヒャクヤ!覗いたの?!」
おう、トンナが焦ってる。
「オルラ姉さん!ウチは知ってるの!トンナ姉さんは、時々エッチなことを助平チビに教えてるの!」
それは嘘だ。でも、ヒャクヤ、上手いこと嘘を混ぜるな。
「教えてないよ!オルラ姉さん!本当だよ!そんなこと教えてないよ!」
トンナ必死だな。
「オルラ姉さん!ウチがチビ助平をトンナ姉さんから守るの!だから、チビ助平と一緒の部屋はウチが最適なの!」
おお、論点をすり替えやがった。こいつが一番腹黒だな。
「なら、あたしが一緒の部屋でも良いんよ!チビジャリとはあたしが一緒の部屋になるんよ!」
アヌヤが再戦か。
「こうなって来ると、やっぱり、あたしがトガリと一緒の部屋の方が良いかねぇ。」
そうだよな。保護者的立場のオルラは、当然そう考えるよな。
「うう、嫌だ…あたしがトガリと一緒の部屋になるんだ…」
あーあ、トンナがついに泣き始めちゃったよ。
全員がギョッとなって、トンナの顔を見る。
「あっあだじがああ、トットガリどおお一緒のおお部屋あああああああああああああ。」
身長二メートルのゴージャスビューティーが顔を上げて直立不動で号泣だ。子供かよって泣き方だ。
俺は溜息を一つ吐き、皆に宣言する。
「俺は誰とも同室にならない。一人で寝る。」
トンナがピタリと泣き止む。
涙を流したまま、鼻水も垂らしたまま、放心したような顔だ。
アヌヤの眉間には皺が寄って、恐ろしい形相になっている。
ヒャクヤはこれでもかというぐらいに頬を膨らませて、目尻を上げている。
「そもそも、俺が拠点を作りかった理由には、一人になる空間が欲しかったってのがあるの!だから、この建物には、俺の!俺だけの個室を作る!以上!」
「そんなの聞いてないんよ!」
「そうなの!聞かされてないの!」
「そんなあああああ~」
俺は勢いよく机をぶっ叩く。
全員が黙る。
「理由を言ったらお前ら賛成したか?」
獣人三人娘が下を向く。
「いいか?これは俺からの命令だ!俺は!此処に拠点を築くが、この建物には俺だけの個室を作る!その個室には誰も入ることは許さん!!」
「わかったんよ。」
アヌヤが不承不承ながら頷く。
「仕方ないの…」
ヒャクヤも項垂れながら了承する。
「うううううっ」
トンナは涙を流しているが、頷いた。
「お前達、考え方だよ。」
オルラの言葉に獣人三人娘が顔を上げる。
「トガリは自分の部屋に入ることは禁止したけど、お前達の部屋に引き入れることは何も言ってないじゃないか。だから、トガリを自分達のものにしようとするなら、お前達が頑張ってトガリを自分の部屋に引っ張り込むんだよ。その時は、トガリがそうしたんだ。あたしも何も言わないよ。」
オルラの言葉に三人の顔が明るくなる。
「うん!頑張るんよ!」
「絶対に負けないの!」
「トガリはあたしの大事なっぐ!…大事な人だ!絶対にあたしの部屋に引きずり込むよ!」
トンナ、またご主人様って言おうとしたのね。
何か力尽くで、引っ張り込むみたいに聞こえるんですけど、大丈夫だよね?
