尻に敷かれる亭主ってこんな感じなんだろうか?
ブックマークへの登録と評価をしていただき、ありがとうございます。物語は、犯罪組織との関りへとスライドしていきます。世界のシステムを構築管理しているモノの存在と王国の行く末、またカルザン帝国との関係など、主人公の思惑とは関係なく、動いて行きます。それに対して、主人公は、ただ、行き当たりばったりに対処するだけという、そんな物語を構築できればと思っております。最後までお読み頂ければ幸いです。
急いで、ロデムスと共に宿泊中のホテルの部屋に戻る。
すっげえ、静かなんですけど。
オルラが俺に寄り添ってくる。
「トガリ、気を付けな。」
そう一言囁くと、俺から離れて、風呂へと消えて行った。
…不穏。
その一言しか思い浮かばない。
ロデムスは、既に、俺から離れて、クローゼットの上だ。
部屋の中央にはテーブルがあって、五つの椅子がある。その椅子に座っているのはヒャクヤとアヌヤだ。
ヒャクヤは背中を向けて、その表情が見えない。
アヌヤは踏ん反り返って、こちらを睨んでる。
アヌヤが人差し指を曲げて、こっちに来いと身振りで知らせる。
俺がアヌヤの前に立つと床を指差し、上下に振る。
…座れと言うことだろう。
正座する。
「正座するってことは、わかってるんよ。」
俺は頭を下げて、諾の意を示す。
「でも、チビジャリが、わかってることと、あたしが、許すってことは別物なんよ。」
再度、頭を下げる。
「あたしは、チビジャリの何なんよ?」
「使徒です。」
俺の声が小声だったせいかもしれない。
「はああああ~?」
アヌヤが大声で、耳に手を当てて、俺の顔の前まで迫って来る。
「使徒です。」
仕方なく声のボリュームを上げる。
「そうなんよ。あたしはチビジャリの使徒なんよ。」
すっげえ睨まれてる。
「その使徒を使うこともなく、ほったらかしにするのってどうなんよ?」
ええええ~?どうなんでしょう?使徒なんだから良いんじゃないでしょうか?
「チビジャリッ!立つんよっ!」
「はい!」
直立不動で気を付けだ。
「チビジャリは、使徒に対する責任があるんよ。」
「はい。」
それはその通りだと思うが、ほったらかしにするのは良いと思う。
「ほったらかしは、責任放棄なんよ。」
あれ?アヌヤのくせに難しい言葉を知ってるな。
アヌヤが俺の顔を両手で挟み込み、そのまま、俺の唇を奪う。
…
五分ほど蹂躙された。
「これで、今日のことは勘弁してやるんよ。今度やったら、もっと酷い目に合わせてやるんよ。」
うわ~。キスの後とは思えないような目つきですよ。魔獣モードですよ?
バンッ!!
うわっ!吃驚した~。
テーブルが凄い音で叩かれてる。
俺は肩を竦めて、その音の方を見る。
ヒャクヤが背中を向けたまま、テーブルを平手で叩く。
「ヒャクヤ?」
ヒャクヤの背中に話し掛けるが、何度もテーブルを叩き出す。
「ヒャクヤ?」
止まらない。
「可愛い手が痛くなっちゃうよ?腫れちゃうよ?」
手が止まる。
「ごめんよ、ヒャクヤ。」
再びテーブルが叩かれる。
ええええ~?どうしろって言うのよ?これ?
「謝っただけじゃ駄目なの?」
テーブルを叩く音が、更に激しさを増す。
駄目みたいだ。困ったなぁ。
アヌヤをチラリと見てみると、口をタコチュウみたいに突き出してる…
えええ~マジで?
