獣人三人娘がとんでもないと思われる理由と証明
残酷なシーンが含まれます。
ホノルダの本屋に戻って来る。屋上には、アヌヤとヒャクヤが待ち構えていた。
着陸した霊子バイクに二人が駆け寄って来る。
「トンナ姉さん。遅かったんよ。」
「そうなの。どこか調子悪いの?」
トンナが肩を竦めながら二人に笑い掛ける。
「ドラゴノイドの女が居てね。ちょっと遊び過ぎたんだよ。」
麻袋の縛った口を掴んで、買い物袋でもぶら提げるみたいにして歩き出す。俺はトンナの肩から下りて、自分で歩こうとしたのだが、それをトンナに阻まれる。結局、トンナの左腕の中に納まった。
「へ~。そのドラゴノイドって強かったの?」
「う~ん、そこそこかな?」
首を傾げながら答えてるけど、どこがそこそこ?圧倒してたじゃないか。
「じゃあ、また会えたら、今度はあたしにやらせて欲しいんよ。」
アヌヤが拳を振りながら、牙を覗かせる。
「いいよ。結構タフで、硬いからね。跳弾に注意するんだよ。」
何だ?トンナがお母さん的な立ち位置だぞ?
塔屋から六階の事務所に下りた時、オルラが俺達を呼び止める。
「なに?」
「トガリ、カナデもついでに連れて下りてくれるかい?」
「いいけど、用は済んだの?」
オルラが苦々しそうな顔で頷く。
八穢の物の怪が使っていた個室、その部屋に入ると、カナデが縛られた状態で床に座っていた。
「オバサン。せめて足を閉じて座れよ。」
スカート姿で胡坐をかいている姿に、思わずそう言ってしまう。
「ガキが偉そうにあたしに命令するんじゃなギッ!!」
トンナの足がカナデの顎を蹴り上げる。後ろに倒れそうになるカナデの膝をヒャクヤが踏み抜き、アヌヤがカナデの後頭部を蹴る。
前のめりになったカナデの口から、大量の血が音を立てて床に落ちる。
うわ~、スプラッタだなぁ。舌大丈夫かよ?
「オバサン、舌、噛み切らなかった?」
口から血を流しながら、カナデが俺を睨む。
「誰を睨んでるんだよ。」
トンナが、ヒャクヤの踏み抜いた膝を再度踏みつける。骨の外れる嫌な音がする。
「ギャアアッ!!」
「うるさいんよ。」
アヌヤがカナデの顎を横から蹴り抜き、カナデの顎を外す。
「ダメなの。顎を外しても声は止まらないの。」
そう言ってヒャクヤが爪先をカナデの喉にめり込ませる。
「ぐぶっ!」
後ろに倒れそうになるが、トンナが脛を踏む。胡坐をかいているから、一踏みで両足の脛が折れる。
「がふっがあ、っがっが」
喉を蹴られた直後で、まともに声を出せないカナデが咳き込む。
容赦ねえなぁ。三人掛りで拷問状態だよ。
「不敬罪で八つ裂きの刑よね?」
トンナが俺に可愛い笑顔で問い掛ける。その言葉に頷いているのはアヌヤとヒャクヤだ。
「何だよ?その不敬罪って。」
「だって、チビジャリのことをガキって言ったんよ?」
何言ってんだこいつ?アヌヤ、お前が不敬罪じゃないか。
「そうなんよ。助平変態魔王のことをガキなんて呼んじゃ駄目なの。」
お前もだよ。誰かこいつらに鉄槌を食らわせてくれ。
「いいから、アヌヤ、このオバサンも地下室に連れて行ってくれ。」
獣人三人娘が不服そうな顔でカナデを睨む。トンナがアヌヤに顎で指示する。
アヌヤが仕方なさげにカナデの襟首を掴み、引き摺りだす。
しょうがねえなあ。
「お前ら三人に命令する。そのオバサンを地下室に連れて行け。」
「もう。しょうがないの。」
嬉しそうにヒャクヤが言う。
「まあ、チビジャリの命令なら仕方ないんよ。」
嫌そうな顔をしながら、頬を染めてアヌヤが応える。
「うん。トガリの命令だからね。言うとおりにするよ。」
トンナは素直に嬉しそうだ。
もう面倒くせえなぁ。
地下室に麻袋を放り込み、カナデを放り込もうとした時だった。俺が連れて来たモンゴロイドのスカーフェイスが、懐から銃を抜き、連続して引き金を絞りやがった。
何をしやがるんだよ。もう。
トンナが全弾叩き落し、アヌヤとヒャクヤが、競ってその男を蹴りまくる。
モンゴロイドのスカーフェイスは悲鳴どころか声を上げることも出来ずに顔を変形させていく。
「この手が悪いの!」
ヒャクヤの一言で標的が顔から右腕に変わり、原形を留めないほどに折られる。俺でも元に戻せるか、ちょっと自信ない。
アヌヤが周りを見回し、「五体満足な奴もちょっと壊しとくんよ。」と物騒なことを言い出す。
「止めろ。五体満足な奴はそのままにしといてやれ。これは命令だぞ。」
「もう。しょうがないんよ。チビジャリの命令には、逆らえないんよ。」
アヌヤが嬉しそうに答える。
「じゃあ。ウチがちょっと骨の一二本も折ってやるの。」
「止めろ。三人に命令するぞ。これ以上痛めつけてやるな。」
「もう、わかったの。変態魔王は我儘なの。」
嬉しそうに言うな。
「うん。わかってるよ。うふふ。」
こいつら命令されたくて無茶苦茶してんのか?
「わかったろ?下手なことは考えるなよ?こいつら無茶苦茶だからな?」
俺は八穢の物の怪に忠告して、地下室を閉じる。
地下室からの階段の途中で、「無茶苦茶って酷いんよ…」とアヌヤがポツリと呟く。
「そうなの。酷いの。」
ヒャクヤも呟く。
トンナを見るとショボーンとしてる。
全員、ショボーンだ。
何なの、こいつら。あんなに酷いことしておいて、俺に無茶苦茶って言われただけで、こんなにショボーンなの?
「いや、俺が言い過ぎたよ、でも、次からはもうちょっと手加減してやって?な?」
何で慰めなきゃいけないの?なんか、俺が一番酷い奴的な立ち位置になってるんですけど?
最上階の事務所でロデムスとオルラが待っていた。
「下のアパートメントはどうするんだい?」
「うん。大丈夫。」
既に出入口は石壁を構築済みだ。出入りできない状態になっている。
「とにかく、一仕事終わったし、一旦ホテルに帰ろうか?」
「そうだね。そうしようか。」
オルラを始めとした全員が頷く。
俺達はホテルの部屋に瞬間移動して、遅い昼食をとる。
その後は、各自がバラバラに好きなことして過ごすことになった。
俺はベッドの上で先日買った本を読みながら、時折うつらうつらとしていた。
当然のように、隣にはトンナが居る。長いトンナの腕を枕にして、トンナは枕にしてくれている腕を曲げて、頬杖にしている。そして上から俺の顔を眺めてる。
「トンナの腕って長いよな。」
「うん。トガリを守るためにも長い方が良いよ。」
分厚い本を持つ腕が疲れてきたので、本を放り出して背伸びする。
トンナが俺を持ち上げ、その体の上に俺を乗せ、両手に本を持って広げてくれる。
「これでいい?」
「ああ。ありがとう。」
俺が本の頁を捲るとトンナがその頁を押さえてくれる。
その日は暗くなるまで、トンナと一緒に本を読んだ。