「その意気だ。頑張りな。」
オルラの言葉に、獣人三人娘が元気よく返事する。
オルラにまた纏められちゃったよ。
俺は八穢の物の怪が使っていた個室を浴室へと改装する。
大きな窓を備え、坪庭を望む半露天風呂だ。外の景色は残念ながら見ることは出来ない。周りには同じくらいの高さの建物が並んでいるからだ。目隠しに大和張りの塀を張り巡らし、外気が入って来るようにして、我慢する。
高層階に風呂を作ったのは、外の悪臭が気になったからだ。
流石に、ここまでは悪臭が漂ってこない。
洗い場を挟んでサウナと水風呂を作る。
脱衣所に洗面、トイレを作って、この階の水回りは台所を除いて完成だ。
結構事務所部分にまで食い込んだな。
事務所にはベランダを作って、大きな窓を設置する。フローリングに改装して事務所をリビングダイニングに仕立てて、キャットタワーを作る。
「これは何のための物じゃ?」
ロデムスは、全く興味を示さなかったが、取敢えず作っておく。猫の飼い主として、キャットタワーは必須だからな!ちなみに各部屋にロデムス用の出入口を作ろうかと聞いてみたが「主人は我のことを馬鹿にしておるのかのう?」と言われたので、止めておく。同じ様にロデムス用のトイレも却下された。
塔屋へと続く階段下には、靴箱を備えた玄関を作る。
この建物には、基本、屋上から出入りすることにしている。
オルラを除く全員に霊子バイクを再構築して、常時使えるようにしたからだ。
ロデムスが「我の分が無いのう。」と呟いたがスルーだ。
オルラには悪いが、長い階段を使って貰うことにする。
この部屋に直接つながる階段は、屋上の塔屋に繋がる物に限定して改築した。
建物全体を行き来する階段は、六階をスルーして屋上に繋がっている。また、一階からの直通ではなく、八穢の物の怪達を閉じ込めている地下室からでないと入ることができないようにした。
つまり、徒歩でこの部屋に上がろうとするならば、店から入って、地下室に入り、そこから屋上までの階段を上がって、屋上の塔屋からこの部屋に下るというルートになる。
少々、面倒だが、敵勢力を想定してのことだ、オルラも納得してくれた。
武器庫内の武器は、全て、分解してしまい、武器庫の壁も分解、カウンターを構築して、武器庫を台所に改装してしまう。
五階から三階までは各自の個室だ。
「この建物はお前の拠点なんだ。お前が五階全部をお使い。」
オルラの言葉で、俺は五階フロアを全て使うことになった。
四階はトンナの個室と、オルラとロデムスは同室で使うとのことで、計二室。三階にアヌヤとヒャクヤのそれぞれの個室だ。
「ウチはアヌヤと同じ部屋で良いの。」
「そうなんよ。ヒャクヤと二人で一室にして欲しいんよ。」
と、いうことで、三階もワンフロアにしてやる。
「あたしもトガリと一緒の部屋で良いのよ?」
意外と諦めの悪いトンナの言葉はスルーだ。
二階部分は本屋の店主が住居として使っていたが、現在はエダケエの構成員が鮨詰状態だ。俺は「二階部分は一晩寝かしておくよ。」と皆に告げて、各部屋の内装に掛かる。
オルラはヤートなので、和風が好みだろうと古民家風に仕上げてやる。
トンナは植物の多い部屋が好みとのことだったので、大きめの窓とベランダを作って、ベランダに小さな空中庭園を造って、室内には小さなパルダリウムや水草の植わったアクアリウムを作ってやる。
アヌヤは銃器の整備をメインにしたいとのことだったので、工房の設備を整え、距離は短いが、試射の出来る射撃コースを作ってやる。
近隣に、発砲音と作業音が鳴り響くと困るので、防音対策として、壁体、天井、床の内部を二重構造にして、真空の層を作ってやる。
試射室は、跳弾対策として、厚い粘土を壁に貼り付け、ケプラーのキルトで固定する。
ヒャクヤは、可愛い部屋が良いとのことだったので、ピンクがメインの仕上げで、大容量のクローゼットを作ってやるが、クローゼットの中はスカスカだ。