俺は、ヒャクヤの左の頬に口づけする。その瞬間だけテーブルを叩く手が止まるが、直ぐに、もう一方の手で叩き始める。
うん。叩きすぎて手が痛くなったんだね。
しょうがないので、前に回り込んで、って、こいつ目を瞑って準備してやがる。眉が立ち上がって怒っているが、ほっぺが真赤になって唇を突き出している。
俺はその唇に軽くキスしてやる。
すかさず、ヒャクヤの腕が俺の首に回され、今度はヒャクヤに蹂躙される。
俺から離れたヒャクヤが「これだからっ!チビスケベ大魔王には困ってしまうの。」とかぬかしやがった。
「トンナ姉さんは寝室なんよ。」
アヌヤの言葉に、悪い予感しかしない。
寝室をノックするが、返事がない。
恐る恐る寝室のドアを開ける。
うわ~。真っ暗だよ。明かりを灯してないよ。
ベッドのシーツが二つの丘の様に盛り上がっている。
静かにドアを閉じて、足音を立てないようにして、その盛り上がりに近付く。
「トンナ、ごめんよ。」
俺はベッドに腰掛けながら、トンナの肩を撫でるが、ピクリとも動かない。
「トンナ?」
「…あたしのことが嫌い?」
良かった。取敢えずシカトの刑は無しみたいだ。
「嫌いじゃないよ。大好きだよ。」
「あたしのことが邪魔?」
「邪魔じゃないよ。大好きだよ。」
肩を撫でていた腕を掴まれ、シーツの中に引っ張り込まれる。
シーツの中で、もう、思いっきり蹂躙された。
俺が貞操の危機を感じ始めた頃にドアがノックされ、ドア越しに恫喝の色を含んだ声が掛かる。
「トンナ、いい加減におしよ。」
抑え込むトンナの力が緩んで、俺は必死の思いでシーツから抜け出した。
「ハアッハアッハアッハア。」
ヤバかった…ロデムスやイデアとやり合った時よりヤバかった。
「トンナ、向こうの部屋に集合して。皆に話があるから。」
俺は気を取り直して、トンナに寝室から出るように話し掛ける。
起き上がったトンナは、不満顔で下着を着ける。そんなトンナを尻目に俺は寝室を出る。
まったく、素っ裸で一〇歳児を襲うとかって、現代日本なら淫行罪で逮捕だよ?
椅子に全員が座って、ロデムスが俺の膝に座る。俺を膝に座らせようとしたトンナはオルラに怖い顔をされて、トンナは俺を抱えられなかった。
手持ち無沙汰になったトンナは、仕方がないので、皆のためにお茶を入れてくれた。
お茶が行き渡ったのを確認して、全員の顔を見回してから、俺はゆっくりと話し出す。
「この街に拠点を作ろうと思う。」
オルラが訝し気に片眉を上げる。
「どういう風の吹き回しだい?」
オルラの言い方が気になったので、俺は「何が?」と聞き返す。
「だって、お前はそういうのを嫌ってるんじゃないかと思ってたのさ。」
「そういうのってのは、一つ所に落ち着くってこと?」
俺の言葉に、オルラが頷く。
オルラの仕草に俺は腕を組んで「う~ん。」と唸りながら考える。
そう言えば、確かにそうかもしれない。
「嫌ってる訳じゃないんだけど、そうだな、あまり必要だと感じたことはなかったね。」
ただ、一人になれる時間が気持ち良かったからなんだけど。
そうなんだよな。
ヤートの集落を出てから、一人になれる時間ってなかったんだよ。
普段から頭の中で、ワイワイと煩い奴らも居るし。
『こっちだって、一人になりたい時ぐらいあるぞ。』
わかってるよ。それはどうしようもないってわかってるって。
でも一人になりたい時間をくれって言っても、トンナが、まず納得しないだろうな。もう一つの理由を言うしかないだろうな。
と、いうことで、俺は本屋でのことを皆に話す。
「おっ王宮に?!」
「単独で乗り込んだんかよ?!」
「前から思ってたけど、やっぱり頭パホパホ小僧なの!」
「トガリならそれぐらいヘッチャラだよね。」
トンナは両肘をテーブルについて、ポンヤリと俺のことを見詰めているが、他の三人は立ち上がって目を剥いている。
「いや、王宮たって、大したことはなかったよ?結界もキッチリ痕跡を残さないように抜けてきたし、魔術師団の鳳瑞隊とかいう連中には、精神洗脳魔法でチャンとしといたから。」
「まったく。もう、怒る気にもなりゃしないよ。」
オルラの一言で全員が再び座る。
「で、その犯罪組織を壊滅させるんじゃなくって、俺が管理しようかと思ってね。」
