アヌヤとヒャクヤって結構強いよ?
アヌヤ、ヒャクヤ無双です。
さて、アヌヤとヒャクヤはどんな感じか、カナデラに様子を聞いてみると『随分と楽しそうに暴れてるよ。』との回答だった。
暴れてるのかよ。
屋上に霊子バイクを用意しとくから、帰りはそれを使えって言ってくれる?
『了解。』
アヌヤもヒャクヤも屋上に瞬間移動させてやったのに、わざわざ一階まで下りて、再アタックしてるようだった。
鉄製のドアを蹴り破って、十四歳の少女が出入口に立ち塞がる。
両手は腰に、踏ん反り返った立ち姿、顎を上向きに、低い位置から強面の男達を睥睨する。
昼間から酒を出す、十六歳以下は入店を制限される店だ。
ソファーに座る男達の横には、だらしない格好をした女達が侍っている。
黒い礼服を着た男二人が、アヌヤの前に立つ。
「お嬢ちゃん。面接に来たにしちゃ、おイタが過ぎるな。」
男二人がアヌヤに向かって手を伸ばすが、そのままのポーズで動きを止める。
「お前ら、臭すぎるんよ。」
アヌヤの声は男達には届いていなかっただろう。男達は手を伸ばしたままのポーズで、その場に頽れた。
二人の男が倒れる音に、店内の男達が敏感に反応する。
「おい。お嬢ちゃん、何しに来たのかは知らないが…」
男の額にゴム弾が撃ち込まれ、男は意識を失う。
この時、ようやく男達はアヌヤを敵と認識した。一斉に懐に呑んでいた獲物を手に持ち、アヌヤに近い者からアヌヤに向かって走り出す。
右からナイフを閃かす男に蹴りを放ち、左からブラックジャックを振り下ろす男にはゴム弾を撃ち込む。
男達の意識の有無を瞬時に判断、意識を刈り取ったことを確信しながら、アヌヤが走り出す。
アヌヤのスピードに男達の目が追い付かない。
銃を持つ男の腕は叩き折り、ナイフを持つ男の金的を潰し、メリケンサックを構える男の顎を跳ね上げる。
余すことなく店内を蹂躙し、客として居た男も従業員の男も無差別に戦闘力を奪っていく。
全ての男の戦闘力を奪ったところで、店の奥にあった階段に足を掛けるが、背筋に冷たい殺気を感じて、身を屈める。
アヌヤの頭上を一発の弾丸が掠めて、髪の毛を一房散らされる。
左の掌にその一房が落ちる。
「テメエ。死にてえのかよ?」
犬歯とは呼べない牙を覗かせて、アヌヤが背後に獰猛な笑みを見せる。
アヌヤがホルスターに霊子銃を仕舞う。
ネグロイドの女だった。
大きなスリットが目を引く、白いロングドレスに身を包んだ大柄の女だった。
その女が銃と呼ぶには、憚られるような巨大な銃を構えていた。
アヌヤの問い掛けに応えることなく、女が引き金を絞る。
アヌヤは、女の目線と銃口からその照準を割り出し、腕の筋肉の動きから発射のタイミングを読み取る。
女の反射スピードを遥かに凌駕した動きで弾丸を躱す。
「何発撃てるか知らないんよ。」
女が撃つ。
アヌヤが躱す。
「でも、一発撃つごとに」
女が撃つ。
アヌヤが躱して、女に近付く。
「近くなるんよ。」
女が撃つ。
アヌヤが躱す。
既に女とアヌヤの距離は二メートル程だ。
女の蟀谷を一筋の汗が流れる。
女が撃つ。
アヌヤが躱す。
女の銃口がアヌヤの額に触れる。
「次はないんよ。」
額のど真ん中に銃口を当てがわれたままに、アヌヤが牙を覗かせて笑う。
女の表情から一切の感情が消えた。
女の指に力が籠る。
アヌヤの右拳がブレたように見えて、女の顔を捉える。
銃口から発射された弾丸は床を抉るが、アヌヤの拳は女の顔面を抉る。
アヌヤの拳に仕込まれた引き金が、女の顔面にめり込み、手甲に仕込まれた銃口からゴム弾が撃ち出される。
女はアヌヤの拳と同時に四発のゴム弾を食らって、意識を失った。
ヒャクヤは漁っていた。
強い者を漁っていた。
チビヒャクヤは使わない。
自分の剣で戦ってみたいからだ。カナデラから、殺すなと厳命されているため、鞘から抜かずに、叩いている。
ヒャクヤの剣は単分子ブレードなので、通常の鞘では、納めることが出来ない。剣の腹、鎬部分を抑え込むようにして、刃部分には触れないように設計された鞘だ。
抜剣する時は、鍔に取付けられたスイッチを押して、鎬をホールドしている金具を可動させる。従って、鞘から抜かない状態ならば、純粋な木刀と代わらない、それどころか木刀よりも軟な物となっている。
ヒャクヤは、柄尻の鉄環に人差し指を挿し込み、鞘付きの剣を体の周囲で自在にクルクルと回している。
つまらなさそうに口を曲げて、辺りを見回す十四歳の少女。