「このクローゼットを一杯にしてやるの。」
張り切っているが、クローゼット一杯に服や靴、それに鞄を誰が買うのか、俺の心のクローゼットは不安で一杯だ。
二人は一緒の部屋がイイと言っておきながら、その趣がまったく違う。
結局、武骨と可愛いの内装が、左右に真っ二つに分かれる形で、中央にそれぞれのベッドと共有のテーブルを配置することになった。
俺の部屋は、とにかく広い。ただ、何でも分解保存しているので、物を置く場所、そのものが必要ない。
ベッドを一つ構築して終わりだ。
殺風景この上ない。
『道場だな。』
『工場跡みたいだねぇ。』
『道場、イイじゃねぇか!』
『神棚作る?』
作らねえよ。
もう良いよ。物はそのうち増えてくるかもしれないしな。
この日の夕食は、この本屋で食事をとった。
ホテルはもう必要ないのでチェックアウト済みだ。
夕食の用意は、トンナがしてくれた。ヒャクヤも多少出来るが、カナデラよりもイチイハラの方が、当然、料理の腕前は上だ。
アヌヤは全く出来ないので、手伝おうとして、邪魔者扱いされていた。
「トンナ姉さんに勝つには、家事で何とかしないと駄目なの。」
これはヒャクヤの独り言だ。
夕食の準備が進む中、俺は二階と地下室に閉じ込めているエダケエの構成員の所にマイクロマシンを飛ばす。
骨折による内出血、外傷性の出血を止めてやるためだ。体内には、抗生物質代わりの異物排除作業を担うマイクロマシンを投入済みだから、病気に罹ることはないだろう。
骨折や靭帯の損傷を治療しないのは、単純に痛みを覚えて貰うためと、大人しくさせておくためだ。
鮨詰状態が長く続くと、奴らのことだ、生存本能に従って殺し合いを始めるかもしれない。身動きできる奴はマイクロマシンで制御しているが、それでも油断はできない。
八穢の物の怪の中には魔法使いも居るだろうが、その辺は無頓着に放っておく、目立った身体検査もしていない。だから、武器も取り上げていない。こちら側が圧倒的な力を持っていると知らしめるためだ。
唯一取り上げたのは、自害用の毒物と爆発物だ。
奥歯に毒を仕込んでいたのが三人。一人、ネグロイドの男は腹に爆発物を仕込んでいやがった。
夕食の後はお風呂タイムだが、この時も一悶着あった。
トンナと一緒に入ったのだが、風呂が広くなったせいでアヌヤとヒャクヤも飛び込んで来たのだ。
三人とも獣人モードなので、エロくも何ともないんだが、とにかく三人の背中を洗わされたのがキツかった。魔法で、つまり、マイクロマシンで洗ってやると言ったのだが、強烈に反対された。
マイクロマシンの方が綺麗になるのに、何で反対するのかねぇ。
獣人モードなので、毛深い二人とトンナの表面積が半端ないので、殺人的作業量になった。水風呂に浸かって、体を冷やしていたら、ロデムスが入って来て「主人よ、我もお願い出来るかのう?」とぬかしやがる。何だか爺さんに頼まれてるみたいで断り辛いんだよなぁ。そもそも、猫って風呂嫌いが定番なのに、何で、うちの猫共は、こうも風呂が好きなんだ?
クタクタの状態になって、ようやくベッドにもぐりこむが、今度は微妙に寝つきが悪い。
ベッドのクッションや、枕の中身や高さを変えても、微妙に寝心地が悪い。そう言えば、この間も地下室での寝心地は今一だった。
仕方がないので、トンナの部屋をノックする。
「どっど、どうしたの?!トガリ!?」
「いや、ベッドの寝心地が悪くって、ちょっといつも通りに寝かせてくれる?」
神速ってわかる?
今のトンナがまさにそれ、俺を抱かかえるやいなや即ベッド。
俺を抱えたまま、トンナが「うふっ。」と笑う。
俺は、トンナの上だと直ぐに眠りに落ちた。
どうやら、トンナの上での寝心地に俺の方が虜になってしまっているようだ。
困ったな。明日の朝が心配だ。と、俺は微睡の中で考えていた。