この俺の言葉に、再びオルラが立ち上がる。
「何でお前がそんなことをしなきゃならないんだい?」
今度は心配そうだ。
「うん。理由の一つはヤート族のためかな?」
「…ヤート族の?」
オルラの言葉に、俺は深く頷き、ゆっくりと話す。オルラの心に染み渡ることを願って。
「ヤート族から抜ける者は、野盗なんかの犯罪者になるしかないだろ?でも、今ある犯罪組織をその受け皿に出来れば、零れるヤートを救うことが出来るんじゃないかと思うんだ。」
俺の言葉を聞いたオルラが、音を立てて座り、肩を落として俯く。
「お前って子は…」
「何にしろ、社会的弱者の逃げ込める場所ってのは必要だよ。今回は、それが犯罪者集団ってだけで。」
俺は推測している。
犯罪組織エダケエにはヤートの者も多数居るのではないかと。
犯罪を肯定するつもりは毛頭ない。
犯罪は犯罪だ。
罪を犯すということは、被害者が居るということだ。
どんな理由があっても犯罪者を被害者として扱うような博愛人道主義者に俺はなれない。
この国、この世界の法律は知らないが、奴らがやってきたことは、俺の考えでは犯罪だ。
そして、その犯罪に走ってしまうヤートの境遇も俺は知っている。
弱い者が更に弱い者を食い物にする。
どこかで歯止めをかけなければならないが。しかし、それが難しい。
「それで?他にも理由があるんだろう?」
俺はオルラの言葉に頷く。
「イデアとセクションの件だ。」
イデアの名前を出したので、全員の顔が曇る。やっぱりそうなるよな。出来れば俺も奴の顔は思い出したくないし、奴の話はしたくない。
「調べない訳にはいかない。だから、安心して、セクションに移動できる場所が必要だ。」
オルラは俯くが、言葉はすんなりと出て来た。
「そうだね。奴のことは調べないといけないね。」
俺は、努めて声と表情を明るくする。
「まあ、イデアの件は拠点を作るついでだけどね。会おうと思えば、いつでも会いに行けるけど、俺一人で行くのは…」
「絶対ダメ!!」
「そうなんよ!奴は信用できないんよ!」
「白ナメクジはヤバいの!」
トンナを始め、獣人三人娘もそれぞれに反対する。
「ってことで、こっちに呼び出す場所が必要だろう?そのための拠点なんだよね。」
アヌヤが口を窄めて、ヒャクヤと目配せする。
オルラは瞑目しながら頷いている。
トンナだけが、俺の顔をジッと見詰めていた。
「トガリがそうするって決めたんだから、あたしはトガリの言うとおりにするよ。」
二メートル越えの迫力ある金髪美女にそんなことを言われると、ちょっと、こっちがビビるんですけど、まあ良かった。
「我は管理者とは会いとうないので、その時は遠慮させて貰っても良いかのう?」
ロデムスが遠慮気味に言うが、それは無理な相談だ。
「奴とは契約したから、嘘を吐かれることはないと思う。でも、ロデムスの記憶による補完作業が必要になるだろうから、その要求は却下だな。」
「やっぱりのう…」
あからさまにガッカリするロデムスには気の毒だが、こればっかりは仕方がない。
「それで、その拠点ってのは何処に作るんだい?」
「さっき話した本屋で良いんじゃないかと思ってる。」
あの本屋なら、変則的な地下室があるし、外に声も漏れないだろう。
上階の構造もマイクロマシンで把握している。
六階部分が事務所で、五階から三階までがアパートメントだ。二階部分は店主の住居になっている。
最上階の事務所は、当然、エダケエの事務所で、五階から三階までのアパートメントもエダケエの構成員が住んでいる。
つまり、襲撃に備えた拠点を丸々いただく方が、手間が掛からなくって楽だって発想だ。
「そうかい。なら、明日の朝、早速、そこに行ってみるかい?」
オルラが獣人三人娘の顔を見回すと、獣人三人娘は「うん。」と元気よく答えていた。
やっぱり、オルラがリーダーっぽい。
何だか、俺の胸に木枯らしが吹いているような気がするのは気のせいか?
「まあいいや。それより、俺、ちょっとヘルザース達に用が出来たから、そっちに行って来る。」
「トガリ!あたしも行く!」
トンナの反応速度は流石だ。アヌヤとヒャクヤも行きたそうにしていたが、言葉にしたトンナだけを連れて瞬間移動する。