真白な少女が剣を指先で弄びながら、可愛いブーツの爪先で男の脇腹を蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされた男は呻き声一つ上げることはなく、そのまま転がっていく。
「お前ら、弱すぎなの。」
やはり、いかがわしい店内では、ヒャクヤ以外に動く者の気配はない。
ヒャクヤは店の奥に進み、扉を開けて階段を上がる。
上から銃声が聞こえる。
無造作に回した剣で弾丸を叩き落す。
「鈍い弾丸なの。せめてチビチビ大魔王の作った銃じゃないと相手にならないの。」
銃弾の雨を降らされるが、ヒャクヤは焦ることなく、歩いて階段を上がる。
階段を一歩上がるごとに剣を回すスピードが上がる。
剣を振り回すスピードは、既に銃弾の初速を遥かに超えている。劣悪な銃から撃ち出される銃弾は、ヒャクヤの振り回す剣に触れることもなく、その風圧で弾道を曲げられている状態だった。
銃を撃つ男達が後ろに下がる。
「女の子に銃を向けながら下がるのなんて、お前らホントに金玉付いてるのか疑問なの。」
「お嬢ちゃんの言うとおりだ。」
太い声だ。
同時に血飛沫が飛ぶ。
銃を撃っていた男達の首がヒャクヤの足元に転がり、階下へと転がっていく。
「上がって来いよ。広い所でやろうじゃないか?」
太い声の男。
痩せ型だが、身長が高い。サングラス越しでもその鋭い視線は隠せていない。冷笑を浮かべる男の唇を嫌らしく舌が舐める。
ヒャクヤの動きが止まる。
回していた剣を右手に掴み、俯いている。
「どうした?生首を見て、怖気づいたのか?こっちに来いよ。今更、逃げるなんて言うなよ?」
男がサングラスのブリッジを押し上げながら笑う。
「お前、死にたいの?」
小さな声だがハッキリと聞こえる声。
「ウチが大事にしてるブーツなの。」
男は何を言われているのか理解出来なかった。
「助平チビがウチのためだけに作ってくれたブーツなの。」
ヒャクヤが顔を上げる。赤い瞳が妖しい光を湛えている。
「そのブーツが血で汚れたの。」
「やる気は萎えてないみたいだな。上がってこ…」
ヒャクヤが跳んだ。
階段の段数にして八段。
距離にして五メートル。
高さにして三メートルの距離を一瞬でゼロにする。
男がバックステップで部屋へと飛び込み、ヒャクヤの袈裟斬りを躱す。
ヒャクヤが、左足で壁を蹴り、空中に居るままに、返す剣で男を逆袈裟に斬り上げる。
男はサングラスを吹き飛ばされながらも、更に後方へと倒れ込むようにしてヒャクヤの剣を躱す。
ヒャクヤが着地した時、男は倒れ込む勢いをそのままに後方へと転がりながら距離を取った。
ヒャクヤが追撃を加えようとした瞬間、男が床を踏みしめ、後ろへと働く慣性を反発力に変えて前に出る。
「シャッ!!」
裂帛の気合と共に肩に担いだ刀をヒャクヤの頭へと振り下ろす。
ヒャクヤの眼前に白刃が止まる。
「お前の剣は鈍くて目障りなの。」
「テメエ…バケモンか…」
ヒャクヤは刀の峰を左手で摘まんでいた。
振り下ろされた刀の、背中側である峰を。
振り下ろされるスピードを遥かに超えたスピードで刀の峰に左手を回し込み、摘まんだのだ。
「こんなに弱いくせにウチの大事なブーツを汚すなんて、絶対に許せないの。」
ヒャクヤが左手の指先に力を籠める。
鼓膜に響く高音を発して、男の握る刀が折れる。
「ジャッ!!」
折れた刃を折れたままにヒャクヤの顔に向かって突き出す。
更に刀の峰を左手で摘まむ。
「じゃっじゃないの。ごめんなさいって言うの。」
「くあっ!!」
男が左足をヒャクヤの側頭部目掛けて繰り出す。
ヒャクヤが剣をクルリと回して男の左脛を叩き折る。
「くあっじゃないの。ごめんなさいって言うの。」
「ぐっ。」
男が柄から左手を離し、左足に触れようと見せ掛け、懐から匕首を取り出すが、ヒャクヤの剣が男の左腕を叩き折る。
「ぐっじゃないの。ごめんなさいって言うの。」
男は自分の体を支えきれなくなって右膝を床に着く。
ヒャクヤが剣で男の右腕を叩き折る。
「早くごめんなさいって言うの。」
ヒャクヤが折れた刀を横に放り投げる。
男がヒャクヤを睨みつける。気の小さい者なら、その一睨みで土下座しているかもしれない迫力と気迫だ。
ヒャクヤが男の両方の鎖骨を剣で叩き折る。
「ごめんなさいって言うの。」
男の両肩が、折れた個所から力なく垂れ下がる。
激痛に男の顔が歪む。
「ぐあっ!」
男の上腕が、ヒャクヤの剣で叩き折られる。
「ごめんなさいはまだなの?」
男は力尽き額を床につける格好となった。
「ご、ごめんなさい…」
「それで良いの。」
ヒャクヤは剣を振り下ろし、男の意識を刈り取った。




